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異世界における他殺死ガイド81

 

 カホト大陸 ―娯楽の町スコットル―


「ご主人様、ご注文は?」


 フリルのついたミニスカートに、白い二ーソックスの店員がジークに対して注文を聞いてきた。


「ああ」


 他のテーブルで注文を受ける店員も皆同じ格好で、長く美麗な脚を強調している。店員達はかかと部分の厚い靴を履いており腰の位置が高く、少しでも屈めば色々と見えてしまいそうである。


 そして客をご主人様と呼ぶ。そんな店で、ジーク達は食事を摂ろうとしていた。


 だが意識してこの店を選んだわけではない。たまたま入った店がこういう店だっただけである。


「ナウ……ジークさん、僕猫舌だから熱くないものがいい」


 ジークの対面に座るフードを深く被ったウーラは店員の恰好を気にしていない。まだそういうことを意識する年齢ではないのだろう。




 マスカッシュ城に戻ったジーク達は、担当したブロデアの卵の対処が完了したこと、アグリアの封印が解けていたこと、そしてジュレスのことをアルヴィスに報告した。まだザラメは戻っておらず、フギン達もブロデアの卵の対処から帰ってきていない。ザラメについてアルヴィスは非常に心配している様子であった。


 ジークはアルヴィスに対し、アグリアの封印が解けていた理由の調査と、他の祠の封印が解けていないかの確認をさせて欲しいと申し出た。そしてもしアグリアの封印が解けていたら悪食を使って食らい、自らの力とすることを許して欲しいとも伝えた。


 アルヴィスは助けを求めてきた者に助けられていることを心苦しく思いながらも、それらを許可した。出発前、医療所に寄ったところコマキの容態は大分回復し、サーリアとも仲直りしていたようでジークは安心した。


 ジーク達はアグリアの祠へと向かい、その途中で立ち寄ったのがここ、スコットルという町であった。


 町に着き、ジーク達は各々好きなものを食べようと二手に分かれた。アリエスとジュレスは別の店で食事を摂っているはずである。


 ジークは注文を取りに来た店員を見る。


 頭には動物の耳のようなものがあり、亜人のようである。


 そして非常に若く見える。だが亜人の年齢は見た目ではわからない。


 ただ、幼さが残るものの非常に整った顔をしており、この子は将来とても美人になるだろうと、ジークは思った。


 ジークは自分の注文と、ウーラのために冷たいものの注文をその店員に伝えた。


 注文を復唱した後、店員が去っていく。


 ピコピコ


 その店員のお尻には丸い尻尾がピコピコしている。


 ジークがその丸い尻尾から視線を落としミニスカートの下を見れば、白い二―ソックスに包まれた美しい脚線美がジークの視線を固定させてくる。


 店員の後ろ姿を凝視するジークを見てウーラが尋ねる。


「ナウー、ジークさん、あの人がどうかしたの?」


「ニーソ……、いや、なんでもない」


「ナウ」




 暫くすると店員がお盆に飲み物を載せ、ジーク達のテーブルに歩いてきた。


「先に飲み物をお持ちしまし…あっ!」


 パシャッ


 店員がつまづき、その拍子に飲み物をジークの脚にこぼしてしまった。


「も、申し訳ありません、すぐにお拭きします」


 店員が焦った様子でお盆をテーブルに置き、ハンカチを取り出してジークの脚を拭こうとした。


「いや、問題ない」


 ジークは冷静に手を前に出し店員の接近を拒んだが、店員はそれを聞かずハンカチをジークの脚に当てた。


 ジークの足元に屈んだ店員の太ももがムチり、ジークの目が再度固定される。


 そして漂うほのかな良い香りに、ジークは頭がクラクラした。


 その時である。


 ジャキッ!


 何処から取り出したのか、そしていつのまに装着したのか、店員の右手には大きな鉄の爪が装備されていた。


 ビシュッ! バギン!


 ジークが咄嗟に展開した不可視の盾が鉄の爪を防いだ。


「チッ!」


 シュバッ! バアン!


 舌打ちした店員はすぐさま後ろに飛びのき、駆け出したかと思うと店の出入り口の扉を体当たりで開けて出ていった。


 その音に驚いたか、店内で悲鳴が上がる。


 暫く放心していたジークであったが、何が起こったのか理解すると立ち上がった。


「ウーラ、追うぞ」


「ナウ!?」


 店員はジークの命を狙ってきた。暗殺者である。


 ジークの命を狙うものと言えば魔王である。


 圧倒的力を持つ魔王が、暗殺などという回りくどい手段を使う理由はわからないが、暗殺者が魔王に関係する者であることは間違いない。


 ジーク達が店の外に出ると、既に店員の姿はなかった。


 だがジークの状態確認画面にある地図には、店から凄い速さで離れていく赤い点が映っている。


 ミヂ バシャ!


 ジークはGの手足を解放した。












「ハア、ハア」


『不意打ちが効かなかったらすぐに逃走しろ、もし捕まれば待っているのは死だ』


 スコットルの町の家の屋根を進む暗殺者は、今は亡き師の言葉を思い出していた。


 暗殺者の師はこうも言っていた。


『待つのが死だけであれば良い。死よりももっと恐ろしい目に合わされるかもしれない』


 それを聞き、暗殺者は師に尋ねた。


『死よりも恐ろしい目とは?』


『それは……とにかくジオ、お前は特に気を付けるんだ』


 特に気をつけろと言われ、他の連中と自分の何が違うのかと聞いたジオであったが、師ザトーは答えてくれなかった。





「ふう」


 町はずれに辿り着いたジオは息をついた。


「逃げるのはもう終わりか?」


 バッ!


 ジオは振り返ると同時に後ろへ短剣を投げつける。


 パシ!


 短剣を指で挟み取るジーク。


 シュウン ヒュ


 収納から取り出した剣をジオに向け、ジークは尋ねた。


「誰に頼まれた?」


「……」


 ジオは答えない。答えないジオをまじまじと見てジークが呟く。


「こんな可愛い子が暗殺者とは、この世界は怖いな」


 ジオは暗殺のため女装しており、その頭には赤茶色のカツラを被っていた。


 ジオはゆっくりと頭に手を伸ばす。


 バサッ


 ジオの頭から赤茶色のカツラが落ち、灰色の髪が現れる。そしてジオは顔の化粧を手で拭い去った。


「残念だったな」


 ジオはザトーの次の師であるゾースに習ったことを忠実に実行していた。


 女だと思わせておいて男だと気づかせた時、相手はショックを受け隙をさらす。そこを狙う。


 ジオはジークが自分の女装に見惚れていたのを確認している。


「……」


 だがジークに動揺は見えない。


 ゾースはこうも言っていた。


 中にはショックを受けない男もいる。


 そしてショックを受けない男には二種類いる。


 性別などどうでも良い、可愛ければ何でも良いじゃないかという男と、男の娘の方が良いという男だ。


 その二種類の何が違うのかジオが聞いたところ、ゾースはそれを無視した。


「何が残念なんだ」


 ジークがジオに問う。


「だから、お前は男に目を奪われていたんだよ!」


「え?」


 ジークが目を丸くした。


「え?」


 ジオは隙を見逃した。


「男だったのか、騙したな」


「遅い!どう見ても男だろうが!」


 ジオは両手を下に広げ、自分の姿をよく見ろとアピールした。


「え?」


「え?」


 見つめ合うジオとジーク。


「く、この格好が悪かったのか!」


 バッ!


 ジオは店員の服を脱ぎ去った。


「ちょっと待て」


 ジークが少し動揺した。


 ジオは何故相手が動揺したのかわからなかったが、今度の隙は見逃さなかった。


 スコットルの町の外れに、青白い光が明滅する。


 バシャアン!


 雷がジークを襲う。


「ぐあ!」


 うめくジーク。


 だがジオは追撃しない。全ての機会は逃走のために使うのである。


 スコットルの町の近くには大きな森がある。そこへ向かうため、ジオは既に駆け出していた。


 だが。


「逃がさん」


 雷に焼かれたか、体から煙を出しながらもすぐにジオに追いつくジーク。


 ジオは鉄の爪を装備している右手を後ろ手に抑えられ、さらに首に腕を回されてしまった。


「ぐ、ぐうう!」


 ジークがジオの様子を見れば、ジオは裸になったわけではなく、やや大きめの薄手のシャツを着ていた。


「はな…せ!」


 ジオが暴れるがジークは放さない。


 その内ジークはジオから漂うほのかな良い香りに、再びクラクラしてきた。


「これは幻惑の香水か何かか」


「なんだよ…それ」


「え?」


「…え?」


 ググッ


 ジークは腕の力を強めた。


「う、ぐっ……」


 やがてジオは気を失った。




 腕の中、気を失っているジオをジークは観察する。


 男だと言われて見てみれば、幼さを残しながらもやや凛々しい顔立ちに中性的なものを感じとるジーク。


 そして漂う色香が誘うのは、禁断の世界へと繋がる門か。




 ジークは被召喚時、Gと融合した。そしてGはなんでも食べる。


 その影響かジークは可愛ければ何でも良いじゃないか派である。


 いいや違う。そもそも人間は雑食である。それは単にジークの趣味嗜好であった。


 ※当作品にNTRタグはつきません!


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