異世界における他殺死ガイド60
さて、俺はこれから誰かに殺されなくてはならないわけだが、当てはあるだろうか?
幾重にも張った防御層によって、相手からの攻撃を受け付けない魔王であるが、それら防御層を全て発動させなければ攻撃は通るだろう。
そこを部下の誰かを焚きつけて攻撃させれば或いは…。俺は一応人間の味方のつもりなので、今のところ魔王の部下に思慮することは無い。
まず試すのはそんなところだろうか?そんなことを考えていると、俺に近づく気配がある。
「ジャブア様」
冒険者達が来る前、俺と、魔王とお茶を飲んでいた女性だ。体の輪郭に沿い、紫のオーラが出ている。魔王に支配されている証拠である。
女性の名はダフィネルと言い、魔王は彼女のことをダフと呼んでいたようだ。
ダフの下半身は蛇である。彼女は蛇の特徴を持ったサーリヒレイス種という亜人であるが、サーリヒレイス種が持つ特徴は、肌がウロコっぽいとか、脱皮をするとか、その程度で(その程度で済ませてよいのか?脱皮には興味がある。)、下半身が蛇などという特徴はない。
では何故彼女の下半身は蛇なのか。
…。
先ほどからチョロチョロと、魔王の記憶が流れ込んできている。
一度に流れ込むのは無理そうなのでちょっとずつにしたようだ。助かるが、一体どういう仕組みなのだ。
まあいい。
ヘデラ大陸の町や村を魔物に襲わせた魔王は、町人や村人の中から有能そうなものを生け捕りにし、瘴気漬けにした。
長時間瘴気漬けにされた人間は、異なる理の浸透による体の変化に耐え切れずに発狂したり、死んだりするが、生き残った者は覚醒し、魔族となる。
ダフはそうして魔族となり、サーリヒレイス種の持つ特徴がさらに強調され、下半身が蛇に変化したようである。
…異なる理?なんだそれは。
「冒険者達は皆逃げたようですね。」
ハッ。
「あ、ああ、そうらしい。」
青い肌、クールそうな切れ長の目に長髪。上半身に黒い服を着ているが、下半身の蛇部分との間に隙間があり、青い肌が見えている。
ダフの見た目はそんなであるが、どうして蛇と女性という組み合わせは、こうも素晴らしいのであろうか。
ラミア?メデューサ?千石撫子?
昔も今も、蛇と女性の組み合わせが出てくる話は多い。
蛇には 手足がなく、体をくねらせて進むが、あの様子が女性の動作とマッチするからだろうか?
ダフの見た目で言えば、腰の部分が特に扇情的である。女性の腰の持つ艶やかな線が、そのまま蛇の体へと繋がっている。うーむ、撫でてみたい。鱗でザラザラしてそうだが。
「少々脅しすぎたのでは?労働力の確保を期待していたのですがこれでは…。壁も新たに壊れたみたいですね。」
ダフが俺をクールそうな目で責めてくる。魔王と彼女はこういう関係性だったのか。いかん、ゾクゾクしてしまう。
「すまん。」
「…。」
ダフは驚いたように切れ長の目を少し見開いた。
何かまずいことを言っただろうか?
俺は今、魔王の目的すら把握していないので、部下に怪しまれて当たり前である。
しかし、別人になったことがバレたとして、俺には支配の力がある。支配の力を強めて俺の言いなりにしてしまえば良い。
魔王は魔物を支配して操る。そして、魔族となった者もまた、支配の力の対象となるのだ。
「どうかしたか?」
「いえ…、何でもありません。」
ダフはむこうを向いた。怪しんでいる顔を見られまいとしたのだろう。
だが俺には読心がある。相手の心を読むことができるのだ。
彼女が何を考えているかを読み、怪しんでいるようなら支配の力を強めてやろう。
スゥゥ
意識を集中する。
ダフの心を覗く。それだけを考える。
やがてダフの心の内が音となって聞こえ始める。
『…ぁぁぁぁぁぁぁああああ』
…?
『あああああああああああああああ』
なんだこれは!?
叫び声?
言葉ではない。叫び声だけがダフの心を支配している。
まさか、支配されている状態というのは、こういうものなのか?
支配に抗えない心が常に泣き叫んでいる状態。それが支配。なんたる残酷。
すぐに支配を解除してやらなくては。
俺はダフに手をかざし、支配の力を弱めようとした。
『ああああああ!!愛してますうううううううう!』
…ん?
『巻きつきたい!巻きつきたいです!ジャブア様あああああああああ!!!』
…。
言葉らしき叫び声だけがダフの心を支配している。
まさか、支配されている状態というのは、こういうものなのか?
とにかく魔王に心酔するように思考を誘導し、支配に抗えない心が常に叫んでいる状態。それが支配。なんたる残酷。
すぐに支配を解除してやらなくては。
俺はダフに手をかざし、支配の力を弱めていく。
スゥゥゥ
ダフの体の輪郭を覆っていた紫のオーラが消えていく。
「ジャブア様?」
クールそうな目が怪訝そうに俺を睨む。ゾクゾク。
ダフの体から紫のオーラが消えた。これで支配は解除されたはずだ。
俺はもう一度、彼女の心を覗き込む。
『んっはああああああああ!ジャブア様ああああああああああああ!!!!』
…。
そうか、そうか、つまりきみは元からそんな人なんだな。 ※エーミールか。
「ダフ。」
「なんでしょう?」
彼女の表情はクールなままだ。
「俺が他人の心を読めることは知っているよな?」
「はい。」
そうなんだ。
「そんな相手と付き合うのは辛くないか?」
「ジャブア様に心の内を読まれることの、何が辛くありましょう。むしろそれは…、ご褒美…、ハッ、何でもありません。」
クールが崩れて内面が表面化してきとるじゃないか。
とりあえずもう読心は止めよう。部下との関係にもプライバシーというものは必要だ。
まだ魔王の記憶は流れ込み続けている。読心の使い方に間違いがあるのかもしれない。
俺は読心を封印することにした。
ダフと共に城に入ると、イソギンチャクのような魔物がウネウネと動き、壊れた城の修復をしていた。
魔王はこの城を拠点として使うつもりでいたようだ。山を吹き飛ばすほどの力を持ちながら、攻め手がチマチマしているように思ったが、これが理由だったのだろうか?
イソギンチャクのような魔物の触手が散らばった瓦礫を拾って集め、飛び散った血の跡を雑巾で拭き、たまに落ちている肉片を取り込んでいる。何の肉かは確かめまい。
便利な魔物が居たものである。
触手が自由自在に動き、瓦礫を運ぶ。蛇もそうだが、どうやってこの動きを実現しているのか。筋肉が為せる技なのだろうか。
関心しながら眺めていると、こちらに近づく気配がある。
トコトコトコ
「ああ、ジャブア様、やっと見つけたっす。」
見れば白衣にガスマスク?のようなものを口に着けた男が走ってくる。
頭には毛が無く、縫い跡が何本もあって痛々しい。
確か、魔王の部下であるカレルの助手のジョシュアだったか。彼はアンデッドである。
カレルの工夫により、喋る程の知性を残したアンデッドのジョシュアは、性格を気に入られたのか防腐処理を施され、カレルの助手として使われている。
記憶によると、この城を襲った時、魔王は多数の魔物を支配して連れてきていた。だがその魔物達の姿は城の中には無い。
魔物には多くの食料が必要だったり、排便とかあるのであまり多数を連れているのは大変なのだ。だから必要な魔物だけを城に残して、残りは全て近くの森に放った。(…森が魔境化するじゃないか。後で見に行かなくては。)
その点、アンデッドには食料が必要ない。
体が腐って臭ったりするが、カレルの開発した無臭の消臭剤がその問題を解決した。
腐った末に腕が取れて落ちてたりするが、それらは自然の聖光が消しさるので場所も取らない。
労働力として便利なのでアンデッドは増やす方向だった。それも止めさせねばなるまい。
「何か用なの?」
ダフが割って入る。
「あ、ダフィネル様、この間カレル様に預けた女が居たじゃないっすか。」
「ええ。」
「あの女が暴れて手が付けられないんで、すぐに来てほしいっす。」




