076
夕方、私はいつもどおり車に乗って移動していた。
授業が終わり、相変わらず車で帰る。
隣には、ハコベがいつもどおりのメイド服だ。
「今日はこのあと、華道の時間です。それが追われば学習塾ですよ」
「わかりました」
「わかっているのですか?」
「はい……わかっているつもりですが」
私はどこか上の空だ、朝からずっと奥津先輩のことで頭がいっぱいだ。
結局、あのあと私は恵のいる教室に入った。
それでも、恵は私に気づかずに勉強をしていた。
私は奥津先輩に、頼まれた妹の机を探して見つけた。
唯一手提げバックが残っていた机は、教壇から一番前にあった。
それを持って行って、奥津先輩に渡した。
渡したあとは、直ぐに先輩が去ったので話せなかった。
「お嬢様は、どうしたいのですか?」
「どうしたいと?」
「いつも通学路で、彼を見ていて。彼と会えたみたいですね」
「なぜ分かるのですか?」
「お嬢様は、初恋でしょう。見ればわかります」
ハコベは、ニッコリと微笑んでいた。そんな彼女の前で、私はモジモジしていた。
ハコベには、昨日全部話していた。
同性でそばにいたからこそ、話せたのかもしれない。
心配をかけたハコベは、私を優しく見守ってくれた。
「今までの話を総合すると……奥津先輩は『ナデシコ』を探しているのではないでしょうか?」
このまま、永遠に別れてもいいのですか?」
「それは……」
しばらく、私は考えていた。考えた末で口を開く。
それは、昨日のこと。
昨日はちゃんと話せなかったこと。
衣装がボロボロで彼の前から逃げたこと。
写真のモデルを引き受けて、私と撮影したこと。
それは全て、私だ。私は彼に打ち明けないといけない。
だけど、それをしたら崩れてしまうのではないか。
「私はまだ悩んでいます」
「『ナデシコ』になるのをですか?」
「はい」
「これ以上なる必要は、ないのではないですか?」
ハコベはそう言いながら、じっと私を見てきた。
「どういう意味?」
「今日、少し話をしたのではないですか?」
「あっ」ハコベの言うとおり、私は会話していた。
それは『ナデシコ』というものではない。
私自身が、彼と会話をしていた。彼の頼みを聞くだけだったが、ちゃんと話ができた。
「お嬢様は、もう変わっています。
あとは、自分が『ナデシコ』であることを告げるだけです」
「告げる?」
「そうです、告げるタイミングはお嬢様次第。
これ以上は、自分から何も言いません。そろそろ家につきますよ」
そう言いながら、車が私の家の庭にたどり着いた。




