垢抜けない昼下がり ~因縁~
「……なあ」
「ん?何だリーダー?」
昼食を食べるエルとリーダー。ガツガツと平らげるエルに対し、リーダーの皿は思うように進まない。
「今まで俺達は勝ちすぎたのかもしれないな」
「何だ急に」
「……ワーナーに勝てるのか?」
「知らん」
エルは意外な程あっさりと斬り捨てた。
「俺はこのままじゃダメな気がしてならないんだ」
「おいおい、ここまで来て逃げるのかよ!?」
エルが少し声を荒げた。
「よく考えてみろ。俺達はオークスに二度も殺されてるんだぞ!その親玉のワーナーに勝てるわけが――」
リーダーの目がエルの後方へ向いた。
「何だ?」
「やあ、若人よ。元気に死んでるか?」
そのこえにエルがグルン!と振り返った
そこにはドレッドヘアに浅黒い肌、アロハシャツに短パンのエルフがいた。
「師匠!?」
思わずエルの声が裏返る。
「よう、久しぶり。相変わらずいけ好かないチャラさだな、エル」
まるで観光客の様な出で立ちの男はニヤリと笑い、エルの肩をバシバシと叩いた。
「いでで」
「どうも、初めまして。エルと一緒に探索を行う者です」
リーダーが席を立ち軽く頭を下げた。
「ああ、宜しく。俺はドレッドだ。ドレッドだからドレッドヘア。逆でも構わないぞ!」
自分の頭を指差し、軽快に笑うドレッド。
「師匠も相変わらずで……。それでここへは観光ですか?」
そう話すエルの顔と声色は『弟子』そのものだった。
「……」
すると、ドレッドの顔が急に強張りエルにも緊張が走った。
「エルよ。ワーナーには手を出すな。アレは俺達が始末する。ようやくその時が来たのだ。今を置いて他には無い」
「!?」
エルとリーダーは思わず顔を見合わせた。
「と、言ってもお前は聞かないだろうから、詳しい経緯を特別に話してやる。酒と女はあるか?」
急にニヤけるドレッド。その顔にエルは口をつぐむへの字に曲げた。
「それなら、酒場へ行きましょう。残念ながら女は難しいですが……。エル、先に行っててくれ。俺は皆を呼んでくる」
「ああ、すまない」
リーダーは急いで赤黒い闇の街を駆けだした。
「エル」
「はい」
「彼からは魔が一切読み取れない。あそこまで魔に嫌われた者は珍しいぞ。戦士にしておくには勿体ないな」
「は、はぁ……」
エルは意味が分からず適当な相槌を返した。
――一同が酒場へと集まると、ドレッドは陽気な笑顔で挨拶をし、酒を飲み始めた。
始めはどう見ても観光客にしか見えないドレッドに、一同は疑いの色を隠せなかったが、エルの師匠と聞いた途端、全員が「ああ……」と頷いた。
「さて、恐らく君たちがこの街で一番の強者だろう。見れば判る」
「……しかし、ワーナーには遠く及ばない……。あ、おかわり」
その言葉に嫌な空気感が漂い始めた。色々な意味で……。
「率直に言うと、奴は元々は俺達の仲間だった」
「えっ!?」
エルが声を出した。
「当初から胡散臭い奴だったが、途轍もない才能の持ち主でな、他に適任者も居なかったから仕方なく一緒にダンジョンを探索していたよ」
「禁呪の書。これが奴を変えた……。うん、おかわり」
次々と酒がドレッドの下へと運ばれていく。
「ダンジョンを作り出す禁呪を知ったワーナーは、それに手を出してダンジョンから出られなくなった。そしてダンジョンの最下層で今まで外に出る研究でもしてたんだろう……」
「黒炎の月……。どうやらこれが関係している様だ。恐らくはもう少ししたらダンジョンの外へと出られるだろう。そうなったら終わりだ。誰もアイツを止められない……おかわり!」
「だから、ここでアイツを殺しに来た……と言うわけだ」
ドレッドの説明が終わるまで、一同は微動だにする事が出来なかった。
モンスターを使役するワーナーがダンジョンの外に出ると言う事は、モンスターが外へ出ることを意味する。そうなれば街はあっという間に壊滅するだろう。
「なあ師匠。さっき俺達って言ってたけど、他に誰か来るのか?」
どんよりとした空気が漂う中、唯一エルだけがしゃべり出す。
「ああ、かつての仲間達さ……」
ドレッドは窓ガラスから外を眺める。
街は赤黒く照らされており、昼間の清々しさは微塵も感じられなかった。




