第二章 第十話 魔人国編10
霜葉は孤児院の子供たちが孤児院を手伝うために【魔物使い】になりたいと言う子供たちルーク、カーター、ヘンリーに協力するためにBランク冒険者であるデルタさんと一緒にハニーシープと言う魔物を探しに街の外へと出かけた。
目的の魔物を発見しテイムできたと思えば、その魔物たちは絶滅したと思われていたハニーブロンドシープと言う珍しい魔物だった。デルタさんはこの魔物が街の中に居ると広まればトラブルになると懸念を抱いたが、霜葉にはそれを回避する案があるとのことでひとまず街へと帰ることにした。
ハニーブロンドシープを子供たちがテイムした帰り道は特に魔物と遭遇することもなく、無事に町へと帰ってこれたが、魔物を大量に連れている霜葉たちは目立っている。並んでいる人々は現れた魔物たちに驚き騒いでいる。騒ぎの中心である霜葉たちに門番が近づいてきたのは当然であった。
「え~と、このハニーシープたちは君がテイムしたのか?」
「違います。この子たちが【魔物使い】に就いてテイムしたんです」
「え、そうなのか!?」
「「「うん!可愛いでしょ!」」」
門番の驚いたセリフに子供たちは仲間にした魔物たちの可愛さを自慢した。しかし、門番と周りに居た人々は違うことに驚いていた。
「おいおい、魔物使いになったのかよあの子たち」
「なんで止めなかったんだよデルタさん・・・」
「でも、確かに可愛いなあの魔物たち?」
「可愛いからって戦闘で役に立たないと意味ないだろう!」
「デルタ殿・・・いいんですか?この子たちを【魔物使い】に就かせて?」
「大丈夫よ。ちゃんとこの子たちの目的を理解した上で協力しているから。少なくともこの子たちは戦闘をするために【魔物使い】に就いたわけではないわ」
デルタさんの言葉に門番と周りの人たちは首を傾げた。この世界にとって戦闘力は重要な物なので【魔物使い】もそこを求められているから周りの人たちは戦闘をしないなら何の役に立つんだ?と疑問を抱くのは当たり前の反応なのだ。
「とにかく、周りを落ち着かせてちょうだい。このままじゃ自分たちの並んでいた順番を忘れちゃうわよ?」
「わ、わかりました・・・」
門番さんも疑問を抱いてはいるのだが、それよりも職務を優先しなければと周りを囲んでいた人々に並び直すように促した。霜葉たちも一番後ろに並んで順番を待ってから街の中へと入った。
街の中を進む間も霜葉たちは目立つこと目立つこと。それだけではなく、シープたちも街が珍しいのか顔をあっちこっちに向けてもの珍しそうに鳴いている。シープの子供たちなどは好奇心旺盛なのか気になった物に向かって駆け出すので子供たち一人一人が抱き上げている。
さらにさらに、街に居る子供たちがシープたちに触ろうとするたびに親たちが止めに来る事態も起こりながら、まずは院長先生に報告するため孤児院へと向かうのだった。孤児院近くまで来ると孤児院の前の道を箒で掃いている院長先生が居た。
「「「院長先生~ただいま~!」」」
「おや、お帰りなさい。連れている魔物が増えてますね?新しい魔物をテイムしたんですか?」
「兄ちゃんの仲間じゃないよ~おいらたちの仲間だよ~」
「俺達が魔物使いになってテイムしたんだ~!」
「可愛いでしょう~」
「【魔物使い】に?どういうことですか、デルタさんソウハ君?」
「説明はするから、この魔物たちを他の子供たちにも紹介しましょう」
それから、他の子供たちに魔物を紹介している間に院長先生にルーク、カーター、ヘンリーの考えを聞かせている。なお、説明と紹介は隣の土地で行っている。
「「フカフカだぁ~♪」」
「「もふもふ~♪」」
「「気持ちいいねぇ~♪」」
「「「メェ~♪」」」
「「「小っちゃくて可愛い~♪」」」
「次!次は私に抱かせて~」
「僕も~」
「「「めぇ~♪」」」
ハニーブロンドシープたちは子ども達に大人気だ。残りの三匹は家族の様子を見守っている様だ。もしかしたらも守っている個体は父親かもしれない。子供たちが遊んでいる間に魔物使いになった三人の考えを院長先生に説明が終わった。
「そうでしたか・・・・この子たちが他の子供たちのことや孤児院のことを考えて・・・ありがとうね三人とも」
説明を聞いた院長先生は目に涙を浮かべて、三人を抱きしめた。三人は院長先生のいきなりの行動にびっくりしたようだが、どこか嬉しそうにしていた。
「そう言うわけで今日は私たちも協力したのよ。それにこの子たちなら食事も両隣に会えている土地の雑草や、野菜を売っている出店の売れ残った野菜で事足りるんじゃないかと思ってね?」
「そこまで考えていただいたんですね。重ねてありがとうございます。他の子供たちも喜んでいますし助かります」
「でも、まだ問題がすべて解決したわけじゃあないのよ~」
「と言うと?」
「実はね・・・・」
デルタさんは続けてこの子たちがハニーシープではなく、絶滅したと思われていたハニーブロンドシープと言う魔物だと説明して、それが原因で起こるであろう問題を指摘した。
「ハニーブロンドシープ・・・・話には聞いていましたが確かに美しい体毛ですね。それに、確かにそう言うことが起こる可能性はありますね・・・・」
「この問題についてはソウハ君に解決策があるらしいんだけど、どういう策か説明してくれる?」
「はい、そのためにはあの子たちのスキルの確認もする必要があります」
「スキルですか?」
「ええ、それは・・・」
「どうも、お邪魔いたしますね?」
話をしていると、この場にこの街の領主であるダディン様の奥様で王族のナナリ様が現れた。その両隣にはリルファちゃんとアルト君が後ろにはアルノルさんが控えていた。
「これはこれは、ナナリ様お久しぶりです」
「こんにちは。今日は焼き菓子を持ってきましたので子供達にも食べていただきたく持参しました」
「まぁありがとうございます。子供たちも喜びます」
「「「ありがとうございます!」」」
「ふふふ、どういたしまして」
そう言ってナナリ様と院長先生は話し始め、焼き菓子を袋から取り出してもらった子たちがお礼を言うとナナリ様は笑顔で返答した。一方のリルファちゃんとアルト君はヒツジたちが気になるのかこの場に現れてから視線が釘付けだ。
「ソウハさん!新しい魔物をテイムしたんですか!?」
「うわぁ~ふわふわしてそう~」
「違うよ。あの子たちは僕がテイムしたわけじゃないよ?」
「「え?」」
「「「あの子たちは僕たちの仲間だよ~!」」」
疑問の声と首を傾げた二人とナナリ様とアルノルさんのためにもう一度今度は霜葉が説明を行った。もっとも途中からリルファちゃんとアルト君はヒツジさんたちに触れ合うために子供たちと一緒になってはしゃいでいるが。
「なるほど。孤児院を手伝うために魔物使いになったわけですか・・・・しかし、まさかハニーシープではなくハニーブロンドシープだったとは・・・」
「当時の王に献上されるのも納得の美しさですね」
ナナリ様とアルノルさんは興味深くヒツジたちを見ている。しかし、その顔は瞬時に難しく歪む。
「彼らがここに居ることでトラブルになることも理解できます・・・・ソウハ殿はどうやってこの問題を解決するので?」
「そうですね。ナナリ様が来てくださったのはありがたいです。ちょっと見ていてください」
そう言って霜葉はヒツジたちを見守っている三匹に近寄った。
「「「メェ~?」」」
「ちょっとお願いがあるんだけど、今から君たちの体毛を刈り取っていいかい?」
「メェー♪」
霜葉の突然のお願いに一匹が近寄って、刈り取りしやすいように寝転んでくれた。
「ありがとう。じゃあちょっとの間動かないでね?」
「メェ」
そう言って霜葉は解体の時しか出番のないナイフではなく、以前に女王国で出会ったドワーフの職人に作ってもらった【ファング・ナイフ】を取り出した。なんとなくこれを使った方がいいと思ったのだ。そして始まった霜葉によるハニーブロンドシープの体毛の刈り取り。その手際はよどみなく、早々と体毛を刈り取ってゆく。霜葉の手が止まるのは刈り取っているヒツジの位置を変えてもらう時だけである。そして・・・
「はい終わったよ?ありがとうね~」
「メェ~♪」
体毛をすべて刈り取った後にはさっぱりとした姿のヤギに似た生物と見事に刈り取られた羊毛だけが残った。
「とりあえず、この羊毛は品質はどうでしょうか?あと用途はありますか?」
「拝見します」
いきなり始まった見事な刈り取り作業にこの場に居る者は子供たちはすげぇ~と目をキラキラさせていたり、霜葉の意図を理解しきれずに困惑する者と別れていた。そんな中、ナナリ様は霜葉の意図に気付いているのか差し出された羊毛を触りその手触りに驚いている。
「これは!な、なんて手触りでしょう!しかもこれだけふわふわでありながら通気性も抜群です!」
「よかった。それならこれで服や寝具に仕立てれば売れますね?」
「売れるどころか貴族の間で人気になりますよ!しかもこれで寝具を作れば王都にある高級宿屋などは是が非でも求める事でしょう」
ナナリ様はかなり興奮しているようである。それほどこの羊毛の肌触りが凄いのだろう。ナナリ様は護衛であるアルノルさんにも触らせている。
「これはすごいですね・・・これほどのさわり心地は経験がありません・・・」
アルノルさんが触った後にはこの場に居る者たちに順番に回された。触った物は例外なく驚きさわり心地を堪能している。子供たちなどは抱きつく始末である。
「でも、ソウハ君?この羊毛が凄いことは分ったけどこれが問題解決にどう役立つの?」
「そうですね。ナナリ様ならもうわかったんじゃないですか?」
「ナナリ様?」
デルタさんの質問に霜葉はナナリ様に視線を移したが、当のナナリ様は考え事をしているのか沈黙していた。仕方がないので霜葉が答えを口にする。
「この羊毛は皆さんが触れたとおり品質としては最高峰です」
「ええ、ここまでのさわり心地は初めてよ」
「しかも、この羊毛はこの子たちが生きている限りいつでも刈り取ることができます。そんなこの街の新たな収入源とも言うべき物をこの街の領主であるダディン様が保護しないと言う選択肢はありません」
「「「あっ!!」」」
霜葉の言葉によってデルタさん、アルノルさん、院長先生は霜葉の意図を理解できたようだ。
「当然そうなれば、この子たちはこの街の領主と言う最大の後ろ盾を得ることになります。そんな子たちを違法な手段で手に入れようとするのは、ダディン様を敵に回す行為です」
「なるほど・・・確かにこれほどの品質ならダディン様も大喜びで後ろ盾になるだろう」
「まさか、領主様を巻き込むなんてすごいこと考えるわねソウハ君?」
「この子たちの価値はそれだけではありませんよ?」
「「え?」」
「ねぇきみ?体毛再生を使ってみてくれないかな?」
「メェ~」
霜葉がそうお願いすると、刈り取ったヒツジは四肢を広げ何やら力を込めて次の瞬間には・・・・
「メェー!」
ポン!!!
「「「「「え!?」」」」
「「「「すご~い!!」」」」
ヒツジが鳴くとなんと刈り取った体毛が一瞬で復活したではないか!この結果に促した霜葉もちょっと驚き、孤児院の子供たち以外の人たちも驚いている。再生したヒツジの下に子供たちがきゃきゃ言いながら群がっている。
「ちょ、ちょっとソウハ君これもあなたの予想通りなの!?」
「いえ・・・ここまで一瞬で再生するとは予想以上です。てっきり体毛が生えるのが早くなる程度だと思ったんですが・・・・」
「これはいったい・・・・」
「これはすごいですね・・・」
考えることが終わったのかナナリ様も加わって、説明を行った。体毛再生と言うスキルがありこのスキルのおかげでより早く体毛を刈り取ることができると思っていた霜葉であったのだが、予想以上にすごいスキルだったようだ。
「ねぇ再生した毛はすぐに刈り取っても大丈夫か聞いてくれないかな?」
「うん、分かった!」
この子をテイムした子に確認をお願いしてみると・・・
「へぇ~そうなんだ~」
「メェ~」
「なんて言ってる?」
「今すぐは無理みたいだよ?再度刈り取れるのは三日後みたいだよ?」
三日後には刈り取れるの理由としてはそのヒツジを触っている子供たちによればさわり心地が他の子たちと違うようだ。さすがにすぐさま同じ品質になるほどの再生力は無いようだ。
「それでもものすごく速いわよ。三日ごとにこの体毛が刈り取れるのは」
「これはすごいわ・・・アルノル、すぐさま帰ってこのことを教える必要があるわね!」
「はい、ナナリ様」
それからはナナリ様が霜葉の予想以上にこのことに食いつき、ダディン様も霜葉が刈り取った体毛を触りその品質に驚くと同時にこれは売れると確信したようで張り切って準備を進めた。と言うか張り切り過ぎた。
その日のうちに【裁縫士】に頼んで試作品の服や枕を作ってもらい、使用感を確認したところ凄まじいまでの効果を実感して、とんとん拍子に話を進めたのだ。まずは孤児院の片方の土地を広げて、ヒツジたちの小屋も建て街に大々的にこの子たちはこの街の新たな目玉になると宣伝した。
さらには街でダディン様が一番信頼する商店にいくつかの試作品を持ち込むと、それらの販売をその商店限定とした。これには商店の責任者も二つ返事で了承したとか。
すぐさま商店の責任者は懇意にしている貴族や高級宿屋に試作品を売り込むことにして、孤児院は体毛の買い取り金額が凄まじいことになり、生活に余裕が出来たとか。
もっとも院長先生やハニーブロンドシープをテイムした子供たちはそれらの対応に追われることになり、忙しくなるのだが、孤児院が楽になったことを素直に喜び新しい仕事を笑顔でこなすことになる。
余談だが、数年後にはこの街では【魔物使い】の職業は見直されてハニーシープが繁殖する時期になるとハニーブロンドシープを探しに来る【魔物使い】が街周辺を探索するようになる。さらに、体毛が名産となった事から【裁縫士】などの服を作る関係の職業になる者も増えたとか。
霜葉が子供たちのテイムに協力してから、数日が経過した。その間、霜葉は薬草と魔力草の採取の依頼をこなし、新たに【魔物使い】になった子供たちを手伝ったりしながら過ごしていた。
薬草関係の採取はいまだにゴブリン達の住処が分からずに長引いてるためだ。ちなみに、この依頼は霜葉だけではなく冒険者ギルドで酒を飲んでいた冒険者たちも行っている。というのも、霜葉が行っていることを知ったデルタさんが助かるわぁ~とお礼を言いに来た時に・・・・
「あんた達!こんなかわいい子たちも協力しているんだからできることをやりなさい!やらないって言うなら私とゴブリンどもを探しに行くわよ!」
「「「ぜってぇーごめんだよ!?」」」
などと発破?を掛けてそれが嫌だった冒険者はいやいやながら薬草探しをしているのだ。いやいやでもちりも積もれば山となる。冒険者たちの行動で回復薬の備蓄が順調に溜まっているので受付嬢などは歓迎していた。
のちに解体場の職員に聞いた所、デルタさんはちょくちょく世話を焼いて他の冒険者の手助けを行うらしい。それを恩に思う冒険者と嫌がる冒険者に分かれているんだとか。最初に霜葉がデルタさんと会った時の酒を飲んでいた冒険者の反応はデルタさんの行動を嫌がる冒険者だったようだ。
そんな訳で依頼をこなして、その道中で出てくる魔物を倒してお金も貯まりつつある霜葉である。しかも、それらの素材はゴブリン問題の影響で、ギルドが武具店に直接買い取りの交渉を行っているのですぐさま武具が造られている。何組かの冒険者はその武具を購入して来たるべき討伐に備えていた・・・
孤児院の手伝いでは初めてできた同じ職業の後輩(厳密に言えば同じではないのだが)を助けているのだ。それと、体毛の刈り取りも子供たちに教えながら行っている。この街にも刈り取りができる人はいるのだが、霜葉が一番うまいから子供たちに教えているのだ。ちなみに体毛の刈り取りはヒツジの子供たちには行っていない。今刈り取ったとしても体が小さく量も大したことがないうえに、体毛の質も大人より低いためだ。
そんな風に数日を過ごしながら今日も薬草の依頼を受けるため冒険者ギルドに入り、依頼を受けようとボードから紙を取ろうとした瞬間・・・
バン!!
「ギルドマスターはいるか!?」
突如、冒険者ギルドに革鎧で武装した男二人と女一人の人物が入ってきたのだ。おそらくは冒険者なのだろうが、何やら急いでいる様子・・・・
「ど、どうかしましたか?」
「ゴブリンどもの群れを発見した!」
ザワ!?
「そ、それは本当ですか!?」
「間違いない!予想通りかなりの規模だった!あれは間違いなく女性が何人か捕まっているぞ!」
「もたもたしてたら、さらに数は増えちまうぞ!早く討伐に向かった方がいい!」
「捕まっている女性も助けないと・・・・」
「落ち着けぇ~!!!」
「「「!!!」」」
突然の報告に戸惑う冒険者たちとギルド職員。さらに報告した冒険者たちもゴブリン達の数に冷静な判断をできずに焦っていたようだ。そんな彼らを落ち着かせたのは2階から降りてきたギルドマスターのオルフ殿だった。その後ろではデルタさんもいる。
「今回の出来事はすべてが想定内だ!予想外の事態にはなっていない!だから慌てる必要などない!全員落ち着くんだ!」
「群れの発見に時間はかかったけど、その分準備は冒険者ギルドも騎士団もしっかりとできているわ。人数さえそろえばすぐにでも出発できるわよ?」
ギルドマスターであるオルフ殿の言葉とこのギルドのエースであるBランク冒険者であるデルタさんの言葉に全員が落ち着きを取り戻していた。両者ともさすがの貫録である。
「よし、落ち着いたな?ではこれよりゴブリンの群れ討伐戦の緊急依頼を募集する!Dランク以上の冒険者は必ず受けるように!Eランク冒険者も腕に自信があるなら受けてほしい!なお、この依頼を断ることはDランク以上の冒険者はできない!どうしても断りたいのならそれ相応の理由が必要だ!理由のないの者は強制参加だ!これは冒険者規約にもなっている。知らない奴はいないだろうな!」
そう、こういう街の一大事には戦闘力の高いDランク以上の冒険者は必ず参加が義務付けられている。これは冒険者が普段優遇されているからこその処置だ。相応の理由はたとえば結婚していて子供が生まれそうな場合などだ。もっとも、これを断るような奴は冒険者として長続きしないがね。
「報酬はゴブリン一体倒すごとに銀貨一枚!さらにその上位種であるボブゴブリンは一体倒すごとに銀貨二枚を報酬とする!キング種が居た場合は倒した者に金貨一枚の報酬だ!参加する者は今日の昼までに準備を済ませて、門の外へ集合してくれ!ああ、言い忘れていたが今回の緊急依頼はゴブリン討伐であるから女性冒険者の参加は許可できない。万が一連中を取り逃して女性冒険者が捕らえらた場合を考えてのことだ。どうか理解してもらいたい」
これを聞いて霜葉は徹底しているな思った。確かにそんな事態になれば今回の苦労が台無しになりかねない。そう言う事態を防ぐ方法としてはこれ以上ないほどだ。もっとも、この場に居る女性冒険者が納得するかどうかは別だが。実際、群れの発見を知らせてきた女性冒険者は拳を握りしめていた。女の敵であるゴブリンどもを自らの手で倒せないことに対して思うことがあるのだろう。
「こちらからは以上だ。ソウハ君すまないが話があるので一緒に来てくれ」
「?わかりました」
オルフ殿に呼ばれた霜葉たちは彼らの後に付いて行き、2階のギルドマスターの執務室に入った。
「すまないな。いきなり呼んだ用件は二つある」
「二つもですか?」
「ああ、まずは君に依頼した砦の調査の報酬を払おう。ここ数日は砦に何ら異常がなかったから君が報告したスケルトンたちが原因だろうと結論した。受け取ってくれ」
そう言ってオルフ殿は金貨三枚を霜葉に手渡した。
「報酬確かに。それでもう一つは何ですか?」
「それは・・・・」
「ギルドマスター私から言うわ」
どうやらこの話ではデルタさんが関わっている様だ。
「ソウハ君。実は私が持っているスキルに【直観】って言うユニークスキルがあるんだけどね?」
「直観ですか?言ってもいいんですか?」
「ええ、あなたのことは信頼できるわ。話を戻すけどそのスキルの効果は”自身か自分の周りで危険が迫っている場合嫌な予感として教えてくれる”と言うあいまいな物よ。でも私はこのスキルのおかげで強くなれたと言ってもいいと思ているわ。実際、このスキルのおかげで危険を回避できたのは一度や二度ではないわ」
そう言ってデルタさんは顔を引き締めて次の言葉を言い放った。
「それでここ最近はその【直観】が凄く反応しているのよ。いやな予感が段々と強くなってきてね?それもこの感じ方は私自身に危険が迫っていると言うより私の周りに危険が迫っている様な気がするのよ。これは今までの経験則だから当たる可能性は高いわ」
「それって・・・」
「ええ、もしかしたら私たちがゴブリン討伐戦に出掛けている間に街で何かが起きるんじゃないかと危惧しているわ」
「補足すると、デルタのスキルのことを知っているのは俺とこの街の領主であるダディン様ぐらいだ。そしてダディン様にはこのことを伝えてある」
「ここからが話の本題になるんだけど、今日の討伐戦をソウハ君は受けないでほしいのよ。あなたには念のためこの街に残ってほしいの」
なんとなくではあるがそう言われるのではないかと、霜葉は予想していた。
「なぜ、僕を残すんですか?」
「数日前に君と君の魔物たちの戦いぶりは見たけど、あなたの能力は何か起こるかわからないこの状況ではすごく重要よ?味方の能力を上げて、敵の能力も下げられる【付与魔法術】 味方が傷ついたり疲れた時に回復してくれる【回復魔法術】 さらに、君の魔物たちの能力も高い。他の誰かを残すなら私はあなたしかいないと断言するわ」
「・・・・わかりました。僕はここに残りますね」
「ありがとうソウハ君。十分気を付けてね?」
「君が参加しない理由は魔物たちを連れているため混戦になった場合、間違えて攻撃するかもしれないからと言うことにしておく。なにもないことを祈るが、気を付けてな?」
「はい。お二人も気を付けて」
かくして、時間が経ち街の外にゴブリン討伐に参加する冒険者と騎士団が揃った。冒険者側にはBランク冒険者のデルタさんにギルドマスターであるオルフ殿も鎧を着込み大斧を背負って参加していた。騎士団には二人いる団長の一人であるサティス・ライゼルフ。さらには女性であるアルノル騎士団長に代わって、警備隊総隊長のジプス・レイグナーも警備隊から何名か引き連れて参加していた。
緊張した雰囲気を纏って彼らはゴブリン討伐に向かった。それらを見送るために何人かの者たちが街の外に出ていた。その場には領主であるダディン様の姿もある。もちろん霜葉の姿も・・・・
「二人から、聞いているね?」
「はい・・・」
「何もないことを祈るが、もしもの時は力を貸してくれたまえ」
「もちろんです。全力を尽くします」
「頼む・・・・」
この後に何が起こるかはわからないが、それでも両者は何かが起こってもできることをしようと決意している・・・
それらは歓喜したいほどであった。
新しく上に立った者の指示で最も快楽を得ることができる者をあちらの連中に譲ったことで、イライラが貯まりに貯まっていたのだ。
しかし、それももうすぐ終わる。
成功した暁には思う存分に快楽を楽しむことができる。それらを想像して歓喜したい気持ちで胸が熱くなる。
しかし、それは許されない。もし我慢が出来ずに歓喜しようものなら容赦なく首が飛ぶ。
比喩ではなく現実に頭と胴体が永遠に別れることになるだろう。
だからこそ、全員が息をひそめている。ここまで誰にも発見されずにいたのだ。すべては上に立つ者の指示とその者の恐怖と終わりに得られる快楽のため・・・・
それももうすぐ終わる・・・・あと少しで・・・・
感想・誤字脱字の報告・応援コメントなど書いてくれたらうれしいです。作者のやる気も上がります。
次の更新も早めにできるでしょう。