「チュートリアル 国内編」を書きました
ここからは各話ごとに、考えたことを記していきます。
【旧第1話】
(記憶が混濁しているときに、VRゲームなんかを遊んで良いんだろうか?)
靴を履く後ろ姿を見ながら、ぼんやりとそんなことを考える。
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初めに書いた出だしは、秋がマンションの玄関で病院から付き添ってくれた坂上を見送るというシーンから始まっていました。
一通り書き終えた8月の全体見直しで、「こんな地味な始まりは無いだろう」と我ながら呆れ、旧第1話はところどころを第5話「休憩」にコピペし全て削除。
飛び飛びで走り書きをしていると、このような内容がいつまでも残ったりするのです。
【第1話「それは少女が願った世界」~第2話「VRRPG『武士物語』」】
この2つの話は他の話と雰囲気が大きく異なるので、冒頭に持ってくるのが適切なものか迷いました。一方で他の話を持ってくると、時系列が主人公の体験に沿わなくなります。ただでさえ本作は世界が幾重にも重なり、時代を行き来してややこしい。そこに更に、例えばどこかでの3人の戦闘場面を出だしの掴みにするのは、話の把握をより困難にさせると思いました。
結局作品冒頭は、ゲーム『Re-birth』のオープニングから始めることになります。そんな第1話の最大の掴みは、タイトルの「それは少女が願った世界」でしょう。ですが私自身、数々の「なろう」作品を読んでいて、各話個別のタイトルを意識した覚えがありません。作者としてはこの「少女」が京であることが、第1話でバレバレに分かるよう書いているつもりなのですが、そもそも読者がこのタイトルを気にしていなかったら掴みにならないです。間接的すぎるのですが、タイトルを強調する手立ても無く。
あとこの2話は、1つにするか、2つに分けるかも迷いました。1つにすると6000文字近くになるので分けることにしたのですが、第1話がなんの引きも無い場面で終わることになってしまいました。
こうして作品の掴みとして弱いことは自覚しており、それは後述する数字にも現れるのですが、今も出だしを改善するにしてもどうすれば良いのか思いつかないままでいます。
【第3話「入学試験」】
最終実技試験で、試験官が様々な色の念体を念製します。この場面での念質の表現は、考えあぐねました。
念質は近ければ武士間で従魔や武具のやりとりが出来るという設定で、秋の念能力の特長と大きく関わります。ですが「水は火に強く、電気に弱い」といった強弱の相性関係はありません。色により念質の種類を表すと誤解を招きそうで、他に表現が思いつけば避けたかったところです。
【第4話「あんなふうに」】
念食獣により一般人に被害者が出る、数少ない話です。念食獣を怖い、恐ろしい存在にするにはこうしたシーンを上手く使うと効果的なのでしょうが、読者からするとありきたりで食傷気味でもあるように思い、ほとんど出しませんでした。
関連して、物見櫓の鐘の音に擬音語「(カーン、カーン)」を用いるかどうか迷いました。第1話~第3話で擬音語、擬態語を使用しているのですが、いずれもコミカルな場面でしたのでこれらについては躊躇しませんでした。しかし第4話は緊迫した場面です。葛藤しましたが、この擬音を用いれば走り読みされてもまず見落とされること無く、情景が伝わるはずです。ほかに分かりやすい表現を見い出せず、使用しました。
ところで。小松校長が倒した念食獣は何レベルなのでしょう? 校長は念深D+、一撃で倒せる念食獣はせいぜいD-までです。それにしては、念食獣の強さと大きさは必ずしも比例はしないのですが、元ネコがゾウ並みの大きさにまで育っているようです。他の話を鑑みるとC以上はありそう。……ということで、ここでは演出優先、大きさの割には弱い、物語屈指の見かけ倒しな念食獣に登場してもらいました。
【第5話「休憩」】
舞台は不動産屋、坂上と天野が登場する回です。私の知人の住むマンションがこのような状況にあって、設定に拝借しました。仲の良い大家と店子という人間関係は、話の取り回しがしやすかったです。
元々この「大外の世界」は現実の世界として書き始め、霊和の知識をロードされた主人公がVRゲームで記憶を取り戻す、という話にしていました。しかし秋の本拠地からの移動とか、大和国武士団の誰かをゲームプレイのお守りに付き合わせることとか、現実世界とするには無理があります。それでこの世界もVRゲームの一部にと変更しました。
【第6話「授業」、第7話「士道」】
この2話は説明回です。一人称視点の話を書く中で、主人公と読者とに差がある知識を扱うのは気を遣いました。
主人公の記憶が混濁しているといっても、武士や念食獣についてのある程度の知識は衣食住レベルの常識のはず、知らないとこのパラレルワールドでの生活に支障を来すでしょう。こうしたことに第6話になって気づき、第1~5話の関連する箇所を書き直しました。
書き手が「登場人物達にとって常識で、読者は知らない知見」をきちんと意識することは重要だと思いました。書き手は当然ながら全てを知っているので、つい見落としてしまうのです。逆にそうした知見を読者に伝えるのは、登場人物達の会話で常識を語らせるわけにも行かないですし、思いがけず苦労しました。
【第8話「手紙」、1つ飛んで第10話「家族」】
オリジナルの滝沢秋が武士を志した動機を扱う回です。大和国を含め世界の大半の国々は、天野の刷り込みもあって、「念能力を持ったら念食獣と戦うのは当たり前」という価値観を形成しています。生死がかかる話なのでさらに一押し、高校生が戦いの場に身を投じようとする動機を用意しました。
一方でこの妹の記憶は、大外の世界で生活を送るには障害になります。この世界には滝沢の住むマンションと、そこから一本道で行き来できるコンビニしか存在しません。……といったことに物語を書き進めて気づき、「手紙」が届く時期を野外演習による脱落者が出る前に移動して、第10話「家族」を追加しました。
【第9話「野外演習」、第11話「念深」、第12話「血の気の引く思い」】
秋が普通の高校生から、念信を使える武士になるまでの話です。物語を通して秋が駆使する、従魔の操作や念信の様子を紹介しています。
こうした地味な展開を書いていると読者が離脱しないかと気になるのですが、武士の戦闘の前提を浸透させる重要な役割を担っています。一般人が武士の能力を得る過程で新鮮に感じるであろう出来事を想像しながら、丁寧に書き進めました。
【第13話「全校能力測定」~第16話「超高校級」】
これらは、第17話から始まる菊vs京へのつなぎの話になります。
まず秋と菊が代表に選ばれる過程。ここは学内の勝負を描いて、ほかの先輩3人のキャラを立たせるのが常道に思います。しかしそれでは話が長くなりますし、秋も名前を忘れるようなキャラなので、サクッと選考が終わるような選抜方式を考えて進行させました。
そうして士道大会が始まります。この大会、当初は全国決勝まで進めるつもりでいたのですが、早々に負けてもらうことにしました。理由は良い競技ルールを考案できなかったからです。ゲーム化されてeスポーツの定番になるくらいの競技ルールに仕上げてやろうと意気込んだのですが、てんでダメでした。
この競技はその成り立ち上、念食獣狩りの技量向上に結びつく内容で無ければなりません。なのでまず、同時に複数人が戦うチーム戦にしました。次に勝利条件、各種漫画やラノベ作品でこの手の独自競技が登場しますが、これには大抵2つの条件が用意されると思います。1つは相手を全滅させる、もう1つは相手の本陣を奪う、ですね。
前者は相手を殺傷させるわけにはいかないので、紙風船もどきを付けてもらうことにしました。見栄えが悪いのですが、昭和20年相当の技術で出来そうな仕掛けを他に思いつけませんでした。
そして後者、力に勝る敵を知恵で覆す展開にするには重要な条件なのですが、これが問題になりました。念食獣狩りでは本陣に相当するものは存在しないので、実戦につながらないこうした勝利条件を用意できません。この条件があれば秋の念幅能力はとても有用になるのですが、代案は念食獣案山子を発見してポイントを稼げる、といった程度しか思いつきませんでした……
この全校能力測定から信濃大会のくだりはプロット作りから難航し、どんどん後回しにして、かなり後半に書くことになりました。
【第17話「北中部大会 開会式(夏)」~第20話「初めての」】
ここでようやく主役の3人が揃います。作者としても早くこの回に持ち込みたかったのですが、第17話までかかってしまいました。
これら4話は、戦闘のプロット策定にこそ時間を要しましたが、執筆はハイペースで進められました。菊と京が絡む話はとても楽しく書けます。
なお第17話ですが、タイトルと日時ラベル風表記の「(夏)」は、もちろん第3話のソロバンAIの台詞『ヒロインは夏に登場するのです』に対応したものです。
【第21話「校長の仮面」】
小松校長が延々と自分語りをするのですが、大蛇が初登場したり、第44話「風雨強き夜に」の展開が唐突にならないよう地ならしをしていたりして、物語全体の進行を下支えする地味ながら重要な回になります。
校長の義手は、この世界の回復系能力の限界と、ある程度は念能力で補えることを示すために設定しました。佐脇達3代目の大蛇戦では、菊と京は失った左腕や右足を念体で補って戦い続けています。
【第22話「武士研修」~第24話「修了」】
この3話は、海外遠征に向けてのつなぎの話です。秋達は富士山の樹海をモデルにした場所で研修を受けます。
秋の地元を長野県にしたのは、高校を卒業した後に一旦でも実家に戻らないのがあまり不自然にならないよう、いつでも帰れる近辺の出身にしたかったからです。秋は父にこそ反感を抱いているものの、家族との仲は悪くありません。ですが家に戻るとなると冬子との再会を一言も描かないわけにはいかず、家族との関係も触れざるを得ないでしょう。これらは物語全体の進行には関係が無いので、帰省させたくありませんでした。
第23話「親が決めた縁組み」は、大和国では武士が名誉ある存在であることや、菊と京の家庭事情をうかがわせることを意図した回です。
なお第24話で「チュートリアル 国内編」が終わりとなります。チュートリアル編はもともと1つのつもりだったのですが、長すぎるので国内編と海外編に分けました。そうした事情で国内編は特に大きく盛り上がる事も無く、ここで終了します。