礼を言わなきゃな
最近、笑いが止まらない。
あいつのおかげで利益が止まらない。
最初は発電機レンタルだった。
怪物が暴れる。
停電が起きる。
俺が運ぶ。
高値で貸す。
次は修理業者の仲介。
瓦礫撤去の手配。
保険会社との連携。
壊れた不動産の買い叩き。
底値で買い、再建し、値上がりで売る。
街が壊れるたびに、俺は強くなる。
あいつを“使って”いるわけじゃない。
あいつが戦うことで生まれる需要を拾っているだけだ。
それが構造だ。
今いるこのビルも、かつて怪物に吹き飛ばされた土地に建っている。
ウハウハだ。
今日も数字を眺めていた。
回転率。
利幅。
株価。
完璧だ。
そのとき、影が落ちた。
高層階の窓ガラスに何かが横切る。
次の瞬間、窓が外側から開いた。
風が吹き込む。
書類が舞う。
着地音。
振り向く。
ヒーローが立っていた。
肩が落ちている。
マントが濡れている。
らしくない顔だ。
そして言った。
金がない。どうすればいい。
頭に血が昇った。
ふざけるなよ。
ヒーローの力があればと、何度思ったか。
空を飛べる。
怪物を殴れる。
街を救える。
その力があれば、俺は――
戦場で死を感じながら駆けずり回り、
爆発の中に突っ込み、
命を削ってここまで来た。
ヒーロー自身が金がないだと?
俺がこいつなら、いくらでも稼げる。
「お前に無心する金はない!」
強い口調で言った。
空気が凍る。
あいつは何も言わない。
その顔を見て、我に返る。
……こいつには助けられている。
金はやれない。
だが、放ってもおけない。
思考が回る。
もし俺があいつだったらどうする。
戦場は舞台だ。
映像は商品になる。
今はSNSの時代だ。
動画でも写真でもいい。
流せば金になる。
金の匂いがした。
「やることが弱い」
俺は言った。
翌日から、ヒーローの一ファンのSNSが現れた。
戦闘動画。
救助写真。
本人でなければ撮れない角度。
一瞬で確信した。
あいつだ。
だが、違和感もある。
あいつはそんなキャラじゃない。
フォロワーを貪欲に求めない。
善意で動く男だ。
俺なら演出する。
完璧なヒーロー像を作る。
だがあいつはしない。
だから稼げない。
だから、俺がやる。
あいつは最高のIPだ。
老若男女、誰にでも刺さる。
俺もその一人だ。
グッズは売れる。
確実に売れる。
ファンは応援が好きだ。
推しには金を払う。
そして、少しでも増えるなら?
投信だ。
ヒーロー応援投信。
利益の一部があいつに入る。
ジュース一本分から応援できる。
あいつに助けられた人間はゴマンといる。
感情と欲望を一本に束ねる。
いける。
あとは契約書にサインさせるだけだ。
バスの事故があった。
たぶんあいつはあそこに行く。
俺は最近買った高級車を走らせた。
到着した頃には終わっていた。
ギリギリで助かった。
死人は出なかった。
さすがあいつだ。
川縁にあいつが座っていた。
見るからに肩を落としている。
らしくない。
俺は契約書を握りしめて近づいた。
ニヤつきが止まらない。
「もうやめる」
あいつが言った。
金稼ぎをやめるらしい。
……やっぱりな。
口元が緩む。
やはりこいつはヒーローだ。
そうじゃないと困る。
金を意識して迷ったから落ち込んでいる。
それでいい。
泥臭い金稼ぎは俺の仕事だ。
あいつは戦えばいい。
俺が構造を作る。
「なら俺が稼いでやる」
契約書を差し出す。
あいつはあっさりサインした。
ヒーローだ。
すぐに電話した。
プロジェクトはゴーだ。
広告代理店。
証券会社。
玩具メーカー。
全部準備はしてあった。
翌日からCM開始。
ヒーロー応援投信。
戦闘映像。
救助の瞬間。
スーパーにフィギュアが並ぶ。
完売。
投信も即日完売。
我ながら博打だった。
ノーと言われたら全部パー。
破産だった。
だがあいつはサインした。
ヒーローだからだ。
それからは利益が止まらない。
最高益更新。
株価も上がり続ける。
世界唯一のヒーローのバックボーン。
代替はない。
競合もない。
笑いが止まらない。
ヒーローは戦う。
俺は回す。
完璧だ。
今度、あいつに礼を言わなきゃな。




