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異世界における他殺死ガイド49

 

 ザンシアが仮面が取れてしまった顔無しを抱えたまま、一階にある誰も使っていない部屋に入っていった。


 カラカラカラ


 俺はそれに続いて部屋に入った。部屋には鎖やら手錠やらが壁にかけてあり、拘束用の台みたいなものが置いてあった。え、なにこの部屋は。拘束するためだけの部屋なの?なんでそんな部屋があるの?これもドクの趣味なの?


 ガチャリ


 ザンシアは顔無しを台に拘束した。


 拘束された顔無しの顔を見れば、金属やら陶器っぽい質感の物やらが詰まっていた。陶器っぽい質感の物の上には回路のような、微かに光る白い線が走っている。なんとなくだが、この白い線は魔力の通る回路のような気がする。


 これは多分自動人形だろう。誰が作った?ドクの教え子達か?


 バヂッ!


「うっ!」


 吃驚した。顔無しが突然痙攣した。


「ん?」


 シュワ…


 顔無しの体の一部が透明になった。どうやら透明化能力を持っているようだ。


 こいつは透明な状態で屋敷に潜んでいたということか、屋敷中探しても見つからないはずだ。ゴーを襲ったところから見て、こいつが皆を殺した犯人だろう。動機はさっぱりわからないが。



「…ドクさん。」



「うお」


 また吃驚した。拘束部屋の扉を見ると、シィナが立っている。


「なぅ…」


 シィナの後ろにウーラが居る。ウーラはフードを被っていない。


「あ…。」


 シィナのことをポンコツだの似非探偵だのと心の中で罵ってしまった俺だが、本当のポンコツは俺だった。ウーラは寝る時ローブを脱いでいる。そこをシィナに起こしてもらったりしたら、ウーラの顔を見られてしまうに決まっているではないか。


 シィナはこちらを指さして言った。


「それ…、自動人形ですよね?」


「うあ?あ、ああ、そうみたいだね…。」


 シィナは俺ではなく顔無しを指さしていたようだ。ウーラのことがバレてしまったことや、顔無しは一体何のために皆を殺したのかなどの考え事が、俺を混乱させている。


「ドクさん、謎は全て解けました。」


「え?」


「嵐も去ったようですし、庭に行きましょう。」


「庭に?何故?」


「こういう時は広いところに移動するものなのです。」


 所謂謎解きの時間というわけか、まあわかる。崖上だったらもっと良かったかもしれない。


 カラカラカラ


 ザンシアに車椅子を押され、庭に出る。雨は完全に止んでいた。


 パチチッ


 ザンシアが遠隔でどこかにある照明のスイッチを入れたのか、庭が明るくなった。中央にある木がライトアップされている。元々このための明かりなのかもしれない。


 シィナはウーラとともに木の下にまで歩いて行った。俺とザンシアもそれに続く。


 木の下にシィナ、シィナの後ろに隠れる形でウーラ、それに向き合う車椅子の俺と、俺の後ろにザンシアという形になった。


「それで、謎が解けたとは?シィナさん。」


 シィナは俺を指さして言った。


「皆を殺した犯人、それはずばり、あなたです。ドクさん。」


 なんとなく俺もそうではないかと疑っている。


「証拠はあるのかい?」


「私の目は誤魔化せませんよ。屋敷にいる鎧の召使達、全てドクさんが作った自動人形ですよね。」


「そうだね。」


「皆を襲っていたのは自動人形だった。ドクさんは自動人形を作れる。犯人はあなたです!」


 乱暴だが、この世界では十分な証拠かもしれない。疑わしきは罰する世界なのだ。


「私が犯人だとして、動機はなんだい?」


「この子です。」


 シィナはウーラを前に出した。


「なぅぅ…」


「ドクさん、あなたはカエラさんを合成実験で殺害し、この子、ウーラを魔物と合成した。そしてそれを五人に知られてしまった。その口封じが動機です。」


 魔物との合成についてはウーラが話したのだろうか。二人の間にどんな会話があったのだろう。知られたのはいつだ?尋問の時か?ウーラを起こさせた後か?




 突然の尿意。




「!……。」



 なんというタイミングであろうか、こんな時に催すとは。まじめな話の最中だというのに、漏らしてしまったら色々と台無しだ。いや、漏らすしか無いのだが、今漏らすというのが問題だ。


「違いますか?ドクさん。」


「う…、むむ…。」


 我慢だ。



 ドムン!



 突然屋敷の二階から衝撃波が発せられた。


「何!?」「なぅ!?」「何だ!?」


 …ちょっと漏れたかもしれない。


「ザンシア今のは…」


 ザンシアの顔を見ると目に光がない。


「…ザンシア?」


 ザンシアが反応しない。先ほどの衝撃波のせいだろうか?まさか壊れてしまった?いや、ザンシアには自動修復機能がある。そのうち回復するはずだ。


 だがまずい。これはまずい。何がまずいって、このまま俺が漏らした場合、オムツを変えてくれる人がいない。



「…なんだったんでしょう今の?とりあえず続けましょうか。」


 …オムツの交換をシィナやウーラに頼むのは御免だ。


「ハジメさんとヨニさんは後ろから心臓を刺されて殺されました。」


 だが膀胱が限界だ。


「そしてこの二人には紙片を持たせた。」


 …少しなら出してもバレないんじゃなかろうか?


「キエルさんは姿を消し、シスさんは首を折られて殺された。」


 ちょっとだけ。ちょっとだけだ。


「シスさんは紙片を持たされていない。」


 あっ、止ま、止まらな…。


「殺し方が別なのは、複数犯人がいるように見せるための偽装工作ですね?」


 あああああああ…。


「あふっ!」


「違いますかドクさん?」


「…本当に、申し訳ない。」


「認めるんですね?」


「いやその…ゴニョニョが…。」



 ぐっ!


 記憶が流れ込む。



 そうだった。全員俺が、正確にはドクが仕掛けた罠にはまって死んだ。


 ドクは気づいていた。キエルとシスがお金目当てで近づいてきたことを。二人が一線を越えたところを殺すため、倉庫部屋に罠を張ったのだ。倉庫部屋に金目のものがあると見せ、手を出したら罠が作動する。倉庫部屋の罠は落とし穴と箱型自動人形だ。落とし穴の罠は部屋の床に隠されており、事が済めば穴は見えなくなる。キエルは倉庫部屋に忍び込んだところ、落とし穴に落ちて死亡。シスが姿が見えなくなったキエルを探すと箱から手足が生えて立ち上がる。それを見てシスが叫ぶ。箱型自動人形の後ろ回し回転蹴り。〇ークソウルのミミックか。首が折れてシス死亡。


 ドクは教え子三人が自分の研究およびザンシアを狙っていることを知っていた。だから再び屋敷に来た時、全員を殺すように仮面の自動人形に命令した。仮面への命令はザンシアも知っていた。そして仮面はザンシアの遠隔操作の対象にならない。仮面とザンシアの戦いは酷いマッチポンプだったのだ。


 キエルとシス、教え子二人が別の死に方をしたのはそういうわけだ。


 だがドクは橋を落としてはいない。そしてゲッコーが死んだのは事故だ。








 ドクが犯人。なんとなくそんな気はしていたので衝撃はそれほど無い。


 …今はとにかく、オムツを交換したい。臭う前に。


「ドクさん…、もう一つ、伝えることがあります。」


 勿体ぶるのは止めてほしい。


「私の名はシィナ・ナイ。カエラ・ナイは私の母です。」


「ぬぐ…!?」


 これは衝撃の事実。ということはウーラは…。


「この子、ウーラ・ナイは私の弟。弟をこんな姿にした罪、償ってくださいドクさん。」


「なうぅ…」


 クンクン


 ハッ!ウーラが臭いを気にし始めた。このままでは…。


「朝が来たら、あなたをルセスに連れていきます。そこで裁かれてください。」


「…そうだ。私は裁かれるべきだ。」


 こんな時に漏らしてしまってごめんなさい。



 キリ…リ… キュィ…



 ザンシアの目に光が戻った。おお、神よ。


「ザンシア、大丈夫か?」



「ガハハハハハ!」



 ドガッ!



 突然笑い声が響き、ザンシアの体が横に蹴り飛ばされた。


 キュィィ…ィィ…


 蹴り飛ばされたザンシアは立ち上がらない。まだ治りきっていないようだ。


「ガハハ、犯人は爺さん、あんただったか。なかなか楽しい余興だった。」



 ドス



 俺の腹から剣が生えてきた。


「ぐ!?」


「きゃああ!」「なうう!」


 俺は震える首を捻り、なんとか横を見た。


 肩に血が付いたゲッコーがそこに立っていた。


 だがその口は下品ににやけており、別人のように見える。


「あなた…、ゲッコーさん!?いえ、その顔は…、まさか、指名手配の!」


「今頃気づいたのか。ポンコツなお嬢ちゃん。」


「ルセスから逃げてきたんですね!そして、橋を落としたのは…。」


「ああそうだ、俺が落とした。自警団の奴らを巻くためにな。そんで、おあつらえ向きに屋敷があったから、住人を皆殺しにして暫く潜むつもりだった。」


 …夜遅くに来た見知らぬ人を泊める、完璧な死亡フラグではないか。


「だが気が変わった。面白そうな状況になったんでな。皆殺しは事の顛末を見届けてからにしたのさ。」


 ズシュ


 ゲッコーが俺の腹から剣を抜いた。


「ぶ!」


 血が逆流してきた。


「爺さん、中々しぶといな。」


「フシャーッ!」


「ウーラ!?」


 ウーラが牙を剥き、ゲッコーへと飛び掛かった。


「おっと。」


 ドカッ!


「ギャウ!」


 ウーラはゲッコーの前回し蹴りで叩き落された。


「ウーラ!!」


 シィナがウーラに駆け寄り、助け起こす。


「なぅ…ぅ…」


「ハハア、人間と魔物の合成か。こいつは高く売れそうだな。」


「なんてことを!」


 シィナがゲッコーを睨む。


「飛び掛かってきたのはそいつだぜ。安心しな、あんたもちゃんと殺してやるよ。」


「!」



 キリキリキリ



「お、父、様」


 いつの間にかザンシアが立ち上がっている。


 キュイ キュイ キュイ


 ザンシアの目の色が赤と青を行ったり来たりする。殺戮形態が解禁されかかっているのだ。


 ザンシアには人を殺すなと命令してある。まさか、それに逆らっている?


 駄目だザンシア、ゲッコーを殺してはならない。だがそれは既に声にならない。


「よくも…。お父様を!」


 ギギギギ… キシ!


 ザンシアの目が完全に赤く染まった。


「ああ?」


 シュカ


 ジワリ


 剣を持ったゲッコーの右腕に赤い線が入った。


 ボトリ


 ゲッコーの右腕が落ちた。


「なん…」


 ヒュバ! ゴキィッ ドガ!


 ザンシアに蹴り飛ばされ、吹き飛んだゲッコーの体は庭の壁に当たって落ちた。吹き飛ぶ瞬間、ゲッコーの首が真後ろに回ったのが見えた。おそらく、即死だろう。



 ザンシアはドクの命令に逆らい、人を殺した。


 愛するものを奪われた憎しみが強すぎて、仇討ちの優先度が命令に勝ってしまったのだ。愛が深すぎたゆえの奇跡であろう。


 いや、そんなことはない。そうなるように、ドクがザンシアを作った。それだけのことだ。ザンシアは作られたとおりに動いたのだ。


 どこまでも人の思考に近しい。それのなんと尊いことか。


「お父様!」


 ザンシアが俺の顔を覗き込む。悲愴な顔だ。全て計算しつくされた完璧なリアクション。


「私を一人にしないで下さい。」


 ザンシアは俺の手を掴み、自分の頬に当てる。


 ドクが成したかったことはこれだろう。誰かに悲しまれながら逝く。


 シスやキエル、教え子を見てわかったが、ドクの周囲には碌な人間が居なかった。


 だから、自分を看取ってくれる相手を作り出したのだ。


 他の機能はそのついでだ。あと趣味だ。



 ああ、目が見えなくなってきた。そろそろ死ぬ。


 ゲッコーは死んでしまった。乗り移り先は無い。


 だが良い。こうしてザンシアに看取られて逝けるならば。



 …俺が死んだらザンシアはどうするのだろう?…機能停止するのだろうか?


 …そうだ、研究が他に漏れないように…ドクの死に連動した仕掛けが…。


 …ああ、もう、考えることも…、できな…。




 ■■■




 ゴゴゴ…



「何!?」


 シィナがドクの屋敷に目をやると、屋敷の壁にヒビが入ったのが見えた。屋敷が崩れていく。


 ボッ!


 屋敷に火の手が上がる。


「ザンシアさん!?」


 ザンシアはドクの死体を抱き、ドクの屋敷へと歩いていく。


「危険です!戻って!」


 シィナはザンシアを止めようとするが、ザンシアは既に玄関の下。


 バキッ ドガシャ!


 玄関の屋根が落ちる。


「あっ!」


 瓦礫に行くてを塞がれ、シィナはそれ以上ザンシアを追えない。


 ザンシアは燃え盛る屋敷の中へと消えていく。



「……。」



 シィナはそれを見ていることしかできなかった。



 ***



 朝が来た。


 ドクの屋敷は見る影もない焦げた瓦礫の山と化していた。


「なう…」


 ウーラがそれを寂しそうに見つめている。傍に立つシィナがそれを見てウーラに尋ねる。


「ウーラ、何故寂しそうな顔をするの?」


「お爺さん、死んじゃった?」


「多分ね…。でも、ドクさんは正直、自業自得だったと思うわよ?」


「あの人多分、別の人だよ?」


「…どういう意味?」


「…よくわかんない。」


「ウーラ…、あなたは私が守るからね。」


 シィナはウーラを抱き寄せた。


「お姉さん、僕って、高く売れるの?」


「え?」


「僕を売ったりしない?」


「そんなことするわけないじゃない。あなたは私の弟なのよ。」


 シィナはウーラをギュッとした。


「なう。」


「あと、お姉さんよりお姉ちゃんが良いわ。」









 焦げた瓦礫の下。地中に空間がある。


 そこには体中の骨が折れた男の死体がある。


 そのさらに下の地中に、大きな空間が広がっている。



 カツン カツン



 明かりの無い真っ暗な中、動くのはゴス眼鏡介護用自動人形。



 カツッ



 足音が止まる。


 キュキュキュキュキュキュキュキュイイィィィ…


 周りに幾つもの小さな青い光が灯る。


 主を失い、命令されることのなくなった自動人形達は、機能停止したりはしない。


 仮初の魂の導きに従って、思うままを成すのだ。


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