ミッション6 愛を感じる
泣きやんでも、私はそのまましばらく、昴くんの胸の中にいた。昴くんの匂いが、やけに懐かしく感じられ、どんどん心が落ち着いていく…。なんでだろうって、私はずっと思いながらも、その胸の心地良さに、なかなか昴くんから離れられないでいた。
「ひかり…?」
昴くんが、ささやくように私の名前を呼んだ。その声を聞き、私はしかたなく昴くんからそっと離れた。
「落ち着いた?」
昴くんが、私の顔をのぞきこみながら聞いてきた。その目を見ると、やっぱり優しくてあったかくて、懐かしい思いがした。
私は、涙を手で拭った。これからどうやって父に会い、自分の気持ちを話したらいいのか…。そんなことを考えようとするのだが、それよりも今は、昴くんのあったかさに触れていたかった。
「私のこと、ひかりって呼んでるんだね…」
「え?ああ…。うん。駄目かな?」
「ううん…。私はなんて呼んだらいいのかなって思って」
「え?昴くんっていつも…」
「いつも?」
「あ!いや、なんとでも…。昴でも、昴くんとでも…」
昴くんは、慌ててそう言った。
「じゃ、昴くんって呼ぶ。私よりずっと年、下なんだよね?」
「ずっとじゃないよ。10歳だけだよ」
「10歳も?」
「そんなに離れてないでしょ?」
「……」
私は黙り込んだ。それから、車の運転席にいた女性のことを思い出していた。
「運転してた人、あなたの彼女?」
「ああ、珠代ちゃんのことか…。えっと、そうなるのかな…」
「……」
彼女なんだ、やっぱり…。私の心が、なぜか重苦しくなった。黒い霧を出していて、どうやら昴くんがすぐに、光で消してくれたようだ。また、気持ちが軽くなったような気がした。
「なんで…?」
「え?」
私は、昴くんにいきなり、なんでって聞かれて焦っていた。
「なんで彼女かって聞いてきたの?」
「ううん…。なんとなく気になったから」
「そう…」
昴くんは、そう言うと少しうつむいて頭を掻くと、
「でも、もう別れるよ」
と、ぼそって言った。
「え?なんで?」
「うまく説明できないけど、珠代ちゃん、あ、珠代とはさ、違ってたんだ」
「…何が?」
「お互いが、なんていうか…、足りないもの埋めるためにいたっていうか…。求め合うばっかりで、愛し合ってはいなかったっていうか…。やっぱ、うまく言えない」
「それで、別れるの?」
「…うん。付き合っていけないなって、そう気がついたし。それに…」
昴くんは、何かを言いかけてやめてしまった。私はその続きをしばらく待っていたが、昴くんが、なかなか話さなかったから聞き返した。
「それに?」
「いや…、なんでもないよ」
昴くんはものすごい優しい目をして、私を見てそう言った。
私は昴くんの話を聞いていて、複雑だった。人を好きになるって、付き合うってどういうことなんだろう。足りないものを埋めあい、求め合うのは違うんだろうか…。それに、どうしてそういうことに気がついたんだろう。
「好きじゃなかったの?」
「え?」
「その…、珠代さんのこと」
「好きだったよ」
「好きなのに、別れるの?」
「うん」
「……」
私はもう、それ以上何も聞けなくなった。こっちの私は、恋愛経験はほとんどしたことがなく、昴くんの言うことが、理解できなかった。
好きになるって、どういうことかな…。異性を愛するって、どういうことなんだろう…。それに、愛されるってどんなことなのかな…。
しばらくうつむいて、私は考えていると、昴くんの私をじっと見る視線が気になり、顔をあげた。昴くんは、やっぱり優しい目で私を見ていた。
この人は、もともとこんなに優しい人なのかな…。珠代さんって人にも、優しかったんだろうか…。お父さんのことがなかったら、こんな形じゃなく、もっと早くに出会ってたら違ってたのかな…。
しばらく、昴くんと見つめあっていたことに気がつき、なんだか気恥ずかしくなり、私はまた下を向いた。
早くに出会ってたとしても、何もないかな…。10歳も離れてて、環境も違ってるだろうし…。
「あ…。もう、こんな時間なんだ」
昴くんは、ベッドの脇にある小さな机の上の時計を見て、そう言った。私も時計を見ると、11時を過ぎていた。
「そうだ。さっき、ノエルさんがひかりに服貸してくれた…。あれ?どこやった?ひかり」
「え?」
「あ…。いや、なんでもない」
ノエルさん?貸してくれた服…?
昴くんは、ベッドの掛け布団をどかしたり、枕の下をのぞいたりしていた。
「あ、あった。ひかりのお尻の下」
「え?」
慌ててその場を離れてみると、私の座ってたところにフリースの上着と、ズボンがたたんで置いてあった。
「それに着替えて、寝るといいよ」
昴くんはそう言うと、にっこりと微笑んだ。
「うん…」
私はうなづいたが、昴くんがベッドに座ったまま、こっちを見ているので着替えられずにいると、
「あ…、俺、邪魔?」
と昴くんは、聞いてきた。コクン…。私は黙って、うなづいた。
「ごめん。じゃ、廊下出てる。あ、ついでにトイレでも行ってこようっと」
と言いながら、昴くんは部屋の外に出て行った。
私は着替えをして服をたたみ、ベッドの脇にある椅子の背もたれにかけた。それから廊下に出て、昴くんを呼ぼうとした。
ドアを開けると、長い廊下があり、昴くんがどこに行ったのかわからなかった。
…トイレってどこだろう?きょろきょろとしながら、廊下を歩いていると、いきなり一つのドアが開いた。
「あれ?どうしたの?ひかりさん」
まったく知らない人が話しかけてきて、こっちの次元の私は驚いていた。
「あの、トイレどこなのかわからなくて…」
「トイレ?一階だよ」
「あ、どうも…」
私は、この人誰なんだろう。昴くんの知り合いなんだろうけど、いったいどういう関係なんだろうって気になっていたが、ぺこってお辞儀をして、その場を去ろうとした。だが、
「ちょ、待って!昴は部屋にいんの?」
と、腕を掴まれてしまった。
「いいえ…」
「ひかり…さん。星野建設の娘さんの、ひかりさんだよね?」
「…はい」
「あ・・・。そっか~~。えっと~~。ちょっと昴が帰ってくるまで、ここで待ってて」
「なんでですか?」
「いや、その…。昴に君のこと、どっか行かないよう見ててって頼まれてさ…」
「……」
頼まれた?仲間なの?私が逃げないよう、監視してる?……。私は、辺りを見回した。ここはどこなんだろう。ものすごく静かで、他に人の気配もないような気がした。廊下は長く、廊下の先は真っ暗だった。
突然、怖くなった。今までの昴くんのことすら、信じられなくなってきた。
「部屋に戻ります」
「部屋?じゃ、一緒に行くよ」
「だ、大丈夫です…」
こんな知らない人に部屋に来られて、もし部屋に一緒に入ってこられたら…。怖い…。また、体が冷たくなった。
「ひかり?」
昴くんの声が、暗い廊下の先から聞こえた。
「漆原さん、どうしたんですか?」
「昴…。お前、高い方?」
「はい」
「そっか…。ああ、良かった。いや、ひかりさんが、トイレどこかって聞いてきたんだけどさ…。ほら、ここで迷子になっても大変だし、昴戻ってくるまで、待っててって言って…。お前、どこに行ってたんだよ、ひかりさん、一人置いて…」
「すみません。トイレに行ったあと、一階の廊下でノエルさんに会ったから、ちょっと話をしてて」
「そっか…。あ、ひかりさん、悪かったね。引き止めて…」
「……」
私はその人から腕を離してもらっても、まだ警戒していた。昴くんのことすら、なんだか怖くなっていた。それに、ノエルさんって?
「ひかり、安心して。この人見かけ怖いけど、怖い人じゃないよ」
「昴!見かけ怖いってどういう意味だよ?」
「あはは…。だって、でかいじゃん。そりゃ、漆原さんに腕掴まれたら普通怖いって」
「ひっで~~な。これでも俺、こっちじゃ善良な警察官だよ?」
「警察…?」
「あ…」
漆原さんはしまったっていう顔をしたが、昴くんはそんなのおかまいなしに、
「そ。漆原さんは、おまわりさんなんだ。だから、大丈夫」
と笑って言った。
「で、でも。昴くん、誘拐犯に…」
「ああ…。う~~ん。説明がややこしいっていうか、難しいんだよな~~」
昴くんは、また頭をぽりって掻いた。
「ま、とにかく部屋に戻ろう。あ、ひかりもトイレか。案内するよ。こっち」
昴くんは、とっとと廊下を歩き出した。私は慌てて、そのあとをついていった。
「ど、どうして、警察の人がいるの?ここ、どこなの?」
「ここは、白河さんって人のお屋敷」
「白河?」
「うん。白河さんの先祖は、陰陽師なんだって。で、それを白河さんの娘さんが今、継いでるんだ。それが、ノエルさん」
「陰陽師って…?」
「う~ん。俺もよくわかんないんだけど、ま、悪い霊とかをお祓いしたりしてるのかな?」
「じゃ、その人に昴くんも、お祓いしてもらったの?」
「え?」
「お父さんの霊…」
「違うよ。俺のこと愛してくれてる人にだよ」
「……。珠代さん…、じゃないよね?」
「うん。違うよ」
「そんな人が、ここにいるの?」
「いるよ」
昴くんが、そう言いながら私を優しく見た。
「あ、ここ、女性用のトイレ。場所覚えてね」
「え?うん」
「もう少し行ったところに、食堂があるんだ。ほら、電気ついてる…。俺、あそこにいるからさ」
「うん」
そう言うと、昴くんはさっさと歩いて行ってしまった。
私はトイレから出て、その明かりのついてる部屋に向かった。中に入ると広い食堂で、昴くんが誰かと話をしていた。白髪交じりの、60代くらいの男の人だ。
「やあ、ひかりさん」
その人が私に向かって、話しかけてきた。
「……」
私は思わず、その場に立ち尽くした。
「あ…。心配いらないよ。さっき話した白河さんだ」
「陰陽師の…」
「白河さんは、陰陽師じゃないけどさ」
「……」
白河さんっていう人も、とても優しい表情で私を見ていた。
「安心しなさい。もう昴くんは、君を危険な目にはあわせたりしない」
「……」
この人も、昴くんの闇のエネルギーが消えたことを、知ってるんだろうか…。
「さて、明日の朝は早い。そろそろ寝ないといけないな」
そう言うと、その人は「おやすみ」と私と昴くんに言い、食堂を出て行った。
「じゃ、俺らも部屋に戻る?」
昴くんはそう言うと、食堂を出た。私もあとをついていった。
「明日の朝日が出る前に起きるから、けっこう早起きになるよ」
「なんでそんな朝早くに?」
「お祓い、その時間にするんだ。朝日が昇ると同時に」
「お祓い?」
「そう。浄化」
「そうしたら、私の闇のエネルギーも消えるの?」
「うん」
「……」
部屋に入ると、昴くんはドスンとベッドに横になった。
「あ~~。疲れた」
そう言ってから、布団に潜り込んで、
「ひかりも、疲れたでしょ?」
と聞いてきた。
「私は…、気を失っていたし…」
「あ。そっか…。どっか、具合悪いところはない?」
「大丈夫」
私はそっと、昴くんの隣のベッドに入った。昴くんのほうを見ると、優しくこっちを見ていた。
「ここ、大きな屋敷なんだね」
「うん…」
「でも、あまり人いないの?」
「年末だからだって。いつもは、もう少しいるみたい」
「そう…」
「明日の朝には、みんな集まるんじゃないかな。今この屋敷にいる人が…」
「どんな人がいるの?」
「みんな、優しいいい人だよ」
「……」
「あまり、心配しなくていいよ。全部がうまくいくようになってるから」
「全部が?」
「うん」
昴くんは、また無邪気に笑った。
「さっき…、求め合ってばかりで、愛し合ってなかったって言ってたよね?」
「ああ…、うん」
「それ、どういう意味?」
「う~~ん。俺、求め合うんじゃなくて、与え合うのが愛し合うことだと思ってるんだ」
「与え合う?」
「それから、信頼や支えあったり…、そういうこと」
「そうか…。うん、なんかわかるような気がする」
「そう?」
「さっき、愛してくれた人に、浄化してもらったって言ってたけど、その人も明日朝来るの?」
「うん」
「どんな人?」
私はなんだかとても気になり、聞いてみた。
「どんなって。そうだな~~。う~~ん…」
しばらく昴くんは、考えこんでから、
「どんな俺でも愛してくれて、俺のこと丸ごと、光で包み込んじゃう…、そんな人」
と、優しく言った。
「……」
そんな人がいるんだ。
「それ、お母さんとか、身内じゃなくて?」
「うん、違うよ」
「その人に会ったから、もしかして別れるの?」
「え?」
「珠代さんと…」
「うん、そうかな…」
「その人のこと、昴くんも愛してるの…?」
「うん。愛してるよ。ものすごく…」
「……」
「その人の全部を愛してるよ。その人が俺の全部を愛してくれるように」
「全部…?」
「そう、全部、まるごと」
「……」
私は聞いていて、苦しくなった。そんなにも愛してる人がいるんだ。ギュ…。胸がやけに苦しい。嫉妬だ。羨ましくてしょうがない。そんな人がいることが羨ましい…。私にも、そんな人がいたらいいのに…。
黒い霧が出る。
ああ。違う…。その人が羨ましいんだ。昴くんにこんなにも愛されてて…。そんなことを感じてる自分に気づき、昴くんのことを好きになってることに気がついた。
自分でも信じられなかった。私を誘拐した人だ。殺そうとした人だ。だけど、それはお父さんの霊のしわざだった…。本当のこの人は、すごく優しい。純粋で、とってもあったかい…。
どんどん惹かれていってた。この人の、ぬくもりも、笑顔も、瞳も…。
私はしばらく、昴くんのことを眺めてから、また苦しくなり反対を向いた。
「…ひかり?」
昴くんが、優しく聞いてきた。
「もう、寝るね」
私がそう言うと、
「え?うん…。おやすみ」
昴くんはもう、しゃべるのをやめた。私はしばらく黙っていたが、どうしても気になり昴くんに話しかけた。
「昴くん…」
「え?」
「私がここにいていいの?」
「なんで?」
「その、昴くんのこと愛してる人が、そばにいなくてもいいの?」
「…どうして?」
「私がここにいて、その人嫌がらない?」
「嫌がったりしないよ。そりゃやきもちやきだけどさ」
「……。だけど…」
「ひかりは心配しなくていいよ」
「……」
心配じゃない…。私がその人の立場だったら、絶対に嫌だろうなって思ったんだ。
「ひかり、こっち向いて」
「え?」
「なんか、顔が見えないと、ひかりがどんな表情してるのか、わからないから」
「……」
私は、どうしようか少し迷ったが、また昴くんの方を向いた。
「ひかりは、今まで好きになった人いたんでしょ?」
「うん。でも付き合ったことはない。付き合おうってなっても、お父さんに阻止されてたから」
「そうなんだ…。じゃ、結婚相手には、会ったことあるの?」
「2回だけ」
「2回?たったの?」
「そう…」
「どんな印象だった?」
「嫌じゃなかった。でも…、結婚をしたいとは思わなかったし…」
「じゃ、結婚はまだしないとしても、その人と付き合ってみる気は?」
「……」
なんで、そんなことを聞くんだろう。私はしばらく黙り込んだ。そして、
「…どうして?」
と聞いた。
「え?」
「どうして、そんなこと聞くの?結婚した方がいいと思ってるの?」
「思ってないよ。ただ、会ってどう思ったのかなって…」
「……」
昴くんは、きっと誰にでも優しいんだ。ずっと優しく私を見てるのも、もともとの性格からなんだ。私を特別に思ってるわけでもないし、私を愛してくれてるわけでもない…。また、胸がぎゅって締め付けられた。これ、何…?
「どうしたの?」
「え?」
「なんか、苦しそう。どっか、具合悪い?」
「ううん…。ただ…」
「うん」
「胸が苦しいだけ」
「え?大丈夫なの?心臓?」
「ううん…。違う」
昴くんはベッドからおりて、私のおでこを触って熱を測ったり、顔をのぞきこんだりした。その優しさに、また胸が苦しくなった。
「平気だから、あまり優しくしないで」
「え?」
「それ、勘違いする」
「勘違いって?」
「優しくされたことなんて、そんなにないから私…。私のこと好きなのかって、勘違いするからやめて」
「……え?」
昴くんは、私の顔のすぐそばで、私の顔を見て驚いていた。
「愛してる人、いるんでしょ?その人に悪いし…。私なら、もう逃げようとも思ってないし、その人のところに行っていいから」
「……」
昴くんは、髪をかきあげ困った顔をした。
「本当に、いいから…」
私はそう言うと、涙が出そうになっていた。
「…ひかり。それ…、本心?」
「なんで…?なんでそんなこと聞くの?」
「だって、顔、辛そうだから」
「そう。辛いから、もう出てって」
「辛いって、なんで?」
「優しくされると、苦しいから」
「どうして…?」
「どうしてって…。さっきも言った。勘違いしちゃうから」
「俺のこと、もしかして好き?」
「……!」
私は、いきなりそんなことを聞かれて、ものすごい動揺した。顔が真っ赤になったかもしれない。思わず反対側を向いた。
「…好きなの?」
昴くんは、もう一回聞いてきた。
「おかしいのはわかってるよ。誘拐されたのに…。でも、本当のあなたは、優しいしあったかいし…。だけどそれは全部、私のことを思ってじゃないんだよね…。あなたにはだって、愛してる人がいるんだもの」
「……」
昴くんは、黙っていた。
「これ、違うんでしょ?求めるのは愛じゃないんでしょ?だから、これも…」
「俺のこと、好きなの?」
また、昴くんは同じことを聞いてきた。
「求めるのは、好きってことじゃないんでしょ?」
私はまだ、反対を向きながらそう言った。
「ねえ…」
昴くんは私の顔を思い切り、のぞきこんできた。
「こっち向いてくれないかな。表情が見えないよ」
「……」
私は、顔を隠したかった。きっと、嫉妬やら気恥ずかしさやらで、変な顔をしてる。
「見ないで…」
「なんで?」
「だって…」
「ひかり…?」
私は、布団に潜り込んだ。それから、涙が出てきた。それも、しゃくりあげてしまい、泣いてるのが昴くんにばれてしまった。
「泣いてるの?ひかり?」
「……」
何も言わずに私は、泣いていた。
「……」
昴くんは黙って、私のベッドの脇に座ったままだった。
そしてしばらくすると、昴くんは布団の上から私を、抱きしめてきた。
「やばい…」
「……?」
やばいって…?
「ひかり、俺のこと好きなんだよね?」
それがやばいの?
「こんな俺だけど、好きなんだよね?」
こんな俺って?
「泣いちゃってるのも、俺のこと好きだからだよね?」
……。そうだ。好きで苦しいからだ。
「…顔見せてよ」
「駄目…」
「なんで?」
「泣いてるから…」
「泣いててもいいよ」
「……」
私はそっと、顔を布団から出した。
「あ。ほんとだ。鼻も目も真っ赤だ」
そう言うと、昴くんは私の鼻にキスをした。
「え?!」
私は、思い切り驚いてしまった。昴くんの目も、キスも優しくて、もっと胸が締め付けられた。
「俺も、好きだよ」
「え?」
「ひかりのこと」
「嘘」
「嘘じゃない」
「でも、好きな人いるんでしょ?」
「うん」
「じゃ、なんで私にも好きだなんて言うの?」
「…だって、ひかりだから」
「え?」
「俺が愛してるのは、ひかりだから」
「……」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「私、あなたの闇のエネルギー、浄化なんてしてない」
「してくれたんだ…」
「…いつ?」
「気を失ってる間…」
「どういうこと?」
「高い波動のひかりが…」
「高い波動?」
「そうなんだ。ひかりは、いろんな波動の…、いろんな次元にいるんだ」
「…?」
何を言ってるのか、まったくわからなかった。
「ひかりは、どんな俺も愛してくれてる。俺も、どの次元のひかりも愛してるよ」
「…次元って何?」
「3次元、4次元、5次元。いろんな次元がある。そのどの次元にも俺がいて、ひかりもいる」
「…どういうこと?」
「俺、ちょっと高い次元の昴なんだ。途中で入れ替わった」
「ええ?」
「あ、こっちの昴も、波動変わってるから安心してね。もう、闇は浄化されてる。こっちの昴も、ひかりのこと愛してるから」
「?」
「どんな次元の俺も、ひかりを愛するように、どの次元のひかりも、俺のこと愛してくれるんだね」
「…?」
「あ…、それは俺、信じてたよ。ひかりも言ってた。どの次元の私も、昴くんを愛するからって…。でも、いつ好きになってくれるんだろうって、ちょっと思ってた。なにせ俺、誘拐してきたわけだし」
「……」
昴くんの言ってることが、さっぱりわからなかった。
「あ…。わかんない?言ってること」
「うん…」
「そっか…。じゃ、高い次元に行ってみる?一気に」
「え?」
「俺と同化して」
「同化?」
「高い高い次元では、俺ら一つの魂なんだよ」
「一つの魂?」
「それが、分かれて地球に来てる」
「……」
あまりにも突拍子もないことに、私は開いた口がふさがらなくなっていた。
「だから、一つになる体験したらわかると思う。いろんな次元に自分がいることも、俺と一つだったことも、それから、俺がひかりを愛してることも」
「…体験?」
昴くんは、そっと私に優しくキスをしてくれた。あったかい、優しい、とろけるようなキスだった。そして私を優しく、見つめる。そして、髪をなで、頬をなで、またキスをする。
涙が出そうになった。なんでこうも、優しいんだろう。あったかいんだろう。
「ひかり、愛してるよ」
昴くんが耳元で、ささやく。その声を聞いても、胸がきゅんとする。愛されてる…。なんでか、確信がもてる。それも、ものすごい愛で包みこんでくれてる。それが体全体で感じられる。
フワフワ体が浮いてるようになる。体中があったかいもので、包まれている。私の心からもどんどんあったかいものが、溢れ出してくる。
昴くんが、好き…。心から、聞こえてくる。昴くんを愛している。体中で私はそう言ってる。
昴くんのぬくもりも、匂いも全部知ってる。なんでだか、そう感じる。昴くんの髪をなでてみた。それから頬にも触れてみた。この感触も知ってる。
ものすごく愛しい。愛しさでいっぱいになり、涙が出る。また、昴くんがキスをしてきた。優しく、優しく、何度も。
フワ…。気持ちがいいって思った瞬間、体が本当に宙を浮いた。ううん。体はベッドの上にある。私の体の上には、昴くんがいる。私はさらに、その上に浮かんでいる。
「ひかり、このまま宇宙船まで行くよ」
昴くんの声がしたと思ったら、ものすごい光に包まれた。どんどん体が、ううん、意識が広がっていくのを感じた。どこまで私なのかわからなくなる。
あったかい優しい、広い空間。満たされ、幸せで、愛が溢れ出す。そして、ものすごい光に包まれながら、一気にどこかに魂が飛んでいった気がした。
気がつくと、宇宙船のようなところに私はいた。
「そうだよ、宇宙船だ」
声がして横を向くと、光の人型が私に話しかけて来ていた。
「昴くん…」
私は、思い出していた。この宇宙船にいたことも、自分のミッションも。
「ひかりも思い出した?」
「え?」
「俺も思い出した。全部を…。俺ら、あの低い次元に行ったのは、ミッションのためだった。親父の死も、ひかりのお父さんのことも、全部がシナリオに書かれてて、計画通りだった。すべてが、アセンションのための計画通りのことだったんだ」
「うん。思い出した。低い次元でのミッション。そのために、高い次元からも応援に行った」
「これからもあるね…。あの低い次元でのミッションは、まだクリアになってない。そのためにも、俺らは闇を感じ、憎しみを知り、あんなにも恐怖や苦しみを味わい、そしてその闇を光で包み込み、愛し合うことを経験したんだ」
「うん。そうだね。どれもこれも、ミッションのうちだったね」
「親父の魂も、ひかりのお父さんの魂も、一役かってくれたんだ」
「うん」
「みんな、愛の魂だね。俺らに愛を体験させるために、いてくれる光の魂だ」
「うん…。みんなね…」
「みんな俺らだ。みんなで、地球が上昇するために、協力し合ってる。みんなで、地球を光と愛へ導いてるんだ」
「うん。一見悪者のように見えても、その魂も、愛の魂だね」
「戻ろう。この地球を愛で包み込もう」
「うん…。闇も光で包もうね。愛で包もうね…」
「うん。ひかり…」
私たちは、一気に体の中に戻ってきた。
「……」
こっちの次元の私は体に戻ると、昴くんの顔をただ眺めていた。
「ミッション…」
私はつぶやいた。
「うん…」
昴くんは、だたうなづいた。
「私、すごく派動を下げて、この次元に来たんだ」
「俺も…」
昴くんも、こっちの次元の昴くんになっていたが、しばらくすると、また高い波動の昴くんが表面に現れた。
「ひかり、思い出した?」
「うん…」
「それで、朝日を浴びれたら、闇のエネルギーはしっかりと、浄化できるね」
「昴くん…」
「ん?」
「ありがとう」
「え?何が?」
「愛してくれて」
「それはひかりもだよ。俺のこと愛してくれた」
「……」
私は思わず、昴くんに抱きついていた。
「あれ?ひかり、もしかして…」
『ううん。まだ、表面には出てないの』
『でも、心で会話できる』
『うん。ようやく心開いたから』
「この声もしかして、高い波動の私なの?」
「そうだよ」
「高い波動の私が、昴くんの闇を浄化したのね?」
「うん」
昴くんは、私がいるベッドの布団に潜り込んできた。
「こっちで俺も寝よう…。いいよね?」
「うん…」
「明日早いから、もう寝ようね。ひかり」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
昴くんは腕枕をしてくれた。私は昴くんの胸に顔をうずめた。ものすごい安堵感。あったかくて、心地いい。昴くんの胸に抱かれていると、どうしてこんなにも落ち着くのか…。
昴くんの鼓動が嬉しくて、嬉しくて、胸に耳を当てて、私は眠りについた。その夜、ぐっすりと眠ることが出来た。こんなにも安心して眠ったのは、どれくらいぶりだろうか。
翌朝、まだ窓の外が暗いうちから、電話が鳴り昴くんが電話に出た。
「あ。おはようございます」
昴くんがものすごく眠そうに、そう言った。
「はい、起きます。はい…」
そう言うと、昴くんは受話器を置き、また布団に潜り込んだ。
「…起きないの?」
「んあ?」
「今、起きますって…」
「んん…」
昴くんは、私に抱きついてきた。
「もう少し寝る~~。ひかり、あと5分、こうしてて」
「え…?」
「ひかりの胸、あったかい」
昴くんは、私の胸に顔をうずめた。
わあ!どうしよう!!!私は思い切り、戸惑い固まってしまった。
「……」
昴くんはしばらく、私の胸に顔をうずめていたが、
「あ!ひかり?」
と、いきなり顔をあげた。
「どっち?」
「え?」
「ひかり、こっちの次元のひかり?」
「うん…」
「あ!そうか…。やべ、寝るところだった。いつもみたいに、甘えちゃってた」
「甘えるって…?」
「いや、もう、起きなくちゃね。お祓いあるもんね」
そう言うと、昴くんは、ガバってベッドから跳ね起きた。
「えっと、着替え…。いや、先に洗面所…。いや、よれたスエットで、その辺うろつくなって前にひかりに言われたから、着替えから先…」
「そんなこと私言ってたの?」
「ああ。うん。アイドルなんだから、気をつけろって」
「あ…、アイドル?!」
「あ!そっか。こっちの次元じゃ、俺、芸能人でもなんでもないんだ。じゃ、よれたスエットでも、髪が爆発してても、いいんじゃんか。じゃ、ちょっくら、このまま顔洗ってくる。ひかりも顔洗いに来なよね。一階だから」
「え?うん」
昴くんはそう言うと、タオルと歯ぶらしを持って、さっさと出て行ってしまった。
「…アイドル?芸能人?」
いきなりそんなことを言われて、私は驚いていた。
洗面所に行くと知らない人がいて、
「星野さん、おはようございます」
と、元気に挨拶をされた。その横にも知らない男の人がいて、
「あ、ひかりさん、おはよう」
と私の方を向いて、言った。
「お、おはようございます」
この人たち、私のこと知ってるの?
「昴、今日、早いじゃん」
「ん~~。だって、ひかりに甘えられないから」
「え?なんで?喧嘩?」
「ちゃうよ。ひかり、まだ、こっちの次元のひかりなんだ」
「ああ。それで、甘えられないわけ?あははは」
「笑うところ?そこ…」
そんな会話を聞き、そうか、高い次元では、私に昴くんは甘えてたんだってことが判明した。
優しくて、あったかくて、純粋で、甘えん坊なの?やっぱり、10歳も下だからかな…。
部屋に戻ると、
「じゃ、ひかり。着替えて行こうか?」
と、言ってきた。
「着替えるから、向こう向いてて」
「え?あ…、そっか」
高い次元の私たちは、愛し合ってるんだよね。でも、私はまだ…。昴くんは、後ろを向きながら着替えをして、着替え終わると私に聞いてきた。
「もう、着替えた?そっち向いても大丈夫?」
「うん」
そう言うと、昴くんはこっちを向いて、
「じゃ、行こう」
と私の手をひいた。
「あの…」
「え?」
「昴くん、私に甘えてたんでしょ?」
「え?」
「高い次元で」
「う…、う~~ん。まあね」
「私にも、いつもと同じように接して」
「え?!」
「ね…?」
「うん。わかった」
そう言うと、昴くんは少し考え込み、
「でも、いつもと同じように、本当に接していいのかな?」
と聞いてきた。
「え?どうして?」
「俺、いっつもひかりにべったりくっついてたよ。年がら年中いちゃついてたから、そんなで本当にいいの?」
年がら年中、いちゃついてた~~?あまりのことを聞かされて、私は驚き、そのまま目が点になっていた。
「あ…。やっぱり、びっくりしてる。で、そんなで、いいの?」
「え…、え…?」
私は、戸惑ってしまった。いちゃつくって、どういうこと?それすら、恋愛経験がないからわからない。
「いいの?」
「…うん」
私が言い出したんだから、駄目とは言えなくなっていた。
「了解!」
昴くんは、すごく嬉しそうににこって笑った。
「じゃ、まず朝のハグとキスからね?」
「そ、そんなことしてたの?」
「してた。してた」
『してないよ』
体の中から声がした。
『あ、ひかり、聞こえてた?』
昴くんの声もした。
『もう~~~』
「え?してないの?」
こっちの次元の私が、昴くんに聞くと、
「してたってば」
そう言うと昴くんは、ギュってハグをしてきて、唇に軽くキスをした。
「……」
なんだか照れてしまい、そのままうつむいていると、
「あれ?不服?」
と聞いてきた。
「え?」
「こんなキスじゃ不服?」
「ううん。そんなこと思ってな…」
言い終わる前に、もう一回キスをしてきた。今度はかなり長く…。私は、思い切りドキドキしている。
「って…、あんまりいちゃついてる時間ないんだよね。もう行かないと…」
昴くんはキスをやめて、そう言ってきた。
「…うん」
私はまだぼ~~ってしたまま、昴くんに手を引かれ、部屋を出て一階におりていった。
「あ、おはようございます」
玄関に行くと、何人かの人がそこにいた。昨日会った漆原さん。今朝会った人、それに知らない人。
「おはよう。昴くん、ひかりさん。寒いね~~」
誰だろう、この女の人は。
「昴!」
後ろからいきなり、昴くんのことを呼ぶ人がいて、走ってきて昴くんに抱きついた。あ、この声、もしかして運転してた人?珠代さん…?
「あ…。びっくりした…。珠代ちゃん、おはよう」
「珠代!」
そのあとに、また知らない若い男の子が来て、
「何、昴さんに抱きついてるんだよ?昨日説明したじゃんか」
とちょっと、きつい口調でそう言った。
「だって、私が付き合ってるのは、あんたじゃなくって昴なんだよ」
珠代さんはそう言うと、キッと私のことを睨み、
「あんたさ、ずっと昴といんの?」
と言ってきた。
「え?」
こっちの次元の私は、びっくりしていた。
「昴は私の彼だから。あんたは昴のお父さんを殺した男の娘で…」
「珠代ちゃん」
昴くんが、珠代さんの言うことを止めた。
「それ、もうすんだ話だ」
「え?どういうこと?」
「ノエルさんや陽平くんから、話を聞いてない?次元のこと、ミッションのこと、いろいろと…」
「聞いたけど、納得できない。その女が昴の魂の片割れで、私はこの陽平ってのと同じ魂でなんて」
「……」
昴くんは黙っていた。
「それに、私たち、ずっと過去生でも恋人だったって」
珠代さんがそう言うと、
「ああ…。そんな話も聞いたんだ」
昴くんはちょっと戸惑いながら、そう答えた。
「前世でも恋人だったんでしょ?だから、今生でも恋人で」
「だけど、俺が愛してるのは、ひかりだよ?」
「なんで?この女は…」
「俺とおんなじ魂なんだ」
「そんなの…!」
「珠代さん。落ち着いて」
また、知らない人が来た。
「ノエルさん。でも…」
珠代さんがまだ、何か言いたそうにした。ああ、この人がノエルさん。
「さあ、みんなで移動しましょう。今日はかなり冷えるわね。みなさん、あったかくしてきてる?」
ノエルさんは、優しくそう言って先に歩き出した。私は、昴くんについて歩いていたが、昴くんの腕にしっかりとしがみついていたのは、珠代さんだった。
こっちの次元の私は、困惑している。そして、べったりとくっついてる珠代さんに嫉妬してる。黒い霧が出る。これ、こっちの次元の私?それとも、私?
ふと、昴くんが私の方を見た。
『ひかり、愛してるよ』
そう心で話しかけてきて、光を出し霧を消した。
『なんで、昴くんの声も聞こえるのかな…』
こっちの次元の私が、疑問に思った。
『同じ魂だから。なんでも通じ合うんだ』
昴くんは、前を向いて歩きながらそう言った。そして、
「珠代ちゃん、陽平くんといたほうがいいよ」
と言い出した。
「え?どうして?」
「君がもし、闇のエネルギーに覆われて、苦しい思いをしてたら、それを一緒に感じ取れるのは、陽平くんだけだ」
「昴は?昴は一緒に感じてくれないの?」
「俺には無理だ。俺が感じ取れるのは、ひかりだけだ」
「なんで?」
「わかるよ、そのうち」
「……」
「珠代ちゃんのこと、浄化するために陽平くん来てるんだ。その陽平くんに心閉ざしてたら、駄目だよ」
「でも…」
「陽平くん…。あ、もう陽平って呼んでもいい?確か、同じだよね?年」
「え…。はい」
「いいよ、タメ口で。俺のことも昴って呼んで。で…。珠代ちゃんのこと、陽平に任せるから。俺、ひかりのこと守らなきゃならないし」
「あ…うん、わかった」
陽平くんは、珠代さんのすぐ横に来た。
「珠代ちゃんから、黒い霧が出たら、一気に光で包んであげて。やり方は…」
「ノエルさんから聞いてるから、大丈夫」
「そっか…」
昴くんはそう言うと、珠代さんの腕を自分の腕から離し、私の方に向き、私の手を掴んだ。
「ひかりは、ちゃんと俺のそばにいなくちゃ」
そう言うと、グィって私を引き寄せ、しっかりと肩を抱いた。
「……」
珠代さんから、ものすごい黒い霧が出た。それを隣にいる陽平くんが光を出して消していた。
『黒い霧と、光…』
『見えるの?』
『うん。さっきから…』
『そっか。もうすぐ同化できるね』
『え?同化って何?』
『わかるよ。そのうち』
屋敷をぐるりと歩くと、中庭に出てそこに広い板の間があった。そこに全員があがり、前の方に私と昴くん、そして、珠代さんが座った。珠代さんからちょっと離れたところに、陽平くんが座っていた。
「さて、そろそろ日の出だな」
白河さんが白装束の格好で現れそう言うと、なにやらぶつぶつと唱え出した。その隣で、ノエルさんも唱えていた。
寒い…。体から、黒い霧が出てきた。昴くんは、私の手をぎゅって握ってきた。そして、光を出してくれた。
『大丈夫。ずっと隣にいるから安心して』
昴くんは優しく心で、そう言ってくれた。スウ…。心が安らぐ…。ものすごく安心できた。
それからまた、黒い霧が飛び出る…。体が冷たくなる。重くなる。苦しくなる。ギュ…。昴くんが私の肩を抱いてくれた。でも、体が震えるくらい冷たくなる。
ブワ…。ものすごい霧が飛び出た。昴くんの隣にいる珠代さんからも、黒い霧が出る。
「う…」
昴くんが、少し苦しそうな顔をした。私と、珠代さんの黒い霧に昴くんまで覆われていた。それでも、昴くんは光を出した。
私も昴くんをギュって抱きしめた。昴くん、愛してる…。体の中から声がする。ギュウ…。昴くんを両手で包み込む。そしてまた、愛してるって心でささやく。私からも光が出る。どんどん放出されていく。
だんだんと空が明るくなってきた。朝日が昇ってくる。
「珠代!」
珠代さんを見ると、ぐったりとうなだれていた。珠代さんのことをしっかりと、陽平くんが抱きかかえていた。陽平くんから、すごい光が出る。
「大丈夫だ。陽平…。もう朝日が出てきてるから」
昴くんは、陽平くんにそう話しかけた。
パア……。朝日が板の間を照らし出す。それと同時に、黒い霧がどんどん消えていった。
私は、昴くんを抱きしめていた。昴くんも私をしっかりと、抱きしめてくれていた。昴くんのぬくもりと、朝日がすごくあったかく感じられた。
「珠代…、大丈夫か?」
珠代さんはうなだれていたのが、ようやく起き上がり、
「もう、大丈夫…。苦しくなくなった」
と小さな声で、陽平くんに言った。
「ひかり…?大丈夫だった?」
昴くんが私をまだ、抱きしめながらそう聞いた。
「うん」
私は、昴くんの腕の中の心地よさを感じながら、そう答えた。
「珠代さん、どうですか?」
ノエルさんが聞いた。
「なんだか、すっきりしました。ものすごく苦しかったのに…。なぜか、一気に…」
「浄化できたようですね。陽平くん、大丈夫?あなたもだいぶ、珠代さんの闇のエネルギー感じてたでしょ?」
「あ…、はい。でも、なんとか持ちこたえて」
「そう…」
ノエルさんは優しく、微笑んでうなづいていた。
「私の闇のエネルギーを、一緒に感じちゃうの?」
「そうだよ」
珠代さんに聞かれて、陽平くんはうなづいた。
「俺ら、同じ魂だから、同じこと感じちゃうんだ。だから、珠代が苦しかったら、俺も苦しくなるし…」
「じゃ、さっきも相当…?」
「うん」
「……」
珠代さんは、しばらく黙って陽平くんを見ていた。
「だけど、光で闇を消してたよ?俺」
陽平くんが、珠代さんにそう言った。
「昴じゃないんだ。珠代と一緒のこと感じて、心で会話したり、一緒にミッションを遂行するのも、俺なんだよ」
陽平くんは、珠代さんにそう説明して、
「昨日も言ったよね?それ」
と付け加えた。
「なんか、まだわからないけど、でも…」
珠代さんは、私と昴くんを見ると、
「昴じゃないんだね…」
と小さな声で、つぶやいた。
「さあ、そろそろ移動をしよう。食堂で朝ごはんの用意をしている」
白河さんがそう言って、板の間をおりていった。
「はい」
私たちも次々に板の間をおり、屋敷の方へと向かった。昴くんはずっと、私の手を離さなかった。少し歩く速度を遅くして、みんなの最後になるように、昴くんはゆっくりと歩いた。
『ひかり…』
昴くんは心で、話しかけてきた。
『愛してるよ』
昴くんから、また光が飛び出した。そしてそっと、私の髪にキスをした。なんだかくすぐったくて、照れてしまった。
「照れてる?もしかして」
「え?」
「なんでわかるの?」
「わかるよ。そりゃ何でも」
「そ、そうなの?」
「うん」
そう言うと、昴くんはギュって肩を抱く。
「やっぱ、ひかりって可愛い」
「ええ?!」
10歳も下の昴くんにそんなことを言われて、私は思い切り戸惑った。
「年は関係ないって」
「え?思ったこと、わかっちゃうの?」
「なんでもわかるって言ったでしょ?」
「なんでも?」
「そう、なんでも」
昴くんは私の顔をのぞきこみ、
「大丈夫。どんなひかりも愛してるから」
と、にっこりと無邪気に笑って言った。




