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異世界における他殺死ガイド62

 

 先程までの暴れようが嘘のようにおとなしくなり、ジュレスは床に乙女座りしている。


 まだ危機は続いている。


 乙女座りでもギリギリなのに、そこから体育座りに移行でもされようものなら、えろい、もとい、えらい事である。


 スカスカの構造の義足では何も隠せはしまい。


「ジュレス、これからは俺に従え、いいな?」


「はい」


 虚ろな目でジュレスが返事をする。


 支配の力が強すぎたのだろうか?加減がわからない。


「ダフ、ジュレスを適当な部屋のベッドで休ませろ。あと、服の用意もしてやれ。」


「わかりました。」


 ダフがジュレスを連れていく。


 ジュレスは怪我人であるし、脚を切断されたときの出血で血も不足しているだろう。


 暫く休ませておき、その間に彼女をどうするか考える。


 勇者の所に返すか、支配したまま城に置いておくか…。


 ジュレスを魔族から元の人間に戻す手段はあるのだろうか?今のところそういう記憶は流れ込んできていない。


 元に戻せないとしたら勇者は怒るだろうなあ…。


 魔族は魔王に支配されてしまうのだから、「おれはしょうきにもどった!」さんみたいに、いつ裏切るかわからない状態だものな。


 そういえば確か、クロマという男もカレルに預けたはずだ。


 彼はどこだろう?覚醒せずに死んでしまったのだろうか?


「カレル、ジュレスと一緒に預けた男はどうなった?」


「はて、男など預かっていないと思いますが。」


「うん?そうか。」


 瘴気漬けにされる危険を察知して逃げたのか?あの男、魔王ですら欺く隠蔽術を使っていた。それを使って逃げたのだろう。まあ、それならそれでいいか。


 今は直近の問題を片付けるのが先である。


 直近の問題とは、城の近くの森の魔境化の阻止と、アンデッド生産の停止である。


「カレル」


「なんでしょう。」


「デリバリーペインは稼働させているか?」


「ええ、今動いているのは一台だけです」


 アンデッドの生産を止めることに、カレルは文句を言うだろうか?そうなったら支配の力を使うだけだ。


「もうアンデッドは増やさなくていい。今すぐ停止できるか?」


「今すぐ停止ですか?遠隔で停止させる機能はありません。檻がいっぱいになったら自動的に帰還するように命令してありますが、それまでは動き続けるかと…」


 現地に行って命令して止めるしかないか。


「デリバリーペインを止めてくる。場所を教えてくれ」


「それならばジョシュアに行かせましょう」


「いやいい、俺が行ってくる」


「はあ」


 放っておいたらどこかの村や町が襲われてしまうのだ。早く止めた方が良い。


 俺はカレルにデリバリーペインの大体の居場所を聞いた。聞いた場所の近くに行って広範囲気配察知で探せば見つかるだろう。


 俺はこれから城を出ることになるが、問題は無いだろうか?城に来る者は暫くいないはずだし、部下達は俺が命令しなければ城から出ない。俺が暫く城を留守にしても、部下達は適当に過ごすだろう。うん、問題ないな。


 俺はカレルを置いて地下牢から出た。








 ゴソゴソ


 城内の部屋を物色する。


 あった。


 見つけたローブを羽織う。


 冒険者達は俺の姿を恐怖と共に目に焼き付けただろう。その俺が現れたらパニックは必至だ。このローブで正体を隠し、パニックを避けるのだ。


 俺は城の外に出ると意識を集中した。


 ヒュウウウウウ


 風が俺の周りに集まってくる。そんな感じがする。


 フワ


 俺の体が浮き上がる。


 風の魔法を駆使することで空を飛ぶ。燃費が悪いため、魔王はあまり使っていなかったみたいだが、今は急ぎだ。


 ヒュウ


 フワーッ


 俺の体が空へと舞い上がる。ローブがバサバサする。


 うーむ。


 乗り移りの過程で何度か飛んだことのある俺だが、飛ぶというのは気持ちが良いものだ。


 今の高度は城の屋根辺りだ。高度がありすぎると飛んでいるという実感が薄れる。このくらいの高さが良いのだが、飛んでいるところを目撃されるのは避けた方が良い気がする。


 バヒュウウウウ!


 俺は高度を上げ、カレルに聞いた場所へと向かって飛び始めた。


「はああああああ!格好いいですジャブア様ああああああああ!!」


 後ろからダフの声が聞こえた気がする。読心は使用していないはずだが、ひょっとして声に出したのか?







 ヒュウウウウ


 空を飛んでいる。


 頭の中で、流れ込む魔王の知識と、既に持っている知識の擦り合わせが行われているのがわかる。


 俺は今、意識の集中だけで魔法を使えているが、人間が魔法を使うには呪文の詠唱が要る。神聖術(聖光など)を使用するときの祈りも必要なもののはずだ。


 だが俺が蜘蛛の魔力糸を使う時、呪文など詠唱しない。聖光を使う時も祈らない。


 魔法や神聖術は己が持つ魂力を魂の中で練ることで行使するものだ。その補助をするのが呪文や祈りである。


 俺が最初に使った魔法は蜘蛛の魔力糸だった。自然界に生きる動物や虫などは、補助なしで力を練るのが当たり前の事だったため、乗り移ったことでその感覚を得てしまった俺は、無詠唱での魔法行使に違和感を覚えなかった。


 魔王も無詠唱での魔法行使ができる。そして魔族になった者もまた、力を練るとかその辺の感覚が研ぎ澄まされ、無詠唱での魔法行使が可能となるようである。


 …どこからどこまでが誰の知識で、どこが魔王の知識で上書きされたのだろうか?


 まあいいか。








 カレルに聞いた場所付近で広範囲気配察知を駆使した末に、デリバリーペインを発見した。


 ほんの少し遅かったようだ。


 デリバリーペインは既に村に突っ込んでいる。柵を破壊して村の中の大きな木にぶつかって止まったらしい。


 だがまだ檻は開いていない。村人に犠牲は出ていないと思われる。


 真上からデリバリーペインを見下ろすと、先頭の箱に連なるいくつもの檻、その様はまるで蛇の様である。


 古いゲームなどで、蛇のような長い体の表現には、絵をいくつも並べる手法が良く使われていた。〇ペースハリアーの敵や〇イバリオンの自機とか。龍や、蛇は大体がこの形式だった気がする。胴体パーツが連なって動くのだが、パーツが四角いのでギザギザの体になってしまったりする。実際の蛇のなめらかな曲線とは程遠いが、これもまた味である。何せあれは、少ないリソースの中、表現の幅を広げるための工夫が詰まった、とても良いものなのだ。


 カキン ガシャン


 ハッ


 そんなことを考えていたらデリバリーペインの檻の一つが開いてしまった。


 中からアンデッド達が転がり出て、村人を襲い始める。


「うあー」「ううう」「おおお」


「うわあああ!」「助けてえええ!」


 いかん、何とかしなくては。俺はすぐに高度を下げ、今にも襲われそうな村人の所へ向かった。


「あーうあー」


「きゃああああ!」


 ドゴッ!


 女性に襲い掛かる寸前だったアンデッドを蹴り飛ばした。


「大丈夫か!」


「あ…、あなたは?」


 大丈夫そうだ。次へ向かう。


 ドカッ!ドゴッ!バゴッ!


 次々村人を救っていく。


「た、助かった」「殺されるところだった」「ありがとう」


 そのたびに村人から感謝される。ううむ、なんと酷いマッチポンプであろうか。


 とにかくこのままでは拉致が明かない。聖光で一気にアンデッド達を消し去りたい。


 だがタリスマンが無い。タリスマンなしで聖光を使ったら、どこが光るのだろうか?お尻か?


 ものは試しである。


 俺は合掌し、アンデッド達を消滅させることに意識を集中した。すると


 カッ!


 太陽かと思うほどのまばゆい光が俺の手から発せられた。


 シャイイイイイイン


「ううあー」「んおおおお」「ふうううう」


 次々とアンデッド達が消滅していく。光がデリバリーペインへと届く。


 光を遮るものの無い檻の中のアンデッド達が、一部を残して消滅した。残ったのは皮袋に入ったアンデッドのみである。


 先程得た知識の通り、聖光は祈らなくても、タリスマンが無くても使えるようだ。


 …。


 アンデッド達には城に帰るように命令する予定だったのだが。もはやデリバリーペインの動力たる車輪部分に括り付けられていたアンデッド達も消滅してしまった。


 こうなっては仕方がない。もうひと仕事だ。


 シェイハ! シェイシェイハ! ハァーッシェイ!!


 俺は残ったアンデッド達を片した。


「キャーキャーキャー」


 デリバリーペインの先頭部分の中を覗いたところ女性アンデッドが残っていた。


 ドン バタム! シュルル


 以前と同じようにその場にあった棺に閉じ込めた。


 これで仕事は終わりだ。


「ふー。」


 デリバリーペインから出てみれば、村人が集まっていた。


「助けていただいてありがとうございます。」「あなたが居なければ死んでいたところです。」


 マッチポンプだというのに、皆口々にお礼を言ってくる。自分が悪いわけではないが、なんだか心が痛い。


「是非あなたのお名前をお教えください。」


 村長らしき男が俺に名前を聞いてきた。


 まさか魔王だと言うわけにはいかない。ここは適当に名乗って去ろう。


 名前…、そうだなあ…、ダフの下半身を見てから蛇がマイブームになっている気がする。でなければゲームにおける蛇の体の表現など思い出しはしまい。


 蛇…、スネーク…、固体蛇に、液体蛇…。


「コブラだ。」


「コブラ殿。この御恩は忘れません。」


 俺はデリバリーペインをそのままに、村を後にした。ちゃんと片付けてやるべきだとは思うのだが、あまり関わっては正体がバレるかもしれないし、仕方がない。


 これでアンデッドの生産停止は完了した。次は森だ。


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