第一話
妄想ワールドなので、すみません。
『この世には必然しかない』などと言う奴らは、この際だから居ないことにしよう。
彼と出会ったのは本当に偶然で、酷くその時の事を鮮明に覚えている。
あれは、学校をサボって町をぶらぶらと徘徊していた時の事だった。
不良の俺は、裏によく首を突っ込んでは、何かとかわいがってもらっていた。
そのおかげで遊び場には不自由してなかっが、その日はなんとなく、健全な学生らしいサボり方をしてみたかった。
酒の代わりに炭酸系を飲んで。
薬の代わりに万引きして。
女とヤル代わりにゲーセン行って。
自分でも笑えるぐらい、当たり前な事をした。
いい加減あてもなくぶらぶらしている事に飽きた俺は、夜になるまで暇を潰し、それからまた何時ものようにお子様厳禁の店に行く事にした。
「あら、梁チャン!」
店内に入るなり、オカマでオーナーの絹サンがくっついてきた。
「ちっす」
「ぅふ。今日は梁チャンに紹介したいゲストが来てるのよ」
ぅふふ、と野太い声で甘え声をだすオーナーに腕を絡めとられ、そのまま半ば引きずられながら、いわゆるVIPルームへと連れて行かれた。
VIPルームは、ただの学生の俺にとっては凄く遠い存在でしかなく、多分大人になっても縁のない場所だと思っていた。
特別な客が来た時のみ使われる、ゴテゴテした装飾のなされた、馬鹿に金をかけてある、成金じみた部屋。
それがVIPルームだ。
「絹サン、紹介したい相手って誰?」
「それは内緒よ。梁チャンの話をしたら、突然会いたいなんて言い出すんだもの!私びっくりしちゃった」
「……相手が男か女かだけでも教えてよ」
「ぢゃぁ、梁チャンはどっちがいい♪」
「女」
「………即答ね」
「まぁね。でも絹サンは好きだから」
「あら!可愛い事言うぢゃないの!!」
感極まった声をあげて、絹サンは俺を力強く正面から抱きしめ、ディープなキスを求めてきた。
俺は抵抗せず、彼のそれを受け入れた。
それが当たり前だし、良くしてくれる相手への細やかな礼の気持でもあった。
それに、彼らにとってキスやセックス、それ以上も以下も単なるスキンシップやおふざけでしかなく、ここで本気になるのはご法度ものなのだ。
「ぁん、梁チャン腕上げたわね」
「オンナノコのお陰です」
「なんだか妬けちゃうわ」
オーナーはどこか色っぽく笑むと、俺らは地下へ続く階段のある奥へと、絹サンは俺のケツをなでなでしながらむかった。
店の半地下室は、それこそ特別な人しか入れない、究極のVIPルームである。
てっきり、奥の方に行くものとばかり思っていた俺は、誰だか分からない相手の凄さを痛感した。
元々は地下フェルターだったらしいそこへは、重厚な扉を開けなくてはならない。
ガードマンよろしく、筋肉粒々の長身の男二人が、扉を開けてくれた。
中では、大音響のなかで男と女が入り乱れながら、狂った機会のように踊り乱れていた。
酒と薬と香水と体臭と生臭いアレの匂いまでも、絡み乱れている。
「梁チャンこっちよ」
人とぶつかり合いながら、絹サンは俺をさらに奥へと連れて行く。
既に使い物にならなくなった耳と鼻の代わりに、いいようのない振動や痺れが俺を高ぶらせる。
不思議な高揚は俺を変に自信付けさせ、人波の中にダイウ゛したくてウズウズさせた。
「雅サン!」
不意に絹サンが叫ぶと、絹サンの俺を引っ張っていく力が強くなった。
――まささん…?――
やっと人波を抜けたかと思うと、目の前には美人な女をはべらした、男が玉座に腰を下ろしていた。
中世ヨーロッパを彷彿させる、ゴテゴテとした悪趣味な玉座に、サングラスを掛けた、いかにも怪しい人です風の雰囲気を纏っているスーツ姿の男が座っている。男は絹サンが抱きつくと、濃厚なキスをし、何かしら妖しげな動きを見せた。
俺はとっさに顔を背けたが、そこでも男と女がいかがわしい動きを見せていた。
まだお子様なんだな、と俺は自分自身にしらけてしまった。
「梁チャン、こちらは雅サン。雅サン、この子があの梁チャンよ」
漸く俺は雅サンと呼ばれる相手と面談する事ができた。
男は長身で体格がよく、175近くある俺よりも更にデカイし、筋肉にもしまっているようだ。
また、髪は漆黒で、前髪が多少長い。
サングラスを掛けたままだったが、そのしたにある眼球の鋭さ、そして容姿の良さは簡単に分かった。
甘い魅力を持っているのだが、どこか恐怖や警戒心を持たずにはいられない相手でもあった。
「やぁ、梁。雅、だ。よろしく」
人なつっこい笑みを浮かべながら、雅サンは握手を求めて来た。
「梁です、雅サン。こちらこそよろしくお願いします」
差し出された手を握ると、雅サンは強く握り返してきた。
――大人ってかんぢ――
後々、俺は雅サンと出会った事を後悔いする羽目となった。
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