異世界における他殺死ガイド92
カホト大陸 ―港町ポルトへ向かう馬車の中―
ゴトゴトゴト
城に泊り一晩ぐっすり寝たジーク一行は、魔王の居るヘデラ大陸へと向かうため馬車で港町ポルトへと向かっていた。
水棲亜人のアウロラが幌のかかった馬車の前側から顔を出し、馬車の行き先に何があるのかを興味深げに眺めている。
「……」
その様子を後ろから観察するのは勇者ジーク。
サラサラ コポポ
アウロラの纏う服は魔法水で構成されており、泡や水の流れがその奥を隠す。
だが時折泡や流れの落ち着く時があり、常にアレ今見えたかも? が続く色々ギリギリな服である。
だがジークに効果はない。
アウロラはイルカのような見た目をした水棲亜人である。その体はイルカのように白い部分と青い部分があり、腕や足のところどころにヒレが付いている。さらに肋骨の間にはエラがある。
ジークはアウロラは非常に美しいと感じるものの、別生物感が勝ってしまい扇情的であると感じることは無かった。
つまりジークはケモナーでは無かった。
『アレハナンダ?』
アウロラは陸の物はなんでも目新しいらしく、見たことの無い物を見つけるとすぐに身を乗り出す。
そのたびにアウロラの腰はジークの前に突き出され、ギリギリは続く。
だが後ろにいるジークは冷静である。冷静なままそういうものを見た時、浮かぶ感想はただただ「美しい」であった。
美しいものを見たいと思うのは人の性である。
ジークは何度も角度を変えてアウロラの腰を観察した。
それを見たジュレスがジークの足をムクロ鋼製の義足で踏んだ。
ズカッ!
サァァァ
ジークの足から再生の光が発生した。
「ああ、ジークすまないふらついた」
「大丈夫か?」
ジークはジュレスの義足に目をやり、少し落ち込んだ様子を見せた。
「ジュレス、やはり足を直す方法を探そう」
「私が悪かった」
「何が?」
『オマエタチ ケンカハヤメロ』
アウロラが精神感応魔法で二人に語り掛ける。
アウロラは陸で使われている言葉を知っていた。しかし、聞いて理解はできるものの発声が難しかったため、精神感応魔法で語り掛けるようにしていた。
ここでジーク達とアウロラの出会いについて語る。
ジーク達が海に近いアグリアの祠に向かった時、陸に打ち上げられて弱っているアウロラを見つけて助けた。助けてもらったアウロラは恩返しをしたいと精神感応魔法で伝え、ジーク達についていこうとした。
危険な旅なのでジーク達は断った。しかしアウロラは食い下がった。
アウロラの鼓舞激励により仲間の能力を四倍にできると聞いてジークが食いついた。自分を仲間にすることを条件に、アウロラは鼓舞激励をジーク達に行使すると約束した。とにかく力の欲しかったジークはすぐにアウロラを仲間にした。
鼓舞激励によって四倍となるジークの能力。その効果は永続化され、ジークはこれまでの四倍の力を得た。
ちなみに魔法水でできた服は、ジークがヌベトシュ城の倉庫で見つけて収納に入れていたものである。しかし、アウロラが陸上で呼吸できているのはこの服のおかげではなく、陸上呼吸の魔石の効果である。何故そんなものをアウロラが持っていたのかと言えば、アウロラの陸上への好奇心が理由である。アウロラはいつか陸上を旅することになった時のため、陸上呼吸の魔石を常備していたのだ。
そして、アウロラはジーク達に自分が水棲亜人達のコロニーの長の娘であるという事を伝えていなかった。
海上 ―ヘデラ大陸へと向かう船の上―
ザアアアァァァ……
港町ポルトに着いたジーク達はそのまま船に乗り込み、ヘデラ大陸へと向かっていた。
「ナウ―」「ウーラ、うららー♪」
船の甲板で頭に羊の巻き角のある女性が、猫と人の合成魔獣を愛でていた。アリエスとウーラである。
「……」
それを少し離れたところから見ているのはジオ。ジオもウーラを愛でたかったが言い出せないでいた。
ここでジオがジーク達の仲間になった経緯を説明する。
ジークの暗殺に失敗したジオは気絶させられた後、人気のない建物に連れ込まれた。そこでジオはジークから尋問を受けることになった。
~ジオの尋問回想~
ガッ
四肢を縄で拘束され、身動きの取れないジオの胸ぐらを掴むジーク。
「俺の暗殺を誰に頼まれた? 言え」
「ふん、何をされたって口は割らないぞ」
ジオの目標は一人前の暗殺者になることである。
一人前の暗殺者はどんな拷問を受けようと依頼者の名前は出さない。
ギルドの同僚達は家族である。家族に不利益や危険が及ぶかもしれないことは自決してでも防ぐ、そうジオは考えていた。
だがジオの脳裏に師ザトーの言葉が浮かぶ。
『待つのが死だけであれば良い。死よりももっと恐ろしい目に合わされるかもしれない』
死よりももっと恐ろしいこととは、一体それはどんな拷問なのかジオは内心不安で仕方がなかった。
「そうか、覚悟が出来ているんだな」
ジークがジオの後ろに回る。
「……何をするつもりだ」
「こうするのさ」
ジークの手がジオの脇腹に触れる。
「っ!」
ジークがジオの耳元に口を近づけて囁く。
「最後のチャンスだ。依頼者の名前を言え」
「だ、誰が……!」
「そうか」
ジークはジオの脇腹に置いた手に力を込め一気に――。
コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ
「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
くすぐりだした。
暫くしてジークの手が止まる。息も絶え絶えのジオ。
「っは、はあ、はあ、はあ……」
「言え」
「こ、こんなことで」
コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ
「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
ジークの手が止まる。
「はあ、はあ……」
「言え」
「い、言うものかよ! こんなもの拷問の内に入らないぞ!」
「そうか、だが体はもう出来上がっているみたいだぞ?」
「体が……?」
ジークはジオの背中を指でつついた。
「うっ!」
さらにつつくジーク。
「うああっ!」
そのたびに身をよじるジオ。
くすぐられればくすぐられるほど人の体は敏感になり、くすぐりに弱くなっていく。
もはやジオの体は全身くすぐり耐性ゼロの状態であった。
「ほら、もうどこを触られてもくすぐったいだろう?」
「っく、うあっ」
ジークの執拗な責めにうめくジオ。
再びジークがジオの耳元に口を近づけて囁く。
「ここらで言っておいた方が身のためだぞ」
キッ
ジオがジークの顔を睨む。
ジークは間近に見たジオの目に涙が浮かんでいるのに気づく。笑いすぎて涙が出たのだろう。
だがそれはジオの表情と掛け合わされ、ジークの嗜虐心を刺激してしまう。
コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ
「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
ジークの手が止まる。
「はー、はー、はあ……」
ジークはジオの首の横に手で触れた。
「あうっ!?」
これ以上くすぐられたくないジオは首と肩でジークの手を挟み、抑え込む。
ジークは挟まれた手を抜こうともぞもぞする。
そのこそばゆさは今の敏感なジオには強烈なくすぐったさとなって襲いかかる。
「~~~~~っ!!!」
声を出さずに堪えるジオ。
だが堪えているのはジークも同じであった。
ジオは汗をかき、着ている大きめのシャツが肩に張り付いている。顔を赤くし、辛そうな顔で悶えるジオ。
なによりもほのかな良い香りがジークの脳を侵食していた。
これ以上は駄目だ。誰か止めてくれ。
ジークはそう思ったが、ここにはジオとジークの二人きりである。
助けは望むべくもなかった。
~ジオの尋問回想終わり~
ジークが道を踏み外すギリギリ、寸でのところでにおいを辿ったウーラが二人の元に辿り着いた。
その後ジオは拘束されたままジークの仲間達と対面した。ジオを町の自警団に引き渡そうと移動する際、ジオはジークが勇者と呼ばれる存在であり、勇者の仲間はレベルアップにより強くなることを聞く。
ジオが自警団に引き渡される直前にやってきた暗殺者ギルドの使いから、暗殺の依頼者が魔王の手先だったことが知らされ、謝罪を受けてジークは暗殺者ギルド及びジオを赦した。
拘束を解かれて自由になるジオ。
一人前の暗殺者になるために強さの欲しかったジオは、レベルアップ目当てでジーク達の仲間になろうとする。
ジオはジーク達に対して迷惑をかけたことに対する贖罪として魔王退治に協力すると言った。
ジークはこれ以上ジオの近くにいるのはまずいと身の危険を感じ難色を示したが、周りの仲間が推したためジオを仲間にしてしまった。
案の定、仲間にするときの上目遣いやらのゴタゴタでジークの精神は疲弊した。
「ジオもウーラを撫でたいのか?」
遠くから眺めてくるジオに気づき、アリエスがウーラを抱えたままジオに近づいて聞いた。
「べ、別に……」
そっぽを向くジオ。
「ほらここを」
アリエスはジオの手を取り、ウーラの首に当てた。
「あ……」
あまりのモフワリ度に思わず撫でてしまうジオ。
「ゴロゴロゴロ」
ウーラはゴロゴロ言うエンジンと化した。
ジーク達の乗った船はヘデラ大陸へと向かって進んでいく。




