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焦燥ドリーマー(1)


 夏休みが始まった。

 来年になれば三年だから、就活とか卒業とかがちらついて忙しくなってきちゃうのかしら。

 だったら、今年は思い切り遊びたいなぁ。

 クーラーの効いたハルちゃんの部屋でごろごろしながら呟いていたら、ハルちゃんは小さく笑った。


「私は遠出しなくても、こうしていられたら十分だけど」


 嬉しいこと言ってくれるなぁ。

 アタシは起き上がって、座っていたハルちゃんへと近づいた。

 そして、後ろから抱きつく。


「アタシもハルちゃんがいるならどこでもいい!」


 ハルちゃんは子供に向けるような優しい笑顔で、アタシの頭を何度も撫でる。

 それがとても心地よくて、アタシは頬をハルちゃんの首へと押し当てた。


「そういえば、夢は見つかった?」


「んー……なんか難しい。資格とか割と取ってるから就職には使えそうだけど、夢ってなると別じゃない」


 漠然と生きていくつもりだったアタシは、もっとしっかり考えようとようやく将来を見つめることにした。

 今までの刹那的な生き方を間違いだと否定はしたくないけど、今までよりも真っ直ぐに胸を張って生きたい。

 未来なんて予想も出来ないもののために頑張るのは、不安だよ。

 でも、やりたいこともなくただ生きているだけじゃ、人生つまらないと思うの。

 その夢をただ今模索中。

 これがなかなか難しい。


「ハルちゃんの夢は?」


「私は……漠然としてるけど、何かプログラムに関する仕事できたらって思ってる」


「プログラムかぁ」


「システムじゃなくて、簡単なゲームとかでもいいんだ」


「なんか難しそう……」


「でも、割と自作ゲーム作る人はいるよ。ユーリの友達にも何人かいるし」


 漠然としてるとハルちゃんは言うけど、アタシよりしっかり考えている。

 アタシはホントに何も考えてなかった。

 大学に入ればやりたいことも見つかる、なんて思っていた自分が馬鹿みたい。

 見つけたいと目を開かなければ、やりたいことなんて一生見つけられないのに。

 見つけたいなら、見つける努力が大事。

 それに、ようやく気付いた。


「大丈夫、奈津乃なら見つかるよ」


「そう?」


「奈津乃は自分で自分をよくわかってるから」


 ハルちゃんは首を捻りアタシを見上げた。

 緩やかに弧を描く唇に、アタシは触れるだけのキスをする。

 ハルちゃんは目を丸くして、頬を染めた。

 休みの間はしばらくハルちゃんの部屋に泊まることになった。

 朝から夜まで一日中一緒にいられる。

 それって、すごい幸せ。

 バイトの間はそうもいかないんだけどね。

 昼間から夜に掛けてのバイトが終わり、アタシは一人ハルちゃんの部屋へと歩く。

 途中、コンビニに寄る。

 ご飯は今日ハルちゃんが作ってくれるって言ってたから、アタシは何かおやつでも買っていこう。

 そう思った矢先に、ポケットの携帯がぶるぶると震えた。

 着信は、ハルちゃんから。


「ハルちゃん? どうしたの?」


『バイトお疲れ。疲れてるとこ悪いんだけど、少しおつかい頼んでいい?』


「もちろん。遠慮しないで」


 電話の向こうで、ハルちゃんが微笑む気配がした。


『今日の夕飯、ユーリとゆた兄も一緒に食べることになってさ。何かお菓子とかデザートとか買ってきてくれる?』


「え?」


 折角二人きりでご飯だと思っていたのに……。

 ハルちゃんには見えないけと唇を尖らせていると、ハルちゃんは何かを察したらしく慌てた声で付け足した。


『ゆた兄が奢ってくれるから、すっごい高いの買ってもいいよ!』


 ハルちゃんの声の後ろで、由多朗さんの驚く声と裕里の笑い声が聞こえた。

 もう三人揃っていることに少し腹が立つ。

 みんなで楽しんでるなんて、ずるい!


「すっごい金額請求してやるんだから!」


 それだけ言い切り、アタシは電話を切った。

 四人でご飯を食べることは何度かあった。

 アタシは大人数の食事なんてしたことがなくて、実は嬉しかった。

 だから本当は、今も少し嬉しい。

 携帯を両手で守るように包み、平らな胸に当てる。

 自然と頬は緩む。


「すいません……」


「あ、ごめんなさい!」


 入り口で足を止めてしまったから、後ろから来た女の人の邪魔をしてしまっていた。

 アタシは慌てて退くとカゴを手に早足でお菓子の棚まで移動した。

 何買っていこうかしら。

 ユーリとハルちゃんは甘いものが好きだからチョコ系のお菓子とクッキーとかかな。

 由多朗さんは何でも美味しそうに食べるから気にしなくてもよし。というか、由多朗さんに遣う気は生憎ですが持ち合わせておりません。

 適当にお菓子をカゴに入れ、デザートコーナーへと足を運ぶ。

 美味しそうなシュークリームに手が伸びる。


「ま、いっか。由多朗さんに払ってもらうんだから」


 アタシは迷わずシュークリームを四つカゴへ入れる。

 カスタードとチョコクリームという、魅力的かつ恐怖の組み合わせを二つ。

 そしてもう二つはたっぷり生クリームとカスタード。

 怖くて、体重計に乗れなくなるわね。

 結構な量を買い、金額は三千円を越えた。

 袋二つに分けられた荷物を受け取ったときに、そういえば一人だったことを思い出す。


「あー……」


 レジで二つの袋を受け取り、思わずため息。

 ずっしりと重いお菓子たちが、アタシの両手を苦しめる。

 あぁ、重力が憎い。

 考えの足りなかった自分に嘆きつつ、ふらふらとコンビニを出ていくと、いきなり後ろから肩を叩かれた。

 びっくりして振り返れば、そこには柔和な笑みを浮かべた二十代半ばくらいの男が立っていた。

 チェックの半袖シャツとジーパン姿の金髪の男。


「大丈夫? 運ぶの手伝うよ」


 優しい言葉を囁かれ、アタシは首を振った。

 夜中に声を掛けてきた異性を信用しろってのは無理な話。

 アタシの警戒心を見ぬいた男は、ますます笑みを深めてアタシの肩から手を退かした。


「あ、いきなりで驚かせちゃった? ごめんね」


「……」


「ほら、君、一人で持つには大変じゃない?」


 男は袋を指差し笑う。

 アタシは再び首を振ると、にっこりと微笑んだ。


「余計なお世話!」


 笑顔と言葉のギャップに固まる男。

 アタシは構わずに歩きだした。

 もし、しつこつ付いてくるようなら適当な道を歩いて男を撒かないと。

 アタシの悪い予想は的中して、男は「待ってよ~」と情けない声を上げながら追い掛けてきた。

 男は隣に並ぶと、強引に荷物を手に取ろうとする。


「止めてよ!」


 声を荒げると、男は慌ててアタシの口に手を当てて声が出るのを塞いだ。


「静かにしてよ。まるで俺が変質者みたいじゃん」


 人の口塞ぐ時点で立派な変質者よ!

 ……と、叫ぼうにも言葉は出てこない。

 男はアタシの手から袋を一つ奪う。


「奈津乃ちゃん? どうかしましたか?」


「!」


 前方から聞こえた人の声に、男は驚いて持っていた袋を落とした。

 アタシは口の前にある男の手に噛み付くと、落ちた袋を拾い声の主へと駆け寄った。


「痛っ!」


「由多朗さん! どうして?」


 由多朗さんは怪訝そうに男を見つめ、アタシが近づくと袋を持つ右手ごと掴んで走りだした。


「夜道は危険だから迎えに来たんですよ」


 男は痛みでうずくまっている。

 その隙に逃げないと。

 アタシたちは真っ直ぐな道をひたすらに走り続けた。


 しばらく走り男が見えなくなった頃、追い掛けてこないことを確認してアタシたちは足を止めた。

 全力疾走なんて高校以来かしら……。

 乱れた息を整えるために、アタシは両手の荷物を一端下ろし、両手を膝に置いて全身を支えた。

 同時に、するりと由多朗さんが手を離す。

 そして、アタシ以上に息を切らしながら地べたへと座り込んだ。


「由多朗さん、大人の男でしょ……? アタシより、疲れて、どうすんのよ……」


 呆れたように言おうとしても、息が切れて言葉は途切れ途切れ。

 でも、由多朗さんのほうがもっとひどかった。


「仕方、ないっ……でしょう……。僕は、インドア派、なんっ、ですっ……」


 確かに、漫画を描くことはインドアだろうけど。

 それにしても、体力ないでしょ。

 アタシたちはしばらくそこで息を整えた。

 回復するのも、アタシのほうが早い。


「……さ、帰りましょ」


「もうですか……。若いって、いいですね」


「若さを言い訳にしちゃダメよ。由多朗さんはただの運動不足」


 痛いところを突かれ、由多朗さんは唇を尖らせそっぽを向いた。

 由多朗さんて、時々物凄く子供っぽくなる時がある。

 今なんて、まさにそう。


「拗ねてる?」


「拗ねてません」


 由多朗さんの顔を覗き込むと、由多朗さんは唇を尖らせたまま反対を向いた。


「拗ねてるっ!」


 子供のような仕草が可愛くて、アタシは笑顔になる。

 まさか、少しからかわれたくらいで拗ねるなんて思いもしなかったもの。

 由多朗さんは笑うアタシを見上げ、バツが悪そうに目を逸らし、袋を一つ手に取り立ち上がった。


「いつまで笑っているんですか……。帰りますよ……」


「まだ休んでてもいいですよ?」


 はぁ、とため息を吐くフリをして実は息を整えているでしょ?

 ゆっくりと歩きだした由多朗さんに並んで顔を覗き込むと、心底嫌そうな顔をしていた。

 そこでアタシは、笑みを浮かべたままお礼の言葉を口にした。


「迎えに来てくれてありがとう」


 まさかお礼を言われるとは思ってなかったんだろう。

 由多朗さんは目を丸くしてアタシを見つめた。


「荷物重かったから助かったわ。それに……ハルちゃんじゃなくてよかった」


 アタシは暴漢から身を守るような腕力なんてないもの。

 ハルちゃんが一緒にいて何かあったら、守ってあげられない。

 だから、由多朗さんでよかった。


「奈津乃ちゃんを迎えに行くと言いだしたのは春緒ちゃんですから」


 由多朗さんの言葉に、やっぱりと呟いた。


「大体、ハルちゃんは女の子って自覚が足りなすぎよ。アタシを想ってくれるのは嬉しいけど、夜道を女二人は危ないでしょ」


「ですね。だから僕が来たんです」


 由多朗さんは頬を緩めた。


「裕理くんと春緒ちゃんがご飯を作っていたので」


「……暇だったのね、由多朗さん」


「どちらかというと、厄介払いに近いです。摘み食いばかりしてましたから」


 由多朗さんに、返す言葉がない。

 アタシは呆れてため息を吐いた。

 まぁ、裕理ならハルちゃんと二人きりでも安心だけどね。


「由多朗さん」


「はい?」


「……恋愛って難しいのね」


「唐突ですね……」


 苦笑を零す由多朗さん。

 恋愛は、難しい。

 ハルちゃんを想うだけで涙が出そう。

 なのに、傍にいると不安になる。

 アタシでいいのか、わからなくなる。

 恋も、将来の夢も、何もわからないアタシはどこに向かうんだろう。



 ハルちゃんの部屋のドアを開けると、美味しそうなお肉の匂いが出迎えてくれた。


「ただいまぁー!」


 アタシは玄関に靴を脱ぎ捨てると、台所まで駆けていきエプロン姿のハルちゃんに後ろから抱きついた。

 ハルちゃんも、隣にいた裕理もいきなりのアタシの襲来に驚いていた。


「何度見てもハルちゃんのエプロン姿、素敵。食べちゃいたい」


「食べっ……!」


「奈津乃、出来れば春緒が包丁置いてから抱きついてくれ。萌えるけど、ちょっと怖いから」


 アタシはちょっとだけ背伸びをしてハルちゃんの手元を覗いた。

 びっくりして固まっているハルちゃんの手には、鋭く光る包丁が握られていた。

 手元狂わしてハルちゃんが怪我したら大変。

 アタシは両手を上げてハルちゃんから離れた。


「……おかえり、奈津乃」


 一呼吸置いてからハルちゃんは振り返り、ふにゃりと笑った。

 ただいま、おかえり。

 ハルちゃんの部屋に泊まり始めてから当たり前になっていたその言葉。

 幼い頃のアタシは、それすら特別な魔法の言葉だと思っていた。

 おかえりなんて、お母さんが機嫌のいい時でも稀にしかしか言ってもらえなかったもの。


「おかえり、奈津乃」


 裕理が、温かく微笑む。


「おかえりなさい、奈津乃ちゃん」


 由多朗さんが無表情ながらも楽しそうに呟く。

 幼い頃に当たり前に手に入れられた温かさを、二十歳を過ぎて初めて知った。

 無償の愛、というものが存在することにようやく気付けた。

 遅いかしらね。

 でも、手遅れではないはずよ。

 子供の頃にずっと求めていたぬくもりに、ようやく出会えた。

 だからアタシ、ハルちゃんに心から感謝してる。

 裕理や由多朗さんと出会えたのも、ハルちゃんがいたから。

 この空間は、ハルちゃんに与えてもらった掛け替えのないもの。


「……ハルちゃん、ありがと」


「……? うん?」


 わけがわからずに頷いたハルちゃんに微笑むと、急に後ろから襟首を掴まれた。


「ひゃ!?」


「はい、家に帰ってきたらまずは手洗いですよ。そうして美味しいご飯です」


「ちょっ、わかったから! 引っ張らないで!」


 のんびりと洗面台へ向かう由多朗さんに引き摺られる。

 その光景にくすくすと笑う二人。

 何だか本当に家族のような雰囲気で、アタシもつい頬が緩んだ。



 二人仲良く手洗いを終えてハルちゃんの部屋へ戻ると、四角形テーブルの上にはそうめんと豚肉のしょうが焼き、サラダと何故かうさぎさんのリンゴが並んでいた。


「美味しそう!」


 アタシは飛び込むようにハルちゃんの隣に座る。

 続いてやってきた由多朗さんはのんびりとハルちゃんの正面に座った。


「奈津乃、さすがに狭いよ」


「ハルちゃんはアタシが隣だと嫌……?」


「嫌なわけ、ないよ」


 ハルちゃんは目を細め、優しい手つきでアタシの髪を梳く。

 四角形の一辺を空けたまま、アタシとハルちゃんはくっついてご飯が始まった。


「いただきまーす!」


 四人で声を揃える。

 アタシは真っ先に豚肉に手を伸ばした。

 固すぎず、柔らかすぎない程よい歯応えのお肉。

 噛むたびに広がる甘辛のたれとしょうがの風味が絶妙。

 アタシは頬を押さえ、だらしなく笑う。


「美味し~い。さすがハルちゃん!」


「奈津乃、これ好きだもんね。作ってよかった」


 これは、ハルちゃんが初めてアタシのために作ってくれた料理なの。

 だから、凄く嬉しかったのを覚えている。


「奈津乃、こっち! こっちも食べてみ」


 裕理がサラダを指差した。

 アタシは取り皿を裕理に渡す。

 裕理は苦笑しながら受け取って、菜箸でサラダを取ってくれた。

 サラダなんて誰が作っても美味しいに決まってる。

 アタシはずっとそう思っていたけど、最近裕理の作ったサラダを食べさせてもらいその固定概念は吹き飛んだ。

 料理は愛情。

 裕理の料理はまさしくそれだ。

 食べる人の喜ぶ顔を見たくて、手間のかかる下準備でも手を抜かない。

 全ての野菜は瑞々しく歯応えがあり、ドレッシングも市販のものに彼なりの一工夫が施されてる。


「美味しい! 裕理もハルちゃんもホント料理上手よね」


「奈津乃の料理も美味しいよ?」


「ハルちゃん、騙されてる。自信ある料理しか作ったことないのよ、アタシ」


 くすくすと笑いながら、素麺に箸を伸ばした。

 料理って、作った人の愛情や優しさが目に見えるのよね。


「このうさちゃん、どっちがやったの?」


「やりたいって言ったのは春緒」


「……途中で上手く出来なくてユーリにやってもらった」


 目を伏せるハルちゃん。

 よく見るとうさちゃんの数匹は少し歪な形をしていた。

 アタシはその、耳の長さがバラバラな一匹を手に取った。


「可愛い。アタシみたい」


 少し歪んだくらいのほうが、アタシにはちょうどいい。

 最近の暑さについての愚痴。

 バイト先であった面白いこと。

 最近気に入っている漫画の話。

 他愛ない話を繰り広げていたら、「あ」と裕理が立ち上がる。

 壁ぎわに置いてあった自分の鞄からCDの入ったケースを取り出して、アタシを呼んだ。


「何?」


「奈津乃さ、覚えてる? 前に俺の友達がゲーム作って夏コミに出店するから、手伝ってもらったこと」


「……あぁ! そんなこともあったわね」


 裕理に頼まれて、友達が作る自作ゲームのキャラを二人考えた。

 男性向けの恋愛ゲームで、攻略対象のヒロイン二人を作ってほしいって話だった。

 身長、体重、血液型、趣味……などの細かい設定と、キャラのイメージを掴みやすくするためにバレンタインをテーマにそれぞれの短編小説を書いてみた。

 ホント、ただそれだけなんだけどね。


「奈津乃のキャラ、すげーよかったよ。あいつらの中でも好評だったし、俺も好きだな」


 これが完成版、と手渡されたCD-ROM。

 ハルちゃんがアタシの手元を覗きながら、瞳を輝かせる。


「凄いね、奈津乃。そんなことしてたんだ」


「うん。暇だったし、ちょっとだけ興味あったから」


 裕理に話を持ちかけられたとき、面白そうだと思った。

 元々本を読むのは好きだった。

 主人公のピンチになれば心音が速くなり、敵に勝利すれば興奮する。

 読んだ者を魅了する物語が好きだったし、それを生み出す作者に憧れた。

 自分にそんな才能があるとは思えないから夢にまではならなかったけど、興味があるのは事実だった。

 だから、キャラクターを作り出して動かしている間が凄く楽しかった。


「興味あるなら、挑戦してみたらいいんじゃない?」


「え! む、無理よ! アタシ、文才ないもん」


 簡単に言ってのけたハルちゃんに、アタシは思い切り両手を振った。

 するとハルちゃんは真っ直ぐな瞳でアタシを射ぬく。


「無理かなんて、わかんないだろ。夢を見つけたいって言ってたじゃん」


 視線の真っ直ぐさに、アタシは息を呑んだ。

 ハルちゃんは、くしゃりと笑う。


「私は、応援するよ。それに、私たちまだ二十歳だよ? 何でも試せるし、失敗したら戻ってこれるよ」


 アタシの頭を、ハルちゃんがくしゃくしゃと撫でる。

 手から伝わる、頑張れという声。

 無理だ、なんて言っているけど、やってみたいと思う気持ちもあるの。

 それが、小説家でなくてもいい。

 キャラクターを、ストーリーを作り出す、そんな仕事。

 自分の手で、無から有を作り出す。そんな生き方。

 興味、あるの。


「春緒ちゃんの言う通り。君たちはまだ若いんだから、たくさん挑戦してみればいいんです」


 由多朗さんが、うさちゃんりんごを食べながら言った。


「さて、奈津乃ちゃん。それを貸してください」


「え?」


「僕が見てあげますよ」


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