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欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
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第十話

 ボクたちが下宿にたどり着くまで、ユリスは色々と質問をした。


 ボクはユリスの車椅子を押しては、時折立ち止まり、ユリスの顔を覗き込むようにして、ひとつひとつに応えていった。

 やはり、このような下町に来た機会はなく、見るもの聞くものすべてが初めての体験だったようだ。ユリスにとってボクの下宿への道行きは、ちょっとした社会見学になったのだった。もちろん庶民の生活など今まで知りようなどなかったユリスだ。

 しかし、もっとも奇異だったのは、銀髪白皙の少女とその少女が押す車椅子に座る、いかにも良家の子女然とした金髪の少女二人の姿だった。ボクは普段から歩き慣れてはいるが、昼下がりの雑駁に満ちた下町すら静まり返るような美少女二人なのだから。


 それを知ってか知らずか、ユリスは、その日の成果を見せつけるハンターのように、肉屋の店先に吊るされた肉塊を見てははしゃぎ、果物屋の軒先に並んだ色とりどりの果実を見ては驚く。あれは何なのか? これは一体どうやって使うのか? あれは食べ物なのか飾りものなのか? とにかくすべてが新鮮だったようだ。


「あの家の軒先には看板が掛かっているけれども、あれは何を扱っているお店なの?」


 ユリスの視線に目を向けると、それは武器防具屋の看板だった。


「私にだって武器は必要だし、スミタマにもいるんじゃないのかな。覗いて行かなくても大丈夫なの?」


 というユリスは少し心配顔で首を上げ、ボクを見つめる。

 そもそもこんな下町にある時点で、店は二流といってよく、駆け出しの冒険者や剣術初心者が使う安物の既製品しか扱ってはいない。要は鍛冶屋が作る大量の粗悪品を二束三文で買い取って売っているだけで、武器や防具の知識があるかどうかも疑わしいのだ。


 学院にはボクのような庶民出身者もいるにはいるが、それは少数で貴族階級の子弟が多い。金銭的に余裕があり、ライデル杯で名声を得たい彼らが使う武器は、超一流とは言わないまでも、そこそこの品を使っている。決して下町にある武器防具屋で売っているような品ではなく、ほとんどは一点もののオーダーメイド品だ。もちろん、ユリスが使うべきようなものは扱ってはいない。


「大会に出ると許可を得られれば、父上でも兄上でも、陛下でも構わないから、おねだりすればいいんだよ。王宮に秘蔵されている名剣だろうとなんだろうと持たせてくれるよ、きっと。だから心配なんてしなくていいんだ、ユリスは。出場を許してもらえさえすればね」


 そしてさらにボクは続ける。


「それに、ボクには常に持ち歩いていて使い慣れている武器があるし、誰の攻撃も当たらない自信がある」


 人間から種族が変わり、硬化皮膜でほぼすべての物理、魔導術攻撃を受けないとは、今は言えない。

 いずれ告白しなければならないだろうけれど、今日はさすがにそれはない。お互いを知り合い、溝を埋めると言っておきながら矛盾しているのは自分でも承知していたが、溝どころか大河の対岸を引き寄せでもしなければ話せないような秘密なのだから仕方がない。


 下宿へ続く下り階段の前までくると、ボクは車椅子の前に回って、軽々とユリスを抱え上げ、階段を降りる。片腕で両膝で抱え、もう片方の腕を背中に回す。ユリスは自然とボクの首に両腕を回すような格好になる。


「少ししっかりと首にぶら下がっていてくれるかい」


 そういってボクは背中に回した腕を外し、ポケットをまさぐると、キーを取り出し、それをユリスに渡す。

 ユリスは少し首を傾げる。もしかしたら、キーを見るのも初めてなのかもしれないし、見た経験はあっても開け方は知らないかもしれない。


「申し訳ないけれど、少し屈むので、そいつをドアノブに開いている穴に差し込んでから左に回してほしい。そうすると鍵が外れるから、それから扉を引いて開けてもらえないかな?」


 やはり鍵を開けるのも初めてだったらしい、ボクたちは部屋に入る。

 とりあえず、ユリスをベッドに腰掛けさせると、ボクは階上から車椅子を取って戻る。そしてユリスを車椅子に腰掛けさせると、テーブルに誘う。日中は春先の陽気が心地良かったものの、これからの時間は冷えてくる。しかもここは、明かり取りはあるものの、地下だ。暖炉に素早く火を入れ、さらにお湯を沸かして紅茶を入れる。

その間、ユリスはというと、無遠慮に部屋を視線で舐め回すように見て回っていた。


「女の子だというのに思いの外、殺風景で飾り気のない部屋なのね」


 確かに率直な意見だ。


「女の子とはいっても一人暮らしだし、必要なものってそれほど多くはないよ。生活は官給なのだから、そう贅沢はできないし、無駄なものにお金は掛けれない。そうじゃないと恩を仇で返してしまうよ」


 繰り越した生活費を返納する必要はないのだが、特にこれと言って欲しいものがあるわけでもない。

 少しずつではあるが、蓄えは増えていっていた。とはいっても、小銭貯金のようなもので、ユリスがつけているリボン一本で吹き飛んでしまうほどの額かもしれないけれど。

【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

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