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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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69 異変2

 女王であるリオナが立場故に、また自身の奥ゆかしさもあって、カートに直接求婚などできるわけもなく。またカート側の女王リオナの夫に自ら立候補などとは恐れ多いという感覚も理解出来てしまい。

 結果、カートが恋をしそうになるたびに、圧をかけて女王リオナが相手を裏で潰す、ということが定番となっていた。

(つまり、俺としてもあの2人はどうにも出来なかったわけだが)

 若い者たちの噂のネタになっていることを放置するのも、心苦しいのだった。 

「そんなことより、任務の話をしろ。聖流ハトメアを聖女様が遡上されているなら。そちらへの我が隊の展開はどうなっているんだ?」

 無理矢理、ヨギラスは話題を仕事の話へと持ち込む。

「コーパーたちの班が北上しています。他は広く聖女様らと距離を守っておりますが。我々も聖女様の方へ向かうとして、あの辺りは山地ですが、徒歩で追跡してもよろしいでしょうか?」

 ロバートが代表して報告と質問を発してきた。

 不意討ちに長けた黒騎士から対象を守るには広く人員を配置する他ない。魔獣でも黒騎士本人でも目撃すれば速報し、そこに集まれる体制が必要だ。

 そのためヨギラスは今、200人いる部下を10名ずつ20部隊に分けて散開させている。

「構わん。だが、コーパー達には近付きすぎるなと伝えておけ。聖女様の邪魔をするわけにはいかんのだからな。あと、俺も接近する旨を伝えてやれ」

 ヨギラスは命じて自らの班にも出立の準備を始めさせた。自分から離れさせて、放任ばかりさせていても舞台の雰囲気が緩むだけだ。

「聖流ハトメアに何かあるのですか?」

 ロバートが性懲りもなく尋ねてくる。自分に直接、質問を何度もぶつけに来られるのはある意味、度胸があるということだ。

「それこそ、俺には分からん話だ。クイッド君も聖女様のご意向のまま進んでいるはずだ」

 若輩ながらカートが目をかけている若手である。顔を合わせばヨギラスも声かけぐらいはしていた。実直で元気な若者、という印象である。だが、手斧を使う技量は確かだ。

 身体能力強化の魔術も巧みだから、見た目によらず、大柄な相手にも当たり負けをしない。

(さすがに黒騎士にはかなわなかったが)

 それはヨギラス自身も似たようなものだから、特に問題にはならない。勝てる人間のほうが少ないのだから。

「了解しました」

 ロバートが笑顔で頷く。

 聖女の意向が大事、と言われれば納得すればいいだけの立場であることが、束の間、ヨギラスは羨ましくなる。

(だが、そもそもランパートの森へ行く、という話ではなかったか)

 目的地など、有ってないようなものだとは分かる。とにかくエストが強くなるための修行なのだから。強くなれるのなら東でも北でも構わないとなったのかもしれない。

「よし、行くぞ、北だ」

 ヨギラスは班員たちに号令をかける。

 皆が馬に飛び乗ったのを確認してから、疾駆を始めた。

「聖流ハトメアか」

 声に出して呟く。風で声など容易くかき消される、

(ランパートの森でも妙な場所に出た、と。カートやクイッド君からも報告があった。今回もか?聖女様にはやはり何か不思議な力でもあるのではないか?)

 ヨギラスはとりとめもなく思考を巡らせていた。

 聖流ハトメアの源泉に至るのなら、山を登ることとなる。何かあった時にはすぐに応援を出来るようにせよ、と女王リオナからは命じられていた。

「俺たちの馬なら、山のかなり上にまで行ける。皆もついてこい」

 ヨギラスは振り向いて班員たちに告げる。

 騎兵なのだから極力、馬とは離れたくなかった。

 更に数時間、平地で馬を駆けさせる。

 川が見えてきた。聖流ハトメアが支流となるルトル川だ。

「よし、散開しろ。くれぐれも聖女様たちに見つかるなよ。修行の邪魔になる」

 ヨギラスは部下たちに命じて、自らは小高い丘に上がった。

 ルトル川の上流側へと視線を巡らせる。合流する1本の細い川が聖流ハトメアだ。

(聖女様が強くなられるのなら大歓迎。更にカートもいて、陛下もいらっしゃる)

 ヨギラスは2児の父である。

 安心して子どもたちを育ててられる環境が欲しい。それには平和な国が一番だ。

(そして、その平和を守るために、俺は恥ずかしくない地位にいる。それは、ただただ有り難いな)

 歴代の騎兵隊長たちのように、歩兵に頭が上がらない身であったなら。自分は胸を張って娘たちに職務を伝えられただろうか。

 そこに引け目を感じさせずにいさせてくれるのはカートのお陰だ。

(そのカートと女王陛下が婚姻したほうが国も安定すると思うんだが)

 カートに選択の余地など無いようにも思う。

 だがヨギラス自身も妻とは恋愛結婚なのであった。少々、言いづらい立場でもある。

「ビヒッ」

 愛馬が声を上げた。

 地面が揺れたのだ。

「んんっ?」

 思わずヨギラスも声を上げてしまう。

「隊長っ!大変ですっ!魔獣が!それも巨大な河馬のっ!」

 ロバートが馬を疾駆させて丘を駆け上がってくる。

 自然とヨギラスは視線を聖流ハトメアへ、そしてその源泉のある山へと向けた。

 黒い、テカテカと光る巨体が木々を踏み潰している。

「ギカンヒッポス。なんてことだ」

 ヨギラスは呆然と呟くも、すぐに我に返る。

 あんなものを放置はしておけない。

「ロバートは全班を集結させろっ!他は時間稼ぎだっ、急げよ」

 ヨギラスは命令を叫び、再び馬を疾駆させるのであった。

 

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