ミッション5 光で包む
昴くんといったん部屋に戻り、お風呂場へと向かった。男風呂、女風呂と分かれていて、そこで私たちは別れた。
お風呂に入っていると、あとから葉月ちゃんも入ってきた。けっこう大き目のお風呂なので、余裕で3人くらいは一緒に入ることが出来た。
「昴くん、すごく派動が変わりましたね。驚きました」
「うん…」
ゆったりと、お風呂に入りながら、少しだけ昴くんに集中してみた。なんとなくエネルギーは感じるものの、やっぱり昴くんの声までは聞こえなかった。
「高い波動の昴くんは、全然出てこないんですか?」
「うん。出てきてないよ」」
「そうなんですか…」
「葉月ちゃんはこっちの世界で、何をしてるの?」
「私は、普通にフリーターしてます。ただ、精神的に安定していない時期があったようで、カウンセリング受けたりしてて、それでどうやら、ノエルさんと知り合ってたみたいで…」
「へえ…。そうだったんだ」
「私が、こっちの世界に来たときには、ノエルさんのマンションにいました。流音さんもいて、流音さんは、ヨガのインストラクターしてて、私は流音さんにヨガを習っているみたいです」
「そう…」
「私たちがこの次元に来るちょっと前に、ノエルさんは目覚めてて、こっちの次元の私たちを自分のマンションに呼んだようです」
「じゃ、流音さんも、葉月ちゃんもすぐに目覚めることが出来たの?」
「はい。あ…、本山に来てからですけどね。こっちに着くと、すぐにノエルさんに本山に連れてきてもらって…。今朝の朝日で、目覚めることができたんです」
「悟くんは?」
「悟くんは来る前から、こっちの次元の悟くんと交信してたし、すぐにこっちで目覚めて、昴くんの行動を見守っていたようですよ」
「そう」
「悟くんと心で会話してましたけど、昴くんが星野さんのこと、殺そうとしてたこと聞いて、私、本当に心配して」
「ごめんね、心配かけて」
「いえ…。でも、心配よりも信頼すること、それが光が出せることだったねって、あとで悟くんと話したんです。悟くんもめずらしく、心配していたようで…」
「うん。だけどそれだけ、私と昴くんのこと思ってくれていたからだよね。ありがとう」
「いいえ…。本当に、良かったです。ほっとしました。これでもう、安心ですね」
「まだ、こっちの次元の私の中の負のエネルギーが、浄化されてないんだけどね…」
「あるんですか?」
「うん…。父親に対してが、1番強いかな。あと多分、昴くんのことも怖がってるかもしれない」
「え?」
「すっかり息を潜めてて、心の奥底からなんとなく感じるだけだけど、時々、恐怖や怒りを感じるんだ」
「それは、こっちの星野さんに表面に出てもらうしか…」
「うん。昴くんに浄化してもらうしかないよね」
「はい、そうですね。でも高い次元の昴くんなら、絶対に大丈夫ですよ」
「うん。私もそう思う。…私、そろそろ出るね」
と私は言い、湯船からあがった。それから私は髪を乾かし、お風呂場を出て部屋に戻った。
昴くんはもう部屋にいて、ベッドに横になり、うとうとしている様子だったが、私に気がつき目を覚ました。
「あ、寝てたの?起こしちゃった?」
「いや…、ちょっとうとうとしてただけだから」
「疲れてるんじゃない?」
「お風呂が気持ちよかったから、なんか、眠くなっちゃって…」
そう言って目をこすった仕草は、高い波動の昴くんとまったく同じで可愛かった。
「すんげえ、安心してるからかな。ほっとしちゃってるんだ…」
「そう、良かった」
本当に昴くんは、安心しきった子どものような、そんな顔つきをしていた。
「あ、だけど、高い波動だの次元だのってのは、まったくわからない。なんなの?それ…」
「うん。説明するね。でも本当は、体験した方が早いんだけど…」
「体験?」
「幽体離脱とか。いろいろと…」
「何それ?!」
「私、こっちの次元の私じゃないんだ」
「…?!」
昴くんは目を丸くした。
「こっちの次元の私はね、心の奥底でひっそりと隠れてるの…」
「は?どういうこと?」
「う~~ん…。魂は同じなんだけど、波動が違うんだよね」
「…?」
昴くんは、まだきょとんとした顔をしている。
「この宇宙にはね、いろんな次元があって、それがいまここっていうこの空間に同時に存在してるの」
「…?」
「そのいろんな次元の世界に、私はいるんだ」
「いろんな次元に?っていうことは、何人ものひかりがいるってこと?」
「う~~ん…。みんな私なんだけど、エネルギーの振動数って言うのかな、波動がね、ちょっとずつ違うんだよね」
「高いとか、低いとか言ってたよね。ここは低い次元ってこと?」
「うん」
「低いとどうなんの?高い次元とどう違うのさ?」
「起きてくることも、違ってくる。例えば苦しみ、憎しみ、攻撃的、悲しみ、自己否定…、そんなものって、低い波動なんだよね」
「うん…」
「高い波動は、喜び、愛、感謝、笑い、許し、支えあう、協力、信頼…、そういう波動」
「許し?」
「うん」
「親父、もう許そうって言ってた…。あれ、もしかして波動が変わったから、親父も恨むことから、許せるようになったのか?」
「うん。きっと、そうだと思う」
「なんとなくわかるよ。恨んだり苦しんでるのって、なんかエネルギーが滞ってるような、マイナスって感じするもんな…」
「うん」
「じゃ、ひかりのいる高い波動の世界は、戦争だの、いじめだの、苦しんだり、悲しむようなことがないってこと?」
「あるよ。まだまだ。だけど、徐々に目覚めてる人が増えてきてる」
「目覚める…?」
「うん。本当は、みんなが一つで、み~~んな愛の波動なんだってことに気づく」
「え?」
「もともとはね」
「?」
「きっと、昴くんも思い出すときが来るよ。それに、昴くんミッションあるし…」
「ミッション?」
「使命」
「なんの?」
「アセンションの」
「何それ?」
「次元上昇だよ。地球ごと、派動をあげるの」
「はあ?!」
また昴くんの目は、まんまるになった。
「そのアセンションとかってことに、どんなことを俺はするわけ?」
「う~~ん。なんだろうね。でももう、ミッションの一つはクリアした気がするよ」
「ええ?俺何もしてねえよ?」
「そう?闇のエネルギー、浄化させたじゃない」
「え?!」
「あれは大きいよ。昴くんの闇のエネルギーが、昴くんから放たれてるのと、昴くんから光が放たれるのでは、そうとう違うと思うんだよね」
「ええ?たった一人の波動が変わるだけで?」
「うん。そりゃ、大きいよ」
「……」
昴くんはしばらく、口をあんぐりと開けていた。
「じゃ、ひかりは高い次元からこっちに来たのって、やっぱミッションのため?」
「うん」
「俺のこと愛してるってのも、ミッションだから?」
「違うよ。同じ魂で、惹かれあうのは当然なの」
「同じ魂?!」
「うん。これは、体験してみないとわからないよね」
「体験…て?」
「同化するとわかるよ」
「同化…?」
「うん」
「どうやって?」
「う~~ん。どうしたらいいのかな~~?」
「何それ…。わかってないんじゃんか」
高い波動の昴くんとなら、すぐに同化できるけど、この昴くんとだとどうなのかな~~。
「こっちの次元のひかりにも、ミッションはあるってこと?」
「うん。きっとね」
「あれ?じゃ、高い次元には、高い波動の俺がいるってこと?」
「うん。一緒にこの次元に来てるの」
「え?今どこにいんの?」
「昴くんの中に」
「え?!」
「昴くんの体の中から、ひかりに手をかけるなって言ってたの、あれ、高い波動の昴くんなんだ」
「え?」
昴くんは、仰天していた。
「ま、待って…。俺の中に別の俺がいんの?多重人格?」
「違うよ。波動の違う昴くんだけど、昴くんには変わりないから」
「???」
昴くんは、ますます目を丸くした。
「いろんな次元の私がいるように、いろんな次元の昴くんがいるの」
「その…、高い波動の俺のことを、ひかりは愛してた?」
「うん」
「…俺より?」
「昴くんも、高い次元の昴くんも、昴くんなの。全部の昴くんを愛してるの」
「…わかんないよ、それ」
「だから、同じ魂なの。どの次元でも昴くんって存在には変わりはしないの」
「ひかりも?」
「うん」
「……」
「私、昴くんを守るために来たの」
「え?」
「私はこっちの次元で、昴くんにさらわれて危ないって白河さんから聞いて、それで昴くんを犯罪者にしたくなかったし、きっと苦しんでると思って助けに来たの」
「俺を?」
「うん」
「白河って、警視総監…」
「私の次元だと違うんだ。白河さんもいろんな次元にいて、白河さんはいろんな次元の白河さんと、コンタクトが取れるの」
「……」
昴くんはまゆをしかめて、聞いていた。
「あ、悟くんもだよ。それで、この次元の私と昴くんのことをいろいろと聞くことができた」
「……」
「だからね、白河さんも、悟くんも漆原さんもノエルさんも、みんな仲間なの。みんなで、高い次元から、私たちを守るために来てるの。だから安心なの」
「俺らを守る…。さっきも、言ってたっけ。その、白河さんって人が」
「うん」
「みんな、高い波動なのか?」
「うん」
「…ひかり、殺されるかもしれないってわかってて、来たのか?」
「絶対に昴くんは、そんなことしないって信じてたから」
「でも俺…」
ギュ…。私は、何も言わずに昴くんを抱きしめた。昴くんも、抱きしめ返してくれた。
「高い次元の俺は、ひかりのことを守るために来てるんだ…」
「うん」
「だから、ひかりに手をかけるなって、声がしたんだ」
「うん」
「そっか…。それも俺なのか…。高い波動でも低くても、俺はひかりを愛してるんだ」
「…この次元の私も、昴くんのことを愛すると思う」
「え?」
「でもまだ、心の奥で怖がってるけど」
「どうしたら、怖がらなくなる?」
「昴くんからの愛を感じたら、きっと変わると思うよ」
「…でも、心の奥に引っ込んだままなんだろ?」
「うん」
「それで俺の愛、感じられたりすんの?」
「多分、無理かな。あ、少しは感じてるよ。でも、まだ…。それに、こっちの次元の私には、負のエネルギーもあるし。それも浄化しないと…」
「俺のときみたいに?感じる、味わう…、だっけ?」
「うん。それを昴くんが光で包んであげると、浄化できるんだ」
「俺が?どうやって?」
「愛してるって思うと、光が出るの」
「……」
昴くんは、ちょっと困ったって顔をした。
「俺にできんの?」
「私のこと愛してる?」
「愛してるよ」
「じゃ、大丈夫」
「でも、ひかりのことは愛してるけど、こっちの次元のひかりのことは…」
「この次元の私も、私だよ?」
「そっか…。ああ、そうなんだけど…」
昴くんは黙り込んでうつむき、頭をぼりって掻いた。しばらくして、
「わかった…。やってみるよ。ひかりが俺にしてくれたように」
と私を見てそう言った。
「……」
大丈夫かな?高い波動の昴くんじゃなくて…。それにこっちの次元の私、どうやったら出てくるのかな。
昴くんは、自分の波動を下げていった。黒い霧を出して…。でも、それをすぐに私が消したから、大丈夫だけど、この次元の昴くんはどうなんだろうか。黒い霧を見ることも、まだできないよね。
お~~い、高い波動の昴くん、そろそろ出てきて。あれ?そういえば、闇のエネルギー消して、そうとう高い波動になってるんだから、高い波動の昴くんと混ざり合ってもいいんじゃないの?もう…。
心を落ち着けて、昴くんの声を聞こうとした。だけど、やっぱり聞こえてこない。こっちの昴くん、まだ、心閉じてるのかな。
「ひかり?」
「え?何?」
「なんでずっと、黙り込んでたの?」
「えっと…、どうやって、こっちの次元の私に、表面に出てもらおうかなって考えてて」
「ああ、そっか…。あれ?でも、俺は高い波動の俺じゃねえよ。なのになんで、ひかりは高い波動のひかりなわけ?」
「頭打ったとき、入れ替わったの」
「頭?」
「テーブルから落ちたでしょ?」
「ああ!あんとき!そういえば、あのあと別人のようになって…。それでか~~!」
「うん」
「じゃ、また頭を打ってみるとか。って、駄目か…」
「うん。頭打って幽体離脱して、それで入れ替わったから」
あ、そっか。じゃ、昴くんが頭を打てば、高い次元の昴くんが現れる…。いや、わざわざそのたびに頭打ってたら、身が持たないよね。
あとは幽体離脱…。あ、愛し合ってるとフワって、たまに魂が抜けるときがあったっけ。でも、こっちの次元の昴くんとは、魂抜けなかったな。だけどあの時にはまだ、闇のエネルギーがあったし今なら違うかも。
「……」
昴くんのことを、じっと見つめていると、
「え?何…?」
昴くんは少し、戸惑っていた。昴くん、私のこと愛してるのは本当だろうけど、やっぱりまだ、閉じてるところがあるのかな。
「高い次元ではね、心で会話が出来たの」
「え?何それ!すげえ。超能力者じゃん」
「違う、違う…。同じ魂だから、わかっちゃうんだ」
「同じ魂…」
「私と昴くんはもともと、一つの魂だったけど、それを分離してこの世界に来てるんだ」
「分離??」
「悟くんと同じ魂なのは、葉月ちゃんで、漆原さんは流音さん。そして珠代ちゃんの魂の片割れは、陽平くん」
「ああ。それでさっき、そんなようなこと言ってたのか…」
「うん。それでね、同じ魂だから、心で思ってることもみんな通じちゃうんだ」
「通じる?」
「相手に、聞こえちゃうの」
「え?じゃ、隠し事もできない」
「うん。全部筒抜け…」
「……」
昴くんは、両方のまゆをしかめて、ええ?って顔をした。
「そんなの困るって、思った?」
「え?俺の心の声、聞こえちゃってんの?!」
「ううん。聞こえてないよ。でも、そんな顔今してたよ」
「あ…」
昴くんは、やべえって顔をした。
「昴くんの心の声は聞こえない。まだ閉じてる…よね?」
「閉じてるって?」
「うまく説明できないけど、あまり、心を知られないようにしてる?」
「そりゃ、考えてることなんて、ひかりにわかっちゃったらやばいじゃんか」
「どうして?」
「どうしてって、その…」
「どんな昴くんでも、大丈夫なのに」
「いや、やばいって…」
「何が?」
「何がって言われても、やばいから言えないんじゃん」
「昴くん…」
私は、昴くんの頬に手を当てた。昴くんは、一瞬ビクってした。
「え?」
「愛してるよ…」
「うん…」
「……」
昴くんの目をじっと見つめた。
「…あ、…俺も、愛してるよ…」
昴くんは、少し戸惑いながらそう言った。私はそんな戸惑ってる昴くんに、キスをした。
「ひかり…」
「え?」
「その…」
「何?」
「いや、まじな話してんのに、駄目だよな。やっぱ…」
「駄目って何が?」
昴くんは、私の両肩を掴んで、
「今…、俺ひかりのこと、抱きたいって思ってっけど…」
と、躊躇しながら聞いてきた。
「……」
そっか…。そんなこと思ってたから、やばいって言ってたのか…。
「くす…」
思わず笑うと、
「え?なんで?なんで笑ってんの?」
と、昴くんは慌てて聞いてきた。
「ううん…。昴くん、可愛いなって思って」
「か、可愛い!?」
昴くんは、ちょっと馬鹿にされたって顔をして、少しむくれてしまった。
「ごめん」
昴くん、心の声が聞こえなくても、けっこうわかりやすいな…。そんなことを思っていると、ドスン…。いきなり、ベッドに押し倒された。
「もう、聞かねえ」
「え?」
「抱いていいかなんて聞かねえ。嫌だって言っても、知らねえ俺…」
あ…、相当今の、怒っちゃったのかな。
「でも昴くん、一つお願いが…」
「聞かねえよ」
昴くんは、私の首筋にキスをしてきた。
「だけど、もし、もしね…。こっちの次元の私が表面に出てきたら…、その…」
「……」
昴くんは、一瞬顔をあげた。
「怖がるかもしれないから…」
「……」
昴くんは、そのまま私をしばらく見つめていた。そして、ものすごく優しい表情になった。
「俺、そうしたら無理強いしない。ちゃんと、優しくするから」
「……」
「それに…」
「え…?」
「まじで、ひかりが嫌がったら、ちゃんとやめる。ひかりのこと大事にする…」
昴くんはそう言って、優しくキスをしてきた。
「俺、ひかりのこと、すんげえ大事だから…」
昴くんの声も、優しかった。
昴くんが、私の指に指を絡めてきた。昴くんの指先からも、優しさを感じることが出来た。キスをするたびに、昴くんからものすごい光が出て、私をどんどん包み込んでくれた。
高い波動の昴くんなの…?いや、違う…。だけど、もしかしたら、心の奥から高い波動の昴くんも、一緒に光を出してくれてるのかもしれない。
髪をなでる指も、キスも全部が優しい…。
「ひかり…」
「ん…?」
「愛してるよ」
「うん…。私も、愛してるよ」
私からも、すごい光が放たれる。そして、光と光が混ざり合う…。
あ…。魂が抜けて、一つになってる…。昴くんが、心の中で感じていることが伝わってくる。すごい開放感、気持ちがいいって感じてる…。
二人の魂が一つになって、光に包まれる。すべてのエネルギーと同化する。一つになる。どんどん広がって、そこは無限の静寂な世界になる。
私、俺…、宇宙と一つだった。そこは、ものすごく広い空間…。何もない、でもすべてがある…。
スウ…。そして、体の中に魂が戻った。
昴くんは、涙を流していた。
「ひかり…」
「…ん?」
「俺とひかりが同じ魂だっての、わかった」
「うん」
昴くんはそう言うと、私をギュって抱きしめた。
「今、ものすごい光の中に、行ったよね?」
「うん」
「そこにさ…、親父がいた」
「え?」
「親父の存在を感じたんだ」
「うん…。お父さん、光に還って行ったんだもん…」
「じゃ、いつでも俺の中にいるんだ」
「うん」
昴くんは、また涙を流した。昴くんの頬を流れる涙に、私はキスをした。
「ひかりも…、こっちの次元のひかりも、あの光を体験したら大丈夫だよ」
「え?」
「俺が保障する。すべての愛を感じられる。不安も恐怖も消える」
「うん、そうだよね」
「大丈夫。いつでも、こっちの次元のひかりが出てきても、俺が光で包みこむから…」
「昴くん、光が見えるの?」
「見える。俺からもひかりからも、放たれてる。今も…」
「うん…」
昴くんのことを、ギュって抱きしめた。昴くんも、ギュって抱きしめてくれた。
『昴くん、愛してるよ…』
『俺も…』
「あ!声、聞こえたの?」
「うん。聞こえた。すごいね…これ」
「うん」
私たちは、布団に潜り込み、昴くんは腕枕をしてくれた。私は思い切り昴くんにひっつき、
『昴くん、大好き!』
って心で、何度も言っていた。
「なんか、照れる…」
昴くんは、少し顔を赤らめていた。
「え?なんで?」
「心に直で、ひかりの大好きって声が聞こえて…、なんかさ…」
本当に照れているようだった。
「ふふ…」
「何?」
「高い波動の昴くん、自分が照れてること認めないんだもん。この次元の昴くんの方が、素直だなって思って…」
『それは、ひかりも一緒じゃんか』
「あれ?」
「あ…、俺?え?勝手に今、なんか…」
「体の中から聞こえたよね?」
「うん」
高い波動の昴くん?
『そうだよ』
「ええ?俺?!」
昴くんは、焦っていた。
「まだ、混ざり合ってないの?」
『まだね。でも、こうやってひかりに声、届くようになった』
『ずっと、いた?』
『いたよ』
昴くんは、体の中から聞こえる声に、少し戸惑いながらも、耳をすませて聞いているようだった。
「ひかりのこと、すげえ大事で、愛してるってのは同じだね」
昴くんは、そう優しく言った。
「え?」
「なんか、そういうの感じるよ」
「うん…」
「ひかり。こっちの次元のひかり、表面に出せる?」
「え?」
「俺、こっちの次元のひかりの闇のエネルギー、浄化したい。俺がひかりにしてもらったように」
今の昴くんなら、きっと大丈夫だ。
「うん。光で包み込む」
「わかった。あ、でも今いきなり表面に出てきたら、絶対驚くよね。いきなり、裸で一つの布団にはいってたら…」
「あ。そうか…」
「こっちの次元のひかりは、テーブルから落ちたところから、記憶がないと思うの。あそこから、入れ替わったから…」
「昨日の昼間だよね」
「うん。まだ昴くんに殺されるかもって、怖がってると思う」
「だよね…」
「服着て、それから、こっちの次元の私に出てもらう」
「簡単に出来んの?」
「わからない。低いエネルギーを感じたら、入れ替われるかもしれない」
「低いエネルギー?」
「黒い霧、出すかもしれない。私が入れ替わったら、昴くん、光でその霧を消してくれる?」
「どうやって?」
「私のこと、心で愛してるって思ってくれたらきっと、光が出るから」
「わかった」
私はベッドから出ると、こっちの次元の私が昨日着ていた服を着た。それからベッドに横になり、まず深呼吸をした。
「…入れ替わってみる」
そう昴くんに言い、心の中で、
『昴くん、あとのことはお願いね…』
と、高い次元の昴くんにも話しかけた。
『大丈夫だよ。ひかり』
昴くんが、答えてくれた。
私は、心の奥のひかりの感情を感じてみた。父への恨み、昴くんへの恐怖、絶望感、罪悪感、いろんな負の感情が入り混じっている。黒い霧がどんどん出て、私を包み込む。
ふっ…。ふと私は、目を覚ました。視線の中に昴くんがいて、恐れおののいて、いきなり起き上がり硬直した。
「あ…」
声が出ないくらい、恐怖を感じた。フワ…。体が冷え切っていたのに、あったかくなった。昴くんが、光を出して包み込んでくれているようだった。
昴くんの表情は柔らかで、優しいまなざしで私を見ていたが、こっちの次元の私にはそんな様子を感じることも出来ないくらい、余裕がなかった。
ここ、どこ…?辺りを見回した。いた部屋と違うことだけは、わかっていた。部屋には電気がついていて、窓にはカーテンが閉まっている。夜なのか…。
私はそうだ…。テーブルから落ちて頭を打ち、気を失っていたんだ。その間に部屋を移動したのか、それとも場所を移動したのか…。
どっちにしても、状況は変わっていない気がした。目の前には昴くんがいて、他に誰もいない。部屋には、ベッドが二つあるだけで他に何もない。
「頭打って、気を失ってたんだ…」
昴くんが、そう言ってきた。
「……」
私は少し体を後ろにずらしながら、昴くんを見ていた。何をされるのか…。気を失っていたときには、どうしていたのか…。恐怖で頭が、いっぱいになる。
「……」
昴くんは少し顔を横にかしげて、優しく私を見てるんだけど、こっちの次元の私は、その優しさに気づくことも出来なかった。
「えっと…」
昴くんは、頭をぼりって掻いた。あ、ちょっと困ったときにやる昴くんの仕草だ。何を話していいか、考えているようだ。
「そんなに、怖がらなくても大丈夫だよ…」
昴くんの言葉が、不自然に聞こえてもっと怖くなる。
「ここ…、どこ?」
私はやっと、言葉を発することが出来た。
「知り合いの人の家」
「知り合い?」
「大丈夫。そんなに怪しいところじゃない」
何を言われても、私は安心ができなかった。体がこわばり、震えも来る。でも、その次の瞬間あったかいものに包まれる。昴くんがきっと光をずっと、出し続けてくれてるんだ。
「今…、夜なの?」
「うん」
「…私、ずっと気を失ってたの?」
「うん」
「……」
私はまた、部屋をそっと見回した。ドアと窓…。ここは2階なのか、1階なのかもわからない。
「あ。ここ2階だから、窓から出たら大変だよ」
昴くんに、言い当てられびっくりしていると、
「逃げること、考えなくても大丈夫だから」
と昴くんは、優しく言った。なんだか、昴くんの感じが違うことに、私はようやく気がついた。
「俺、もう、復讐するのやめたから」
「え?」
「もう、やめたんだ」
「……」
私は、昴くんが信じられないことを言うから、耳を疑っていた。そんな私を昴くんは、ただ優しく見守っていた。
「なんで…?」
「え?」
「どうして、そんなに変わっちゃったの…?」
「うん…」
昴くんは少しうつむいて、髪をかきあげると、何を言おうか考えていた。
「ある人にさ…。俺の中にある、闇のエネルギー浄化してもらったんだ」
「闇の…?」
「俺、親父の霊が憑いてたんだ…」
「え?!」
「俺の、心にある闇のエネルギーと、引き合ってたんだ」
「……」
私は、昴くんがあまりにも突拍子もないことを言うので、驚いていた。
「だけど、その闇のエネルギーを光で包んでくれて、親父の霊も昇天できたんだ」
「……」
何を言ってるんだろう?
「親父も、もう許すって言ってた。俺ももう、復讐なんか考えていない」
「……」
まだ、耳を疑っていた。もしかして、これは幻想か夢なのか…。
「殺そうとも思ってないし、ひかりの人生をめちゃめちゃにするなんて、もう思ってない」
「じゃ、私、帰れるの?」
「…帰りたい?」
「え?」
「もうすぐ結婚、するんだよね…?」
「……」
結婚…。そうだ。家に帰ったとしても、好きでもないまったく知らない人と結婚しないといけないんだ。
「結婚したいの?」
昴くんに聞かれて、何も言えなくなった。結婚したくない。私の人生は、父親のものでもないし、もう父の人形でいるのも疲れた。
「したくないけど…、父には逆らえないから。しょうがない…」
「なんで?嫌だって言えばいいじゃん」
「父の会社、私が結婚しないと、大きくなれないし…」
「ひかりは物じゃないだろ?会社をでかくするための、道具でもないだろ?」
「……」
昴くんが真剣な顔をして、そんなことを言うから、また私は面食らっていた。
「やだよ…」
それでも、私は昴くんに話をしだした。
「もう、父の人形でなんかいたくない。でも…、私にはどうにもならない」
「……」
昴くんは、少し考え込んでいた。それから、
「え?」
と言うと、いきなり後ろを向いてしまった。
「う~~ん…。どうやって…?」
昴くんが、一人でぶつぶつ言っていたが、そんなことよりも、私は結婚をどうしたらいいのかって悩んでいた。
昴くんがこっちを向くと、いきなり私のそばに来て、ギュって抱きしめてきた。
「え?!」
私は、驚いてしまった。一瞬頭が真っ白になり、そのあと一気に怖くなり、思い切り昴くんを払いのけた。
「…何?」
今までのはもしかして、油断させるための演技?でもそのあと、払いのけたことを後悔した。いきなり豹変したりしないか…。
昴くんはまたそっと優しく、私に両手を回してきた。
「……」
私は逃げたらいいのか、このままじっとしていた方がいいのか困惑した。
昴くんは、そっと抱きしめて、どうやら、光を思い切り出してくれてたようだ。体がどんどんあったまっていった。優しく抱擁をしているだけなので、私はじっとそのままでいた。
「俺の中には、いろんな闇のエネルギーがあったんだ」
昴くんが、静かに私を抱きしめながら話してきた。
「だけど、1番の恨みは、親父に対してだった」
「…え?」
「親父が、俺ら家族を残して死んでしまったこと、悔しかった…。でも、そんな思いを隠してないで、感じたんだ」
「……」
「そんな感情を、一緒に感じてくれた人がいたんだ。俺が苦しんでても、悲しんでても、悔しがってても、すんごい弱くても、それでも、俺のありのままを受け止めてくれた」
「……」
その人って誰なんだろう?私が気を失ってる間に、何かがあったんだ。ここは、その人の家なんだろうか。その人は、安全な人なんだろうか。
「それで…、俺に憑いてた親父の闇のエネルギーまで一緒に、浄化された。そうしたら、親父はもう復讐しようとか考えなくなって、すべてを許すって言ってさ…」
「お父さんって、もう亡くなってるのに…」
「うん。でも、声がしたんだ」
「お、お父さんの?」
「闇だったのに、すげえ光に変わって昇天していった」
「……」
そんなことが本当にあるの?じゃ、この人はお父さんの霊が憑いてたから、あんなに怖かったの?
「ひかりの中にもあるよね。闇のエネルギー…」
「私に?」
「お父さんのこと、憎んだり、恨んだりしてない?」
「……」
私から黒い霧が出た。
「もし、恨んだり、憎んだりしてたとしたら、それでもいいんだ」
「え?!」
「そんな思いを、いけない感情だと思わないで。ただそれを感じてみたら、それでいいんだ」
昴くんの口調は、すごく優しかった。目を見ると、穏やかで澄んでいて優しくて…。あ…。昴くん、高い波動の昴くんだ。いつの間にか入れ替わってる…。ああ、そっか…。さっき、後ろを向いて一人で話してたあれ、高い波動の昴くんと話していたんだ。それから、きっと入れ替わったんだな…。
「……」
こっちの次元の私はまだ、困惑していた。昴くんの目が優しくあったかいことを感じて、こんなにも昴くんが変わってしまったことに、困惑していた。
「あ…、あなたが変わったのも、その闇のエネルギーを浄化したからなの?」
「うん」
「その、浄化してくれた人に私も会ったら、私の中の闇のエネルギー、消えるの?」
「いや…、その人には会えないよ。だけど、俺がする」
「え?」
「俺が、浄化できるから」
この人が…?そんなことできるの?
「ひかりの中の闇を浄化できたら、きっと、お父さんも変わるよ」
「え?」
「ひかりの周りが、きっと変わっていく。ひかりの中にあった闇のエネルギーが、低い波動の出来事を創りだしていたんだ」
「どういうこと?」
「引き寄せるんだよ。同じ派動の人だったり、出来事を」
「私が…?」
「うん。俺も親父を憎んでた。ひかりもお父さんを憎んでた。そういう思いが、引き寄せあった」
「じゃ、私の闇がなくなったら、結婚とか、お父さんの会社の犠牲になることもなくなるの?」
「うん。きっとね…」
昴くんは、にこって微笑んでそう言ってくれた。
私は、まだどこかで、昴くんのことを信じきれていなかった。あまりにも変わってしまったので、これはもしかして、私が見てる夢なんじゃないのかって、そんなことを思っていた。
私が疑っているのを察知した昴くんは、また優しく、
「信じられない?」
と聞いてきた。
「……」
私は、小さくうなづいた。
「じゃ、ためしに、やってみようよ」
「え?」
「闇のエネルギー、浄化してみよう…。ね?」
昴くんの人懐こい目に、私はもっと困惑した。信じていいの…?この人、なんでこうも、純粋な目をしてるの?そんなに闇のエネルギーを浄化すると、変わってしまえるの?
「わかった…」
騙されてるかもしれない。でも騙されたと思って、やってみてもいいかもしれない。
「でもどうやって、浄化するの?」
「そうだな。とりあえず感じたこと、思ってることをどんどん話してみて」
「え?」
「お父さんのことでもいいし…。結婚のこと、今までのひかりの人生のこと、俺のことでもいい。なんでもいいから、今、頭に浮かんできたこと、そのまま言ってくれたらいいよ」
「あ…、あなたに?」
「そう」
「……」
まさか、この人が怖いなんて、そんなことは話せない…。私は何を話したらいいのか、考え込んでしまい、黙り込んでしまった。
「今も俺のこと、怖い…?」
「……」
私は、ちょっと視線を合わせないようにして、うなづいた。
「そりゃそうだよね。相当怖かったよね…」
昴くんは優しい声だったけど、顔はすまなそうな顔をしていた。その表情を見て、また私は驚いていた。
「あなたは、これからどうするの?」
「え?」
「私を誘拐なんてして、それがもし、警察に知れて捕まったりしたら…」
「ああ…。う~~ん。ほら、波動がもう変わってるから、起きてくることがまったく違ってくるんだ。だから、俺、警察につかまることもなければ、悪いことは何も起きないと思うな」
「え?なんで?」
「まあ、その辺はまた、あとで話すよ」
「……」
私はだんだん、この人のことがわからなくなっていた。まるで別人に見える…。でも、同じ人だよね。
「お父さんのことは?小さい頃はどうだった?」
「どうって…」
私は、小さい頃どうだったかを思い返していた。
兄がいて、母がいて、父がいて、食卓について、みんなで笑ってご飯を食べていた。まだ、今とは違う家に住んでいた。
父のことが大好きだった。父はよく、肩車をしてくれた。それから、一緒に公園に行ったり、一緒に動物園に行ったり…。休みの日には、お弁当を作って、みんなで出かけた。小学校に上がる前の話だ。
それが、ある時を境に変わってしまった。家も引っ越した。もっと大きな家だったが、なんだか冷たい感じのする家だった。
父の会社がどんどん大きくなり、父はほとんど家にも帰らなくなった。休みの日にどこかに連れて行ってくれることも、まったくなくなった。
それから、兄と私は英才教育が始まった。いろんな習い事をさせられた。中学受験をして、兄はずいぶんと遠い学校まで通っていた。
兄は、父の会社を継ぐことが決まっていた。そのことに兄はまったく抵抗しなかった。それどころか、一代で会社を大きく広げた父を、尊敬もしているようだった。
でも、私は違った。父が家に帰らない日が増え、母がまず変わってしまった。家には、お手伝いをする人が来るようになり、母も家にいない日が多くなった。
家族がすれ違い出した。父と母は、あまり会話をすることもなくなった。家庭内別居と言っても、いいかもしれない。
それからだ。父は、私のことをうるさく監視し始めた。私のためと言いながらも、門限、交友関係、習い事から、趣味…。とにかく、うるさく言うようになった。
初めて好きになった人は、高校1年のときだ。先輩から声をかけられ、家まで一緒に帰ったことがある。だが、それを父の秘書に目撃され、翌日から行き帰りは、その秘書が車で送迎をするようになった。
学校、塾、習い事、それ以外は、家から出ることもできなくなった。
高校を卒業後、1年間留学をした。そのときは解放されるかと思ったが、意外にも勉強の方が大変で、遊んでる暇もなく、学校と家の往復の生活だった。
そして日本に帰ると、大学生活が始まったが、ここでもまだ監視つきだった。
うんざりだ。私はいつ父から、解放されるのか…。恋愛をしても、相手に裏から手を出し、私の前から去っていくように仕向けてしまう。
結婚なんてしなくていい。兄の仕事のサポートさえしたらいい。父の口癖だった。
私はもう半分くらい、自分の人生をあきらめていた。だけどそれでもいつか、父から解放される日が来るんじゃないのか…。お金を貯めて、どこか遠くに逃げるか、外国にでも…。
そんなことを思いながら、過ごしていた。それが、いきなり結婚をしろと言って来たのだ。ずっと、結婚なんてしなくていいと言ってきてたくせに…。
思い返しながらも、私は何度も黒い霧を出していた。それをきっと、昴くんは消していてくれた。
「結婚なんてしたくない…」
ブワ…。また、黒い霧が出る。
「いつか自由になれるって思ってた。でも結婚なんてしたらもう、自由になれない」
「自由って、お父さんから?」
「そう…」
「何で今まで、ずっと言いなりだったの?」
「一回家を飛び出したことがある。でもすぐに見つかって、連れ戻された」
「家出?」
「うん。父のもとへ連れ戻され、私はもう嫌だって言ったの。父の会社の犠牲になりたくないって。でも、犠牲なんかじゃない。私の幸せを1番に考えてるって、父はそう言って…」
「…そうなんだ」
「幸せを考えてるなら、なんで、言いなりにさせようとするんだろう。でも、もう何を言っても無駄だってわかった」
「それであきらめたの?」
「ううん。お金を貯めていつか家を飛び出して、アメリカにでも行こうかって思ってた。あっちに留学してたときの友達いるし」
「アメリカか…」
「だけど、結婚なんてしたら、そんな計画もパアになる…」
「結婚はしたくないって言ったの?」
「言った。でも、やっぱり何も聞き入れてくれなかった」
「……」
「私の人生って、なんなんだろう。父の人形、ロボット…。私の意志なんて誰も、尊重してくれない」
「……」
「私、愛されてないよね…」
「え?」
「父にも、母からも…」
「どうかな。俺もそれを感じてたけど、親父、俺のこと愛してるって言ってくれたよ」
「言ってくれたの?それだったら、いいじゃない」
「うん…。昇天してくちょっと前にね」
「え?」
「親父の魂が話しかけてきてくれて…。そんときに言ってくれた」
「生きてるうちにじゃなかったの?」
「うん…」
「……」
私は、どう言葉をかけたらいいか、わからなかった。
「俺、嬉しかったよ」
「え?」
「俺も、親父のこと好きだったんだって、そんとき思った。好きでもないどうでもいいやつなら、恨んだり憎んだり、愛されたいなんて思わない」
「……」
「ひかりもきっと、お父さんのこと好きなんだよ」
「私が?」
「お父さんだって、今は会社を大きくするためだけに燃えちゃって、家族をないがしろにしてる。でも、本当は家族が大事なんだ」
「まさか」
「本当は、家族のために働いてたんだ。だけど、成功し出して、お金や地位や成功ってものに、目がくらんだんだよ」
「……」
「俺の親父もそうだった。はじめは家族のために、少しでも大きな会社にしようって、頑張ってた」
「私の父もそう…」
「会社が成功し出して、家族より会社のことばかりを、考えるようになったんだ。きっとね」
「……」
「だけど、きっと俺の親父みたいに、ひかりのお父さんも本当は、家族が1番大事だって、そのことに気づくときが来るよ。今は、そこが見えてないんだ。それだけだ」
「……」
私は、なんでかわからなかったが、涙が出ていて止まらなかった。
「俺の親父、もし家族が1番って思ってたら、自殺なんかしなかった。そのうえ、死んでもなお家族より、恨みや憎しみにとらわれてた」
「……」
「だけど、闇のエネルギーが消えて、やっと何が1番大事だったかを思い出せたんだ」
「……」
「俺は親父が死んでから、親父の存在の大事さに気づいた。ずっと、反抗ばっかしてたけど、やっぱり愛してたんだ。愛してたから、愛されたかった。だから、俺や家族をほっぽって、会社のことばっかりになった親父に、こっちを向いて欲しくて、暴走族に入ったりして暴れたんだ。そうしたら、向いてくれるって思ってたのかもしれない…」
「……」
私はそれを聞いて、自分のこととだぶらせていた。
私も父が好きだった。家族がだんだんとばらばらになって、悲しかった。父に嫌われたくなくて、ずっと愛されていたくて、父の言うことをはいはいって、聞いていたのかもしれない。
父の期待に添えていたら、父が私を見ていてくれる…。だから、言いなりになっていたのかもしれない。父を失いたくなくて…。
「…私もお父さんのこと、好きだった。だから愛されたくて、嫌われたくなくて、言うことをきいてたんだと思う」
「そっか…」
こくんって私はうなづくと、また涙がポロって流れた。
「辛いのは、愛されたかったからだったんだ…」
「じゃ、それ、本人に言わなきゃ」
「え?」
「俺の親父は、もう死んじゃった。そういうこと話したくても、もう話せない。だけど、ひかりの親父さん、生きてるじゃん」
「そんなこと言ったって、わかってくれるわけない」
「わかってくれなくてもいいじゃん。わかってもらうために言うんじゃなくて、ひかりが素直に思ってること言えば、それだけでもいいんじゃないの?」
「……」
「父親のことが本当は好きで、だから言うこと聞いてきた。愛されたくて、ずっと会社の犠牲にまでなってきた。だろ?」
私は黙って、うなづいた。
「それ、言ってさ…、すっきりさせたらどうかな?」
「すっきり?」
「心の中を」
「……」
昴くんは私のことを優しく見つめて、私の言うことを待っていた。
「言えるかな…?」
「言えるよ」
「聞いてくれるかな?」
「大丈夫だよ」
「うん…」
私はうなづいてまた、涙をポロポロと流した。涙が止まらず、どんどんこぼれ落ちていく。ヒック…。思わず、しゃくりあげた。昴くんは優しく、私を胸に引き寄せ髪をなでてくれた。
「泣いちゃっていいんだよ。我慢する必要なんてないんだから」
昴くんは優しく、耳元でそう言ってくれた。昴くんの髪をなでる手は、優しかった。それに声も、ぬくもりも。
私はまるで子どものように、声を出して泣き出してしまった。昴くんは、その間もずっと髪をなでたり、背中を優しくなでてくれていた。
泣きながら、私は不思議でしょうがなかった。気を失う前まで、あんなに怖くって、逃げたくってしょうがなかったのに。今は、その人の胸の中で泣いている。それも、安心して…。