第二章 第十一話 魔人国編11
ついにゴブリン討伐戦が始まろうとしていた。霜葉も参加することになると思っていたのだがデルタさんやギルドマスターであるオルフ殿にこの街に残ってほしいと頼まれた。理由としてはデルタさんのユニークスキルの効果でこの街に危険が迫っている可能性があると言うのだ。
だが、さすがにゴブリン討伐戦に参加する者たちを減らす理由としては弱いので、能力的にも白夜たちと言う戦力を持つ霜葉に念のため街に残ってほしいと言うのだ。霜葉はこれを了承してゴブリン討伐に出発する彼らを見送った。
丁度昼になったころに霜葉は冒険者ギルドで待機していた。霜葉が街に残った事情を知っている街の領主であるダディン様は屋敷へ来ないかと誘ったが、霜葉は断った。町の奥にある屋敷では何かあった時の初動の動きが遅れる可能性を恐れてだ。しかし、霜葉は待機場所にこの冒険者ギルドを選んだ事を早々に後悔することになる。
「なんだ魔物使い?貴様は参加しなかったのか?」
なぜか霜葉を目の敵にする副ギルドマスターのブルトルが話しかけてきたのだ。
「ギルドマスターから聞かされていないんですか?」
「ふん。一応は聞かされているわ。しかし、Cランク冒険者なのに街の一大事に何もせんとはいいご身分だな」
霜葉はこんな言葉を口にするブルトルを白けた目で見ていた。デルタさんのユニークスキルのことはブルトルは知らないようだし、ここに居ると言うことは戦力と言う意味でも役に立たないと言うことなのだ。自分自身を棚上げして霜葉に対して嫌味を言うこの男はある意味で滑稽である。
ちなみにブルトルに対してギルド職員もこの場においてはあまりいい顔をしていない。ブルトルの人望のなさもそうだが、彼らは霜葉のおかげでギルドの収入がここ最近うなぎ上りなのを知っているし、彼が薬草採取の依頼を積極的に受けてくれたおかげで討伐に向かった者たちに十分な数の回復薬を渡せたことを知っている。
しかも、霜葉から買い取った魔物素材で造られた武具はかなりの出来でそれらを買った冒険者たちの活躍も耳にしていた。今回の討伐戦でも彼ら冒険者の士気は高い。現時点ですでに霜葉はこれ以上ないくらい役立っているのだ。ブルトルはそこら辺を理解していないのだ。
「なんだその眼は?」
「生まれた時からこの目ですが何か?」
「貴様バカにしているのか!?」
むしろ今まさに馬鹿を晒しているのはあなたですよと霜葉は言いたい。しかし、霜葉以上に我慢している者たちが居た。
「ガル~」
「フシャー」
「ぐぅ」
「まぁ!」
「ぐる・・・」
「ぴー!」
「な、なんだおまえたち!」
白夜と十六夜は歯をむき出しにして唸っているし、新月、三日月、無月も霜葉を守るように立ち塞がり、ルナは威嚇のつもりなのか羽を広げている。そんな魔物たちにブルトルは腰が引けていた。
「ふ、ふん!私はお前と違って忙しいのだ!これで失礼する!」
負け犬の遠吠えにしか聞こえない言葉を残して、ブルトルはさっさと2階に上がって行った。とりあえず霜葉は白夜たちにお礼を言った。
『みんなありがとう。おかげで嫌な人は逃げて行ったよ?』
『あの人きらい!』
『主を悪く言う人は許しません!』
『役に立ったならよかった』
『大丈夫?お兄さん』
『何がしたかったのあの人・・・』
『ぱぱいじめるのダメ~!』
『やれやれ・・・とんだ小物ですなあ奴は・・・』
そんなある意味いつも通りな皆の言葉を聞いて、霜葉はしばし考えて・・・・
『またさっきの人が来ても嫌だし、何か変わったことがないか門にでも行ってみようか?』
『『一緒に行くよ~』』
『『『わかった』』』
『いくの~』
『それがいいでしょうな』
反対意見は無いようなので、早速霜葉は冒険者ギルドを出て門へと向かう。その際、ギルド職員は霜葉に対して深々と頭を下げていた。
しばらくして門へと着いた霜葉達。と言っても特に変わった所なくいつも通り・・・と言うわけではないようだ。さっきから外壁の上では兵士たちがいつも以上の人数で警戒しているし、門も普段なら空いているのに今は閉まっている。人の出入りはここ数日はゴブリン問題が町々で噂になっているらしく訪れる人も減っているので問題ないようだ。
「随分と警戒してるんだね・・・」
「む?そこに居るのはソウハ殿か?」
門の今の状況に疑問を抱いていると、声を掛けられた。霜葉が声のした方に視線を向けるとそこに居たのは騎士団長のアルノルさんと警備隊副隊長のミルスさんだった。
「お二人とも。こんにちは」
「こんにちは。いきなりで申し訳ないけどこの子たちを撫でていい?」
「ミルス・・・本当にいきなりだな・・・」
「だって~本当なら初対面の時にでも撫でたかったのにあの時は無理だと思ってあきらめたのよ~」
「構いませんよ。この子たちが嫌がったらやめてもらえればいいので」
「本当!?ありがとう~」
そう言ってミルスさんは腕に装着していたグローブを外し、白夜たちを順番に撫で始めた。それらの行為を新月とルナ以外は嫌がることもなく受け入れている。ミルスさんも二人が嫌がるそぶりを見せていたので撫でるのは早々に諦めてくれた。代わりにスキンシップが大好きな白夜と十六夜、三日月は撫でるのが止まらない。
「やれやれ・・・すまないなソウハ殿。ミルスは子供好きで可愛い物も大好きなんだ」
「この子たちも喜んでいるので問題ないですよ。それにしてもずいぶん警戒しているようですが、ゴブリン討伐の時ってこんなに警戒するんですか?」
「・・・・ソウハ殿もデルタ殿のユニークスキルのことは聞いているのだったな?」
「!お二人も知っているのですか?」
「ええ、討伐隊が出発する前にギルドマスターとダディン様、デルタさん本人から聞いているわ」
「他にも兄上とジプス殿も聞いている。あくまで可能性と本人は言っていたが、我々にもスキルを明かしてまで警戒してほしいのだからよほど今回の嫌な予感と言うのは反応が大きいのだろうな・・・」
「それを私たちもダディン様も重く受け止めてね?警戒は厳重にしているのよ。このことを知らない兵士や騎士たちは困惑している様だけど、何かあってからでは遅いのよ」
「確かに・・・・」
霜葉が思っていた以上に今回の一件は大事になっている様だ。それだけデルタさん本人のスキル反応が大きいと言うことだろう。自らの情報を信頼できる人たちだけとはいえ明かしているのだから。
デルタさんたちも大丈夫だろうかと、何気に霜葉は空を見上げた。そして、それが目に映った・・・
「?あれは何でしょうか」
「どうした・・・む?あれは・・・」
「あれは、赤い煙?」
「あれはレッドウッドの煙だな。燃やすと煙が赤い色をしているからよく見えるので緊急時の連絡用として用いられるものだ」
「緊急用・・・・討伐隊に何かあったんでしょうか!?」
「だが、討伐隊はあんなものは持っていないはずだぞ?緊急時にはダディン様が持たせてくれた簡単な連絡用魔道具で知らせてくれるはずだ」
「でしたらあの煙は・・・・」
「「「「グギャァアアアア~!!!」」」」
「「「「ゲハァァアアア~!!!」」」」
「グァガァァァー!!!!」
「「「!?」」」
突如として街の外から、下品な叫び声が聞こえてきた。それと同時に外壁に備え付けてある異常事態を知らせる鐘も鳴り響く。
それらの叫び声は歓喜の声。ようやくたまりにたまった物を吐き出せたことへの歓喜。それとこれから味わうことができる快楽を望む声。彼らはそのまま街の門を取り囲む。そうすることで中にいる人間たちが慌て、泣き、混乱してくれるのを期待してのことだ。彼らは上に立つ者の合図を今か今かと待っている。あともう少しで快楽を味わえるのだ。全員が血走った眼で目の前の街を視界に移している。
そしてそれらを街の外壁に居る兵士たちは、驚愕を顔に浮かべて見ていた。彼らの眼前には・・・・およそ3千のゴブリンとボブゴブリンの群れが居てその一番後ろには・・・・ボブゴブリン以上の体躯を持ち片刃の斧を肩に担いでいるゴブリンキングが居た。
一方その頃、討伐隊は・・・・・
ゴブリンキングに率いられたゴブリンの群れが街の外に出現した時よりわずかに時は遡り、討伐隊は順調にゴブリン達を倒していた。群れの数は3千であったがゴブリンキングは斥候の調査では確認できずにいないと判断。例え居たとしても四人の実力者であるデルタ、オルフ、サティス、ジプスが居るのだ。問題ないと言う思いが強い。
そして、騎士団や冒険者が順調にゴブリンどもを駆逐している報告を先に名を上げた四人は兵士から聞いていた。
「報告します!ゴブリンどもは順調に数を減らし、あと2千までにはなったかと・・・この調子でいけば殲滅も時間の問題です!」
「そうか・・・ご苦労さまでした。下がってください」
「は!失礼します!」
兵士の報告は喜ぶべきものであった。実際この場に居る他の兵士や騎士たちは安堵の顔をしている。もうすぐゴブリン問題も片付くだろうと思っていた。だが・・・・
「「「「・・・・」」」」
この場に居る実力者たちはそうは思えなかった。その様子に疑問を抱いた一人の騎士がサティスに話しかけた。
「団長。なにか気になることでもあるのですか?」
「・・・・」
問われた本人は答えない。これは聞こえていないと言うよりは他のことに集中していて問われたことに気付いていないようであった。そして唐突に彼は言葉を口にする。
「妙だ・・・ゴブリン達が脆すぎる」
「え?」
「私も同意見だ」
「「同じく」」
サティスの言葉に声を掛けた騎士は戸惑い、オルフ殿はその言葉に同意を示し他の二人も全く同じ考えのようだ。
「ど、どういうことですか?そもそもゴブリンはそれほど強い魔物ではないですよ?」
「確かに強さ的には大したことは無い。だが、奴らの厄介さは知恵がある点だ」
「それと同時に感情もあるからね。命がかかったこの状況で死に物狂いで戦わないのも不自然だわ」
「奴らの戦い方はどうも消極的だ。攻める事よりも守ることを重視している様に見える」
「と言うよりは何かを待っているように感じます。まるで罠を仕掛けて相手がそれにかかるのを待っているかのように」
彼らは自分の考えを口にすることで答えを探そうとしている様であった。しかし、それはこの場においては遅かったと言えよう。ゴブリン達の目的はもう果たしているのだから・・・
「む?あれは・・・」
オルフ殿は何気なく空を見上げた。そうしたことで見えたのだ。ゴブリン達の居る奥で空に上がる赤い煙を。オルフ殿はすぐさまそれがレッドウッドを燃やした煙だとわかった。しかし、なぜこのタイミングであの煙を?と言う疑問が頭をよぎる前に事態は動く。
「「「「グギャア~!!!」」」」
「「「「ゲハァ~!!!!」」」」
「「「!?」」」
「何事だ!?」
突如、四方から下品な叫び声が聞こえてきた。実力者たちはすぐさまこれがゴブリンどもの声だとわかった。そして、状況を知らせに来た兵士の言葉に驚愕する。
「ほ、報告します!現在四方の森からゴブリンどもが現れ我らを取り囲んでいます!しかも、今まで戦っていたゴブリン達もいきなり激しく攻撃をしてきた模様!このままでは前方も塞がれ包囲されてしまいます!」
「「「なんだと!?」」」
報告を聞いた騎士たちは驚き、混乱してしまった。すぐさま一点集中で囲みを突破した方がいいという者や守りを固めて方がいいという者で別れてしまった。だが・・・・
「狼狽えるな!」
「「「!!」」」
「囲まれたと言っても相手はゴブリンだ!ボブゴブリンが居たとしても戦闘力は大したことは無い!ゴブリンキングは確認できたか?」
「い、いえ!いまだに確認できません!」
「ならば斥候はゴブリンキングが居るかを最優先で探れ!これほどの策をゴブリンどもが実行したと言うことはキング種に率いられている可能性が高い!」
「わ、わかりました!」
兵士たちはすぐさま今の指示を斥候に知らせるために駆け出す。続けて騎士団長のサティスは指示を出す。
「これから討伐隊を四隊に分ける!二隊の指揮は私とジプス!残りはオルフ殿とデルタ殿にお願いしたい」
「この状況では仕方あるまい」
「ギルドマスターは新たに現れたゴブリンどもをお願い。私は今まで戦っていた方を担当するわ」
「わかった・・・気を付けろよ?」
「そっちもね」
そうして実力者たちは戦場へと赴く。そんな中、デルタは先ほどから激しく反応している自身のユニークスキルのことを考えていた。
(こんな状況にもかかわらず私の嫌な予感は私自身に危険が迫っているような感じじゃない・・・・今回のゴブリンどもの行動と言い街でも何か起こっているわね。早いとこゴブリンどもを倒して街に戻った方がいいわ!)
そう考え自身の武器である大剣を握りしめ、今一番激しい戦場に向かう。彼の予想は正しい。今この瞬間に街ではゴブリンキングに率いられたゴブリンどもが出現したところなのだから・・・・
時は戻り、街の方では・・・・
現在、街では戦えない女子供が領主の屋敷へと避難している。それ以外のジョブに就き戦える男たちは武具店が提供した武器を手にし、防具を着けて戦いに備えていた。今この時はこの街最大の危機と言ってもいい状況だ。それゆえこの街に住む者たちは自分たちのできることをしようと必死なのだ。
この街の領主であるダディン様も鎧を身に纏い剣と盾を持ち戦いに備えていた。傍らには同じく戦う装備に着替えているトマスさんの姿もある。彼の場合は鎧でなく年季の入った軽鎧とショートソードを二本と背中に弓を背負っていた。アルノルさんとジプスさんの姿もある。そして一応副ギルドマスターのブルトルも武具を着込み戦いに備えているのだが、着こなせてないのが一発でわかるため場違いなことこの上ない。
現在、彼らは外壁の頂上に上りゴブリン達の群れをその目で確認しているところである。その場には霜葉と魔物たちの姿もある。
「間違いない・・・・ゴブリンキングだ」
ダディン様は遠見の魔道具(双眼鏡のような物)にてゴブリンの群れの奥に居る一番体躯のデカいゴブリンを見てそう断言した。
「ゴ、ゴブリンキングですと!?キ、キング種に率いられているのですか!あのゴブリンどもは!?」
「それは厄介ですな・・・ゴブリンどもが普通より能力が上がってしまう」
「しかも、ここから見る限りではボブゴブリンも相当の数が居ます。遠目ではありますが、武器も手にしているようです」
「士気も高そうですね~この街には今女性がたくさんいるのが分かってるんでしょうね。鼻息まで聞こえてきそうです」
「何を呑気に話しているのですか!早く討伐せねば!こちらも数をそろえて攻撃を仕掛けましょう!突撃するべきです!」
冷静に分析をしているトマスさん、アルノルさん、ミルスさんをブルトルは憤慨しこちらから攻めるべきだと主張するが、当然、却下である。下策中の下策だからだ。
「落ち着けブルトル殿。連中の目的はこの街に居る女性たちだろう。門を開けたら奴らはなだれ込んでくるぞ。ここは籠城して討伐隊が帰ってくるのを待つべきだ」
「そんな悠長な事でいいのですか!?キング種が門を攻撃したら壊れる可能性が高いのですよ!そうなる前に倒すべきです!」
「それができる実力者が今この街に居るのか?トマスにアルノル、それにミルス。君たちはできるか?」
「申し訳ありませんが、私では群れを突破してゴブリンキングに到達する前に力尽きるでしょう」
「私も同じです。得意な武器が弓ですし突撃は反対です」
「この老骨では無理という物です旦那様」
「ソウハ君はどうだ?」
「この子たちが居ても難しいでしょう。そもそも僕はサポートが主なのでダディン様の籠城を支持します」
全員がブルトルの案は無理だと言っている。そんな意見を言われたブルトルは頭を掻きむしりながらどうしようか唸っていた。
「で、ではどうすればいいと言うのだ!?」
「最初から籠城以外の選択肢はないぞ、ブルトル殿。とにかく連中が動き出す前にこちらも迎撃の準備をしなければ・・・・ミルスは弓を扱える兵士と騎士と冒険者をここで指揮してくれ。それと数は少ないだろうが、魔法術を使える者も何人か上がらせる」
「了解しました」
「アルノルは万が一ゴブリン達が門を破った際には連中を押しとどめてほしい。絶対に街へは入らせないでくれ」
「はっ!」
「トマスはアルノルの手伝いだ。頼むぞ」
「はい、旦那様」
「僕はここでミルスさんたちをサポートします」
「よろしく頼む。ソウハ殿」
霜葉はそう言ってミルスさんに自身の能力である【付与魔法術】と【回復魔法術】が使えることを話した。弓で攻撃する時や魔法術で攻撃する時に魔法術で身体能力を底上げすれば、威力が上がるので教えておこうと思ったのだ。ミルスさんはお願いねと言い。二人は迎撃準備を進めた。
他の人たちも自分がすべきことをやるため、持ち場へと戻った。そんな中、ブルトルはと言うと・・・
「ぜ、絶対生き残ってやるぞ。どんなことをしてでもな!」
現状の状況に付いて行けずに心が潰される寸前だった。そのせいで彼の頭の中は冷静な判断が出来なくなっていた。不穏なことを口走りブルトルもこの場を去った・・・・
霜葉やミルスさんは弓を扱える兵士、騎士、冒険者と共に外壁の上で弓のチャックや矢を運んだり、さらにはゴブリンどもが木などを使ってここまで登ってくることも考えて、大きめの石などを運んでいる最中だった。なお、この準備期間でも霜葉の魔法術で身体能力を底上げして作業しているため作業自体は驚くほど順調だった。
アルノルさんとトマスさんは戦える住人たちと少数の兵士、騎士、冒険者と共に内側の門の周りに急ごしらえの拒馬槍を作り囲むように広めに並べた。拒馬槍の外側では長めの槍を手に持ち、腰にはショートソードを下げてゴブリンどもの街への侵攻を防ごうと人々が気合を入れながら準備を進めていた。
街の領主であるダディン様は屋敷で待機している。さらには戦える女性たちや屋敷で働いているメイドたちも武装をしており、万が一ここまでゴブリンどもが侵攻してきた場合に備えていた。本来なら副ギルドマスターであるブルトルもこの場に居るはずなのだが、先ほどから姿が見えない。そのことにダディン様は何やら嫌な予感がしていた・・・・
準備は着々と進んでいる。そしてすべての準備が終わりそうになったころに事態は動く・・・・
「ゴ、ゴブリンキングが動いたぞ!」
「「「「!?」」」」
群れを見張っていた兵士ができる限りの声量で大きく叫ぶ。ゴブリンキングが動き出した。奴はゆっくりと歩きだし、肩に担いでいる大き目の片手斧を空へと掲げ・・・・
「グァガァァァ~!!!」
「「「「「グギャァァァ~!!!」」」」」
「「「「「ゲハァァァァ~!!!」」」」」
それは例えるなら餓えた獣たちの叫び。もっともこの餓えたと言う表現は腹ではなく彼らが求めているのは快楽。女性を襲いそれによって得られる快楽目当ての薄汚い欲望を満たそうとする堕ちた獣。この場に居るゴブリンどもは鬼ですらない。そんな者たちが上の指示によって襲い掛かってくるのだ。
「全員!矢を射る準備を!魔法術を使える人は侵攻を少しでも遅らせるためにどんどん打ち続けてください!矢を射る準備ができ次第交代です!」
「「「「わ、わかりました!」」」」
「「「「りょ、了解!」」」」
いきなりの開戦だったが、さすがに警備隊副隊長であるミルスさんは冷静だった。すぐさま指示を出してこれを聞いた人達も慌てて自分ができることをやるために行動を起こす。
「サポートします!【マジックブーストワイド】!」
『白夜と十六夜、ルナもゴブリンどもに魔法術を放って!まだ距離があるから放つ魔法術はボール系で!」
『『わかった!』』
『やるの~!』
『ガウェインも準備をしておいて!もしもの時は呼ぶから!』
『この状況では、仕方ないでしょうな。いつでもお呼びくだされ!』
霜葉も【付与魔法術】でこの場に居る魔法術を使える人たちに魔法関連の能力が上がる効果の魔法術を発動して援護した。続いて白夜と十六夜、ルナにも指示を出して、万が一の場合はガウェインにも出て来てもらうつもりであった。今は戦力になる者を遊ばせておくような状況ではなく、もしもの時はガウェインのことがばれるのを覚悟で呼ぶと霜葉は決意した。
「ファ、【ファイアボール】!」
「う、【ウィンドボール】!」
「す、【ストーンボール】!」
「ワオ~ン!」
「ニャ~!」
「ぴー!」
この場に居る魔法術を使える人たちは普段は戦いなどやったことがない者たちもいる。それゆえ魔法術スキルのLvも低く攻撃としては弱い。それでも今の状況では貴重な戦力だ。彼らも大して効かないだろうしやらないよりはマシと言う気持ちだった。ところが・・・・
ボン!!
「「「グギャ~!?」」」
「へ!?」
ファイヤーボールは敵に当たった後に爆発して、三匹のゴブリンを丸焼きにし・・・・
ギュン!!
「「「グギャ―!?」」」
「はぁ?」
ウィンドボールは敵に当たった後に竜巻となり、三匹のゴブリンを天へと吹き飛ばして地面にたたき落とし・・・・
ドォパン!!
「「「グヘリャ!?」」」
「え~!?」
ストーンボールは敵に当たった後に鋭利な石片となり、三匹のゴブリンに深々と刺さり絶命させた・・・・
これがすべて自分たちがやった結果だと信じられずに一瞬呆けてしまった。この場に居た他の皆も驚いている。ミルスさんもだ。
「皆さん手が止まっていますよ!魔法術が使える人は付与魔法術の効果が切れる前にどんどん放ってください!弓を扱える人は準備急いでください!」
「は!ソウハ君の言う通りよ!矢を放つ準備を急ぎましょう!魔法術を使える人は付与魔法術の効果が切れるまで放ち続けて!」
「「「「は、はい!!」」」」
「「「わかりました!」」」
他の準備をしていた本業の魔法術士たちも魔法術を放ち始めて、ゴブリン達が数を減らしてゆく。火の魔法術を放てば敵は丸焦げに。水の魔法術を放てば頭や体が吹き飛び。土の魔法術を放てば深々と破片が刺さり。風は盛大に相手を天高く吹き飛ばした。中でも一番成果を上げているのは・・・
「ワオ~ン!」
「ニャ~!」
「ぴー!」
この三匹の放つ魔法術であった。十六夜のサンダーボールは広範囲のゴブリン達に効果を発揮し、痺れて動けないゴブリン達が後続のゴブリンにぶつかり大渋滞を引き起こした。そこに他の魔法術が当たり、結果的に多くのゴブリンどもが命を散らす。
白夜のアイスボールも広範囲のゴブリンに極寒の冷気を浴びせて、動きを鈍らせて他のゴブリン達とぶつかり巻き込まれる形で他の魔法術によって命を散らす。
ルナは少し変わっていて、ダークボールはダメージを与える他に相手の視界を奪うようで、何匹かのゴブリンが見当違いの方向に進むのだ。それによって混乱が起き中には同士討ちを始めるゴブリンどももいる。
彼ら魔物たちの活躍と霜葉の付与魔法術によって想像以上の成果が出ているが、ゴブリン達はまだまだ数が多いし、戦いは始まったばかり。この戦いが最後にどうなるかはまだ誰にもわからない・・・・
次回の更新も早めにできるでしょう。




