彼らの正体 〜ギルベウス編〜
衝撃の事実に茫然とするわたくし。
けれども追い討ちをかけるかのように、今度は獣人族のギルベウス様が口を開きます。
「俺もカイザー殿と同じです。俺は幼少期、一時的にアルフォーヌ公爵が治める領地の教会で純人族の子に混じって過ごしていました。その目的は、これから先も純人族と円滑が持てるように、純人族の生態を詳しく知る為です」
えええええ?
ルシフェル様の言葉通りなら、あなた獣人族の中の王族なんじゃないの?
そんなことわざわざするの?一族の王子様が?
交流留学みたいなものかしら……?
「ですが、長きに渡って獣人族は野蛮という中傷が他の子ども達に受け継がれていて、俺はいつも仲間はずれにされていました。だけど、そんな俺を救ってくれたのがルーラだったんです」
あ、あ……ああー……。
思い出しましたわ……。
あれはわたくしが10歳になった頃でしょうか。
我が領地の偵察ついでに、身寄りのない孤児を引き取って面倒をみている教会の巡回をしていた時ですね。
着らなくなったドレスを売ってお金にし、それを元手に絵本と図鑑、子どもが喜びそうなオモチャや勉強に興味がある子どもの為に教材を買い込み、それらを各教会に寄贈していました。
いくつか目の教会にたどり着いた時、他の子ども達と明らかに距離を置いている男の子が一人いました。
互いに笑い合う子ども達を羨ましそうに、そして寂しげにぼんやりと見つめる様子はこちらの胸をキリキリと締めつけました。
前世において子どもどころか伴侶も見つけられなかったオールドミスのわたくしですが、もしも自分の子どもが集団から弾かれて孤独感を味わっていたのではないかと想像すると、例えようもない悲しみと苦しみに襲われ、自然と呼吸が浅くなりました。
わたくしは無言でずんずんとその男の子に近づくと、わたくしが目の前に来てもぼーっとしている彼の手を取り、ボールを蹴り合いこしている子ども達の輪にその子を連れて混じりました。
最初は互いにぎこちなかったものの、同じ時間を共有することで仲間意識が芽生え始めた頃合いを見計らい、わたくしは前世の記憶を駆使してサッカーのルールを彼らに伝授し、チームに分かれて遊ぶことにしました。
女の子の反応はイマイチでしたが、男の子は興味津々で参加してくれましたね。
チーム分けの際、独りぼっちだった男の子の運動神経がいいことからチーム分けの時に取り合いっこになったのもいい思い出です。
「あの時、貴女が俺を孤独から救ってくれなかったら、俺は子どものまま、人に対して信じる力を失っていたと思う……だから、本当に感謝するべきなのはこちらの方だ」
美形のはにかみって威力凄いですね。またしてもカイザー様の時のように野次馬から黄色い声が上がります。
無駄に顔の整った人達に囲まれて育ったわたくしでも思わずキュンっとときめいてしまいました。
ちなみにこの時ルシエラから教えられたサッカーはギルベウスを通じて獣人族の間で大流行し、今では種族間の交流や催事の時に行われるようになったとか。