異世界における他殺死ガイド47
「お父様、着替えてきます。」
「あ、ああ…。」
ザンシアは素早く部屋から出て行き、すぐに戻ってきた。服はゴス風に戻っている。残念。
ウーラを部屋に残したまま廊下に出ると、食堂から来たシィナ達に鉢合わせた。
「今の声は?」
シィナ達と一緒に声が聞こえた方に向かう。一階廊下の奥にある部屋の扉が開いている。そこは屋敷の倉庫であった。
開いている扉から中を伺うと、廊下側からの明かりに照らされ、誰かが倒れているのが見えた。
ザンシアに車椅子を押すよう促し、部屋に入り、明かりをつけてもらう。他の連中も俺の後に続いて部屋に入る。
部屋には箱がいくつも置いてある。その部屋の中央やや奥に、うつ伏せに倒れた誰かの体。顔からそれがシスであることが推測できる。うつ伏せに倒れているのに、顔が見えるのは、シスの首が真後ろを向いているからである。
シスの首は無残に捩じれている。シスは何者かに首を折られたのだ。
「うっ…」「うわ…」
シィナがシスの死体に近づき、状態確認を行う。そして手を探る。ハジメのように紙片を持っていないか確かめたのだろう。
「死んでるわ。」
「見ればわかるよ。ポンコツかあんたは。」
「ポ、ポンコツ!?」
ゴーはシィナに対して辛辣である。これは俺が注意すべきか。
「ゴー、そこまで言わなくても。」
「いえ、ドクさん、私はポンコツです。キエルさん達には三人以上でいてもらうべきでした。二人目の犠牲者が出てしまったのは私の指示が悪かった所為です。」
シィナは俯いている。落ち込んだようだ。
「だがこれで犯人が分かった。キエルだ。」
キエルがシスを殺した?そういうことになるのか。
「何故彼女はこんなところに?キエルの部屋にいたんじゃないの?」
「そのキエルはどこだ。」
「誰か物音を聞いたか?争ったような音を。」
「いや、聞いていない。」「聞こえなかった。」
「彼女は紙片を持っていないわ。」
「犯人が持たせるのを忘れた?」
「それより、キエルがどこに居るか確かめようよ。」
シスの死体と倉庫部屋をもっと調べるべきかもしれないが、ここはキエルの行方を確認するのが先だろう。シスを倉庫部屋に放置したまま、全員で二階へ移動し、キエルの部屋へと向かった。
キエルの部屋に鍵はかかっていなかった。部屋に入り、中を調べたが、キエルは見つからなかった。
「屋敷内を探そう。」
屋敷内をくまなく探したが、キエルは見つからなかった。
隠し部屋の事を明かそうかと迷ったが、明かさないことにした。小声でザンシアに伝える。
「ザンシア、守護者で書斎を見張ってくれ。」
「わかりました。」
キエルが書斎の秘密を知っていて、隠し部屋にいたとして、これで書斎から誰か出てくれば気づける。
「キエルは屋敷内に居ない。」
「外に出たか。」
「こんな嵐の中?」
「また入ってくるかな?」
「この屋敷の窓は生中には破壊できない。」
「扉に鍵を掛けておけばキエルはもう入ってこれまい。」
「では屋敷内は一先ず安全ということか?」
なんやかんやで屋敷内は安全ということになり、皆疲労していたため、各自部屋に戻り、休むということになった。
「私はシスさんの死体を調べます。」
シィナは倉庫部屋に向かうようだ。その他の人は部屋へと戻った。
俺も隠し部屋を確認しなければならない。
■■■
ガチャ
部屋に戻ったヨニはベッドに座った。
「まったくなんなのよ。」
ヨニは部屋に置いてある自分の荷物に目をやる。
「これじゃ計画が台無しだわ。」
ため息をついて上を見るヨニ。
「……。」
何かの気配を感じ、部屋を見回すヨニ。
「今、何かが…。」
だが部屋には何も居ない。
「気のせいか。」
ヨニは部屋を見回すのを止めた。
■■■
ピン!
今、誰かが死亡フラグを立てた気がする。気のせいであることを願う。
ザンシアに車椅子を押してもらい、書斎に着いた。書斎の前には守護者二号が立っていた。
部屋に入って部屋の鍵を閉め、本棚を操作する。操作が終わった後、壁にあるスイッチを押すと、隠し部屋の扉が開いていく。俺は緊張しながらそれを見守った。
ゴゴゴゴ
扉が開ききった。
カラカラカラ
ザンシアと共に隠し部屋に入り、誰も居ないことを確認する。
「ふう、誰も居なかったか。」
「なぅ…」
小さな声に気付き、うしろを振り向くとそこにはウーラが居た。
何故ここにウーラが?部屋の鍵は閉めたはずだ。
つまり、鍵を閉める前からウーラは部屋の中に居た?
いや、それより前、守護者に部屋を見張らせる前に既に部屋の中に居たということになる。
シスの悲鳴に気付いて皆が倉庫部屋に向かった時、ウーラは寝ていなかった。俺達が部屋を出てすぐに、部屋を抜け出し、書斎に入ったということだ。
「なぅぅ…。」
ウーラは水槽に浮かぶ合成魔獣を、カエラの変わり果てた姿を見ている。
「ウ、ウーラ…」
「うわあああ!」
二階から誰かの叫び声が聞こえた。イベントは一つずつ来て欲しい。
「ウーラ、部屋に戻って休みなさい。ザンシア、守護者で部屋まで連れて行って。」
「わかりました。」
守護者二号が部屋に入ってきて、ウーラを連れて行く。
「なぅ…。」
隠し部屋を元に戻し、二階へ向かう。
ゴーが廊下に座り込んでいる。座り込んでいるのはヨニが泊まっていた部屋の前だ。
部屋を覗くと既にシィナとゲッコーが中に居り、ヨニが血溜まりの中に倒れている。
「ハジメさんと同じように心臓を刺されています。」
シィナが紙片をこちらに向ける。
「二人目と書いてあります。」
二人目?何故シスを数えない?これもキエルがやったのか?
この短い期間に三人も、誰にも気づかれずに殺している。キエルは何か特殊能力を持っている?
「くそ!」
ゴーが床を叩いた。
「キエルは一体どうやって彼女を殺した?」
「屋敷はくまなく調べた。キエルは屋敷内に居ないはずだ。」
「なら…、彼女を殺したのはキエルじゃない?」
皆が皆の顔を見回す。
「このまま屋敷にいたら駄目だ。」
「ルセスに助けを求めましょう。」
「外は嵐だぞ?」
「屋敷に居たら犯人の思うつぼだ。」
「ドクさんは車椅子です。全員で移動は出来ませんよ。」
「助けを呼びに行く組と残る組で分かれよう。」
なんやかんやでルセスに助けを求めることに。
ドク、ザンシア、ウーラが屋敷に残り、シィナ、ゲッコー、ゴーが助けを呼びに行くこととなった。
ドザアアアア
夜の嵐の中に出る三人。三人とも武器を持っている。
シィナが叫ぶ。
「ドクさん!待っていてください!必ず助けを呼んできますから!」
叫ばないと声が通らない。
ザッザッザッ
三人が雨の中に消えていく。
俺は自室に戻る。ウーラがベッドで寝ている。
こういう時のパターンとしては、三人が戻ったら屋敷に残った人たちは全員死んでいた、というのが考えられるだろうか?
俺はそれで良いが、ザンシアとウーラを守らねば。
「ザンシア、皆が戻るまで、部屋を守護者に守らせてくれ。」
「わかりました。」
だが、相手が守護者もザンシアも破壊できるような相手だったらどうしようもない。何とか俺から殺すように交渉するくらいだろうか?
■■■
ドザアアア
「ハア、ハア…。」
「くそ…。」
崖に立ち尽くすシィナ、ゴー、ゲッコーの三人。
足元の崖、そこにかかっていたはずの橋は見えない。橋は落ちていた。
「なんてこと…。」
「全員を逃がさないつもりか?」
「これも、キエルがやった?」
「わかりません。」
「戻るぞ。」
三人は来た道を戻り始めた。
ドザアアア
「あっ。」
躓いて転びそうになるシィナ。
「気をつけろ。」
ゲッコーが手を支えてくれたおかげでシィナは転ばなかった。
「あ、ありがとうございます。」
「くそっ!くそっ!」
落ち着かない様子のゴー。
そろそろドクの屋敷が見える頃。
「カァァー!」
突然襲い掛かってきたのは大きな鴉の魔物。玄冬鴉であった。
玄冬鴉の鋭い爪がシィナに向かう。
「きゃああああ!」
「ぬう!」
ドカ!
ゲッコーがシィナを突き飛ばした。
バシュ!
玄冬鴉の爪はゲッコーの肩を浅く傷つけて行く。
「ぐっ!」
「ゲッコーさん!」
「二人とも、ここは俺に任せて先に行け!」
「で、でも!」
「いいから行け!」
「くっ!」
■■■
ピン!
今、誰かが死亡フラグを立てた気がする。気のせいであることを願う。
■■■
ドクの屋敷に向かって駆けるシィナとゴー。
「ぐああああ!」
ドザアアア
ゲッコーの断末魔は嵐の音にかき消された。
屋敷へとたどり着いた二人。
玄関の扉が開く。中には守護者二号が立っていた。
「ハア、ハア…。」
ゴーはその場に座り込んだ。
「…ドクさんに知らせてきます。」
シィナはドクの部屋へ歩き出した。
シィナはドクの部屋の前に来ると、扉の前に立っていた守護者二体がどいてくれた。
扉をノックしようとしたシィナの耳に、ドクの話し声が聞こえた。
「…っと良く見せておくれザンシア。」
「ああ、そんなお父様。」
「良いじゃないか。」
「あっ、無体な。」
「…こうなっているのか。綺麗だ。」
「見ないでください…。」
ガチャ バアン!
シィナはドアをぶち開けた。
「あなた達、親子で、しかもこんな状況でなにをしているの!」
「……。」
部屋の中を見ればザンシアの手を取り、それを観察しているドクの姿。
「も、申し訳ない…」
ドクはハッとしてザンシアから離れ、深い反省の色を見せた。
手を観察するくらいなんだというのか。虫刺されでもしたのか。シィナはそう思った。
「い、いえ、親子の触れ合いを邪魔してごめんなさい。」
「本当に、申し訳ない…。」




