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「えぇと、百言主さま、はじめまして。
お会いできるなんて、光栄です。
私は、参道で甘酒を売らせていただいている、
『ほっと屋』の娘で、美調和歌と申します。
家族共々、百言主さまにはお世話になっております」
「うむ、儂が百言主じゃ。
若いに似ず、よき挨拶じゃな。さすがは商人の娘よの。
美調和歌と言うたか、ふむ。
美しき調べに乗せた歌に和ぐか、良き名じゃな。
装いも愛いな。女子はかくあるべきよのぅ」
「あ、ありがとうございます。
祖父が付けてくれた名前で、私も気に入っています」
「甘酒を売っておると言うたな。
ならば、昨日、友至が美味しいと言うておった甘酒は、
和歌の店のものか?」
百言主さまの質問に答えようとした瞬間、
僕の声は、振袖さん改め、美調さんの声に遮られた。
「昨日のあのツイートはもしかして… 言ノ葉君が!?
それに、昨日の売ってあげられなかったお客さんが、
妹さんだったの!?」
美調さんは物凄く驚いている。
でも、僕も物凄く驚いている。
「なんで僕の名前を?」
「甘酒屋のお姉さん!」
「あのツイートは何?」
三人が全く同じタイミングって…
「まったく…今までうまく行っておった会話が、
友至が加わった途端に噛み合わん。難儀よのう。
ところで和歌よ。すまぬが頼みがある」
「はい! 百言主さま、なんでしょう?」
「おぬしの店の甘酒を儂も飲んでみたい。
振舞ってはくれぬか?」
「はい! 喜んで!
百言主さまに飲んでいただけるなんて、
こんな栄誉はありませんからっ!
急いで持って参りますっ」
美調さんは輝かしい笑顔で返事をして走りだした。
「あぁ、これこれ、女子が晴れ着姿で走るものではない。
急がんで良い。それと、こ奴らの分も頼む。
この社の中で待っておるでの。
それからの、家族には儂の事は言うでないぞ。よいな?」
「かしこまりました。では、行って参ります」
美調さんは和服らしい歩き方で去って行った。
その後ろ姿が、また綺麗で目が追いかけてしまう…
「まぁ、取敢えず社に入るがよい。寒いであろう
あ、友至、すまぬがな、隣の小屋から、椅子を運んで来てくれ」
はいはい、雑用はモブの仕事ですよだ。
「おい、紡よ、おぬし、図っておったな?」
「やっぱり、百言主さまにはお見通しかぁ。
あとで、寄ろうと考えていたんですけど、
手間が省けました。ありがとうございました」
「うむ? 儂は友至が美味いと言うておった
甘酒が飲みたかっただけじゃ」
「なら私は、お兄ちゃんに
百言主さまへのお礼を言わせたかっただけです」
「ふははははっ」
「あははははっ」
「ふたりでずいぶん楽しそうですね。なんですか?」
折り畳み椅子を抱えた僕を見て、ふたりとも笑ってるし…
「おぬしにはまだ教えてやらん。
これは、儂と紡の楽しみじゃからな。ふぁっはっはっ」
「そうね、お兄ちゃんにはまだ早い。
それよりも、ちゃんとお礼言わないと!」
「あぁ、百言主さま、昨日はパニックになっていました。
夕べ、紡に色々と話を聞いて貰ってるうちに、
実は物凄い事だったんだと分かりました。
本当にありがとうございます。
使い方もだいぶ、わかってきました」
「ほう。一晩でずいぶんな変わり様じゃな。
使い方も理解したと言うか。
ふぅむ、紡よ。大儀であったな」
「はい! 疲れました」
「あれ、僕には何も無しですか?」
褒めてもらいたかったというわけじゃないけど、スルーはなぁ。
「当然であろう。苦心したのは紡であって、友至ではなかろう」
「ぐっ、その通りです… 紡のおかげです」
「ほう、その辺りも変わったか。
善哉、良きかな。これからが見物じゃな。友至よ、絶えず学べよ」
「はい、努力します」
百言主さまと会うと、必ずこんな展開になるなぁ。
先生に怒られるより、堪えるんだよなぁ。
「お待たせいたしましたぁ!」
美調さんは、それはもう、綺麗な笑顔で戻ってきた。
早いな。あれは絶対走ってたろうな。
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