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♠北中部大会

♠照和38年(YE2738年)7月

♠越中県 北中部大会試合会場


「最終確認するぞ。編成は……」

「……はい!」

 小林監督が言葉を切る都度に、レギュラー・補欠の8人が返事をし、気合いを高めていく。御野士道高校との試合、最後の円陣だ。

 確認している布陣は、南から、主将と副主将の組、宮▇█先輩と俺の組、丸山さん単独だ。それに加えて、俺の鳩2羽。2-2-1の2。

 赤のゼッケンを付け、西へと攻める。


「滝沢の鳩2羽は中央を一気に侵攻、最奥が見え次第、南北二手に分けて探せ。敵の発見を優先、固定目標は捨てろ!」

「はい!」

 県大会とは全く異なる戦略、その理由は()()の戦力差にある。今回の敵は上級武士(サムライ)(よう)する。老良さんの詳細は不明だが、念能力が念深寄りなら1対5でも苦戦を免れない。

 更に状況が悪いのは、御野のほかの4人も、我々松本と同等以上の能力を備えている可能性が高いこと。士道高校の基本的な強さは、単純に学区内の人口に比例する。全国の士道高校で双璧と称される東の(いん)()士道、西の薩摩士道は例年40人の武士を排出する。大和国でもっとも人口が多いのは武蔵府だが、士道高校も9校あり、1校あたりは20人強で松本士道と大差はない。そしてこの点、士道高校が1校のみの御野県は30人強と、北中部では例年1位になる。

 そこで俺は固定目標探索を捨て、敵の早期発見を期待されている。敵出発地点近辺まで進攻し、そこから逆に戻って敵を発見しようという寸法だ。


「宮▇█は、滝沢の補助だ」

「はい!」

 しかし俺は2羽の視覚を共有すると、移動速度が激減してしまう。そこで今回は、宮▇█先輩が俺の移動の補助に就く。他案として俺が1人遅れて進行するという作戦も上がったが、敵は恐らく2-1-2、老良さんのいない2人組を4人で一方的に倒さない限り、勝機がないと分析された。


「丸山は老良と1対1の戦いに持ち込んで、できるだけ(ねば)れ…… すまんな」

「いえ、やり遂げます!」

 言葉の鈍る監督に、丸山さんは力強く(こた)える。

 このような展開になるかどうかが、(こん)戦いの鍵を握る。もし御野士道が5人1組、あるいは4-1と堅実な戦術を取ると、こちらの勝ち目は薄い。しかしその可能性は低いと見られていた。それは俺を巡り生じた、老良さんと丸山さんの因縁があるからである。敵は丸山さん発見を優先して、1対1の戦いに持ち込もうとするのではないかと、予想されていた。

 ……とても残念感が漂う予想だが、俺も不本意ながらそうである可能性は高いと思っている。そうした、いわばお遊びが許されるほど、高校地域大会での上級武士(サムライ)の力は圧倒的なのだ。


「開始、1分前!」

 審判員から声がかかる。今日の審判は越中士道高校の教師、越中とはブロックが異なるので決勝まで当たらない。

 そういえば老良さんの審判はどなたが担当しているのだろう? 武士レベルの先生では、上級武士(サムライ)の速さにはついていけないだろうに……


「……以上だ。あとはお前たちで締めろ」

 円陣から監督が去っていく。


「みんな、勝つぞ!」

「おー!」


 ……


(パンッ)

「双方、問題なし。試合開始!」

 ピストルの音。2つの煙が会場に上がり、審判から合図が下りる。


「従魔召喚、壱! ……弐! ……参!」

 俺は3羽の鳩を連続念製、すぐさま2羽を敵のいる西に飛ばす。そして残りの1羽は丸山さんの胸元へ。


【滝沢くん、聞こえますか?】

【うん、ばっちり】

【今日はがんばろうね!】


「おい、行くぞ!」

 丸山さんと念信の確認をしていると、主将が俺の頭を()()いて、号令をかける。


 くすくすと笑いが漏れ、「おー!」と皆が応じる。オレの顔がニヤけてしまっていたようだ。

 鳩に負けじと、俺たち5人も全開で駆け出す。


【ごめんなさい……】

 少しして丸山さんから再度の念信。俺の中でテヘペロな丸山さんの笑顔が展開される。

『ちっ』と予想通りソロバンAIの舌打ちが響くが、気力がみなぎる。


「左! ……右! ……足元注意!」

 宮▇█先輩の声掛けを信頼して、先を行く主将・副主将組に遅れじと続く。そして――


 見えた!


 開始1分ぐらいか? 2羽の鳩が、敵陣出発地点を視界に捉える。敵の補欠だろうか、こちらを指差す姿も視認できる。

 そこから鳩を左右に分けて木々に潜り込ませ、手前側へと探索を開始。敵選手も鳩に気づいたかもしれないが、さすがに後方を気にしながらこちらに進行する余裕はないはず。


「敵陣発見! 鳩、折り返しに入ります!」

「うん、分かった。任せて!」

 俺の報告に表情を引き締める宮▇█先輩。ここからはことさらに、2羽の視覚情報に注意を払わなければならない。俺自身の走る速度は、鈍ってしまう。今回は2-2-1ではあるが、実質は4-1、俺たちの組は、主将組と可能な限り距離を詰めることが求められている。

 ときに宮▇█先輩と手をつなぎながら、野山を駆ける。と――


 南側の鳩が、尾根がせまり木々がまばらになったところで、敵2人を捉えた。俺たち4人のほぼ真正面だ!

「敵2名発見! 真正面です!」

 すぐ宮▇█先輩に報告、先輩も先を行く主将組に大声を上げる。


「滝沢、距離は分かるか?」

 足を止めた主将組に俺たちの組が追いつくと、主将が声をかけてくる。

「け、経過時間から判断して、4分の1を過ぎたところでしょうか。き、木のまばらな尾根を越えて(くだ)り、密集地帯に急いでいます」

 俺は呼吸を整えながら報告する。

 距離感をつかめない点も、偵察技量上の課題だ。

「その進行ペースだと、こちらより少し速い程度…… 向こうも、固定目標の発見は意識していないな」

 あごに手を当て、考える主将。こちらは俺が遅い分、どうしてもスローペースになる。


「滝沢、北側の鳩は解放して俺たちの先行をさせろ。待ち伏せに適した場所を探すんだ」

 作戦を組んだ主将に従い、北側を探索していた鳩を解放。再び手元で念製し、俺たちの前方、すなわち西へと飛ばす。

 それを見届け、主将は言葉を続ける。

「老良がさらに単独先行して、すぐ目の前にいる可能性があるが、そこは賭けだな。ここからは滝沢に案内を任せて進むぞ」

「はいっ」


 2羽の鳩と視覚共有しながら、先へと走る。会敵する可能性はかなり低いので、身を隠さず突き進む。宮▇█先輩は、変わらず横で付き添う形。これ、介護されているみたいで、(てい)(さい)が悪い……


「主将! 木々が途切れている地点があります」

 つい余分なことを考えながら進んでいると、鳩が待ち伏せに適当そうな地形を発見した。

「越えるのは間に合いそうか?」

 後ろを振り返り、報告する俺の意図を汲み取って、主将が聞いてくる。正直、そこまでは分からない――

「手前側はずっと森が続いています。そこまで進んで判断するのは、どうでしょう?」

「そうだな。行くぞ」

 即決。ペースを速めて走る。

 もう視覚共有は、敵を尾行する鳩の分だけ。俺の負担も減っている。

 と――


【会敵! 老良さん1人、こちらも発見され――(はや)いっ!】

 丸山さんから念信が入る。

「丸山さん、老良さんと会敵! 戦闘状態!」

 3人に聞こえるよう、俺は大声で叫ぶ。

 同時に丸山さんに応答しつつ、その視覚を共有する。


「! うっぷ……」

「滝沢くん、大丈夫!?」

 思わぬ吐き気。

 口に手を当てしゃがみこんだ俺に、宮▇█先輩が駆け寄ってくる。

 丸山さんの視覚を()た途端、激しく視覚が移動し、迫る老良さんの剣をかわす様子が目に入り、酔ってしまった。


「大丈夫です。行きましょう!」

 歯を食いしばって、立ち上がる。

 次元の違う戦いを繰り広げる、丸山さんの健闘を無駄にはできない。

 先輩方に謝り、先を急ぐ!


【はあ……はっ……私の……ほうが先……泥棒……猫じゃないっ……】

 聴覚だけに戻した丸山さんとの念信を耳にしながら、森を分け進む。

 老良さんに何か(ののし)られているようだが、想像したくない……


「ここか!」

 50メートルほど開けた緩い斜面に差し掛かると、主将が声を上げる。

「敵の位置は? 丸山は?」

 畳み掛けられる質問。

「間に合いました。ここを渡って待ち伏せる時間はあります。丸山さんは、まだ交戦中」

 丸山さんの視覚を再度共有して、様子を確かめられれば良いのだろうが、俺の動体視力で形勢を把握できそうな気がしない。


「よし、ここから班を組み替える。俺と滝沢で南側、副主将と宮▇█で北側に伏せる。あの鳩は副主将に繋げ」

「はいっ」


 森の切れ目を渡って、散開する俺たち4人。

 俺も鳩を操作しながら、身を隠せそうな場所を探した。


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