第18話 大狂獣 ラララ
話数間違えていたため修正しました。申し訳ございません。
「ふーむ、どぎつい張り手だが、原型は残ってるな」
セリカワ改め、大狂獣によってヒカル・バッツの身体が宙へぶっ飛ばされたことを確認する。だが、その身体が地面へと落ちる前に、地中から勢いよく伸びた寄生樹海の腕がキャッチする。すると、バッツの身体が見る見るうちに、顔だけ残して植物の様になり、寄生樹海の樹々が入り組んだボディに組み込まれてゆく。
「人間が怪獣の力を手に入れたね…… チテンインちゃんからの報告にあったものと同じだな」
防衛軍中央局の周りをうろついていた子供が突如怪獣の姿になったという報告、そしてその子供が残した言葉が新人に気をつけろだった。それが意味することは――
「マルティンさん、今の言葉とあのセリカワさんの姿…… いったいどういう事なんですか?」
考え込もうとしたところで、後ろからモナ・カーターからの質問が飛んできた。疑問に思うのも無理はない。他の新人達も顔に戸惑いと恐怖が浮かんでいる。そりゃそうか、新人の仲間が裏切り者且つ5区襲撃の黒幕で自分達の命を狙っていた事、身体に種と烏賊の脚を仕込まれていた事、トドメにセリカワちゃんの正体だ。
「どうもこうもそのままの意味さ、セリカワちゃんの正体は大狂獣だった。この事は、TOBの補佐隊員と他部隊も隊員歴が長い人ならまぁ誰でも知っているんだけどね。新人にいきなり話せばパニックになるから、暫くは隠すんだけれども」
ある程度人となりを知ってから、打ち明けないとパニックになりかねない。そもそも俺自身初めて人間の姿の彼女を見た時は驚いたものだ。
「えと、あの対になるパートナーがいるのでは……? いや、それに人間としての姿や知能は――」
「大狂獣の素体に使った動物がクジラだったからかな、すぐに人間の言葉や文化を理解できる程度には知能が高かった様なんだよね。問題は人間の身体かな」
本来、TOBの怪獣と隊員は二人一組のバディを組む。それは、彼女も例外ではなかった。
「大狂獣のパートナーは、先の大戦、第5次カタストロフで戦死した。彼女達の戦場には俺はいなかったので、どんな戦いがあったのかは知らない。大狂獣の相棒ハヤテ・セリカワの遺体は現場に残っていなかった。そして、片割れの死によって起きた大狂獣の暴走が静まった時、その場には怪獣の姿はどこにもなく、一人の少女が倒れていた」
相方の死、それは精神を引き裂かれる苦しみだという。怪獣ならば発狂して暴れ狂い、人間ならば廃人と化し衰弱して死に至る。しかし、ラララはそこから帰ってきたのだ。
さて、皆、聞き入っていることを確認し、俺は続ける。
「その少女を調べてみれば、大狂獣のDNAを持っており、紛れもなく大狂獣ご本人だった。大狂獣とハヤテ・セリカワの身体がシンクロの果てに融け合った、大狂獣がハヤテ・セリカワの遺体を食べ吸収してしまい人間の姿を得た、様々な憶測が上がった」
結局のところ真相は分からない。何故、ラララの精神の暴走が静まったのか。何故、ラララが人間としての姿を手に入れたのか。何故、その姿からハヤテの面影を感じられたのか。分からないことだらけだ。だが一つだけ言えることがある。
「あり得ない、なんてものはあり得ないのが怪獣だ。あそこで、現に大狂獣と戦っている怪獣に変化したしたバッツを見ればわかるだろう? それを、奇跡と呼んでいいのか分からないが、大狂獣は人間に変化できるようになった。それから、相棒の名を継いで、セリカワと名乗る様になった。ハヤテ・セリカワの悲願だった、地球を取り戻すという願いを叶えるべくTOBに残った」
彼女が現在使っている部屋はハヤテのモノであり、彼女が着ているサイズのずれた服もハヤテが着ていたモノだった。本人なりに、ハヤテをエミュレータしているらしい。このバディの間にどんな感情があったのかは分からない。
ゲッソメルスは簡単な意思の疎通は取れるし簡単な感情を読み取ることは出来た。しかし、ラララは人間と何ら変わらない知性と心を持っていたのだ。2人の間で交わされたやりとりは人間同士のそれとなんら変わりがなかったのではないだろうか?
俺は、ハヤテが生きていた頃の大狂獣の中身を知らない。だが、ハヤテの死が、TOB隊員の裏切り者によるものであり、彼女がそれを激しく憎んでいる事は良く知っていた。だからこそ思う。寄生樹海ことヒカル・バッツは、踏んではならない虎の尾を踏んだのだと。
* * *
「今のは驚きましたよ、セリカワさん」
イースト区5で対峙した、樹々が絡み合い巨大なトカゲの様な姿の怪獣、ソイツをさらに数倍肥大化させた物にバッツの顔が浮かび上がり、バッツの声で喋っている。以前には感じられなかった怪獣因子が強く反応し、その力を感じさせてくれた。成程、これが寄生樹海の本当の姿というわけか。
「気持ち悪いな、趣味が悪いのは性格だけじゃなく見た目迄か」
率直に思った事を言う。奴の本性は、既に知っている。今の丁寧な口調も、此方の動揺を誘うつもりのキャラ造りだろう。その言葉遣いが、ハヤテやロメオを思い出させて、全く、オレの神経を逆なでさせてくれる。
「セリカワさんも、腕だけ怪獣化しててアンバランスですよ。全く、怪獣が人の姿で人と同じ様に考え暮らしているとか非常識すぎます」
「人が怪獣に自在に化けられるのも、常識から外れている気がするがな。怪獣にあり得ないなんてものは無いと思え、と度々聞いてきたが、その技術は人為的なんだろう? お前の所業を考えると今すぐにでも八つ裂きにしたい所だが、その前に詳しく話を聞かせて貰おうか」
手を音波砲と化し、寄生樹海を狙う。が、その手前に、地面からにょきにょきと生えてきた、ヒョロヒョロの寄生樹の束により防がれてしまう。
「おーおー、咆哮とは別にその手からも音波を発射できるんですね。怪音波による混乱、超音波による爆発に音波のカッター、そして音の波動砲、手札はこんなものでしょうか。ですが、以前の怪獣因子を持たない分身体と違って、本気となった寄生樹海には通用しませんよ。まぁ、もし勝てたならば、先程の質問に答えてあげてもいいですがね」
どうせ無理でしょうが、と笑みを浮かべるバッツの顔に苛立ちを覚える。一々、挑発を聞くのも馬鹿らしい。マルティン達は既に十分に離れている様だし、それならば、本気を出しても問題ないだろう。
「いいぜ、寄生樹海よ。お望みなら、オレも本気をだしてやろうじゃないか」
ふーと、気持ちを落ち着かせるべく深呼吸。怪獣の肉で作ったジャーキーを噛み砕き、人から怪獣へと気持ちのスイッチを入れ換え、身体全体を怪獣の姿へと変化させ、吠えた。
「ぶッ潰す、LUAAAAAAALUAAAAALAAAAAA!!」
* * *
セリカワの身体が見る見るうちに膨れ上がり、大狂獣の姿へと変わる。宝石のように黒く輝く巨大なボディ、ギラギラと光る赤い眼、鋭く剥き出しにされた牙、雪の様な純白さの頭頂部、幾度と見て来た大狂獣、その姿だ。本体で直に相対するのは初めてであり、一瞬怖気づきそうになるも、気を持ち直す。何も恐れる事は無いのだ、寄生樹海は無敵だ。
「何故、寄生樹海が樹海という名前を冠しているか、分かりますか?」
俺は、一つ問いかけてみせる。返事はなく、唸り声と共に、強烈な爪の一撃が飛んできた。だが、慌てる事は無い。
「イースト区5で、増えた寄生樹の分身達をまるで森だと皆さんは言ってましたが、本体を取り戻した今、その範囲規模は、その比ではない!」
ボゴボゴボゴと地面が膨れ、その地中から俺の寄生樹海の姿を模した分身体の群れが一気に地表へと飛び出してゆく。大狂獣の爪撃は、一体をバラバラにしたものの、本体である俺には届かない。
「これが、単一型と群体型の双方の利点を備え持つ寄生樹海の真の力です。本体とほぼ同じ規模、強さの分身体数百体による森。このフィールドでどう戦えるのか見せてくれよ」
気分が高まり、思わず素が出てしまった。だが、今から始まるのは蹂躙劇。もう、小芝居も必要ないだろう。
「MISHAASHAAAAA!!」
「MISHAAAAAA!」
分身体が、大狂獣へ次々へと飛び掛かり、その巨椀を大槌の如く叩きつける、杭の如く突っ込ませる。俺は、それを大狂獣が弱るまで遠巻きに見ているだけで良い。
その筈だった。
「LAAAAAAAAAAAA!」
大狂獣が、自身へと振り下ろされる巨椀等知ったことかと、身体の一部が潰れるのも構わずに、分身の喉元へ喰らい付き振り回し、吠えた。すると、たちまち、その分身は砕け散り、なぎ倒された他の分身も同様バラバラになってしまう。。
その迫力に面食らうが気を取り直す。分身は本体より脆いのが仕様だ。奴の攻撃が危険な事は実証済みだった筈。臆するな、それに奴は手負いだ。再生する暇を与えず追い打ちをかければいい。
「MISHASHA!」
大狂獣の潰れた腕が再生するより先に分身をけしかけ、枝で形成したブレードでずんばらり、と斬りおとす。そのまま首を落としてやろうと再び振りかぶった所で、なんと、大狂獣が斬りおとされた腕をこちらも振りかぶり突っ込んできた! 無茶苦茶だ、命が惜しくないのか? 大体、まだその腕は再生してないんだぞ!?
面食らったせいで一瞬行動がフリーズしてしまった事に気付く。しまった、奴の方が早い! 大狂獣は、全身をバネに弾丸の如く飛び掛かり、生えてきっていない腕で分身へと殴りかかった。それでも、分身体を吹っ飛ばすのには十分な力だ。吹っ飛ばされた分身は後方を巻き込み、へし折れたちまちに動かなくなってしまう。
恐れが全くないのか、傷つく事も厭わず、大狂獣は暴れ狂う。数の上では俺の方が圧倒的に有利の筈なのに、ダメージをひとつ負わせるたびに、分身が複数ズタズタにされてしまう。少しでもひるんで隙さえ作れれば、一気に叩き潰せたはずだった。
なのに、次から次へと分身へ飛び掛かり、身体がちぎれ飛ぶのもお構い無しに、噛み砕き吠えまくり、両腕の爪を振り回し、まるで舞でも舞ってるかのように縦横無尽に、寄生樹海の森中を破壊をまき散らして駆け回る。
大狂獣が再生力を持っていることは知っていた。ならば、再生の限界まで致命傷を負わせるか、再生の及ばない弱点を潰すのがセオリーであり、この寄生樹海の森なら、それが可能の筈だった。
だがしかし、大狂獣は攻撃の手を緩めない。むしろ傷を追う毎にその苛烈さは増すばかりだ! 破壊された分身の代わりをすぐに生み出し続けなくてはいけない、攻撃の手を緩めずに攻め続けなくてはならない。奴が再生し、分身を破壊し尽くすよりも早く!
「ひ、あ……」
たしかに俺は分身達の影に紛れていた筈だった。なのに、気づけば大狂獣がこちらをギロリと睨んでいた。その身体は傷だらけであり、寄生樹海の分身による大樹の槍があちらこちらへと突き刺さっている。両腕は千切れており、再生はまだ始まったばかりだ。それでも、弱っている様にはとても見えない。両眼は爛々と尽きることのない怒りの火を灯している。
その視線がお前を殺すと告げている様で、思わず、息をすることを忘れてしまいそうになる。内心大袈裟だと思っていた、大狂獣と呼ばれる理由がようやく理解出来た。イースト区5で対峙した時の暴れっぷりの比ではない。やはりロメオの時は無理やりこの狂暴性を抑え込んでいたのだ。付け入る隙のある弱点と思われた、人間の時の理性やら情は、最早感じられなかった。
「正気の沙汰じゃねえ…… この化け物め」
思わず言葉が漏れた。脳内で危険を知らせる警報がガンガン鳴り響く。思い出すのは先日のマルティンの言葉。それが、耳の奥で木霊する。
『お前は、俺達を舐めすぎた』




