第二章 第十二話 魔人国編12
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ゴブリンどもを討伐するために討伐隊が出発してしばらく経ったときにゴブリンキング率いる3千のゴブリン達が街の門を取り囲んだ。一方討伐隊もゴブリンどもに取り囲まれる事態となり、どちらも窮地に立たされた。
街に残った人たちは女子供を領主様のお屋敷に避難させて、数少ない兵士、騎士、冒険者と街の戦える男たちは籠城戦の準備をしていた。そんな中とうとうゴブリンどもが動きだし戦いが始まった・・・・
最初に門へと迫ってきたゴブリンどもは、霜葉の【付与魔法術】で能力を底上げした魔法術が使える人や各属性の魔法術士に就いている数人によって何体かがその命を散らせた。しかし、敵はまだまだ数が多く戦闘も始まったばかりである。そんな時・・・
「よし!弓の準備が出来たわ!魔法術士は一旦休んで魔力を回復するように!つらい様なら数は少ないけど魔法薬もあるから飲んで!弓を使える者は持っている矢が無くなるまで放つわよ!」
「「「「はい!!」」」」
「サポートします!【アタックブーストワイド】!」
「ありがとうソウハ君!皆一斉に構え・・・・・ってぇー!!」
霜葉の魔法術の発動を確認した警備隊副隊長のミルスは弓持ち全員に指示を出し、第一射を放った。その結果は・・・・
ドドドドドドドドドドス!!!!
「「「「グギャ~!!!」」」」
「「「「グヘリャ!?」」」」
「「「おお~!!」」」
「す、すごいわ・・・・こんなに効果があるなんて!」
今まさに迫ってきているゴブリンどもに一斉に放った矢は山なりに飛び、もういくつかは真っ直ぐに飛んだ。これは放った者の力量の差であろう。自信がない者は山なりに、当てる自信がある者は真っ直ぐに飛ばしたのだ。しかし、もたらした結果は放った者の想像を超えていた。
山なりに飛んだ矢はすごく遠くに飛び奥に居るボブゴブリンに当たり、その体を地面へと縫い付けた。真っ直ぐに飛んだ矢は2体ぐらいのゴブリンを貫通して3体目に当たって止まった。当たった場所は頭を射抜いてあり、即死であろう。
「付与魔法術の効果が切れれば威力は落ちますので気を付けてください!」
「わかったわ!弓持ちは効果が切れるまで撃ち続けるわよ!討伐隊が戻ってくるまで頑張りましょう!」
「「「「おう!!」」」」
「「「「了解!!」」」」
それからも彼らは弓を構え矢を放ち続けた。しかし、いくら威力は上がっても所詮は細い木の矢。ゴブリン達が持っている木の盾に阻まれたり、避けられたりと、魔法術よりは殲滅力は落ちている。ましてやこのゴブリン達はキング種に率いられているのだ。能力が普通より上がっているため手強いのだ。やがて・・・
「ミ、ミルス副隊長!ゴブリン達が門へと到達しました!」
「く!?弓隊は門に近いゴブリンどもを狙いなさい!魔法術士隊も回復が済み次第攻撃に加わってください!使う魔法術は門に近いゴブリンにはアロー系で!遠いゴブリンにはボール系で攻撃を!」
「「「「りょ、了解!!」」」」
「「「わ、わかりました!」」」
とうとうゴブリン達が門へと接触した。門の目の前にやってきたゴブリン達は木の棍棒で激しく門を叩いている。さすがに知恵があるからと言って破城鎚などを造ろうとは思わなかったようだ。しかし、それでも梯子代わりに太い木を使う知恵はあるらしく、何体かのボブゴブリンが数体で抱えて外壁に立てかけようとしていた。
ミルスはすぐさま邪魔をするように指示したが、相手の数が多く味方の数が少ない現状では手が足りなかった。やがて外壁にゴブリン達が上がってきてしまった。
「グヒャァ~!!」
「ゲヒャ~!!」
「こ、この!?」
鎧を身に纏ったおそらく騎士がゴブリンどもに対処するために、腰にある剣を抜き応戦するが・・・
「ゲッヒャ~!」
「しまっ!?」
横から新たに外壁へと上がってきたゴブリンに気付かずに隙を晒し、頭をこん棒で殴られてしまった。その騎士は兜をかぶっておらず、頭から鈍い音と血が出始めた。
「く、くそ・・・」
騎士は頭を押さえふらつきながらもゴブリンどもに剣を向ける。もはや満足に反撃できないと判断したのか3体のゴブリンは邪悪な笑みを浮かべて騎士に止めを刺そうとする。
「まぁ~!!」
「ギャヒヤ!?」
その時、後ろからゴブリンを切り裂いた者が現れた。鳴き声でわかると思うが三日月だ。ゴブリンどもはここに人間以外のそれも魔物が居たのが以外なのか驚いている様だ。この場においては致命的な隙を晒し三日月はそれを見逃さなかった。
「まぁー!!」
三日月は一気に2体のゴブリンに近づき、その顎を思いっきり強打した。ゴブリンどもは顎が揺れてそのまま気絶した。そして、三日月はその気絶したゴブリンどもを持ち上げると外に放り出した。
「「「ゲヒャ~!!」」」
丁度木を登っていたゴブリンどもを巻き込んで、地面へと落下してその衝撃で立てかけていた木がバランスを崩して倒れた。そしてその下敷きになる落ちたゴブリン達。
「あ、ありがとう・・・助かったよ・・・」
「まぁー」
助けられた騎士はとりあえずお礼を言ってみた。三日月はそれを理解したのか気にするなと言わんばかりに前足の片方を上げた。
「じっとしていてくださいね?今回復しますから・・・【ヒール】!」
三日月の後ろから霜葉も現れ、騎士に回復魔法術を施した。騎士の怪我は無くなりすぐにでも戦線に復帰できるだろう。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
「どういたしまして。ついでに付与魔法術も掛け直しますね?【アタックブースト】!」
霜葉は騎士に付与魔法術も掛けて、二人は再度同じ言葉を掛け合い外壁に侵入したゴブリンどもを相手するために駆け出した。彼ら以外も数人の兵士や騎士が外壁によじ登ったゴブリンどもを相手している。その中で活躍しているのは新月たち小熊組だった。
「ぐぅー!!」
「ギャア!?」
「ぐるー!!」
「ゲヘリャ!?」
「まぁー!!」
「グヒャ!?」
新月たちはゴブリンどもを圧倒して倒したゴブリンが邪魔にならない様に、外壁の外に放り出している。その結果、よじ登ろうとしていた他のゴブリン達を巻き込んで地面へと落下する時があり、助かっているのだ。もちろんそのために用意した石もあるのだが、数には限りがある。
他の兵士や騎士も新月たちのやり方を真似して、倒したゴブリンどもを外へと放り出し始めた。ちなみに新月たちのこの行動は霜葉が【思念会話】指示した物だ。それを知らないこの場に居る人たちは何て賢い子たちだと褒めている。
それ以外だと、霜葉も活躍している。彼はゴブリン達がよじ登ってから味方に怪我人が出たのでそれを回復しているのだ。他にも回復した人の体力を回復したり、付与魔法術を掛け直したりと戦闘を有利にするためにがんばっている。
しかし、それでも連中の数はなかなか減らない。徐々にではあるが、味方の矢が無くなり、魔法術に使用する魔力が無くなったりと攻め手が減る事態にもなってきた。
これらの様子を外壁の下で門を破られた時に待ち構えてる人たちは声などで窺っているのだが、彼らの手助けにはいけない。外壁の上はそこまで広くなく今の味方の人数で精一杯なのだ。これ以上増えると味方の邪魔にしかならない。
騎士団長であるアルノルや領主であるダディン様の執事兼護衛であるトマスさんからそう言われれば戦える住人達も手助けに行きたくとも行けないのだ。それに、先ほどから門を攻撃しているゴブリン達の攻撃も激しくなった。
これは外壁で攻撃している味方の攻撃頻度が減ったのと、攻撃に群れの奥に居たボブゴブリンも参加しだしたので門が軋んでいるのだ。門は一応頑丈に造られているのでまだまだ持つだろうが、いつまでも持つわけがない。自分たちの出番も来るかもしれない現状では助けに行くわけにもいかないのだ。
そんな全員が生き残るためにやれることをやっている。そんな状況でも自分のことしか考えない身勝手な者は出てくる物なのだ・・・・
ドコォ~ン!!!
「「「「え!?」」」」
「「「なんだ!?」」」
「今の音は何だ!?」
「私が確認してきます!」
「頼みますお爺様!兵士も二人付いて行ってくれ!」
「「はっ!!」」
突如として、街の東方面から爆発音が響き渡り人々は驚きの声を上げた。これに対してトマスが音の原因を確認しに行き、アルノルも兵士二人を念のため付いて行かせた。原因不明であるためにこの場ではアルノルと同じくらいの力量を持つトマスが確認に行ったのだ。そして音の発生源で彼らが見た物は・・・
「こ、これは!?」
「「なっ!?」」
外壁の一部が崩壊している現状だった。トマスは一瞬ゴブリンキングがここにやってきて破壊したのかと警戒しもしそうならば命を懸けてでも防がねばと覚悟したが、それは間違いだ。この現状においてはゴブリンキングよりも性質の悪いことが起こったのだ。
「邪魔だ~!そこをどけ~!!」
「「「!!!」」」
トマスたちが警戒していると横から馬車が猛スピードで走ってくるではないか。御者をしているのはトマスの記憶が確かならこの街に残っていた冒険者のはずだ。そんな冒険者は馬車のスピードを緩めることなく壊れた外壁から、外に出て街から脱出したのだった。
トマスたちが馬車を避ける際にトマスの目には馬車の窓から中にいる人物が見えていた。冒険者であろう人物が二名と副ギルドマスターであるブルトルの姿が。
「な、なんだったんでしょうか」
「・・・・・」
「ト、トマス様・・・・」
兵士の一人は訳が分からずに戸惑っている様だが、もう一人の兵士はトマス同様にブルトルの姿が見えたのだろう。それによりこの状況の理由が分かってしまった。トマスもこの状況を引き起こしたのが誰であるのかわかっているのだろう。その顔は怒りの感情に染まっていた。
外壁を破壊したのはブルトルである。正確に言えばブルトルが隠し持っていた魔力を込めるとその量に応じて爆発する魔道具をブルトル子飼いの冒険者が使い破壊したのだ。そんな物を持っているならこの現状でなぜ誰にも言わないのかと思うだろうが、魔人国ではこの手の魔道具を個人が持つのを禁止にしている。
ゆえに誰にも言えなかったのだ。それでも現状なら見逃してもらえる可能性もあっただろう。しかし、ブルトルはその可能性よりも自分が助かる方にその魔道具を使ったのだ。その結果街がどうなるかも考えないまま・・・・
トマスがブルトルに対して怒りを抱いていると、当然ゴブリン達もこの外壁の様子を確認する。そして確認してそれを上の者に知らせるために群れへと戻ってゆく。
「ト、トマス様!ゴブリンどもにここが壊れていることが伝わります!」
「くっ!怒りを抱いている暇ではなかった!不覚だ!!兵士の一人はアルノルにこのことを報告するとともに何人かを応援に寄越すように頼んでくれ!」
「わ、わかりました!」
兵士一人が門へと戻る中、残った二人は応援が来るまでここを守るために武器を構えた。ゴブリンどもがここに群がってくるのは分り切っていた。街の人々は人の身勝手な行いにより窮地に立たされたのだ。
「なに!?それは本当か!」
「事実です!ゴブリンどもにもこのことは伝わり壊れた外壁に殺到します!何人か応援を!」
「くっ!わかった!兵士、騎士は半分ほど向かうんだ!住人達も何人か向かってくれ!」
「「「「了解!」」」」
「「「「わかりました!」」」」
「俺達も行くぞ!」
「「「おう!」」」
「「「僕たちも行くよ!」」」
まずは兵士と騎士が応援に向かい、住人達も何人かが向かうために声を掛けあっている。そんな大人たちに交じって幼い声もした。声を発したのはルーク、カーター、ヘンリーの孤児院で唯一ジョブに就いた三人だった。彼らも戦うために革鎧を着て彼らにとっては長めの槍を持っていた。
「お前たちはここに残れ!危険だぞ!!」
「危険なのはどこでも一緒だよ!」
「ぼくたちだって戦えるよ!」
「チビ達のためにも戦いたいんだよ!」
「お、おまえら・・・」
彼らの決意は固い。それは言葉を聞いた大人たちも嫌でもわかることだろ。ゆえに・・・・
「わかったよ!だが、常に三人で行動しろよ!後、大人の近くにも必ずいろよ!!」
「「「わかった!」」」
この現状では彼らとて戦力である。言い争いをしている時間も惜しいため大人たちは条件付きで許可を出した。そうして子供たちも戦場へと向かう。
「そこの兵士は外壁に上りソウハ殿を呼んできてくれ!彼の力が必要だ!」
「わ、わかりました!」
アルノルは近くに居た兵士に指示を出して、霜葉を呼びに行かせた。侵入される現状では上に居るよりも下に居てもらえる方がありがたいのだ。このことは事前に霜葉にも伝えてあるので、問題ないのだ。
兵士は全力で外壁の上へと駆け上がる。そうしてたどり着いた頂上で声をできる限り上げる。
「ソウハ殿!ゴブリンどもが壊れた外壁から侵入してきたので、応援に来てもらいたい!」
「壊れた外壁!先ほどの大きな爆発音のことね!?ソウハ君!ここはいいから応援に行ってあげて!魔物たちも連れてっていいから!」
「わかりました!皆さんに付与魔法を掛け直して行ってきます!【アタックブーストワイド】!【マジックブーストワイド】!」
霜葉は兵士の言葉を聞いて応援に行く前に付与魔法術を掛け直し、白夜たちに大きな声で話かける!
「皆!下に降りるよ!ルナは先行してゴブリン達を攻撃して!できる!?」
「ワン!」
「ニャー!」
「ぐぅ!」
「まぁ!」
「ぐる!」
「ぴー!」
それぞれが鳴き声を上げて階段へと向かう。ルナは霜葉の頼みを聞き翼を広げ飛び立った。ルナはここ数日で順調に成長して体長は40㎝を超え翼を広げるとその3倍は大きく見える。
「頼むね!【ブースト】!【マジックブースト】!」
「ぴー!」
霜葉の付与魔法術を掛け終えたらルナは東方面に飛んで行った。それを見送ることの時間も惜しいので霜葉は階段を駆け下りた。自分自身に付与魔法術を掛けて、少しでも早く着くようにと頑張りながら。
一方壊れた外壁付近では、トマスに率いられた兵士、騎士に交じって住人達による戦闘が始まっていた。トマスと兵士、騎士はゴブリンを一対一で相手をし、住人は二人がかりで相手をしている。この場で唯一の子供であるルーク、カーター、ヘンリーは三人で相手をして、近くに居た大人がゴブリンを倒せば加勢することで何とかなっていた。
しかし続々とやってくるゴブリン達に彼らは徐々に焦り出している。数は減っているのは確実だが、それはトマスたちにも言えることだ。特に戦い慣れていない住人達は手傷を負う者たちが続出して兵士や騎士たちに助けられることも多くなってきた。そんな中・・・
「ぴー!!」
「「「クギャ~!?」」」
上空から何やら場違いな鳴き声が響くと、地面に真っ黒い球体が炸裂した。それに当たったゴブリン達は悲鳴を上げところ構わずに武器を振り回した。トマスが上空を見上げると、もはや見慣れた鳥が飛んでいるのを確認できた。
「あれは・・・ソウハ殿の魔物か!皆奮起せよ!あと少しでこの状況では頼もしい援軍がきてくれるぞ!」
「「「「了解!!」」」」
騎士たちは霜葉の能力を同僚の女騎士たちから聞いているらしく、トマスの声に大きく答えた。兵士や住人達は半信半疑であったが、その考えはすぐに変わる。
「ぴー!!」
「「「「ギャハァー!?」」」」
上空から魔法術を連発する鳥の魔物に対してゴブリン達は指す術もなく、ルナの独壇場だった。その活躍に兵士たちと住人達は徐々に士気を高めていった。とは言え、ゴブリン達もやられるばかりではない・・・
「ト、トマス様!ボブゴブリンが来ました!」
「ぬぅ!援軍よりも速かったか!?」
ゴブリン達が数多く倒されているので、数が少なくなったゴブリンよりボブゴブリンの数が上回ってしまったのだ。しかも、ボブゴブリンはゴブリンよりも強い。それだけではなく武装も錆びていたり欠けていたりはしているが、持っているのだ。
「兵士、騎士たちは今まで以上に奮起せよ!住人達はボブゴブリンには三人一組で当たれ!絶対に一人で相手をしてはいかんぞ!」
「「「「りょ、了解!!」」」」
「わかりました!!」
「怪我をしている奴はなるべく下がれるか無事な奴と組むんだ!」
「坊主たちお前らは領主様の屋敷に戻るんだ!」
「やだよ!僕たちもこの街を守るんだ!」
「ええ~い!仕方ない絶対に無理するなよ!!」
「「「うん!!」」」
住人の大人たちは怪我をしている者を庇うように前に出て、子供たちにも避難するように言うのだが、聞く耳を持たない。仕方なくこの場に残すのだが、それは判断ミスであった。ボブゴブリン達はこの場で最も弱い存在である子供たちを集中的に攻撃してきたのだ。
「こいつら!」
「ガキどもばかり狙いやがって!?」
ボブゴブリンはゴブリンよりも能力が高い。それは知恵も含まれている。この場で最も弱い存在を集中して狙えば今相手にしている者たちを崩すことができると分かったうえでやっているのだ。この場のトップであるトマスは兵士か騎士に命じて子供たちを強制的にこの場から退去させるべきか迷った。そしてその迷いが今この時においては致命的な物となってしまったのだ・・・・
「グヒャ!」
「うわ!?」
「「ルーク!?」」
子供たちの一人がボブゴブリンによって倒されてしまい、馬乗りされてしまったのだ。この事態に大人や兵士、騎士たちも助けに向かおうとするのだが、ボブゴブリンどもはさせるかと言わんばかりに立ち塞がる。
それによって子供を助けに行けない。馬乗りされたルークは何とかしようと暴れるが、ボブゴブリンの方が力が強く抜け出せない。当のボブゴブリンは邪悪な笑みを浮かべ、今まさに持っている錆びた剣で止めを刺そうとしていた。
「う、わぁぁ~!?」
ルークは絶叫を上げるが、それが心底楽しい様にボブゴブリンは邪悪な笑みをより深くする。他の戦っている者はなんとか彼を助けようと目の前のボブゴブリンどもを倒すが、間に合わない。一人の子供の命が散るかと思われたその時・・・・
「「「メェ~!!!」」」
「ゲヒャ!?」
「え?」
美しい色をした塊三つがボブゴブリンを弾き飛ばした。弾き飛ばされたボブゴブリンは仲間を巻き込んで倒れ、チャンスを窺っていたルナの魔法術によりダメージを受け混乱した仲間の攻撃によって絶命した。子供のピンチを救ったのは・・・・
「君たちは、クク、カカ、ココ?」
「「「メェ~♪」」」
子供たちがテイムしたハニーブロンドシープだった。ちなみにここに居る個体は父親である。さらに言えば子供が口にしたのは彼らの名前である。彼らは主のピンチに避難されていた領主の屋敷から駆け付けたのだ。
「あ、ありがとう。助かったよ・・・・」
「メェ~」
ルークは助けられたことが実感できないのか、普通にお礼を言った。そのルークに彼がテイムした個体はよく頑張ったなっと言うかのように体毛を擦り付けた。そんな行為によって実感が湧いてきたのかルークは徐々に目に涙を浮かべ・・・・
「う、うえぇぇぇ~ん!!!怖かったよ~!!!ありがとう~!!」
「メェー」
ハニーブロンドシープに抱き付いて思いっきり泣きだした。抱き付かれ泣き出した主をその個体はされるがままに任せていた。一方他の個体と彼の仲間たちは・・・・
「「よくもルークを泣かせたな!許さないぞ!」」
「「メェー!」」
テイムした個体と協力して残り少なくなっていたゴブリンどもの相手をしていた。大人たちはいきなりの展開に付いて行けずに呆けているが・・・
「皆!ここが頑張り所だ!ゴブリンどもを街から追い出すのだ!」
「「「「おう!!」」」」
「「「「了解!」」」」
「お、おう!分った!」
「坊主を助けたヒツジを間違えて攻撃するなよ!」
「わかってるよ!」
トマス殿の掛け声に我に返り、改めてゴブリン達に攻撃し始める。そんな中この場に現れた新たな戦力はと言うと・・・
「「「ゲヒャー!」」」
「メェ!」
バイ~ン!!!
ゴブリン達の攻撃を体毛で受けるとそのふかふかの毛が攻撃を弾き返して、まったくの無傷である。しかもゴブリン達は弾き返された力でバランスを崩して、周りに居た住人によって止めを刺される。他にも体当たりを繰り出せば、体毛のおかげかよく弾き飛び、外壁に激突して頭を強く打ちそのまま絶命したりする。ヒツジたちは意外な活躍をしているのだ。そこへさらなる援軍が現れる。
「【アタックブーストワイド】!【マジックブーストワイド】!」
「ワオーン!」
「ニャー!」
「ぐぅ!」
「まぁ!」
「ぐる!」
「おお!ソウハ殿!来てくれたか!」
霜葉もこの場に到着して、この場に居る全員に付与魔法術を掛けて身体能力を底上げを行うと味方の殲滅力が上がり、ボブゴブリン達を次々と倒してゆく。しかも、白夜が咆哮で援護し氷魔法術でボブゴブリンどもを倒し、十六夜は隠業でボブゴブリンどもに手傷を負わせて援護し雷魔法術で倒している。新月たちは一対一でもボブゴブリンどもには負けない強さがある。ルナは相変わらず空中で魔法術を放っている。
彼らが来てくれたことで能力的にも負けないようになり、霜葉が回復魔法術で手傷を負っていた味方を回復し、体力も回復したおかげで数も元に戻った。ゴブリンどもは自分たちが有利だったのがいつの間にか不利になったことに戸惑っている様だ。そんなゴブリン達に止めを刺すかのように更なる事が起こる・・・
「グワ~!!」
「グルー!!」
「「ゲシャ!?」」
街からほど近い森からブルーベアが二匹現れ、ボブゴブリンどもを襲い始めたのだ。これにはゴブリンどもも混乱して大慌てである。そして、意外な援軍にトマスを含む街の住人達も驚いている。だが、霜葉はそのブルーベアに心当たりがあった。正確にはブルーベアの一匹の上にしがみついている小熊にだが。
「くぅう~!!」
「まぁ~!!」
その子熊とは三日月が保護して霜葉たちがお世話した小熊だった。若干大きくなっているが間違いないと霜葉は判断した。三日月がこれほど喜んでいるのだから間違いないと霜葉は思っている。事実それは正しい。このブルーベアたちは我が子を助けてくれた三日月とその仲間たちにお礼として援軍に来たのだ。
「トマスさん!あのブルーベアは保護していた小熊の両親です!敵ではないので絶対に攻撃しないでください!」
「そうか!分った!皆、あのブルーベアには攻撃するな!今は味方だ!しかし、攻撃すればどうなるかわからんので絶対に近づいてはならんぞ!」
「「「「りょ、了解!」」」」
「「「「わかりました!」」」」
「なんだかわかんねぇが、ゴブリンどもを倒してくれるんならありがてぇや!」
「そうだな!」
こうしてゴブリン達は援軍の加勢が三度も来たことで完全に形勢は逆転された。そんな様子を最初の位置からわずかに進んだ程度で止まっていたゴブリンキングも遠目ではあるが見ていた。この時、王の心を埋め尽くしたのは同胞を殺された悲しみでも怒りでもない。落胆である。
王の能力によって身体能力が上がっていながら、しかも、戦える者たちの大半が居ない街に何をもたもたしているのかと、徐々に落胆から憤怒へと変わりつつある。同胞に任せていたらいつまでたっても快楽を味わえないと判断して王は決断した。自ら動くことを。
「グルガァ~!!!」
「「「「!!!」」」」
王は自ら動くことを誇示するかの如く雄叫びを上げた。それは同時に同胞であるゴブリン達にあることを伝える物でもあった。お前たちには期待しないと。そしてこの雄叫びは当然、霜葉達にも聞こえた。
「ゴ、ゴブリンキングが動き出しました!真っ直ぐに門へと向かっています!!」
「!魔法術士隊は全員ゴブリンキングを狙って!少しでも傷を負わせるのよ!弓隊はゴブリン達に攻撃を続行!門の内側の人たちにもこのことを知らせて!」
「「「「りょ、了解!!」」」」
「「「「わ、わかりました!!」」」」
ミルスはすぐさま指示を出して、魔法術を使える者たちはすぐにゴブリンキングへと魔法術を放った。これで倒せるとはこの場の誰も思わなかった。ミルスの指示通り傷を負わせて少しでも体力が奪えれば、この後の戦いが有利になる。そう思っての指示だ。だが・・・・
「グガァー!!!」
ゴブリンキングが肩に担いでいる片手斧を横へと大振りに振るうと暴風が発生。その暴風はゴブリンキングに当たる魔法術の軌道を強引に曲げ、または地面へと無理やり落として不発させた。
「なぁ!まさかあの武器は魔道具!?どこからそんな物を!?」
ミルスを含めた外壁に居る者たちはこの結果に驚いて、ミルスはこの結果をもたらした物がゴブリンキングの能力だけではなく武器の能力であると見抜いた。ゴブリンキングがこれを持っていたのは単純に襲った商人の馬車に積んであったのだ。
ミルス達にとっては最悪の組み合わせであり、ゴブリンキングにしてみれば最高の武器であった。武器を振るって体勢を整えたゴブリンキングはまた門へと駆けだした。
「効果がなくても放ち続けて!少しでも進行を遅らせるのよ!!」
「「「「は、はい!!」」」」
指示を受けて魔法術を放ち続けるが、ゴブリンキングは相手の力量が分かったのか、止まらずに駆け続け軽く片手斧を振るって魔法術の軌道を変えている。その軌道が変わった魔法術に同胞であるゴブリン達に被害が出ているのにも構わずに。
王にとってもはや同胞はどうでもよかったのだ。早く快楽を味わいたい。餓えた獣の王は駆け続け門へと到達。そして・・・・
「グルガァー!!!」
力をあらん限り込めた渾身の一撃を持って門を破壊した。門の破片が飛び散り急ごしらえの拒馬槍を壊してしまった。王はゆっくりと門だった物から入り、街に居る女がどこにいるかを考えていた。そこへ・・・
「兵士、騎士達よ!今こそ奮闘の時!街への侵入者を倒すぞ!」
「「「「了解!」」」」
数は少ないが兵士と騎士がゴブリンキングを取り囲み、それらを指揮するのは騎士団長のアルノルであった。彼女は先頭に立ち勇ましく剣を構えていた。
そんな彼女をゴブリンキングは凝視していた。その眼はやっと目的の者を見つけたと気持ち悪く笑っていた。それ以外にも体のある一部分が激しく反応していた。
「ゲスめ!私を自由にできるとは思わぬことだ!攻撃開始!」
「「「「はっ!!」」」」
アルノルの指示で槍を持っていたすべての騎士は突きを放ち、兵士は騎士たちの攻撃が終われば間髪入れずに次の攻撃をするため準備していた。そんな者たちをゴブリンキングは邪魔な小石を怒りに任せて破壊するかの如く行動した。
「グガァー!!!」
ゴブリンキングは片手斧を地面へと振り下ろした。その瞬間発生する暴風。いや、もはや空気の壁と言うべき物がゴブリンキングの周りを薙ぎ払った。兵士や騎士たちは激しく吹き飛び、何人かは近くの家を巻き込んで家も半壊した。凄まじい威力。その効果は王の後ろに居たゴブリン達をも被害を出し、この場で立っているのは王以外に居なかった。
何とか意識を保っていたアルノルは足を骨折しており立つことはおろか戦うことは無理であった。そんな彼女にゴブリンキングは嫌らしい笑みを浮かべて近づいて行く。
痛みで意識が飛びそうなのを何とかこらえ彼女はゴブリンキングを睨みつけていた。この後に待っているであろう女としての地獄に彼女は恐怖しながら。ゴブリンキングはそんな彼女に左手を伸ばすが・・・・
スパン!!
「グガァ?」
突如、目の前にあった己の手が手首から無くなっていた。王は数度瞬きをすると痛みが襲い・・・・
「グガギャアアア!!!」
絶叫を上げ、この痛みを与えたである者もを睨みつけた。いつの間にか女と自身の間に立っていた白銀色をした騎士甲冑を纏っている者を。アルノルもまた自分を守ってくれた騎士の背中を見ていた。だが、彼女は力尽きたかのように意識を手放してしまった。
もはやこの騒動も最終局面。ゴブリンキングと謎の騎士の戦いが最後であろう。
感想・誤字脱字報告・応援コメントお待ちしております。作者のやる気が上がりますので。
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