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同盟側

同盟側と通商側の戦いは、後の世において「ロドニー大陸戦争」と呼ばれるに至った。


これは単なる国家間の衝突ではなかった。大陸全土を巻き込み、政治、宗教、経済、民族、そのすべてが交錯する文明的衝突であったといわれる。ある歴史家はこれを「近代の胎動に伴う必然的破裂」と評しているが、必然とは後から付与される言葉に過ぎない。現場にいた者にとっては、ただの混沌であったに違いない。


この戦争を語る上で欠かせぬ存在が、同盟側の一角、ガンダル聖国である。


この国家は、今から30年前、イグニ教国より独立した新興国家であった。独立とは、しばしば理想の名を借りた流血である。ガンダル聖国も例外ではなく、その成立は血と信仰と外圧の産物であった。


イグニ教国との関係は、当然ながら良好ではない。


「親を刺して家を出たようなもんだ。仲良くしろって方が無理だろ」


と、ある兵士が酒場で語ったと記録されている。


その独立戦争において、聖国はフライル帝国の支援を受けた。この一点が、後の同盟関係を決定づけた。国家とは恩義ではなく利害で動くものだが、利害の裏に記憶があることもまた事実である。帝国にとって聖国は「利用可能な旧属国」であり、聖国にとって帝国は「恩と警戒の対象」であった。


こうした微妙な均衡の上に、同盟は成立していた。


宗教的側面もまた重要である。


ガンダル聖国の国教は、ベイル教ホドリス派ではなく、すでに300年前に廃れたとされる聖ベイル教ルカ派であった。このルカ派は、教義において原初的純粋性を重んじ、権威の集中を否定する傾向を持っていたといわれる。


読者諸氏に問いたい。宗教とは何か。


それは信仰であると同時に、秩序であり、また支配の形式でもある。ルカ派はそのいずれにも反抗した。ゆえに弾圧され、地下に潜り、やがて火種となったのである。


その火種が、ガンダル聖国であった。


首都ヒュガ。


ここにはベイル教の5大聖地のひとつ、「ミコト石」が存在する。巨大な石柱とも、天より落ちた遺物ともいわれ、その正体は定かではない。しかし巡礼者は絶えず、都市の人口は1800万に達していた。


「石なんざどうでもいい。あそこに人が集まる。それが価値だ」


と、ある商人は語っている。


政治体制は、特異であった。


いわゆる「二頭政治」である。


一人は軍事と政治を司る異世界転生者、ナガマサ・アザイ元帥。もう一人は信仰と民心を掌握するルカ派筆頭鐘女、メリッサ・フルドレス鳴理卿。


この二者の関係は、単なる分業ではない。緊張と均衡によって成立した統治構造であった。


ナガマサは合理の人間であったといわれる。戦争を技術と計算の問題として捉え、兵站、火力、機動を徹底的に追求した。


一方、メリッサは感情と信仰を操る術に長けていた。彼女の言葉は民衆の心を掴み、時に狂信へと導いた。


「戦は勝てば正義。負ければ殉教。どちらにせよ救われるのよ」


彼女はそう言って笑ったと伝えられる。


この言葉に、聖国の本質がある。


戦争と政治はナガマサが、民の心はメリッサが司る。


この分離は、一見合理的である。しかし読者も気づくであろう。これは同時に、国家が二つの意志を持つことを意味する。理性と狂気、計算と信仰、その両輪が噛み合う限り国家は強い。だが一度狂えば、その破壊力は計り知れない。


この30年で、ガンダル聖国は急速に力を蓄えた。


軍制は近代化され、徴兵制度と鉄道輸送が整備され、砲兵戦力も充実していた。魔法は補助に留まりつつも、通信や士気統制において有効に活用されていた。


「祈りで弾は止まらねぇが、撃つ手は震えなくなる」


前線の兵士がそう語ったという。


その意味で、聖国は近代戦と宗教国家の融合体であった。


ロドニー大陸において、彼らは一目置かれる存在となっていた。


さて、この聖国がなぜ今回の戦争に積極的に関与したのか。


理由は単純である。


敵がイグニ教国だからだ。


独立の記憶、宗派の対立、そして国家としての自負。そのすべてが、参戦を正当化していた。


参謀会議の席で、ある将校がこう言ったと記録されている。


「これは戦争じゃねぇ。清算だ」


その言葉は過激であるが、当時の空気をよく表している。


また、ブド連邦共和国、通称「連邦」は、ロドニー大陸において最大の国力を誇る国家であったといわれる。


その強大さは単なる人口や領土にとどまらない。産業は鉄と蒸気を基盤に急速に発展し、鉄道網は大陸の動脈のごとく張り巡らされ、軍需工業は昼夜を問わず稼働していた。兵器の生産量、兵站能力、動員力。いずれを取っても、ベイル公国の約3倍に迫ると推計されている。


「数で殴るなら連邦、質で刺すなら公国だな」


前線の兵士がそんなことを言ったと記録されているが、あながち的外れではない。


だが、強国とは単に力を持つだけでは済まない存在である。


力は必ず役割を伴う。


連邦に求められていたものは、「調停者」としての責務であった。


読者諸氏も理解しておくべきだろう。強大な国家は、戦わずとも戦争に巻き込まれる。なぜなら周囲がその力に依存し、また恐れるからである。


イマイズミ法国には中立都市ゴゴマリスタンが存在する。そこは各国が外交交渉を行う場として機能していたが、あくまで「言葉の場」に過ぎなかった。


「話し合いで止まる戦争なら、とっくに終わってる」


と、連邦の参謀は吐き捨てるように語ったという。


連邦に求められていたのは、言葉ではなく力であった。


すなわち、秩序の強制である。


今回の戦争において、連邦が同盟側として参戦した背景には、この「強制者」としての自覚があったに違いない。


そもそも、連邦とフライル帝国の関係は単純ではなかった。


両者は長年にわたり競い合うライバルであり、大陸の覇権を巡って暗闘を繰り広げてきた。しかし、ここ数年でその均衡は微妙に崩れ始めていた。


帝国は衰退していたわけではない。


だが、ベイル公国との戦争に敗北したことにより、その威信に傷がついたのは事実であった。そしてその隙を突くかのように、公国が台頭してきた。


この変化を、連邦は冷静に観察していた。


参謀本部にて。


「帝国がもう一度負けたらどうなる?」


若い士官が問う。


「終わるな。帝国がじゃない。秩序がだ」


老練な将軍が即答した。


「空白は埋まる。だが、その過程で血が流れる」


この言葉には、連邦の戦略思想が凝縮されている。


彼らは自らを「大陸の秩序を担う存在」と認識していた。


それが傲慢であるかどうかはさておき、その認識が行動を規定していたのは確かである。


もし帝国がさらに敗北すれば、その威信は完全に失墜する。すると各地で反乱や独立運動が連鎖し、新たな戦争の火種が生まれる可能性が高い。


つまり、連邦にとって帝国は「守るべき競争相手」であった。


これは一見奇妙に思えるかもしれない。しかし歴史においては珍しいことではない。均衡を維持するために敵を生かす。それが大国の論理である。


さらにもう一つ、決定的な要因があった。

戦争の火種となった暗殺事件である。


他国の皇帝の妻と嫡子が殺害されたにもかかわらず、その犯人を引き渡さず、処罰もしない。


この事実は、国際秩序そのものへの挑戦であった。


「これを見逃したら、明日には誰でも王を殺せる」


参謀の一人が吐き捨てる。


「法も約束も意味を失う。それはもう国家じゃねぇ」


連邦は、この状況を放置することができなかった。


なぜなら、自らが依拠する秩序が崩壊するからである。


国家とは暴力装置であると同時に、約束の体系でもある。その約束が守られない世界では、力のみが支配する。連邦は強国であったが、無秩序を望んでいたわけではない。


むしろ逆であった。


力によって秩序を維持する。

それが彼らの使命であった。


さらに付け加えるならば、帝国との既存の同盟関係も無視できない。


ロドニー大陸戦争が始まる以前、連邦と帝国はホムライ大陸から流入する海賊の取り締まりを目的として短期間の同盟を結んでいた。


この海賊問題は、単なる治安問題ではない。交易路の安全、すなわち経済そのものに直結する問題であった。


「海賊は戦争より質が悪い。利益を削る」


と、連邦の商務官は語っている。


この共同対応を通じて、両国は軍事的連携を深めていた。


したがって、今回の戦争においても連携は自然な流れであったといえる。


こうして見てくると、連邦がこの戦争において積極的であった理由は明白である。


秩序の維持、同盟の履行、そして国際法の防衛。


すべてが、彼らを戦場へと押し出した。


ある将軍が出撃前にこう言ったという。


「俺たちは正義のために戦うんじゃねぇ。秩序のために戦うんだ」


その言葉は冷徹であり、同時に現実的であった。


一方、公国。


小糸はこの動きを静かに分析していた。


彼の執務室の地図には、大陸全土の勢力図が広がっている。


「連邦が動いた理由は三つ」


小糸が淡々と口にする。


「秩序、同盟、見せしめだ」


ガトー大尉が肩をすくめる。


「ずいぶんと物騒な言い方ですね」


「実際そうだ。誰かを罰しなければ、次が出る」


小糸の指が、イグニ教国を指し示す。


戦争は感情で始まり、理屈で継続される。


連邦は、その理屈の側に立っていた。


だが


理屈だけで終わる戦争など、存在しない。


ロドリー大陸戦争は、すでにその段階を超えていた。


火は広がり、もはや誰にも止められない。


この時代に生きた者たちは、その炎の中で選択を迫られていたのである。

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