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俺は、友の為に魔王を倒す ~厨二高校編~  作者: undervermillion
2nd シーズン Secret of my heart
12/20

第2話 1位を目指す

 --12年05月24日(木)16:33 17(17)--



「……」


 俺は、正直ほっとしていた。

 今回のプレイはどの時点で開始されるのか、全くわからなかったからである。


 友人が遺したノートや、ネットでの情報には、この世界のことが一切記述されていなかった。


 友人の性格から考えて、俺を騙すような事はしないので、何らかの理由があって知らなかったのか隠していたに違いない。


 だからこそ、最初にC3の舞台に登場した時にも、それほど慌てることはなかった。


 そして、再びこの世界に訪れた時も特に危機感は持っていなかった。


「……」


 その代わりに今回心配していたのは、どの時期のどの状況で、再登場するかであった。


 登場した場面が、前回自宅で倒れた場面の続きからなのか、入学式からやり直すのか、はたまた全く別の状況から始まるのか、俺には全くわからなかった。

 最悪の場合として、公演直前に劇団員が退団した場面に居合わせたことで、急に台本を渡され、馬の着ぐるみを着せられて、退団した劇団員の代わりに芝居をさせられる可能性をも想定していた。


「……」


 最初の2つの状況であれば、俺は前回の記憶があることから、それほど困る状況にはならない。


「……」


 だが、残念なことに今回は3つめの状況であった。

 幸い、最初に俺に話しかけてきた北条が親切に、現在の状況を説明してくれたおかげで、自分がおかれた状態を理解することができたが。


「……」


 俺は、一緒に帰宅している八里に視線を移す。


「……」


 八里は、俺と一緒に歩いているが、これまで一言も発していない。

 自称幼馴染は、俺の腕を組んだりするほど俺に近づいていたが、八里は俺に対して一定距離以上近づこうとはしなかった。


「……」


 名家のお嬢様ということで、先に帰宅した千代水のように、帰り道は家の人がリムジンで送迎するのかと思っていたが、そんなことは無いようだ。


 俺が住んでいる家の事が気になったが、今の時点で一人で探すと、八里の家にお邪魔することがでくなくなるので、断念した。


「……」

 そろそろ、何か話さなければと思っていたが、今の俺にとって、八里に何を話せばいいのかわからない。

 俺にとって、八里は初対面の相手ではあるが、八里にとって俺は初対面の相手ではない。

 変な質問をすれば、俺に対して不信感を抱くだろう。

 そうなれば、今日からどう生活すればいいのかわからない。


 かといって、普遍的な適当な世間話も思いつかない。


 俺がこの世界に来るまでの「佐伯啓司」がどのような人物なのか、俺は知らない。


 そのため、俺は相手に違和感を持たれないようにするにはどのような話をすればいいのかわからなかった。


「佐伯さん。

 今日は静かですね?」


 沈黙を破ったのは、小さな透明感のある声だった。


「!」

 俺は、八里の言葉に焦りを覚えた。


 確かに俺は、変なことをしゃべって、違和感を与えてはまずいと思い、静かにしていた。

 だが、逆に沈黙を貫いたことが、八里に違和感を与えてしまったようだ。


「そ、そうですね。

 ときには、静かに過ごすのもいいかと思いまして」

「そうですか。

 それならば、よいのですが……」

「?

 何か、変なことを言いましたでしょうか?」


「……。

 そうでは、ありません。

 ただ、……」

「ただ?」


「佐伯さんの、私に対する話し方が、最初にお会いしたときの様子に戻ったようですから、少し気になりました」

「そうですか」


 俺は、思わず困った表情を出してしまった。


「……?」


 八里が俺の表情の変化に不審を抱きかけたとき、八里に声がかけられた。



「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま帰りました、じいや」

 背筋をしっかり伸ばした、初老の男が、八里に深く一礼をする。


 俺は、男の背後に視線を移す。

 そこには、三階建ての白塗りの洋館があった。

 建物自体は、それほど大きくはなかったが、入り口の大きな門や、白く高い塀、そして洋館へと続く長いレンガの道や、左右の芝生をみればここが八里家のお屋敷であることが想像できる。


 ただし、北条からの話では、これは別宅なのだろう。



 俺は、視線を男に戻し、挨拶をしようと考えて、思い悩む。

 どのように、返事を返すべきかと。


 どの言葉も、適当とは思えなかったが、

「……。

 失礼します」

と一言だけ、つぶやくように挨拶した。


「……」

じいやと呼ばれた男は、一瞬だけ鋭い視線を俺に向けたが、次の瞬間には、何事も無かったかのように一礼する。

 それは、八里に向けた礼よりも、明らかに浅い角度だった。




 --12年05月24日(木)21:03 17(17)--




 夕食を終えた俺は、自分に与えられた部屋に戻った。

 与えられた部屋は、8畳程度の広さだろうか。


 明治時代に建てられたこの屋敷は、快適な居住性も確保している。

 本来であれば、重要文化財として保存される予定だったのだが、八里のお嬢様が通う高校に近かったことから、しばらくそのまま使用するとのことだった。


 もちろん、この部屋の維持管理に人員が必要なため、本宅から4人派遣されている。



 俺は、周囲を見渡す。

 高級感漂う大きな机に、黒い革張りの椅子。

 背後にそびえ立つ、大きめの本棚。

 小さいが、上品な加工が施された応接セット。


 書斎と呼ぶにふさわしい内装であった。


 机の上に広げられた、本の山は、学校が指定した教科書だけでなく、様々な種類の参考書が教科ごとに用意されていた。


 俺は、疲れた表情で、天井を眺めていた。


「とりあえず、初日はなんとかなったか」

 俺の脳裏には、一人の女性が頭に浮かんできた。


 俺たちが、玄関に到着すると、40歳前後の恰幅のいい女性が、エプロンを身につけたままの姿で出迎えてくれた。


 俺が、何を言うべきか悩む隙すら、彼女は与えることを拒み、かいがいしく世話をしてくれた。


 おかげで、俺は、周囲から不審を招くこともなく、食事を済ませ、部屋で勉強することができる。


 俺がこの部屋で最初に確認したことは、答案用紙の内容の確認であった。


 俺は、この世界には少し前から登場しているが、それまでは俺ではない「佐伯啓司」が存在していた。

 この世界で、俺ではない「佐伯啓司」が何をしていたのか確認する必要があった。


 最初に、この世界に入った俺は、魔王を倒すことしか頭になかった。

 もちろん、今でも魔王を倒す目的には変わりないが、すでに一度倒している。


 後味の悪い結末だったが、今の俺であれば、結末を変える事ができる。

 それに、この世界で、魔王を倒すために、武技や魔法の練習をする必要もない。

 だから、俺はこの世界でいかに過ごすべきかに思考を集中していた。


「どうやら、ここまでの佐伯啓司は、それなりに勉強ができたようだな」


 ひとしきり、問題の解答内容を確認した俺は、そう結論づけた。


 俺と同じ顔、同じ名前の自分。

 そのことを少し考えていると、ノックの音が聞こえた。


「どうぞ」

 俺は、返事をすると、入り口に視線を移す。

 登場したのは、寝間着に着替えた、八里がいた。




 --12年05月25日(金)15:59 17(16)--




「やあ、17位。

 今日は、大丈夫かな?」

 俺は、授業が終わると同時に、真田から声をかけられた。


 真田の表情は、返済の履行を執拗に求める、債権者のような隙のなさだった。

「ああ、問題ない。

 とはいえ、早めに終わるとありがたいのだが……」

 俺は、視線を八里に移す。


 八里は、俺と視線があうと、少しだけ頭を上下に動かした。


「期待に添えなくて申し訳ないが、少し時間がかかると思う。

 それでも、一時間はかからないつもりだ」

「そうか……」

 俺は、再び視線を八里に動かす。

 八里は、俺の視線に対して了解の視線を返すと、鞄を持って教室を離れた。


「済まないね、17位」

「いや、あらかじめ八里には、説明していたからね」

 俺は、昨日のことを思い出す。




「繰り返し、言いますが、ご自身の住居と思って、お使いくださいませ」

 八里は、ソファーに座ると、俺に優しく話しかけた。

 彼女の黒く長い髪は、お風呂に入っていたためか、艶めかしく輝きを放っていた。

 ときより、彼女が髪をさわるたびに、反対側に座る俺のところまで、シャンプーの心地よい香りが届いてくる。


「どうして、俺にそんなに優しいのかな?」

 俺は疑問に思っていたことを口にする。


「……」

「お恥ずかしい話ですから」

 彼女はそれっきり口を閉ざした。

 やはり、「ゲームの世界の設定でそうなっていますから」などとは答えてはくれない。


 恋愛シミュレーションゲームで、「イベントナンバー05『パンを加えた少女(誤字にあらず)』の発生によりフラグが立ち、イベントナンバー23『君となら空だって飛べるさ。3秒間はね』同じく3A『雨の放課後』、のクリアによって、告白に必要なイベント経験値がたまりましたから」

 そんな告白をされてて、喜ぶ人はいるのだろうか?


 まあ、八里は俺に好意を寄せるような理由など無いはずだ。

 だから、八里が俺を引き取った理由が、たとえ「仏間に飾ってあるひいおじいちゃんの若い頃の写真にそっくりだから」とか、「昔飼っていた犬ににている」とか言われても問題はない。



「明日は、どうされますか?」

 八里は、話題を変えてきた。

「そうだね。一応、真田の話は聞こうと思う」

 俺は、思ったことを口にする。

「……そうですか」

 八里の表情は、少し陰りを見せていた。


「何か問題があるのか?」

「いえ、そうではありませんが……」


 八里は首を左右に振り、

「やはり、心配なのです。

 6位の人は、底知れない何かを持っているようにも見えます」

俺の瞳を強くのぞき込んだ。


「心配しなくても、俺は俺のままでいるから」

 俺は、八里を安心させるために嘘をついた。

 八里が知っている、佐伯啓司はここにはいない。


「そうですね。

 明日は私は、先にかえります」

 それでも、俺の言葉に安心したのか、八里は俺に近づいて言った。

「そろそろ、お休みの時間です」

「……、そうか。

 もうそんな時間か」

 俺は、八里と一緒に書斎を後にした。




「ちょっといいかな、6位さんに17位」

「なにかな47位?」

 俺は、北条の声で意識を教室に戻した。

 多くの生徒は、すでに家での勉強や塾等の予定があるため、下校していた。


「私も、二人の話に興味があるのだが」

「47位。

 人の事に興味を持つことを、否定するつもりはない。

 だが、実際に行動に移すときは覚悟を持って欲しいね。

 誰もが、君の為に生きているわけではないのだから」

 真田は冷たい視線と言葉で、北条に強く牽制する。


「なにを言っている。

 私の為に生きている人間など、誰もいないことくらい、良く知っているさ。

 そんな、都合の良い話があるのなら……。

 ああ、今はこの話ではなかったな」

 北条が自嘲気味なことを口にしてから、

「正直に言えば、6位が何を考えているかは、興味がない。

 だが、17位に対しては借りがあるのでね。

 借りを返すまでは、17位が変な事に巻き込まれることは避けたいのさ」

「借り?」

 俺は、北条の言葉に首をひねる。


「やれやれ、17位の君は、いつもそうだね。

 私を助けたことさえも、何でもないように言うのだから。

 だからこそ、君を守るつもりだよ」

「私の提案は、17位を傷つける内容ではないのだが?」

「だったら、私が同席しても問題あるまい」


「……、仕方がない。

 とはいえ、17位よ、君は問題ないのかい?」

真田は納得したようだが、俺に質問を投げかけた。


「問題?

 何が?」

 俺は、真田の質問の意図が分からず、そのまま問い返す。

「17位と47位が一緒にいれば、……。

 まあ、私が言う話でもないか」

 俺の追求に対して、真田は俺と北条の顔を見比べたが、自分の頭の中で納得したようだ。


「それでは、ついてきてくれ」

「わかった」

 俺たちは、真田のあとについていった。




 --12年05月25日(金)16:08 17(16)--




 俺たちは、職員室からほど近い、進路相談室にいた。

 進路相談室という名称からすれば、先生が生徒の相談に乗る姿が想像できるが、俺たちは進路を相談しに来たわけではない。


 真田が、適当な理由をつけて鍵を借りてきたのだろうか。

 それとも、本当に進路についての相談なのだろうか。


 俺は、周囲の本棚にある大学のパンフレットから真田に視線を切り替え、説明を求める。


「話とは何だ?」

「結論から、言おう。

 君に一位を取って欲しい」

 真田は、真剣な表情に改めてから、話を切りだした。


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