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百言主神社の鳥居を出てすぐのところに、
僕たちが甘酒屋と呼んでいる、『ほっと屋』がある。
元旦に比べればお客さんは減っているが、途切れる様子はない。
そんなお客さんの、特に男性客の注目を集めながら、
美調さんは、店の中へ入っていく。
僕はどうしたらいいんだろう? 一緒に入って行っていいのかな?
隣にいる紡の顔をみると、同じ事を考えていたみたいだ。
でも、不安な僕と違って、それが当然だと思っている?
ここで待っているのが正解ってことなのかな。
「あれ? 言ノ葉くんも、紡ちゃんもどうぞ入って。」
後ろに続いてこない僕らに気づいた美調さんが呼んでくれる。
あぁ、そうか、これを待ってたんだな。
いくらお店とはいえ、人のウチだもんな。
「お邪魔します…」
「おじゃましまーす!」
なんでお前はそんなに元気よくできるのか、あとで教えてくれ。
「二人とも、ここにかけてね」
二組しかないテーブルのうちの一つを進められたがいいんだろうか…
お客さんのための席なんじゃあ… あ!
紡はもうしっかりと、座ってるし。
僕の考えてることって、やっぱり余計な事なのかな。
仕方がないので、僕も座ることにする。
「ただいまぁ。お父さん、お母さん。
お店の事で、物凄く重要で今すぐ聞いて欲しいことができたの!」
どうやら家族だけで経営しているんだな。
あれ? 家族を呼んでるってことは、僕も会うのか?
どうしたらいいんだっ!?
「私は手が離せないから、お父さんとお義母さんで聞いてください」
店頭で甘酒を売っていたのは美調さんのお母さんだったのか。
元気な笑顔は言われてみればそっくりだったな。
店の奥からお父さんが現れた。こう考えるとモンスターみたいじゃないか。
お父さんがいらした。うん。これが正しいな。
「おう、おかえり。ん? お友達・・・ か?」
お父さんの僕に対する視線が鋭いのは気のせいだろうか…
それに、その間が怖いんですけど……
美調さんのお父さんは、作業用の和服のようなのを着ている。
あれの名前はなんていうんだっけ。
その袖から見える腕は、僕とは比べ物にならないほど太い。
「お父さん、あのね、紹介するね、言ノ葉友至くんと、妹の紡ちゃん」
いきなりすぎませんか、美調さん!
慌てて立ち上がることになっちゃうじゃないか。
「は、はじめまして、言ノ葉友至と申します」
さっきより視線が刺さるんですが、なんででしょうか。
「言ノ葉紡と申します。突然お邪魔してすみません」
おまえのその落ち着き方が羨ましいよ!
「あのね、お父さん、大きな声を出さないようにしてね。いい?」
美調さんは心配そうにお父さんに訊ねているけど、
大きな声を出すような事を話すんですか?
なんか、僕、お父さんに殴られそうな気がしているんですが……
「昨日、お客さんが言ってた、ツイートの話あったでしょ。
百言主さまがツイートしたっていうの。
あれね、言ノ葉くんがつぶやいたんだって。通じる?」
「あ? 昨日のその話は覚えてるが、どういう事なのかが解らん」
「それをすぐにでも聞いてもらわなきゃいけないんだけど、
ここでは駄目なの。だから、ウチで聞いてほしいの!」
「店を止めてまでか?」
「そう! 本当なら一旦お店を閉めてでも
どうしても聞いてもらわなきゃいけないの!」
「わかった、お友達を連れて、先に行ってなさい」
美調さんの熱意が凄かったからなのか、
お父さんはお店を休んで、話を聞く気になったみたいだ。
あれ? 僕も行くってことだよね?
美調さんに連れられてお店から移動する。
こういう時って何か話すべきなのかな。
さっきから紡も美調さんも話さないってことは、
それでいいのか…
美調家のご自宅はお店と繋がっているみたいだ。
お店の入り口から壁沿いにぐるりと裏にまわると、今風の玄関だった。
店内の様子が昔の作りだったから
勝手に昔風のお家だとてっきり思い込んでいた。
横にスライドするガラガラっていう扉かなって。
美調さんは玄関を上がって、屈んで脱いだ草履を整えている。
その仕草がまた綺麗で、目が勝手に追いかけてしまう。
「ふたりとも上がって下さいな」
「あ! はい、お邪魔します…」
「おっじゃましまーす!」
紡、おまえわざとやってないか、それ。
ちらりと見ると、なんか本当に楽しそうだな、紡のやつ。
通された部屋はまたしても洋風だった。
大きなソファがどーんと、向かい合わせで二つ置かれていて、
僕には校長室のように思えた。
片側のソファの後ろ側には、モノクロの神社の写真が飾られている。
僕は吸い寄せられるように、その写真の前に立っていた。
この拝殿は百言主神社だ。
さっき見たのと同じだもの。間違えるわけがない。
「美調さん」
写真について聞きたくて、つい呼んでしまった。
「「はい」」
あれ? 返事がふたつ?
読んでくださってどうもありがとう!