♠初めての
「……5対4、御野士道高校の勝利! 一同、礼っ!」
「ありがとうございました!」
監督や補欠メンバーの到着を待って、一礼。
相手選手と握手を交わし、歓談に入る。
のだが……
赤5番の伸ばす手を、青5番は握ろうとせず、「ぐるるる……」と唸っている。
「老良、いい加減にしろ!」
見かねたのだろう、こちらにやってきた青1番の選手が老良さんの頭をはたき、ようやく握手。
……今度は強く握りしめて、放さない。
再度、青1番のはたきが入る。
「お前は、ほかの選手の方と挨拶してこい」
そう言って老良さんを追い払い、青1番は丸山さんに詫びの礼。
「すまんな、あいつは称号持ちだが、中身は子どもなんだ」
そんな青1番の弁解に、
「そうみたいですね」
と、笑顔を返す丸山さん。いつもとキャラが異なる気がするが、楽しそう。
苦笑いする青1番だが、
「ただ感情はチョロいが、戦闘分析は一糸も乱れないんだ。ああいう煽りはやっても無駄だぞ」
と、丸山さんに加え俺の顔を見て、可愛い後輩(?)を擁護する。
「はい、そんな感じですね。どんどんお顔が真っ赤になるのに、攻撃は正確なままでした」と、涼しい顔で丸山さん。
「はは、分かっててやったのか。こりゃ、老良に勝ち目は無いな。いい試合、ありがとよ」
「これからのご健闘、応援させていただきます」
そう最後に言葉をかわし、去っていく青1番。うちの主将もそうだけど、主将に就いている人は心が大きい。
……ほかの選手とも挨拶を交わし、いつものように鳩をリクエストされては披露していると、老良さんが俺の前にやってくる。
ちょっと意外だったことに老良さん、俺の隣にいる宮▇█先輩には、戦闘指導をしていた。丸山さんと戦っている間にも、先輩の戦い方を分析していたようなのだ。
「……のです」
「えっ?」
そんな老良さんがさきほどとは打って変わって、小声で何かをつぶやいてくる。
小さすぎて聞こえぬ……
「……して……のです」
「はい?」
いじわるをするわけではないのだけれど、聞こえないものは聞こえない。
「うふふ、鳩よ」
丸山さんがなんだか弾んだ声。とても楽しそう。
「側女は黙っているのです!」
お、老良さんの調子が戻った。
そして俺をキッと見上げ、
「念信してみたいのです!」
と、声を上げる。
そのあまりに真剣な声に、周りの歓談が止まり、一斉に注目を集める。
「あー、また、すまん」
再度、青1番の登場。この人、きっと苦労性だな。
「うちの高校には、老良と属性が合うやつがいなくてな。こいつ、念信をした経験が無いんだ。無理言って、すまん」
と、解説してくれる。
試合で信号弾を使用したのは、念信を利用できないからという、単純な理由だったのか。
「そういうことですか。大丈夫だと思います。……ほら、はいっ」
青1番の意外そうな表情。老良さんは不安げ。
鳩1羽を念製して、老良さんの胸元に飛ばす。
「可愛いのです」
その鳩を両手で大切そうに抱え、高校生らしからぬ胸でポヨポヨさせる。
ああ、どうして俺は、あの鳩ではないのか(通算2回目)……
「いてっ……」
右腕に痛みを感じ横を向くと、殺意を帯びた丸山さんの目。
今日はいろいろな丸山さんが見られるなあ。
そしてつねられた腕が、ガチで痛む。俺の念深は浅いが、ちょっとやそっとでここまで痛くはならないのだけど……
「入るのです……」
そう言って老良さんは鳩を胸に押し込み、鳩はゆっくりと沈んでいく。「おー」と、御野士道高校勢から歓声が上がる。
【もしもし…… 老良さん、聞こえる?】
「聞こえるのです!」
びっくりするような大声。
みんな苦笑したが、拍手が起こる。
【声に出さなくてもいいから】
【こ、こう、なのです?】
【そう、その調子】
【初めて念信することができたのです】
【良かったね】
……なんて念信を続けると。
「やはり、あなたさまは私の運命の男性なのです!」
と再度の大声。
周りから、冷やかしの口笛が飛ぶ。
「ええいっ!」
恥ずかしすぎる。
俺は老良さんから鳩を離脱させて、解放。
「早いのです。もっと、続けるのです」
老良さんがパシパシと叩いてくるが、俺の隣から不穏な念が漂い始めているのだよ……
そうしていると……
「赤4番、いいかな?」
と、後ろから渋い声をかけられる。
「は、はいっ」
と振り返り、思わず直立不動。
声の主は上級武士、長尾・風・晴信さんだった。
「キミの念体は見事だが、念質は何系なんだ? 老良は希少属性のはずだ」
「はい、それが、俺……私の属性ははっきりとしていないのです。今のところ誰とでも念信を張れています」
「ほお……そんなことがあり得るのか……」
俺の肩に泊まらせている鳩を眺め、思案する長尾さん。緊張する。
「ありがとう。キミはまだ念幅系の練習が足りていないようだが、なに、どんどん伸びる。期待しているぞ」
そう言いながら差し出された右手。
「あ、ありがとうございます!」
握手をしていると、負けた悔しさが晴れてくる。
それまで耳に入らなかった、蝉の声に囲まれ。
こうして俺の夏は終わった。




