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異世界における他殺死ガイド59

 

 バァアアア!


「うっ!?」


 遠くで何かが光ったと思ったら、突然光の潮流が俺を飲み込んだ。


「おおおおおっ!?」


 光の潮流に巻き込まれた俺の、グレゴルの体は粒子になって消えていく。


 俺は謎の光の潮流に飲み込まれ、消滅して死んだ。




 ◆




 …。


 …どこだここは?



 周りを見回す。


 すると目の前には何人もの冒険者達の姿がある。


 冒険者達の様子は、腰が抜けたように座り込んでいたり、棒立ちでいたり、泡を吹いていたり、様々だ。


 だが、どの冒険者も恐怖に歪んだ顔で俺を見ている。


「あ…、ああ…」「ば、化け物…」「山を、抉るだと…」


 ぐっ!


 記憶の流れ込みが発生した。乗り移った相手の記憶の一部が流れ込んでくる。


 ぐうっ!?


 流れ込んできたのは直近の記憶と、膨大な魔法知識。


 あまりに情報が多すぎる。一部ですら一度に全て受け入れるのは無理のようだ。俺の魂が拒んだのか、記憶の流れ込みが治まった。


 受け入れた直近の記憶から、俺に何が起こったのかを理解した。


 魔王が自分を討伐に来た冒険者達を追い払うために力を示そうと、魔法で山を吹き飛ばしたのだ。


 遠くに目をやれば、丸く抉れた山が見える。あれがさっきまで俺がいた山だろう。


 つまり、俺は魔王に殺された。


 当然乗り移り先は魔王である。


 なんたることか、俺は魔王になってしまったのだ。



 ああ、これでこの国を魔物で襲わせる悪い魔王は死んだということだ。良かった良かった。



 では終わらない。


 俺がこれからどうするか、方針を決める必要がある。情報が欲しい。


 だが何よりもまず、目の前で恐れおののいている冒険者達に、危害を加えるつもりはないことを伝えなくては。


 とりあえず皆に笑いかけよう。笑顔で皆を落ち着けるんだ。



 ニッコリ。



「うわあああー!」「こんなのに勝てるわけねえ!」「撤退だ!皆逃げろ!」


 ワー


 恐怖に歪んでいた冒険者達の顔は蒼白となり、皆我先と逃げだした。腰が抜けて動けない者は這って少しでも俺から遠ざかろうとする。


 いかん。笑顔は逆効果だったようだ。


 直近の記憶から判断すると、冒険者達は町や村に逃げ帰り、見たことを全て周りに話すのかもしれない。


 それが俺にとって良いことなのか悪いことなのかも判断できない。


 どうする?どうすればいい?


「うん?」


 すぐ近くにしゃがみこんで逃げない冒険者が居る。腰が抜けて逃げられないのだろう。


 その顔を見れば、なんだか見覚えがある男だ。


 ダルト!ダルトじゃないか!


 コミュ強のダルトじゃないか。また会うとは、中々の縁である。


 いいぞ、ダルトなら例え相手が魔王であっても良好な関係を築こうとするかもしれない。


 俺は話しかけようとダルトに近寄った。


「駄目だ…、終わりだ…。」


 ダルトの目は絶望していた。



 駄目だこりゃ。



 もうこの流れは修正不可能だろう。とりあえず皆帰ってもらって、一人で今後についてゆっくり考えたい。


「ま、魔王様っ、服従でもなんでもします。」「だから命だけは助けてください!」


 冒険者が二人、祈るような姿勢で言ってきた。


 逃げないでこっちに近寄る者がいると思ったらこれか。


「服従とか良いから帰れ。」


「「え?」」


「良いから帰れ。」


「ひぃぃっ!」


 手でシッシッとやったら足をガクガクさせながら逃げていった。ちょっと気の毒だ。


 そうして城の中庭には、失神して倒れたままの冒険者が数人と、しゃがんだままのダルトと、俺だけが残された。


「そこの槍使い。」


 ダルトがビクッとした。


「悪いんだが、気絶して倒れている連中を起こして連れて帰ってくれないか。」


「え…」


「頼む。」


「わ…、わかった。」



 ***



 ダルトは気絶している者達を起こし、連れて行った。


 広範囲気配察知で城に残っている者を探ったところ、魔王の仲間数人と、魔物数体が城の中に居る。それ以外に気配はない。冒険者達は全員逃げたようだ。


 ヤレヤレ、これでやっと落ち着いて今後について考えることができる。


 俺は魔王になってしまったようだが、そもそも魔王とはなんなのだ?手足を見ても、人間と異なるところは無い。もっとこう、角が生えててマントを着けてて耳が尖ってて…。そんなのを想像していた。ああ耳は長いな。邪魔だ。


 魔物を支配する力を持った人間が魔王なのか?


 ただの人間に山を抉る威力の魔法を扱えるだろうか?


 魔の王だから、魔法技術にも長けているのか?


 直近の記憶に、魔王の正体がわかるような情報は無いようだ。何かの拍子に記憶の流れ込みが発生すればわかるかもしれない。


 ぐっ!


 早速記憶の流れ込みが発生した。


 だが流れ込んできたものは、魔王の正体に関する情報ではない。俺、魔王がこの国に対して何を行ってきたかという記憶だ。そして、ついでに流れ込んできた魔法知識が膨大だったため、俺の魂が悲鳴を上げ、記憶の流れ込みは早々に治まり、得られたのはそこまでだった。


「ううむ…」


 魔王の行った大きなことをまとめれば次のようになる。


 ・魔物やアンデッドに町や村を襲わせた。

 ・国王の殺害。

 ・勇者及びその仲間の撃退。


 町や村を襲い、国王を殺害した魔王を、この国の民は許さないだろう。俺の正体を明かしたところでそれを信じるとは思えないし、弱みを見せたら誰かが俺を殺しに来てしまうかもしれない。


 正体を明かすのはナシだ。


 そして勇者か。


 魔王が居るのだから、それを倒すための存在である勇者も居る。俺的には当然だが、実際は違うだろう、そう思っていたのだが、この世界には本当に勇者が居たのだ。


 記憶からすると勇者はまだ育ち切っておらず、仲間も一人だったようだ。育ち切っていない勇者の所にラスボスが突然現れて蹂躙する。負けイベントかな?負けイベントだったのだろうなあ。


 心臓を引き抜かれて生きていられるはずがないと思ったが、勇者の死体は見つからなかった。多分勇者補正みたいなものが働いて、なんだかんだ助かってて、修行して強くなった勇者はいずれ、魔王を倒しにやって来るのだろう。


 仲間の女性を痛めつけたせいでもの凄く怒っていたようだし、勇者との話し合いの余地も無さそうだ。


 殆ど攻撃をうけつけない魔王だったが、勇者の噛みつき?攻撃だけは通用していた。勇者は魔王を倒し得るのだ。


 だが俺は勇者に殺されるわけにはいかない。苦労して魔王を倒したのに、結果俺になってしまうなんて、勇者が不憫すぎるだろう。


 勇者は魔王を倒すために存在するのだから、勇者は俺が死んだことを確認するまで地の果てまで追ってくると思われる。勇者から身を隠して生きるより、ちゃんと死んだことを示してやる方が、俺にも勇者にも良い事のような気がする。


 逃げ帰った冒険者達は見たことを周りに話す。そうなれば暫くの間は魔王を倒そうと考える者はいなくなるはず。俺が何もしなければ誰も何もしてこないはずだ。勇者も強くなるには時間が必要だからすぐには来れまい。


 その間に誰かに殺されよう。


 そうだそうしよう。


 方針が決まった。







 ■■■







 ヘデラ大陸 -???-


 ジークがクロマの魔法によりヌベトシュ城から吹き飛ばされた後。


 吹き飛ばされた先の岩山に、ジークの体はあった。


 ジークの落下時にそこにあった岩が破壊されたのか、割れた岩がいくつも転がっている。その真ん中にジークはいた。


 吹き飛ばされる前、頬や手脚から出ていた虫の部分は内部に収納されたか、今は出ていない。


 身に着けている装備はボロボロだが、服の前、胸元に開いた穴から見える肌に傷はない。


 顔色も悪くないし、息もしている。


 だがジークは目を覚まさない。


 ザッ…ザッ…


 何者かが歩く音が聞こえる。


 フードを被った二人組が歩いている。


 二人の内、先頭を行く者の手にはペンダントの鎖が握られている。


 そして、ペンダントは心なしか、ジークの方に引き寄せられているように見える。


「ッ!!」


 やがてジークを見つけた二人組がジークのもとに駆け寄った。


「ジーク様!」


 フードが上がったそこにはサーリアの顔があった。


 ユサユサ


 サーリアはジークの体を揺する。ジークの首に下がったペンダントが服の中に揺れている。だがジークは目を覚まさない。


 オオオン ウオオオン


 犬の魔物の遠吠えらしきものが聞こえる。


「サーリア様、急ぎましょう。勇者様は私が背負います。」


 もう一人のフードはコマキだった。


 ジークの体をコマキが背負う。


「ゴホッ」


 コマキが咳き込む。


「コマキ、大丈夫?」


「大丈夫ですこのくらい。」


 サーリアとコマキはジークを回収し、魔物が来る前にと、急いでその場を立ち去った。


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