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垢抜けない昼下がり ~回帰~

 クリスタが目を覚まし、起き上がると軽い目眩に襲われた。


(力を使いすぎたかな……あそこまでして魂を消耗する禁呪。やっぱり私には手に負えない力だ)


 暫くして落ち着きを取り戻したクリスタは、1階へと降りる。


「……?」

 寺院には誰も居らず、外にも人気が無い。


 ――また私だけ残されたのだろうか?


 そんなお考えが頭を過った時、城の方からゾロゾロと歩み寄る人の姿が見られた。


「ヌックラ早くおし!」

「姉上待ってくれよ~」

「外ではララ様とお呼び!」


 クリスタの横を高飛車な女と、ひ弱そうな男が通り過ぎていく。その後ろには数人の護衛が居た。


「そこの貧相な娘!!」

 ララがクリスタを見るや否や、鉄扇で指しながら呼びつけた。

「え?わたし……ですか?」

 クリスタは驚いた。見ず知らずの女性に貧相呼ばわりされたのは初めてだったのだ。無論、そうそう在ることでは無い……。


「貴様寺院の者だな!?この女性を見なかったか!?」

 護衛が一枚の紙を取り出すと、そこにはナデシコの肖像画が描かれていた。

「……? いえ、知りません」

 ナデシコの存在を知らぬクリスタは正直に答えた。


「そうか、もし見掛けたら必ず私に報告すること!いいわね!」

 鉄扇をビシッと開き、軽く仰ぐと高笑いを浮かべ歩き去ってしまった。その後ろをひ弱そうなヌックラが追いかける。


「……何だったのかしら?」

 クリスタは訳が分からぬまま寺院へと戻った。




 その頃、酒場では――――


「おー……い!!酒はまだか~~!!」

 そこには酷くくだを巻くドレッドが居た……。


「師匠!アンタ何しに来たのか忘れてないか!?」

 エルがドレッドの頭をビシバシと叩いた。

「な!お前と言う奴は!!すっかり強者の様な振る舞いをしよってからに!」

 半分呂律の回らぬドレッドは視点が定まらないままプリプリと怒った。


「何あれ、やっぱりエルの師匠だけあって酒癖が悪いわね……」

 リースは呆れて溜息をついた。

「ふふ、お嬢さん。良いのかな?私が本気を出せば、お嬢さんなんか……」

 ドレッドの瞳が怪しく光る。


「何か面白そうな事始まるのか?」

 フェリーとリーダーがニヤニヤと笑い始めた。


「ふん、酔っ払いにやられる程私はやわじゃないわよ?」

 リースの言葉にドレッドは拳を握り締めガッツポーズをした。

「それでは禁呪を喰らえ!! ん~~~そいやっ!!」

 気の抜けそうな声と訳の分からぬ詠唱に、一同は…………


「お!!!!」

「おおっ!!」

「す、すげーー!!」

「…………」

「あ……」


「え?何々?何が起きたの?」

 リースは周囲が驚く最中、自分には何が起きたのかさっぱり分からなかった。しかし、席を立つ男共の嫌らしい視線が自分に向けられている事は、はっきりと伝わってくる。


「な、何をしたの!?」

 戸惑うリース。

「ふふん。何だろうね?」

 ドレッドは満面の笑みで酒を飲む。


 自分の姿を見ても何も変わらず、いつもの3人はスケベな顔でこっちを見ている。グレイとカリンは無言だし、ロードは後ろを向いてしまった。まるで訳が分からない……。


「情熱の赤……中々似合うじゃないか、お嬢さん」

「……え!?……もしかして……見えてる!?」

 リースは自分の服を手で隠し始めた。


「ふふ、無駄無駄」

 ドレッドは指をパチンと鳴らすと、男共の顔が更に嫌らしくなった!


「え!ええーーーー!!」

「うは!!それ良いのかよ!!」

「うひょーー!お師匠さん天才!!」

「…………」

「……(チラッ)」


「な!何なのよもう!!こっち見ないでよ!!」

 リースは腕と手で身体を隠した!


「あ……」

 男達の顔が一瞬で真顔へと戻る。


「透け過ぎ!!骨だけになってるよ!!」

「お師匠さん戻してよ!早く!」

「…………」


「すまん、酔った……」

 ドレッドが酔い潰れて倒れると、男共は白けた顔で椅子へと戻り始めた。

「ちぇっ……」

「師匠、後で教えてくれ」



「ん……何か息苦しくないか?」

 席へ戻るとエルを筆頭に一同は酒場の空気が薄くなり始めたのに気が付く。


「…………皆生きて帰れると思わないでよ……ね?」

 そこには真顔で酒場の空気を窒息呪文で消滅させているリースが居た。その顔は微かに微笑んでいる様にも見え激怒している様にも見える。


「お師匠さん!起きてよ!オイラ達殺されるよ!!」

 フェリーがドレッドを揺さぶるも、ドレッドはイビキを立てて爆睡していた。


「……もう……ダメ。死ぬ……」

 命の危険を感じた男共は、たまらず財布を取り出しリースへ向かって放り投げた……。

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