異世界における他殺死ガイド91
モルトウ王国 ―アグリア封印の祠―
大きな赤い奇怪な魔物が叫ぶ。
「ギィィィィア!」
その魔物は四肢の切断されたトカゲの様な見た目であり、切断された四肢及び尻尾、羽の部分からは赤い触手が伸びていた。
超生物、火竜アグリアの胴体部分である。
それに対峙するのは勇者ジーク。
首部分の触手の中に埋もれた口から叫んだアグリア胴体であったが、触手をうねらせるだけでジークへと襲い掛かりはしない。
何故ならアリエス、ウーラ、ジュレス、ジオ、アウロラの五人がアグリア動体の周りを囲み、謎の力場を発生させ、アグリア動体の動きを抑え込んでいたからである。
それは仲間が五人以上かつ絆の深さが一定以上になって初めて使用可能となる、魔物封じの魔法であった。
「今だジーク!」
ジュレスが叫ぶ。
「うおおおおっ!」
ズバァッ!!
闘気を纏わせた自分の身の丈もある大きな剣を軽々と振り上げ、アグリアの胴体を両断するジーク。
「ギィアアアア!」
だがそれだけではアグリアは止まらない。触手をうねらせ、魔物封じから逃れようとする。
「これで、終わりだ!」
ババババッ!!
大剣に纏わせた白い闘気の光が宙にいくつも線を描く。
アグリア胴体は食べやすいサイズに細切れにされ、ジークの悪食により平らげられた。
コオォォォォ
アグリア胴体を平らげたジークの体に赤いオーラが立ち昇る。
これでジークは八つに分けられたアグリアの体の全てを悪食により取り込んだことになる。
それが持つ不死性のため封印するしかなかった火竜アグリアはここに、ジークの手によって討伐されたのである。
ジークが自らの手を見る。その手からも赤いオーラが立ち昇っている。
「凄い力が溢れてくる。これなら……ジャブアを……ぐうっ!?」
「ジーク!?」
頭を抑え、ふらつくジークにジュレスが駆け寄って支えた。
「大丈夫だ、問題ない」
そう言ってジュレスを手で制するジークだが、額には玉の汗が見える。
ジークの体から立ち昇る赤いオーラはアグリアの力。火竜アグリアもまた、魔王ジャブア、ディー・エクス・マキナと並ぶ封じられるべき災厄である。
御しきれぬ強い力はむやみに取り込むべきではない。
例えそれが目的達成のための近道だったとしても。
***
アグリアの討伐完了後、ジーク達はマスカッシュ城に戻った。
そして、アグリアの祠全ての封印が解かれていたこと、アグリアは全てジークが取り込んだことをモルトウ王アルヴィスに報告した。
モルトウ王国の召喚した勇者プロスト達一行はブロデアの卵の対処を終え、帰ってきていたものの、未だザラメは戻っていない。
アグリアの力を取り込んだが今なら魔王も倒せるはずと、ジーク達は魔王討伐に行くことをアルヴィスに伝えた。
ザラメのいない今、不測の事態に備えプロストらはモルトウを守るために残る必要がある。
アルヴィスは魔王討伐に協力できないことを謝った。
ジークは魔王討伐の後はモルトウ王国の問題解決に協力すると約束した。
マスカッシュ城 ―医療所―
「ジーク様、遂に火竜アグリアの全てを取り込まれたのですね」
「ああ」
医療所にて、サーリアと話すジークである。
サーリアがコマキの全快後も医療所で再生魔法を行使し、怪我人などを直して回ったところ女神だ何だと言われて崇められ、集団で拝みに来たりするのでそれをコマキが威嚇して追い払うのだが一時的な効果しか無く、なんやかんやでサーリアとコマキの居場所は医療所に固定されてしまった。
「では」
「ああ、この力があればジャブアを倒せる。グロツへ向かうよ。アルヴィス王にはもう言ってある」
「ジーク様、私も一緒に」
「駄目だサーリア。あいつはこの力があっても楽に勝てる相手じゃない。君を連れてはいけない」
「そう、ですか……」
「大丈夫、俺には心強い味方ができた」
そう言うとジークはアリエス達五人の仲間を見回す。
「皆さん、ジーク様を助けてください。お願いします」
アリエス、ウーラ、ジュレス、アウロラはサーリアに対して笑いかけた。ジオは外を見ていた。
「ジーク様、完全ではありませんが、これは以前から戦いの助けになるよう練習していた魔法です」
サーリアはジークに対して手をかざすと、呪文を唱えだす。
サァァァァ
ジークの体が光りだす。
「これは?」
「対象及び対象の周りを癒す範囲回復魔法です。これが永続化されればジーク様は周りの者を癒す力を得ることになります」
「ありがとうサーリア。これこそ俺達に最も必要な力だよ」
サーリアの手をつかみ、笑顔で感謝を伝えるジーク。
サーリアは蕩けた。
すぐにグロツへと向かいたがるジークを仲間の疲労回復を理由にジュレスが止め、ジーク一行はその日マスカッシュ城に泊ることとなった。
マスカッシュ城 ―城内浴場 女湯―
石造りの浴場に湯気が充満し、視界が悪い。
湯につかる影が複数。
隣り合って座るのはサーリアとジュレスである。
ジュレスは義足を外しており、移動は周りに補助してもらっていた。
「それにしてもジュレス……」
「はい」
「アリエスさんもジオさんもアウロラさんも、皆さん美人過ぎませんか?」
サーリアが後ろを見ると、体を洗い合いキャッキャウフフしているアリエスとアウロラがいた。
二人とも亜人の特徴を持っているが、顔は女性であっても見惚れるほどの美しさであり、体についても大き過ぎず小さ過ぎず、細過ぎず太過ぎず、完璧と言ってよいプロポーションであった。
「そうですね……」
「ジーク様はひょっとして全員を娶るつもりだったりするのかしら?」
「いえ、今のところそういう話は聞きません」
「そう、でもジュレス、あなたもジーク様との距離感がこれまでと少し違う気がします」
ジトリとジュレスを見つめるサーリア。
「そ、そうでしょうか?」
「……」
タラリと汗をかくジュレス。
「そういえばジオさんの姿が見えませんね?」
「ジオなら男湯の方ですよ」
「なんですって!? 大変!!」
湯から出ようとするサーリアをジュレスが止める。
「サーリア様、ジオは男性です」
「え?」
「ちょっと詳しくお願いします」
いつの間にかサーリアの横にコマキがいた。
「ジュレス様、あの方はあの美貌で本当に男性なのですか?」
「は、はい……」
「まずいですねサーリア様」
「まずいって、何がですか?」
「お風呂に入る前、ジーク様と雑談する機会があったので聞いたのですが、勇者には仲間との間に絆度というものがあり、これが上がると様々な力を行使できるそうです」
「あなたいつの間にジーク様と雑談なんて」
「そんなことより、この絆度ですがその名の通り、仲間との絆が深いほど高くなります。そして、現在一番絆度が高いのがジオ様だそうです」
「「え?」」
私じゃないの? とでも言いたげに驚くジュレス。
「お、同じ男性ですもの、分かり合えるところが多いのでは?」
サーリアは平静を装う。
「そうでしょう。ですがジオ様はあの美貌。大丈夫だと言い切れますか?」
「だ、大丈夫とは?」「ジーク様に限ってそんな……!」
「試しに頭の中でシミュレーションしてみましょう」
「シミュ……何?」
「ジオ様が先に湯につかっています。十分に温まった体。ジオ様の頬は赤く染まっています」
「「……」」
「汚れを落としたジーク様がジオ様の隣にやってきます。何故隣に来るんだと、ジーク様から離れるジオ様」
「「……」」
「ですがジーク様はいいじゃないかとジオ様を追います。親睦を深めるためだと、ジーク様はジオ様の肩を引きよせ、ぶつかり合うジーク様の胸板とジオ様の肩」
「「……」」
「見つめ合う二人、顔は赤く、それは火照りによるものかそれとも……」
「キャー!」「コマキ! それ以上は止めなさい!」
マスカッシュ城 ―城内浴場 男湯―
キャー!
「なんだ?」
ジュレスの叫び声を聞いたジークが耳を澄ます。
湯につかり、嵩が減ったウーラを前に抱きつつジオが答える。
「女湯に変質者でも出たのかな?」「ナウ―」
「それは大変だ、今行くぞサーリア」
湯から出ようとするジークを止めるジオ。
「いや、行っちゃ駄目だろ」「ナウ―、ジークさんが変質者」
「そうか」
だがジークは何の理由でも良いから湯から上がりたかった。
髪を後ろにまとめたジオの細いうなじが湯に戻ったジークの視線を固定させる。
湯で温まり赤く火照ったジオの顔が、永続鎮静魔法を打ち破らんがごとく激しくジークの心をかき乱す。
禁断の世界へと誘う門はもはやすぐそこにあった。
次の日、ジーク達一行は魔王退治の旅へと出発した。
※お風呂回に気合が入ってしまい、ジオとアウロラのパーティー加入理由などを書くのを忘れました。申し訳ありません。




