001 帝国VS.王国〜平和な世の中の始まり〜
※本作は、辺境の新米領主が、可愛い婚約者に癒やされるためだけに奮闘するお話です。
前半(15話頃まで)は、主人公とお姫様の出会いや家督相続するまでのハードな話が描かれますが、連載7日目(16話〜)の合流後は、毎日がご褒美の甘々いちゃラブ生活がスタートします!
ぜひ、彼らが無事に再会できるまで見守っていただけると嬉しいです!
◇ ◇ ◇
大陸統一を果たした前王の急死からわずか2年。絶対的な武力という枷が外れた王国は、内部に抱えていた矛盾を一気に露呈させた。
この好機を逃さず、現実を見据えた政治力で各地の地方領主たちをまとめ上げ、大陸の東側に帝国が台頭した。
東の帝国と西の王国による壮絶な多数派工作の果て、ついに大陸を真っ二つに割る大戦争の火蓋が切って落とされた。
◇ ◇ ◇
その時14歳だった俺は、帝国軍の本陣で見た──
それは、まるで蟻の大群のようだった。
地面を覆い尽くす蟻の大群が、まるで液体のように流れて混ざり合う。
蟻なんかじゃない──
──それは人だった……見たこともないほど大勢の人、人、人……
なんでだ? どうなってるんだ?
指揮官が号令をかけると、ひとまとまりの人たちが躊躇いなく前進する──
轟音とともに飛んでくる無数の鉛の玉、そこに向かって槍を突き出して突撃していく人たち──
なんでそんなことができる? 鉛の玉だぞ?
当たったら痛いどころじゃない、肉が弾け飛ぶんだぞ? 死ぬんだぞ?
いいのか? なんのために突撃するんだ? なんのために死ぬんだ?
国のためか? 領地のためか? 主君のためか? 仲間のためか? 家族のためか?
……そのために、命を賭けるのか?
ゴクリと俺の喉が鳴る。息がしづらい。手のひらがじっとりと汗で湿る。
視界の端で、また何か──誰かの腕が飛んだ。
言葉になりそうもない光景が、目の前に広がっている。
立ちくらみがして、自分の膝がガクガクと震えているのが分かる。
喉の奥から酸っぱいものが込み上げてくる。
……これが戦争。
目を逸らしたい。
でも、身体が動かない。
目を逸らすことができない。
「どうだ? 戦争は……」
隣にいる、立派な鎧を着た丸顔の総大将──皇帝イエアーストリッヒ陛下が、俺に声をかける。
「アスト様……」
「嫌なものだろ?」
「……はい。イヤです」
「わしもだ。戦争は嫌なものだ」
この戦争を引き起こした片方の張本人がそんなことを……
俺はアスト様の顔を見上げた。
「しかし、ようやくこれで終わる……いや、これでスタートが切れたな」
「スタート……なんの始まりなのですか?」
──俺の生き方を変えた質問だった。
その時の皇帝陛下の答えは──
「平和な世の中だ」
──目の前にある凄惨な戦いから最も遠い言葉だった。
「平和……ですか?」
「そうだ。争わなくても……いや、争いは残るか。その争いを武力で解決しなくてもよい世の中を作る」
「アスト様……」
「今は我慢だ」
アスト様は眉ひとつ動かさず、戦場を見ている。
「武力が支配する世の中は、武力でしか変えられん。ゆえに我慢が必要だ」
「なるほど……」
気がついたら、俺は戦場じゃなくて、アスト様ばかり見ていた。
アスト様が落ち着いて冷静に語る姿を見ていると安心できた。
「どうだ? 少しは落ち着いたか?」
「うん。アスト様、ありがとう。もう大丈夫そうだよ」
「常に平常心でおれ。そして、その立場に立った時、今日のような戦争を起こすべきか否か、冷静に判断せよ」
「平常心で、冷静に判断……」
つぶやいた俺の肩を、アスト様の重い手がポンと叩いた。
「ノブ、おぬしが戦争を決断する立場になる時まで、今日の光景を忘れるな」
「……はい。目に……魂に、焼き付いた」
アスト様は静かに頷くと、勝利に湧く軍団の中へ、ゆっくりと歩み去っていった。
その大きくて冷徹な背中を見送りながら、俺はまだ震えの止まらない自分の拳を強く握りしめる。
──この戦場の惨劇と、アスト様との会話がその後の俺の人生を……そして一人の少女の運命を大きく変えていくことになる。
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