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異世界における他殺死ガイド56

 

 ボッ!


 ジークの手から槍が魔物に向かって放たれる。レベルアップによって得た膂力により、凄まじい速さで投擲された槍は、何匹もの魔物を貫き、大型の魔物の腹に突き刺さって止まった。


 シュウン


 収納によってジークの手元に戻った槍は、再び魔物達に向かって投擲される。


 ボッ!ボッ!ボッ!


「ギョアアア!」「ガアア!」「ボオオオ!」


 魔物達の死体の山が築かれていく。


「凄え…」「あの強力な魔物どもをいとも簡単に」「俺達、助かったのか?」


 兵士達から様々な声が上がる。


「ジーク殿!既に城内に魔物の侵入を許してしまっています!」「我々よりも王と姫を!」


「わかった」


 最後の一投げと、大型の魔物に槍を投擲するジーク。



 ボッ! ガィィィン!



 ジークの投擲した槍が弾かれてクルクルと空を舞う。


 ガシ!


 弾かれた槍を掴んだのは獅子のような男。


 シュウン


 その槍を収納するジーク。


 手から槍が消えるのを見て、獅子の男はしかめ面でジークに話し掛ける。


「お前が勇者だな?」


「そうだが、お前こそ何だ?お前がこの魔物達を操っているのか?」


「俺の名はモチャム。この辺りを襲っている魔物は全て、俺の支配下だ。」


「ならばすぐに魔物達を引かせろ」


 シュウン


 ジークは剣を収納から取り出して構えた。


「ジャブア様から勇者には手を出すなと言われたが、味見するくらいはいいよなあ?」


 モチャムがジークに向かって襲い掛かる。


 ガオン!


 大きな黒い爪が地面をえぐった。


 シュバッ


 爪を避けたジークが剣を振るう。その剣にはジュレスの剣と同じく白い闘気が纏われている。


 ズドッ


「ぐうっ!」


「む。」


 モチャムは自分の肩に食い込む剣に驚き、ジークは剣を振り抜けなかったことに驚いた。


 バッ!


 お互いに距離を取り、睨み合うモチャムとジーク。



「ジーク!」



 そこにジュレスが到着した。それを見て兵士達の士気がさらに上がる。


「ジュレス様だ!」「二人が居ればどんな敵だろうと倒せるぞ!」


 ジークとジュレスは城に馬で向かっていたが、ジークだけ途中で馬から降りてGダッシュで城へと向かったのだ。


 スラッ


 ジュレスは即座に状況判断し、モチャムに向かって剣を構えた。剣には白い闘気が纏われている。


「…これ以上は味見じゃねえな。」


 血の滲む肩を押さえ、下がるモチャム。


 ジリリと詰め寄るジークとジュレス。


 ズズッ


 ジーク達の足が地面へと沈む。


「!?」


 バッ


 急いで地面から離れるジークとジュレス。


 ドポ


 波打つ地面から、大きな八つの目が覗く。巨大な蜘蛛だ。それを見てジュレスが驚愕する。


「泥蜘蛛!?」


「また会おうぜ勇者」


 ズズズズズ トプリ


 モチャムと巨大蜘蛛の体が土の中に消える。


 ジークは状態確認画面の地図に、遠ざかっていく赤い点を見た。モチャムを倒して魔物達を引かせたかったが、相手が地中では手が出せない。


「ジュレス、サーリアを探すぞ」


「ああ」


 ジークはGダッシュで城内へと突入していった。














 ヌベトシュ城 -王の間前-


 城に侵入していた魔物を倒しながら、ジーク達は王の間に到着した。


「グルルル」


 王の間の扉の前で大きな黒い犬の魔物がジーク達を睨みつけ、唸っている。


 ジュレスが呟く。


「黒妖犬…、泥蜘蛛といい、マルー山の魔物達を連れてきたか。」


 マルー山とは、犯罪者への罰にも使われる、恐ろしい魔物達が多数生息する山である。


「片づけるぞ」


「ジーク、油断するな。」


 ジークとジュレスが黒妖犬に向かって剣を構える。


「グル?」


 黒妖犬が何かに気付いたような反応を見せ、後ろを向いた。


 シュバッ ドドドド


 突然黒妖犬がジーク達を飛び越えたかと思うと、凄まじい速さで走り去った。


「…なんだ?」


「さあ?」


 警戒しつつ、ジュレスは王の間の扉の中を覗き、目を見開いた。


「そ、そんな…」


 放心のジュレスが見る先には、無残に切り裂かれたルードとパナムの体があった。


「ルード様!」


「待てジュレス」


 駆け寄ろうとしたジュレスをジークが止める。


 抗議の目を向けるジュレスだが、ジークの目はジュレスを見ていない。ジークの目の先を追えば、そこには王の椅子に腰かける耳長の美丈夫、ジャブアの姿があった。床に落ちている大きな剣は血で濡れている。


「こいつが…、ルード様を…」


 ジュレスの目が怒りに燃える。


「来たな勇者。」


「お前が魔王か?」


「お前達は俺をそう呼ぶようだが、俺にはちゃんとジャブアという名前が…」


 ヒュギィン!


 ジークの投擲した槍がジャブアの不可視の盾に弾かれた。


「おお!」


 白い闘気を纏ったジュレスの剣がジャブアの首を狙う。


 ガギィ!


 不可視の盾に剣の軌道をそらされたジュレスが死に体となる。


 ガッ!


 ジャブアの手がジュレスの首を掴んだ。


「ぐっ!」


 ゴオ!


 いつの間にか跳躍していたジークがジャブアの真上から自分の身の丈よりも大きな剣を振り下ろす。その大きな剣もまた、白い闘気で覆われている。


 ゴガギィ! バギ!


 ジークの振り下ろした県もまた軌道をそらされ、ジャブアの座る王の椅子を破壊した。


「そんなものか?」


 ドカ!


「うっ!」


 ジャブアはジュレスを地面へと叩きつけ、その体を踏みつけた。


 ドス!


「ぐはっ!」


「その足をどけろ」



 シュウン シュアアアア



 ジークが収納から取り出した剣は青白く輝いていた。それを見たジャブアが言う。


「モスクスの輝きのエンチャントか。」


 シュバァ!


 ジークが輝く剣でジャブアの体を横に薙いだ。


 ドギギギギ!


 魔力の花が舞う。剣風がジャブアの後ろに抜けていく。


 ドゴア!


 剣風が王の間の壁を破壊した。


「それもすさまじい練度だ。だがそんなもの、保てるのはほんの数舜であろう。」


 モスクスの輝きとは、精鋭付与術師が何人も集まって初めて可能となる付与魔法であり、武器に付与されるのは破壊の力そのものである。その破壊力は凄まじく、軽く振るっただけで地面に大穴が開く。問題としては、付与しておける時間が極短なことと、あまりに大きい破壊力であるため、制御が難しい事が挙げられる。


 ギギギギ!


 ジークの剣とジャブアの間に魔力の花が舞い続ける。極短のはずの付与魔法の効果は未だ終わらない。








 ~ジークの回想~


 ジーク達が死舞の谷から帰還した日のやや後



 ヌベトシュ城 -兵士たちの訓練場-


「ふう…」


 浮かない顔のジークにジュレスが尋ねる。


「どうしたジーク?」


「ああ、少し元の世界の事を考えていた。」


「…帰りたいのか?」


「帰れるならばな」


「……」


「ああすまん、ジュレスを攻めたわけじゃない。攻めたところでどうにもならないし、その件については許すと言っただろ?」


「すまない…。」


「二人して落ち込んでも仕方が無い。能力の検証に戻ろう。」


「そうだな。」


 二人が能力の検証を再開しようとしたところ、ジュレスの部下が話しかけてくる。


「ジーク殿、ジュレス様、浮かない顔ですが、どうかされましたか?」


「いや、なんでもない。」「大丈夫だ。」


「そうですか…。ああそうだ、そんな時に使えそうな魔法がありますが、使ってみますか?」


 ジュレスが怪訝な顔をして聞く。


「使えそうな魔法?」


「ええ、なんといいますか、気分を上げてくれる魔法でして。」


 ジュレスが魔法について思い出したのか、手を叩く。


「ああ、あれか。士気を上げたり、一斉攻撃時の勢いづけに使う…。」


「ええそうです。どうしますか?」


 ジークは頷きながら言う。


「この気分が晴れるなら歓迎だ。」


「わかりました。では早速。」


 ジュレスの部下は何やら唱え出した。


 赤い光がジュレスの部下の手から出て、ジークを包む。


「これは…」


「どうだ?気分は?」


「ああ、なんだか元気が出てきた。」


「それは良かった。」


 ジュレスもジークも笑顔になった。そこまでは良かった。



 ***



「ヒヤーウィーゴーォウー!」


 ジークは訓練場の端まで走った後、今度は反対側の端に向けて走り出す。


 途中、訓練用の案山子にぶつかって倒れた。


「マンマミーア…」


 だがすぐに起き上がり、跳躍する。


「ヤッフー!!」


 空中で一回転したかと思うと、お尻を下にして急降下。


 ドゴス!


 したたかにお尻を打ったジークであったが、ほとんど痛みを感じないジークにとっては何のことは無い。


「レッツァゴーウ」


 一段、二段と飛んだ後、手を前に出したまま水平に跳躍し、腹から地面に着地。


 ズサー


「ヤッ」「ウッ」「オーウ」


 縦横無尽に飛び回るジーク。


 ジュレスが部下に聞く。


「おい、どうしてこうなった?」


「おかしいですね。あの魔法は少し気分を上げた後、直ぐに効果が切れるはずです。」


「すぐ切れるはずの魔法が切れない…。まさか、被魔法の永続化?いや、クロマ殿の炎は消えていたし…。」


「ジュレス様、それよりジーク殿ををなんとかしないと。」


「そうだな。気分を上げる魔法でああなったのなら、反対に気分を下げる魔法を掛けたらどうだ?」


「そんな魔法ありませんよ。」


「何!では奴はずっとあのままか!?」


「ンマーリオ!!!」


 バリィッ!


 ジークが服の前を破った。


「うわあ!まずい!奴を止めろ!」


 ジュレスが部下に命令する。


「ジーク殿を止められるのなんて、この場で可能性のあるのはジュレス様だけです!」


「ぬ、ぬうう!ならば私が奴を抑えている間に解決策を考えろ!わかったな!?」


「はい!」


 真っ赤になりながらジュレスがジークを押さえつけようとする。だがジークはそれが楽しいのか、HAHAHAHAHA!と笑いながらジュレスにハグをする。さらに真っ赤になったジュレスが「事故だ!これは事故だ!」と言いながらジークを抑えようとする。この頃腕力はジュレスの方が上であり、押さえつけに成功するが、隙を見て逃げ出そうとするジークを抑えるためには密着が必要であり、ジークの引き締まった上半身を体に感じたジュレスはさらに真っ赤に…。


 なんやかんやで気分を平静に保つ魔法が見つかり、それを掛けることでジークは落ち着きを取り戻した。


 だがしかし、良かったのか悪かったのか、これによってジークは何が起ころうと常に冷静な男となってしまった。


 召喚時、ジークの授かった能力は被回復魔法の永続化ではなかった。


 自分に利する被魔法の永続化。それが真にジークが授かった能力であった。



 ~ジークの回想終わり~







 輝き続けるジークの剣を見て、ジャブアが言う。


「エンチャントの永続化か。」


 ジークの装備品へのエンチャントは消えることが無い。ジークの能力は自分の装備品への付与魔法すらも永続化した。


「どうしてわかった?」


「さてな。」


「読心か。」


 バッ!


 ジークはジャブアから一旦離れ、輝く剣を左手に持った。


 シュウン


 ジークが収納から右手に取り出した剣もまた、輝いている。


 ガギン!バギン!バギン!


 両の手に輝く剣を持ち、二刀流となったジークはジャブアに対して剣戟を繰り出し続ける。もちろん、踏まれたままのジュレスに被害が及ばないように気を使いながらである。今のジークは常に冷静な男なのだ。


「そうだ。相手の行動の先読みができるほどに素早く読心は出来ない。絶えぬ攻撃で心を読ませないのが、俺を倒す方法だ。」


 ガギン!バギン!


「手の内を話すなど余裕だな。」


 話しつつも、ジークは攻撃の手を緩めない。


「余裕にもなろう。相手がこれほど弱くてはな。」


 ジャブアが手をジークに向けた後、地面に向かって振り下ろした。


 ドゴォ!


 ジークの体が王の間の床にめり込んだ。


「ぐっ!?ぐがっ!」


 ジークは体を起こそうとするが、見えない力に押さえつけられて動けない。


「俺の体にかすり傷一つつけられず、少し捻っただけでこの様だ。お前は本当に勇者か?」


「っ!!」


「さあ、お前の底を見せてもらうぞ。」


 ガッ


「ぐっ!うっ!」


 ジャブアは足元のジュレスの首を掴んだ。


「何を…する気だ…」


 ジークは声を振り絞る。


「お前はこの女に執心のようだ。」


 グイッ


「ううっ!」


 ジャブアはジュレスの首を掴んだまま上に持ち上げ、ジークに向ける。


「特に、この脚に。」


 シュカッ


 ジャブアの手がジュレスの脚、膝のあたりを横に薙いだ。


 ゴトトッ ビシャ


 ジュレスの両脚が床に落ち、血が噴き出した。



「ぐああああ!」


「この脚では、もう靴下を履けんな。」



 ビシッ!



 ジークの下の床に亀裂が走る。ジークの体がだんだんと起き上がっていく。


 「ううっ!うあああっ!」


 ビシャ ビシャ


 痛みでジュレスが暴れる度、切断面から血が飛び出る。


「ああ、これでは直ぐに死んでしまうな。処置してやらねば。」


 ジャブアがジュレスの脚の切断面に触れる。


 ジュウウウ!


「きゃああああ!!」


 肉の焼ける音。


「これで良し。」


 ジュレスの脚からの出血が治まった。



「があああああ!!!」



 ビシィッ!



 ジークの下の床に亀裂が大きくなる。ついにジークが立ち上がる。



「ジャブアアアアア!!!!」



 常に冷静のはずのジークが激昂した。


 当然である。


 靴下の恨みは、例えられるもののない深さなのだ。


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