表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/36

ミッション6 愛を感じる

泣きやんでも、私はそのまましばらく、昴くんの胸の中にいた。昴くんの匂いが、やけに懐かしく感じられ、どんどん心が落ち着いていく…。なんでだろうって、私はずっと思いながらも、その胸の心地良さに、なかなか昴くんから離れられないでいた。


「ひかり…?」


昴くんが、ささやくように私の名前を呼んだ。その声を聞き、私はしかたなく昴くんからそっと離れた。


「落ち着いた?」


昴くんが、私の顔をのぞきこみながら聞いてきた。その目を見ると、やっぱり優しくてあったかくて、懐かしい思いがした。


私は、涙を手で拭った。これからどうやって父に会い、自分の気持ちを話したらいいのか…。そんなことを考えようとするのだが、それよりも今は、昴くんのあったかさに触れていたかった。


「私のこと、ひかりって呼んでるんだね…」


「え?ああ…。うん。駄目かな?」


「ううん…。私はなんて呼んだらいいのかなって思って」


「え?昴くんっていつも…」


「いつも?」


「あ!いや、なんとでも…。昴でも、昴くんとでも…」


昴くんは、慌ててそう言った。


「じゃ、昴くんって呼ぶ。私よりずっと年、下なんだよね?」


「ずっとじゃないよ。10歳だけだよ」


「10歳も?」


「そんなに離れてないでしょ?」


「……」


私は黙り込んだ。それから、車の運転席にいた女性のことを思い出していた。


「運転してた人、あなたの彼女?」


「ああ、珠代ちゃんのことか…。えっと、そうなるのかな…」


「……」


彼女なんだ、やっぱり…。私の心が、なぜか重苦しくなった。黒い霧を出していて、どうやら昴くんがすぐに、光で消してくれたようだ。また、気持ちが軽くなったような気がした。


「なんで…?」


「え?」


私は、昴くんにいきなり、なんでって聞かれて焦っていた。


「なんで彼女かって聞いてきたの?」


「ううん…。なんとなく気になったから」


「そう…」


昴くんは、そう言うと少しうつむいて頭を掻くと、


「でも、もう別れるよ」


と、ぼそって言った。


「え?なんで?」


「うまく説明できないけど、珠代ちゃん、あ、珠代とはさ、違ってたんだ」


「…何が?」


「お互いが、なんていうか…、足りないもの埋めるためにいたっていうか…。求め合うばっかりで、愛し合ってはいなかったっていうか…。やっぱ、うまく言えない」


「それで、別れるの?」


「…うん。付き合っていけないなって、そう気がついたし。それに…」


昴くんは、何かを言いかけてやめてしまった。私はその続きをしばらく待っていたが、昴くんが、なかなか話さなかったから聞き返した。


「それに?」


「いや…、なんでもないよ」


昴くんはものすごい優しい目をして、私を見てそう言った。


私は昴くんの話を聞いていて、複雑だった。人を好きになるって、付き合うってどういうことなんだろう。足りないものを埋めあい、求め合うのは違うんだろうか…。それに、どうしてそういうことに気がついたんだろう。


「好きじゃなかったの?」


「え?」


「その…、珠代さんのこと」


「好きだったよ」


「好きなのに、別れるの?」


「うん」


「……」


私はもう、それ以上何も聞けなくなった。こっちの私は、恋愛経験はほとんどしたことがなく、昴くんの言うことが、理解できなかった。


好きになるって、どういうことかな…。異性を愛するって、どういうことなんだろう…。それに、愛されるってどんなことなのかな…。


しばらくうつむいて、私は考えていると、昴くんの私をじっと見る視線が気になり、顔をあげた。昴くんは、やっぱり優しい目で私を見ていた。


この人は、もともとこんなに優しい人なのかな…。珠代さんって人にも、優しかったんだろうか…。お父さんのことがなかったら、こんな形じゃなく、もっと早くに出会ってたら違ってたのかな…。


しばらく、昴くんと見つめあっていたことに気がつき、なんだか気恥ずかしくなり、私はまた下を向いた。


早くに出会ってたとしても、何もないかな…。10歳も離れてて、環境も違ってるだろうし…。


「あ…。もう、こんな時間なんだ」


昴くんは、ベッドの脇にある小さな机の上の時計を見て、そう言った。私も時計を見ると、11時を過ぎていた。


「そうだ。さっき、ノエルさんがひかりに服貸してくれた…。あれ?どこやった?ひかり」


「え?」


「あ…。いや、なんでもない」


ノエルさん?貸してくれた服…?


昴くんは、ベッドの掛け布団をどかしたり、枕の下をのぞいたりしていた。


「あ、あった。ひかりのお尻の下」


「え?」


慌ててその場を離れてみると、私の座ってたところにフリースの上着と、ズボンがたたんで置いてあった。


「それに着替えて、寝るといいよ」


昴くんはそう言うと、にっこりと微笑んだ。


「うん…」


私はうなづいたが、昴くんがベッドに座ったまま、こっちを見ているので着替えられずにいると、


「あ…、俺、邪魔?」


と昴くんは、聞いてきた。コクン…。私は黙って、うなづいた。


「ごめん。じゃ、廊下出てる。あ、ついでにトイレでも行ってこようっと」


と言いながら、昴くんは部屋の外に出て行った。


私は着替えをして服をたたみ、ベッドの脇にある椅子の背もたれにかけた。それから廊下に出て、昴くんを呼ぼうとした。


ドアを開けると、長い廊下があり、昴くんがどこに行ったのかわからなかった。


…トイレってどこだろう?きょろきょろとしながら、廊下を歩いていると、いきなり一つのドアが開いた。


「あれ?どうしたの?ひかりさん」


まったく知らない人が話しかけてきて、こっちの次元の私は驚いていた。


「あの、トイレどこなのかわからなくて…」


「トイレ?一階だよ」


「あ、どうも…」


私は、この人誰なんだろう。昴くんの知り合いなんだろうけど、いったいどういう関係なんだろうって気になっていたが、ぺこってお辞儀をして、その場を去ろうとした。だが、


「ちょ、待って!昴は部屋にいんの?」


と、腕を掴まれてしまった。


「いいえ…」


「ひかり…さん。星野建設の娘さんの、ひかりさんだよね?」


「…はい」


「あ・・・。そっか~~。えっと~~。ちょっと昴が帰ってくるまで、ここで待ってて」


「なんでですか?」


「いや、その…。昴に君のこと、どっか行かないよう見ててって頼まれてさ…」


「……」


頼まれた?仲間なの?私が逃げないよう、監視してる?……。私は、辺りを見回した。ここはどこなんだろう。ものすごく静かで、他に人の気配もないような気がした。廊下は長く、廊下の先は真っ暗だった。


突然、怖くなった。今までの昴くんのことすら、信じられなくなってきた。


「部屋に戻ります」


「部屋?じゃ、一緒に行くよ」


「だ、大丈夫です…」


こんな知らない人に部屋に来られて、もし部屋に一緒に入ってこられたら…。怖い…。また、体が冷たくなった。


「ひかり?」


昴くんの声が、暗い廊下の先から聞こえた。


「漆原さん、どうしたんですか?」


「昴…。お前、高い方?」


「はい」


「そっか…。ああ、良かった。いや、ひかりさんが、トイレどこかって聞いてきたんだけどさ…。ほら、ここで迷子になっても大変だし、昴戻ってくるまで、待っててって言って…。お前、どこに行ってたんだよ、ひかりさん、一人置いて…」


「すみません。トイレに行ったあと、一階の廊下でノエルさんに会ったから、ちょっと話をしてて」


「そっか…。あ、ひかりさん、悪かったね。引き止めて…」


「……」


私はその人から腕を離してもらっても、まだ警戒していた。昴くんのことすら、なんだか怖くなっていた。それに、ノエルさんって?


「ひかり、安心して。この人見かけ怖いけど、怖い人じゃないよ」


「昴!見かけ怖いってどういう意味だよ?」


「あはは…。だって、でかいじゃん。そりゃ、漆原さんに腕掴まれたら普通怖いって」


「ひっで~~な。これでも俺、こっちじゃ善良な警察官だよ?」


「警察…?」


「あ…」


漆原さんはしまったっていう顔をしたが、昴くんはそんなのおかまいなしに、


「そ。漆原さんは、おまわりさんなんだ。だから、大丈夫」


と笑って言った。


「で、でも。昴くん、誘拐犯に…」


「ああ…。う~~ん。説明がややこしいっていうか、難しいんだよな~~」


昴くんは、また頭をぽりって掻いた。


「ま、とにかく部屋に戻ろう。あ、ひかりもトイレか。案内するよ。こっち」


昴くんは、とっとと廊下を歩き出した。私は慌てて、そのあとをついていった。


「ど、どうして、警察の人がいるの?ここ、どこなの?」


「ここは、白河さんって人のお屋敷」


「白河?」


「うん。白河さんの先祖は、陰陽師なんだって。で、それを白河さんの娘さんが今、継いでるんだ。それが、ノエルさん」


「陰陽師って…?」


「う~ん。俺もよくわかんないんだけど、ま、悪い霊とかをお祓いしたりしてるのかな?」


「じゃ、その人に昴くんも、お祓いしてもらったの?」


「え?」


「お父さんの霊…」


「違うよ。俺のこと愛してくれてる人にだよ」


「……。珠代さん…、じゃないよね?」


「うん。違うよ」


「そんな人が、ここにいるの?」


「いるよ」


昴くんが、そう言いながら私を優しく見た。


「あ、ここ、女性用のトイレ。場所覚えてね」


「え?うん」


「もう少し行ったところに、食堂があるんだ。ほら、電気ついてる…。俺、あそこにいるからさ」


「うん」


そう言うと、昴くんはさっさと歩いて行ってしまった。


私はトイレから出て、その明かりのついてる部屋に向かった。中に入ると広い食堂で、昴くんが誰かと話をしていた。白髪交じりの、60代くらいの男の人だ。


「やあ、ひかりさん」


その人が私に向かって、話しかけてきた。


「……」


私は思わず、その場に立ち尽くした。


「あ…。心配いらないよ。さっき話した白河さんだ」


「陰陽師の…」


「白河さんは、陰陽師じゃないけどさ」


「……」


白河さんっていう人も、とても優しい表情で私を見ていた。


「安心しなさい。もう昴くんは、君を危険な目にはあわせたりしない」


「……」


この人も、昴くんの闇のエネルギーが消えたことを、知ってるんだろうか…。


「さて、明日の朝は早い。そろそろ寝ないといけないな」


そう言うと、その人は「おやすみ」と私と昴くんに言い、食堂を出て行った。


「じゃ、俺らも部屋に戻る?」


昴くんはそう言うと、食堂を出た。私もあとをついていった。


「明日の朝日が出る前に起きるから、けっこう早起きになるよ」


「なんでそんな朝早くに?」


「お祓い、その時間にするんだ。朝日が昇ると同時に」


「お祓い?」


「そう。浄化」


「そうしたら、私の闇のエネルギーも消えるの?」


「うん」


「……」


部屋に入ると、昴くんはドスンとベッドに横になった。


「あ~~。疲れた」


そう言ってから、布団に潜り込んで、


「ひかりも、疲れたでしょ?」


と聞いてきた。


「私は…、気を失っていたし…」


「あ。そっか…。どっか、具合悪いところはない?」


「大丈夫」


私はそっと、昴くんの隣のベッドに入った。昴くんのほうを見ると、優しくこっちを見ていた。


「ここ、大きな屋敷なんだね」


「うん…」


「でも、あまり人いないの?」


「年末だからだって。いつもは、もう少しいるみたい」


「そう…」


「明日の朝には、みんな集まるんじゃないかな。今この屋敷にいる人が…」


「どんな人がいるの?」


「みんな、優しいいい人だよ」


「……」


「あまり、心配しなくていいよ。全部がうまくいくようになってるから」


「全部が?」


「うん」


昴くんは、また無邪気に笑った。


「さっき…、求め合ってばかりで、愛し合ってなかったって言ってたよね?」


「ああ…、うん」


「それ、どういう意味?」


「う~~ん。俺、求め合うんじゃなくて、与え合うのが愛し合うことだと思ってるんだ」


「与え合う?」


「それから、信頼や支えあったり…、そういうこと」


「そうか…。うん、なんかわかるような気がする」


「そう?」


「さっき、愛してくれた人に、浄化してもらったって言ってたけど、その人も明日朝来るの?」


「うん」


「どんな人?」


私はなんだかとても気になり、聞いてみた。


「どんなって。そうだな~~。う~~ん…」


しばらく昴くんは、考えこんでから、


「どんな俺でも愛してくれて、俺のこと丸ごと、光で包み込んじゃう…、そんな人」


と、優しく言った。


「……」


そんな人がいるんだ。


「それ、お母さんとか、身内じゃなくて?」


「うん、違うよ」


「その人に会ったから、もしかして別れるの?」


「え?」


「珠代さんと…」


「うん、そうかな…」


「その人のこと、昴くんも愛してるの…?」


「うん。愛してるよ。ものすごく…」


「……」


「その人の全部を愛してるよ。その人が俺の全部を愛してくれるように」


「全部…?」


「そう、全部、まるごと」


「……」


私は聞いていて、苦しくなった。そんなにも愛してる人がいるんだ。ギュ…。胸がやけに苦しい。嫉妬だ。羨ましくてしょうがない。そんな人がいることが羨ましい…。私にも、そんな人がいたらいいのに…。


黒い霧が出る。


ああ。違う…。その人が羨ましいんだ。昴くんにこんなにも愛されてて…。そんなことを感じてる自分に気づき、昴くんのことを好きになってることに気がついた。


自分でも信じられなかった。私を誘拐した人だ。殺そうとした人だ。だけど、それはお父さんの霊のしわざだった…。本当のこの人は、すごく優しい。純粋で、とってもあったかい…。


どんどん惹かれていってた。この人の、ぬくもりも、笑顔も、瞳も…。


私はしばらく、昴くんのことを眺めてから、また苦しくなり反対を向いた。


「…ひかり?」


昴くんが、優しく聞いてきた。


「もう、寝るね」


私がそう言うと、


「え?うん…。おやすみ」


昴くんはもう、しゃべるのをやめた。私はしばらく黙っていたが、どうしても気になり昴くんに話しかけた。


「昴くん…」


「え?」


「私がここにいていいの?」


「なんで?」


「その、昴くんのこと愛してる人が、そばにいなくてもいいの?」


「…どうして?」


「私がここにいて、その人嫌がらない?」


「嫌がったりしないよ。そりゃやきもちやきだけどさ」


「……。だけど…」


「ひかりは心配しなくていいよ」


「……」


心配じゃない…。私がその人の立場だったら、絶対に嫌だろうなって思ったんだ。


「ひかり、こっち向いて」


「え?」


「なんか、顔が見えないと、ひかりがどんな表情してるのか、わからないから」


「……」


私は、どうしようか少し迷ったが、また昴くんの方を向いた。


「ひかりは、今まで好きになった人いたんでしょ?」


「うん。でも付き合ったことはない。付き合おうってなっても、お父さんに阻止されてたから」


「そうなんだ…。じゃ、結婚相手には、会ったことあるの?」


「2回だけ」


「2回?たったの?」


「そう…」


「どんな印象だった?」


「嫌じゃなかった。でも…、結婚をしたいとは思わなかったし…」


「じゃ、結婚はまだしないとしても、その人と付き合ってみる気は?」


「……」


なんで、そんなことを聞くんだろう。私はしばらく黙り込んだ。そして、


「…どうして?」


と聞いた。


「え?」


「どうして、そんなこと聞くの?結婚した方がいいと思ってるの?」


「思ってないよ。ただ、会ってどう思ったのかなって…」


「……」


昴くんは、きっと誰にでも優しいんだ。ずっと優しく私を見てるのも、もともとの性格からなんだ。私を特別に思ってるわけでもないし、私を愛してくれてるわけでもない…。また、胸がぎゅって締め付けられた。これ、何…?


「どうしたの?」


「え?」


「なんか、苦しそう。どっか、具合悪い?」


「ううん…。ただ…」


「うん」


「胸が苦しいだけ」


「え?大丈夫なの?心臓?」


「ううん…。違う」


昴くんはベッドからおりて、私のおでこを触って熱を測ったり、顔をのぞきこんだりした。その優しさに、また胸が苦しくなった。


「平気だから、あまり優しくしないで」


「え?」


「それ、勘違いする」


「勘違いって?」


「優しくされたことなんて、そんなにないから私…。私のこと好きなのかって、勘違いするからやめて」


「……え?」


昴くんは、私の顔のすぐそばで、私の顔を見て驚いていた。


「愛してる人、いるんでしょ?その人に悪いし…。私なら、もう逃げようとも思ってないし、その人のところに行っていいから」


「……」


昴くんは、髪をかきあげ困った顔をした。


「本当に、いいから…」


私はそう言うと、涙が出そうになっていた。


「…ひかり。それ…、本心?」


「なんで…?なんでそんなこと聞くの?」


「だって、顔、辛そうだから」


「そう。辛いから、もう出てって」


「辛いって、なんで?」


「優しくされると、苦しいから」


「どうして…?」


「どうしてって…。さっきも言った。勘違いしちゃうから」


「俺のこと、もしかして好き?」


「……!」


私は、いきなりそんなことを聞かれて、ものすごい動揺した。顔が真っ赤になったかもしれない。思わず反対側を向いた。


「…好きなの?」


昴くんは、もう一回聞いてきた。


「おかしいのはわかってるよ。誘拐されたのに…。でも、本当のあなたは、優しいしあったかいし…。だけどそれは全部、私のことを思ってじゃないんだよね…。あなたにはだって、愛してる人がいるんだもの」


「……」


昴くんは、黙っていた。


「これ、違うんでしょ?求めるのは愛じゃないんでしょ?だから、これも…」


「俺のこと、好きなの?」


また、昴くんは同じことを聞いてきた。


「求めるのは、好きってことじゃないんでしょ?」


私はまだ、反対を向きながらそう言った。


「ねえ…」


昴くんは私の顔を思い切り、のぞきこんできた。


「こっち向いてくれないかな。表情が見えないよ」


「……」


私は、顔を隠したかった。きっと、嫉妬やら気恥ずかしさやらで、変な顔をしてる。


「見ないで…」


「なんで?」


「だって…」


「ひかり…?」


私は、布団に潜り込んだ。それから、涙が出てきた。それも、しゃくりあげてしまい、泣いてるのが昴くんにばれてしまった。


「泣いてるの?ひかり?」


「……」


何も言わずに私は、泣いていた。


「……」


昴くんは黙って、私のベッドの脇に座ったままだった。


そしてしばらくすると、昴くんは布団の上から私を、抱きしめてきた。


「やばい…」


「……?」


やばいって…?


「ひかり、俺のこと好きなんだよね?」


それがやばいの?


「こんな俺だけど、好きなんだよね?」


こんな俺って?


「泣いちゃってるのも、俺のこと好きだからだよね?」


……。そうだ。好きで苦しいからだ。


「…顔見せてよ」


「駄目…」


「なんで?」


「泣いてるから…」


「泣いててもいいよ」


「……」


私はそっと、顔を布団から出した。


「あ。ほんとだ。鼻も目も真っ赤だ」


そう言うと、昴くんは私の鼻にキスをした。


「え?!」


私は、思い切り驚いてしまった。昴くんの目も、キスも優しくて、もっと胸が締め付けられた。


「俺も、好きだよ」


「え?」


「ひかりのこと」


「嘘」


「嘘じゃない」


「でも、好きな人いるんでしょ?」


「うん」


「じゃ、なんで私にも好きだなんて言うの?」


「…だって、ひかりだから」


「え?」


「俺が愛してるのは、ひかりだから」


「……」


一瞬、何を言われたのかわからなかった。


「私、あなたの闇のエネルギー、浄化なんてしてない」


「してくれたんだ…」


「…いつ?」


「気を失ってる間…」


「どういうこと?」


「高い波動のひかりが…」


「高い波動?」


「そうなんだ。ひかりは、いろんな波動の…、いろんな次元にいるんだ」


「…?」


何を言ってるのか、まったくわからなかった。


「ひかりは、どんな俺も愛してくれてる。俺も、どの次元のひかりも愛してるよ」


「…次元って何?」


「3次元、4次元、5次元。いろんな次元がある。そのどの次元にも俺がいて、ひかりもいる」


「…どういうこと?」


「俺、ちょっと高い次元の昴なんだ。途中で入れ替わった」


「ええ?」


「あ、こっちの昴も、波動変わってるから安心してね。もう、闇は浄化されてる。こっちの昴も、ひかりのこと愛してるから」


「?」


「どんな次元の俺も、ひかりを愛するように、どの次元のひかりも、俺のこと愛してくれるんだね」


「…?」


「あ…、それは俺、信じてたよ。ひかりも言ってた。どの次元の私も、昴くんを愛するからって…。でも、いつ好きになってくれるんだろうって、ちょっと思ってた。なにせ俺、誘拐してきたわけだし」


「……」


昴くんの言ってることが、さっぱりわからなかった。


「あ…。わかんない?言ってること」


「うん…」


「そっか…。じゃ、高い次元に行ってみる?一気に」


「え?」


「俺と同化して」


「同化?」


「高い高い次元では、俺ら一つの魂なんだよ」


「一つの魂?」


「それが、分かれて地球に来てる」


「……」


あまりにも突拍子もないことに、私は開いた口がふさがらなくなっていた。


「だから、一つになる体験したらわかると思う。いろんな次元に自分がいることも、俺と一つだったことも、それから、俺がひかりを愛してることも」


「…体験?」


昴くんは、そっと私に優しくキスをしてくれた。あったかい、優しい、とろけるようなキスだった。そして私を優しく、見つめる。そして、髪をなで、頬をなで、またキスをする。


涙が出そうになった。なんでこうも、優しいんだろう。あったかいんだろう。


「ひかり、愛してるよ」


昴くんが耳元で、ささやく。その声を聞いても、胸がきゅんとする。愛されてる…。なんでか、確信がもてる。それも、ものすごい愛で包みこんでくれてる。それが体全体で感じられる。


フワフワ体が浮いてるようになる。体中があったかいもので、包まれている。私の心からもどんどんあったかいものが、溢れ出してくる。


昴くんが、好き…。心から、聞こえてくる。昴くんを愛している。体中で私はそう言ってる。


昴くんのぬくもりも、匂いも全部知ってる。なんでだか、そう感じる。昴くんの髪をなでてみた。それから頬にも触れてみた。この感触も知ってる。


ものすごく愛しい。愛しさでいっぱいになり、涙が出る。また、昴くんがキスをしてきた。優しく、優しく、何度も。


フワ…。気持ちがいいって思った瞬間、体が本当に宙を浮いた。ううん。体はベッドの上にある。私の体の上には、昴くんがいる。私はさらに、その上に浮かんでいる。


「ひかり、このまま宇宙船まで行くよ」


昴くんの声がしたと思ったら、ものすごい光に包まれた。どんどん体が、ううん、意識が広がっていくのを感じた。どこまで私なのかわからなくなる。


あったかい優しい、広い空間。満たされ、幸せで、愛が溢れ出す。そして、ものすごい光に包まれながら、一気にどこかに魂が飛んでいった気がした。


気がつくと、宇宙船のようなところに私はいた。


「そうだよ、宇宙船だ」


声がして横を向くと、光の人型が私に話しかけて来ていた。


「昴くん…」


私は、思い出していた。この宇宙船にいたことも、自分のミッションも。


「ひかりも思い出した?」


「え?」


「俺も思い出した。全部を…。俺ら、あの低い次元に行ったのは、ミッションのためだった。親父の死も、ひかりのお父さんのことも、全部がシナリオに書かれてて、計画通りだった。すべてが、アセンションのための計画通りのことだったんだ」


「うん。思い出した。低い次元でのミッション。そのために、高い次元からも応援に行った」


「これからもあるね…。あの低い次元でのミッションは、まだクリアになってない。そのためにも、俺らは闇を感じ、憎しみを知り、あんなにも恐怖や苦しみを味わい、そしてその闇を光で包み込み、愛し合うことを経験したんだ」


「うん。そうだね。どれもこれも、ミッションのうちだったね」


「親父の魂も、ひかりのお父さんの魂も、一役かってくれたんだ」


「うん」


「みんな、愛の魂だね。俺らに愛を体験させるために、いてくれる光の魂だ」


「うん…。みんなね…」


「みんな俺らだ。みんなで、地球が上昇するために、協力し合ってる。みんなで、地球を光と愛へ導いてるんだ」


「うん。一見悪者のように見えても、その魂も、愛の魂だね」


「戻ろう。この地球を愛で包み込もう」


「うん…。闇も光で包もうね。愛で包もうね…」


「うん。ひかり…」


私たちは、一気に体の中に戻ってきた。


「……」


こっちの次元の私は体に戻ると、昴くんの顔をただ眺めていた。


「ミッション…」


私はつぶやいた。


「うん…」


昴くんは、だたうなづいた。


「私、すごく派動を下げて、この次元に来たんだ」


「俺も…」


昴くんも、こっちの次元の昴くんになっていたが、しばらくすると、また高い波動の昴くんが表面に現れた。


「ひかり、思い出した?」


「うん…」


「それで、朝日を浴びれたら、闇のエネルギーはしっかりと、浄化できるね」


「昴くん…」


「ん?」


「ありがとう」


「え?何が?」


「愛してくれて」


「それはひかりもだよ。俺のこと愛してくれた」


「……」


私は思わず、昴くんに抱きついていた。


「あれ?ひかり、もしかして…」


『ううん。まだ、表面には出てないの』


『でも、心で会話できる』


『うん。ようやく心開いたから』


「この声もしかして、高い波動の私なの?」


「そうだよ」


「高い波動の私が、昴くんの闇を浄化したのね?」


「うん」


昴くんは、私がいるベッドの布団に潜り込んできた。


「こっちで俺も寝よう…。いいよね?」


「うん…」


「明日早いから、もう寝ようね。ひかり」


「うん。おやすみなさい」


「おやすみ」


昴くんは腕枕をしてくれた。私は昴くんの胸に顔をうずめた。ものすごい安堵感。あったかくて、心地いい。昴くんの胸に抱かれていると、どうしてこんなにも落ち着くのか…。


昴くんの鼓動が嬉しくて、嬉しくて、胸に耳を当てて、私は眠りについた。その夜、ぐっすりと眠ることが出来た。こんなにも安心して眠ったのは、どれくらいぶりだろうか。



翌朝、まだ窓の外が暗いうちから、電話が鳴り昴くんが電話に出た。


「あ。おはようございます」


昴くんがものすごく眠そうに、そう言った。


「はい、起きます。はい…」


そう言うと、昴くんは受話器を置き、また布団に潜り込んだ。


「…起きないの?」


「んあ?」


「今、起きますって…」


「んん…」


昴くんは、私に抱きついてきた。


「もう少し寝る~~。ひかり、あと5分、こうしてて」


「え…?」


「ひかりの胸、あったかい」


昴くんは、私の胸に顔をうずめた。


わあ!どうしよう!!!私は思い切り、戸惑い固まってしまった。


「……」


昴くんはしばらく、私の胸に顔をうずめていたが、


「あ!ひかり?」


と、いきなり顔をあげた。


「どっち?」


「え?」


「ひかり、こっちの次元のひかり?」


「うん…」


「あ!そうか…。やべ、寝るところだった。いつもみたいに、甘えちゃってた」


「甘えるって…?」


「いや、もう、起きなくちゃね。お祓いあるもんね」


そう言うと、昴くんは、ガバってベッドから跳ね起きた。


「えっと、着替え…。いや、先に洗面所…。いや、よれたスエットで、その辺うろつくなって前にひかりに言われたから、着替えから先…」


「そんなこと私言ってたの?」


「ああ。うん。アイドルなんだから、気をつけろって」


「あ…、アイドル?!」


「あ!そっか。こっちの次元じゃ、俺、芸能人でもなんでもないんだ。じゃ、よれたスエットでも、髪が爆発してても、いいんじゃんか。じゃ、ちょっくら、このまま顔洗ってくる。ひかりも顔洗いに来なよね。一階だから」


「え?うん」


昴くんはそう言うと、タオルと歯ぶらしを持って、さっさと出て行ってしまった。


「…アイドル?芸能人?」


いきなりそんなことを言われて、私は驚いていた。


洗面所に行くと知らない人がいて、


「星野さん、おはようございます」


と、元気に挨拶をされた。その横にも知らない男の人がいて、


「あ、ひかりさん、おはよう」


と私の方を向いて、言った。


「お、おはようございます」


この人たち、私のこと知ってるの?


「昴、今日、早いじゃん」


「ん~~。だって、ひかりに甘えられないから」


「え?なんで?喧嘩?」


「ちゃうよ。ひかり、まだ、こっちの次元のひかりなんだ」


「ああ。それで、甘えられないわけ?あははは」


「笑うところ?そこ…」


そんな会話を聞き、そうか、高い次元では、私に昴くんは甘えてたんだってことが判明した。


優しくて、あったかくて、純粋で、甘えん坊なの?やっぱり、10歳も下だからかな…。


部屋に戻ると、


「じゃ、ひかり。着替えて行こうか?」


と、言ってきた。


「着替えるから、向こう向いてて」


「え?あ…、そっか」


高い次元の私たちは、愛し合ってるんだよね。でも、私はまだ…。昴くんは、後ろを向きながら着替えをして、着替え終わると私に聞いてきた。


「もう、着替えた?そっち向いても大丈夫?」


「うん」


そう言うと、昴くんはこっちを向いて、


「じゃ、行こう」


と私の手をひいた。


「あの…」


「え?」


「昴くん、私に甘えてたんでしょ?」


「え?」


「高い次元で」


「う…、う~~ん。まあね」


「私にも、いつもと同じように接して」


「え?!」


「ね…?」


「うん。わかった」


そう言うと、昴くんは少し考え込み、


「でも、いつもと同じように、本当に接していいのかな?」


と聞いてきた。


「え?どうして?」


「俺、いっつもひかりにべったりくっついてたよ。年がら年中いちゃついてたから、そんなで本当にいいの?」


年がら年中、いちゃついてた~~?あまりのことを聞かされて、私は驚き、そのまま目が点になっていた。


「あ…。やっぱり、びっくりしてる。で、そんなで、いいの?」


「え…、え…?」


私は、戸惑ってしまった。いちゃつくって、どういうこと?それすら、恋愛経験がないからわからない。


「いいの?」


「…うん」


私が言い出したんだから、駄目とは言えなくなっていた。


「了解!」


昴くんは、すごく嬉しそうににこって笑った。


「じゃ、まず朝のハグとキスからね?」


「そ、そんなことしてたの?」


「してた。してた」


『してないよ』


体の中から声がした。


『あ、ひかり、聞こえてた?』


昴くんの声もした。


『もう~~~』


「え?してないの?」


こっちの次元の私が、昴くんに聞くと、


「してたってば」


そう言うと昴くんは、ギュってハグをしてきて、唇に軽くキスをした。


「……」


なんだか照れてしまい、そのままうつむいていると、


「あれ?不服?」


と聞いてきた。


「え?」


「こんなキスじゃ不服?」


「ううん。そんなこと思ってな…」


言い終わる前に、もう一回キスをしてきた。今度はかなり長く…。私は、思い切りドキドキしている。


「って…、あんまりいちゃついてる時間ないんだよね。もう行かないと…」


昴くんはキスをやめて、そう言ってきた。


「…うん」


私はまだぼ~~ってしたまま、昴くんに手を引かれ、部屋を出て一階におりていった。


「あ、おはようございます」


玄関に行くと、何人かの人がそこにいた。昨日会った漆原さん。今朝会った人、それに知らない人。


「おはよう。昴くん、ひかりさん。寒いね~~」


誰だろう、この女の人は。


「昴!」


後ろからいきなり、昴くんのことを呼ぶ人がいて、走ってきて昴くんに抱きついた。あ、この声、もしかして運転してた人?珠代さん…?


「あ…。びっくりした…。珠代ちゃん、おはよう」


「珠代!」


そのあとに、また知らない若い男の子が来て、


「何、昴さんに抱きついてるんだよ?昨日説明したじゃんか」


とちょっと、きつい口調でそう言った。


「だって、私が付き合ってるのは、あんたじゃなくって昴なんだよ」


珠代さんはそう言うと、キッと私のことを睨み、


「あんたさ、ずっと昴といんの?」


と言ってきた。


「え?」


こっちの次元の私は、びっくりしていた。


「昴は私の彼だから。あんたは昴のお父さんを殺した男の娘で…」


「珠代ちゃん」


昴くんが、珠代さんの言うことを止めた。


「それ、もうすんだ話だ」


「え?どういうこと?」


「ノエルさんや陽平くんから、話を聞いてない?次元のこと、ミッションのこと、いろいろと…」


「聞いたけど、納得できない。その女が昴の魂の片割れで、私はこの陽平ってのと同じ魂でなんて」


「……」


昴くんは黙っていた。


「それに、私たち、ずっと過去生でも恋人だったって」


珠代さんがそう言うと、


「ああ…。そんな話も聞いたんだ」


昴くんはちょっと戸惑いながら、そう答えた。


「前世でも恋人だったんでしょ?だから、今生でも恋人で」


「だけど、俺が愛してるのは、ひかりだよ?」


「なんで?この女は…」


「俺とおんなじ魂なんだ」


「そんなの…!」


「珠代さん。落ち着いて」


また、知らない人が来た。


「ノエルさん。でも…」


珠代さんがまだ、何か言いたそうにした。ああ、この人がノエルさん。


「さあ、みんなで移動しましょう。今日はかなり冷えるわね。みなさん、あったかくしてきてる?」


ノエルさんは、優しくそう言って先に歩き出した。私は、昴くんについて歩いていたが、昴くんの腕にしっかりとしがみついていたのは、珠代さんだった。


こっちの次元の私は、困惑している。そして、べったりとくっついてる珠代さんに嫉妬してる。黒い霧が出る。これ、こっちの次元の私?それとも、私?


ふと、昴くんが私の方を見た。


『ひかり、愛してるよ』


そう心で話しかけてきて、光を出し霧を消した。


『なんで、昴くんの声も聞こえるのかな…』


こっちの次元の私が、疑問に思った。


『同じ魂だから。なんでも通じ合うんだ』


昴くんは、前を向いて歩きながらそう言った。そして、


「珠代ちゃん、陽平くんといたほうがいいよ」


と言い出した。


「え?どうして?」


「君がもし、闇のエネルギーに覆われて、苦しい思いをしてたら、それを一緒に感じ取れるのは、陽平くんだけだ」


「昴は?昴は一緒に感じてくれないの?」


「俺には無理だ。俺が感じ取れるのは、ひかりだけだ」


「なんで?」


「わかるよ、そのうち」


「……」


「珠代ちゃんのこと、浄化するために陽平くん来てるんだ。その陽平くんに心閉ざしてたら、駄目だよ」


「でも…」


「陽平くん…。あ、もう陽平って呼んでもいい?確か、同じだよね?年」


「え…。はい」


「いいよ、タメ口で。俺のことも昴って呼んで。で…。珠代ちゃんのこと、陽平に任せるから。俺、ひかりのこと守らなきゃならないし」


「あ…うん、わかった」


陽平くんは、珠代さんのすぐ横に来た。


「珠代ちゃんから、黒い霧が出たら、一気に光で包んであげて。やり方は…」


「ノエルさんから聞いてるから、大丈夫」


「そっか…」


昴くんはそう言うと、珠代さんの腕を自分の腕から離し、私の方に向き、私の手を掴んだ。


「ひかりは、ちゃんと俺のそばにいなくちゃ」


そう言うと、グィって私を引き寄せ、しっかりと肩を抱いた。


「……」


珠代さんから、ものすごい黒い霧が出た。それを隣にいる陽平くんが光を出して消していた。


『黒い霧と、光…』


『見えるの?』


『うん。さっきから…』


『そっか。もうすぐ同化できるね』


『え?同化って何?』


『わかるよ。そのうち』


屋敷をぐるりと歩くと、中庭に出てそこに広い板の間があった。そこに全員があがり、前の方に私と昴くん、そして、珠代さんが座った。珠代さんからちょっと離れたところに、陽平くんが座っていた。


「さて、そろそろ日の出だな」


白河さんが白装束の格好で現れそう言うと、なにやらぶつぶつと唱え出した。その隣で、ノエルさんも唱えていた。


寒い…。体から、黒い霧が出てきた。昴くんは、私の手をぎゅって握ってきた。そして、光を出してくれた。


『大丈夫。ずっと隣にいるから安心して』


昴くんは優しく心で、そう言ってくれた。スウ…。心が安らぐ…。ものすごく安心できた。


それからまた、黒い霧が飛び出る…。体が冷たくなる。重くなる。苦しくなる。ギュ…。昴くんが私の肩を抱いてくれた。でも、体が震えるくらい冷たくなる。


ブワ…。ものすごい霧が飛び出た。昴くんの隣にいる珠代さんからも、黒い霧が出る。


「う…」


昴くんが、少し苦しそうな顔をした。私と、珠代さんの黒い霧に昴くんまで覆われていた。それでも、昴くんは光を出した。


私も昴くんをギュって抱きしめた。昴くん、愛してる…。体の中から声がする。ギュウ…。昴くんを両手で包み込む。そしてまた、愛してるって心でささやく。私からも光が出る。どんどん放出されていく。


だんだんと空が明るくなってきた。朝日が昇ってくる。


「珠代!」


珠代さんを見ると、ぐったりとうなだれていた。珠代さんのことをしっかりと、陽平くんが抱きかかえていた。陽平くんから、すごい光が出る。


「大丈夫だ。陽平…。もう朝日が出てきてるから」


昴くんは、陽平くんにそう話しかけた。


パア……。朝日が板の間を照らし出す。それと同時に、黒い霧がどんどん消えていった。


私は、昴くんを抱きしめていた。昴くんも私をしっかりと、抱きしめてくれていた。昴くんのぬくもりと、朝日がすごくあったかく感じられた。


「珠代…、大丈夫か?」


珠代さんはうなだれていたのが、ようやく起き上がり、


「もう、大丈夫…。苦しくなくなった」


と小さな声で、陽平くんに言った。


「ひかり…?大丈夫だった?」


昴くんが私をまだ、抱きしめながらそう聞いた。


「うん」


私は、昴くんの腕の中の心地よさを感じながら、そう答えた。


「珠代さん、どうですか?」


ノエルさんが聞いた。


「なんだか、すっきりしました。ものすごく苦しかったのに…。なぜか、一気に…」


「浄化できたようですね。陽平くん、大丈夫?あなたもだいぶ、珠代さんの闇のエネルギー感じてたでしょ?」


「あ…、はい。でも、なんとか持ちこたえて」


「そう…」


ノエルさんは優しく、微笑んでうなづいていた。


「私の闇のエネルギーを、一緒に感じちゃうの?」


「そうだよ」


珠代さんに聞かれて、陽平くんはうなづいた。


「俺ら、同じ魂だから、同じこと感じちゃうんだ。だから、珠代が苦しかったら、俺も苦しくなるし…」


「じゃ、さっきも相当…?」


「うん」


「……」


珠代さんは、しばらく黙って陽平くんを見ていた。


「だけど、光で闇を消してたよ?俺」


陽平くんが、珠代さんにそう言った。


「昴じゃないんだ。珠代と一緒のこと感じて、心で会話したり、一緒にミッションを遂行するのも、俺なんだよ」


陽平くんは、珠代さんにそう説明して、


「昨日も言ったよね?それ」


と付け加えた。


「なんか、まだわからないけど、でも…」


珠代さんは、私と昴くんを見ると、


「昴じゃないんだね…」


と小さな声で、つぶやいた。


「さあ、そろそろ移動をしよう。食堂で朝ごはんの用意をしている」


白河さんがそう言って、板の間をおりていった。


「はい」


私たちも次々に板の間をおり、屋敷の方へと向かった。昴くんはずっと、私の手を離さなかった。少し歩く速度を遅くして、みんなの最後になるように、昴くんはゆっくりと歩いた。


『ひかり…』


昴くんは心で、話しかけてきた。


『愛してるよ』


昴くんから、また光が飛び出した。そしてそっと、私の髪にキスをした。なんだかくすぐったくて、照れてしまった。


「照れてる?もしかして」


「え?」


「なんでわかるの?」


「わかるよ。そりゃ何でも」


「そ、そうなの?」


「うん」


そう言うと、昴くんはギュって肩を抱く。


「やっぱ、ひかりって可愛い」


「ええ?!」


10歳も下の昴くんにそんなことを言われて、私は思い切り戸惑った。


「年は関係ないって」


「え?思ったこと、わかっちゃうの?」


「なんでもわかるって言ったでしょ?」


「なんでも?」


「そう、なんでも」


昴くんは私の顔をのぞきこみ、


「大丈夫。どんなひかりも愛してるから」


と、にっこりと無邪気に笑って言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ