黒炎の月 昼 ③
酒場は夜の如く闇に包まれ、黒炎の赤黒い光が僅かに外観を照らす程度であった。元々日影に有るとは言え、昼間の明るさとしては異常だ。
エルは酒を飲む気にもなれず、椅子に深く腰掛けてはひたすらに貧乏ゆすり。フェリーは眼を閉じ瞑想を始めるも、ソワソワとし落ち着かず直ぐに止めた。リーダーはオークスに真っ二つにされた愛剣を眺めている。
「それ、直るのか?」
「いや、無理だな。他にも色々ガタが来ている。買い換え時だろう」
「先っぽに鋭利な刃を着けて、ボタン1つで動かせたら強そうじゃないか?」
「……使ってみたいか?それ」
「いや、遠慮しておこう」
こんな時だからこそ、冗談でも言っておかないと気がおかしくなりそうなのは、全員同じだった。
リーダーは席を立つ――
「ボッタの所で剣を買ってくる。」
「あいよ」
「行ってらっしゃい~」
リーダーが酒場を出ると、直ぐさま2人は顔を寄せ合った。
「寺院へ行ったに1000G」
「オイラは2000G」
「賭けにならねぇだろ」
「だって他に行くとこ無いじゃん?」
ククク、と2人が笑い合う中、2人の読み通りリーダーは寺院の前に居た。扉へ耳を近づけると、中から詠唱の声が聞こえる。
「リース…………」
リーダーは静かにその場を離れた。赤黒い月の光がリーダーの背中を僅かに照らす。
「へい、いらっしゃい」
こんな異常事態でもボッタの店は通常オープンだ。いや、寧ろこう言う時だからこそだろうか……。
「剣はあるか?」
リーダーは店内を物色し始めた。
「これなんてどうだい?最近入ったばかりの珍品さ」
細身の剣の先に4枚の羽のような刃が着いた不思議な剣だった。
「……………………」
「ご不満でっか?中々のモンかと……」
リーダーは手に取り数回素振りをした。
(……見た目は最悪だが、困ったことに使い心地が抜群に良いぞ)
「どないですか?」
ボッタはニヤニヤとリーダーを見た。
「いくらだ」
リーダーは剣を見つめたまま聞いた。
「20000Gで」
「……え?」
リーダーは思わず素が出てしまう。今まで使ってきた剣は5000G。何故4倍もするのか不思議で仕方なかった。
「使えば分かります」
「……………………」
リーダーは渋々お金を取り出した。
「鞘に入れてくれ」
「そんなもんありません。その形じゃ抜き差し出来まへんがな」
その言葉に思わず出した金を引っ込めようとするが、既に金はボッタの手中にあった。
リーダーはコソコソと店を後にし、再び寺院の前で足を止めた。
「何その変な剣は?」
振り向くのが遅れた訳は色々有るが、まさかと思ったからだろう。脳が理解するのに時間が掛かった。
「私が死んでる間に街の様子が変ね。何があったのかしら?」
そこに居たのはいつもと変わらぬリースの姿だった。
「……あ、ああ」
「何?その気の抜けた返事は……」
何と答えようか迷っていたその時、ふと寺院の扉が開き中からグレイとカリンが出て来た。
「すまないな、死んでる間に色々有ったみたいで……」
「こちらこそ守り切れずに悪かった。俺もサメ野郎に1回殺された。お互い様さ」
リーダーは頭を掻きながら詫びを入れる。
「あの娘はどうした?」
「私の蘇生で疲れ果てたみたいで、寝ているわ」
「ん?それじゃあグレイは……」
リーダーはゆっくりと寺院の窓を見た。きっと今頃は夢の中だろう。
「当然私の仕事よ」
エッヘンとリースは腰に手を当てた。
リーダーはカリンの腰に重めの麻袋がぶら下がっているのを見つけた。先程までは無かった物だ。
「やったな?」
「…………乙女の秘密よ♪」
カリンは思わぬ収入が入り上機嫌に見えた。知らぬは本人ばかりなりである。




