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異世界における他殺死ガイド61

 

 カレルに預けた女性、ジュレスと言ったか。勇者の仲間で、魔王が痛めつけた女性だ。


 それにしても魔王め、女性の脚を膝から切断し、あまつさえ傷口を焼くとは、何たる非道か。許せん!


 それを俺がやったことになっているわけだが。


 その女性が暴れているとはどういうことだろうか?


「何があったの?」


 ダフがジョシュアに向かって尋ねる。


「はあ、いつものように女を瘴気漬けにしたっすが、珍しく死なずに覚醒したっす。」


「あらそうなの。」


「女はその時点ではまだ暴れてなかったっす。でもカレル様が切断された脚を見て、これは鍛冶師の腕前を見せる時、とか言い出したっす。」


「それで?」


「カレル様は特殊な合金とか使って、気合入れて義足を作ったっす。」


「…。」


「んで義足を女に着けてやって、歩けるかテストしてたら暴れだしたっす。拘束室の中だったんで、一緒に入ったアンデッドがミンチになったくらいで済んだっすが、放っといたら部屋を破壊して出てきちゃうかもしれないっす。」


「…次からは覚醒した時点で連絡しなさい。」


「了解っす。」


「ジャブア様…。」


 申し訳なさそうに俺を見るダフ。別にダフのせいではなかろうに。


「カレルのところへ行くぞ。」


「こっちっす。」


 俺とダフはジョシュアに連れられて、カレルの元へと向かった。














 城の地下、罪人を閉じ込める牢屋として使われていたところにカレルは居るようだ。


 左右に格子の並ぶ地下牢の奥に、ジョシュアと同じようにガスマスクのようなものを着けた白衣の男が立っている。


 ジョシュアが話しかけると男がこちらを向いた。


「おお、ジャブア様」


 この男がカレルだ。


「お手を煩わせることになってしまい申し訳ありません。」


「本当ですよカレル殿。貴方は何故余計なことをしたがるのです?」


 ダフがカレルを睨む。


「どんな様子なんだ?」


「この通りです。」


 カレルの目の前に空間がある。そこは牢屋だったのか、格子が外された跡が見える。


 その中に、どうやって運んだのか、金属でできた大きな箱があった。


 バガン!ドガ!


 突然、何かを鈍器で殴っているような音がして、箱が揺れた。


「私をここから出せ!!」


 ガン!


 女性の声が響き、金属の箱の入り口だろう扉についた覗き窓から、青い瞳が覗く。


 彼女がジュレスだろう。記憶に残る彼女は金髪碧眼の女性剣士。


 気の強そうなところが少しアリエスと被る。美人であるという所も。


「ひゃー」


 ジョシュアが逃げていく。


「威勢が良いですね。ジャブア様、支配前に私が少し教育いたしましょうか?」


 どんな教育をする気だろう。


「お前は!!」


 覗き窓から青い瞳がこちらを見たと思ったらすぐに消えた。


「あああああ!!」


 ドガン!ドガン!ドガン!


 金属と金属がぶつかり合う音が響く。


「この拘束室はレステン鋼製でとても頑丈ですが、彼女の義足はムクロ鋼製で…。」


 カレルが呟いた。その瞬間


 ボガン!ガイン!


 鉄の箱の扉が吹き飛び、前に居たカレルの肩を掠めていった。


 ガッ!


 開いた扉に手がかかる。


「ふしゅううう…」


 扉から出てきたのは、半分裸のような格好のジュレスであった。ジュレスの後ろに見える箱の中は茶色いものが飛び散っている。ミンチにされたアンデッドのものだろうか?


 ジュレスの格好についてだが、半裸と言っても大事なところは全て隠れている。


 その恰好は、白い長方形の布の中央に穴を開けて頭を通し、脇を紐で止めてあるという、なんともギリギリな格好であった。


 横乳に横腹に横腰に横太腿が見えている。いいのかこれは。


 まあでも、ジュレスは怪我人であったのだ。入院時に患者さんが着る服としてはそれほど違和感は無い。


 それよりも今気になるのは、穿いているのか、いないのかである。


 靴下ではないぞ。


 白い布はジュレスの太腿まで覆っているが、激しく動きでもしたら判明してしまう。


 何がって、穿いているのか、いないのかがである。



 …いやいや、今見るべきはそこでは無い。



 ジュレスの膝から下に、黒い金属製の義足が付いている。流線型のパーツが組み合わさった趣味的な造形。後ろの景色が透けて見える構造が、彼女の膝から下が無いことを認識させる。踵部分には、何かの噴射口のようなものが付いている。


 格好いい。


「あああああ!!」


 鬼の形相でジュレスが俺に襲い掛かってくる。


 いかん。


 何がいかんのかというと、魔王の動体視力の良さがである。


 ジュレスの薄着が揺れることで生まれるのは何か。それはチラリズムである。


 見えそうで見えない。見えたようでいて見えていない。見えた(見えたとは言っていない)。


 チラリズムとは、最強なのである。何における最強か?言わなくともわかるはずだ。


 だが魔王の動体視力はそれを台無しにしてしまう。


 見えてしまうのだ。全て。スローモーションのように。


 これでは醍醐味も何もあったものではない。


 ジュレスが手を振り上げ、腰をひねった。


 そして同時に、ジュレスの脚が、義足が、俺を蹴り倒そうと振り上げられる。


 スローモーションのようにジュレスの太腿の布がめくれ上がっていく。


 だ、駄目だ!見てはいけない!(凝視しながら)



 ガキィ!



 ジュレスが脚を振り上げ切る前に、それはカレルの放った鎖によって止められた。


 カレルの白衣から鎖が伸びている。


「ジャブア様、このまま私が彼女を抑えた場合、脚以外にも義肢が必要になってしまうかもしれません。」


 チャリ チャリ


 カレルの白衣の中から鎖の擦れるような音がする。


「折角覚醒したのですし、傷物にするよりはと思いまして。」


 それでジョシュアに俺を呼ばせたと。


 義足付けなければ良かったじゃないかと思うだろうが、この趣味的な造形を見よ。これが魔王がカレルを気に入っている一因である。


 そうなんだ。


 まあいい。


「これで覚醒しているのか?」


 ダフは覚醒時、サーリヒレイス種の特徴が強調され、下半身が蛇となった。


 だがジュレスの見た目に特に変わったところは無い。


「エスポラ種ですからな、余り見た目に変化はありません。性格的な特徴が強調されることがあるようですが。」


「あああ!」


 バキン!


 ジュレスが鎖を引きちぎった。


 確かにジュレスは攻撃的になっているように見える。だがそれは王の仇である俺を前にしたからではないだろうか?


 流れ込み続けている記憶の中に、覚醒についてわかることはないか確かめてみる。


 魔族に覚醒した者は身体的、精神的特徴の強調の他に、身体能力が上昇する、上昇には大きくバラつきがあるが基本的には上がる。


 ほう。



 ヒュバッ!


 ガキィ!



 ジュレスがカレルに向けて蹴りを放った。カレルはそれを大きなハサミで防御した。


 これでは角度的に見えない。何が。


 鋭い蹴りだ。鎖を引きちぎった膂力といい、ジュレスの身体能力は上がっているのだろう。


 バッ カキン!


 ジュレスはカレルから距離を取った。金属製の足が床を蹴る音は高音だ。格好いい。


「ううううああ!」


 キュアアアア


 ジュレスが唸ると、義足の噴射口が光りだした。魔力の青い光が円を描く。


 あれは蹴りの威力を増すための機構だろうか。


「ああああ!」


 キィ!


 ジュレスが跳躍した。


 まずい。判明してしまう。


「むっ!」


 チャリリ


 カレルが両手に鎖の付いたハサミを持ち出した。


 シュラ


 ダフも何やら細身の剣を取り出す。



 ヒュガッ! ドッ!



「ぐああ!」


 見えない何かに叩き落され、ジュレスの身体が床に倒れる。


 俺が不動の腕でジュレスを抑え込んだのだ。


 危なかった。見えてしまうところだった。


「ぐっ!ぐうう!」


 ジュレスが不動から逃れようと、身を捩る。


 それにより、脇の紐が引っ張られ、色々とこぼれそうになる。


 これは一刻を争う事態である。


 俺はすぐにジュレスに向かって手をかざし、集中しだす。


 ジュレスを支配する。


 スゥゥゥ


 俺の手から紫のオーラが溢れ出し、ジュレスに向かって進む。


「うっ!ううっ!」


 オーラはジュレスを包む。


「ジ、ジーク…」


 俺を睨みつけていたジュレスの目は、やがて険しさを消していった。


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