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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

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55/130

55.教えてくれなかったあいつ

大河視点です。

 翌朝、出社した俺は、敬吾から昨日の調査の報告を受けた。

 やはり俺達の推測通り、月曜日に、総務部と受付嬢の女性社員数人が、俺の家を訪れていたらしい。気になっていた冴香という少女は、単なる家政婦で、気に留める必要などないと分かって拍子抜けした、などと翌日に話していたという証言が得られたそうだ。


 何だよ単なる家政婦って。俺と冴香はそんな関係じゃねえ! と憤りを覚えたが、おそらく家政婦だと言ったのは冴香自身だろうという事に思い至る。女達に囲まれて、穏便に済ませる手段を考えてそう口にしたのだろう。気持ちは分からなくはないが、仮とは言え婚約者だと、きちんと名乗って欲しかった。そしてそんな事があったのなら、一言で良い、俺に教えて欲しかった。あいつの様子がおかしいと、俺が気付いて声を掛けていたのだから、尚更。

 女達に囲ませてしまった事も、冴香が堂々と名乗れなかった事も、俺にすら教えてくれなかった事も、全ては俺が不甲斐ないせいだと、頭では分かってはいるのだが、失意に陥らずにはいられない。握り締めた手の平に爪を立て、ギリ、と奥歯を噛み締める。


 「大河、彼女達はどうする?」

 「俺と冴香にこれ以上近付かないよう、きっちり釘を刺しておく。問題は谷岡だな。」


 今後、二度と同じ事を起こさせるものかと、無理矢理気持ちを切り替える。そう、これだけでは谷岡の冷笑の意味が分からない。俺達を馬鹿にし、嘲笑うかのような、昨日見せた冷たい笑みと笑い声。他の女達はどうだか知らないが、あいつには絶対まだ何かある。


 その日の昼休み、俺は昼当番だった谷岡を除いた面子を、ミーティングルームに呼び出した。


 「お前達、最近俺の家に来ていたそうだな? ストーカーみたいな真似をされて気持ち悪い。二度としないでくれないか。」


 会社で被っている巨大な猫を捨て去った俺が、不快をはっきり顔に出しながら睨み付け、冷たい声色で追い詰めれば、全員が簡単に青褪める。


 「す、すみませんでした! も、もうしませんから……!」

 「お前ら、冴香に何を言った?」

 全員をざっと見回し、低い声を出して凄むと、一人の女が震えながら必死に弁解した。


 「あ、天宮係長との関係を尋ねただけです。そうしたら、家政婦だって返ってきて……。それだけです! 本当です!」

 「冴香は家政婦じゃない。まだ一応『仮』は付くが、俺の婚約者だ。」

 「「ええっ!?」」

 全員が息を呑んだ。俺はすかさず机を拳で叩いて、思い切り怒声を浴びせる。


 「これ以上冴香に接触したり、余計な真似をしたりすれば、お前ら全員許さねえからな!!」


 部屋中に響き渡った怒号に全員が震え上がり、涙目で首をコクコクと縦に振る。まだ手緩い気もするが、これだけ怯えさせればまず大丈夫だろう。まあ、こいつらのした事については、後で総務部長にきっちりと報告させてもらうし、それでなくても、今回の調査に協力してくれた社員から、徐々に噂が漏れ出ているみたいだけどな。


 「一つ訊くが、谷岡は冴香に何を言っていた?」

 「え……谷岡さん? 知りません……。」

 「そ、そう言えば、あの後一人だけ遅れて追い掛けて来ていたけれど……。」

 女達は不安気に互いの顔を見合わせている。


 そうか、奴は一人で冴香に接触したのか。だとしたらこれ以上は時間の無駄だ。

 舌打ちし、乱暴に扉を開けてさっさと退室するよう促すと、全員そそくさと逃げるように出て行った。女達と入れ替わりで、外で見張りをしていた敬吾が入って来る。


 「相変わらず表と裏の顔の使い分けがえげつないな。可哀想に、全員青くなって震えていたぞ。二度とお前のファンには戻らないだろうな。」

 「フン。余計な取り巻きが減って清々する。」

 貴重な昼休みの時間が減ってしまったので、敬吾と急いで食堂に向かう。


 「で、谷岡さんのあの笑いの意味は分かったのか?」

 「いや、あいつは一人で冴香に接触したらしい。後であいつ自身に吐かせる。」

 「不穏な芽はきっちりと摘んでおけよ。後で大事にならないようにな。」

 「分かっている。」


 定時後、今度は谷岡をミーティングルームに呼び出した。


 「金輪際俺に纏わり付くな、って言ったのは貴方の方でしょう、大河。今更私に何の用?」

 怒りを前面に押し出していても、耐性がついてしまったのか、谷岡は不敵な笑みを浮かべている。


 「お前、月曜に俺の家に来たそうだな。冴香に何を吹き込んだ?」

 「あら、あの子から聞いたんじゃないの?」

 睨み付けても、谷岡は涼しい顔で訊き返す。


 「あいつにはまだ事情を訊いてもいない。俺達が調べ上げただけだ。もう一度訊く。冴香に何を吹き込んだ!?」

 「さあ。何だと思う?」

 「てめえ!」

 声を荒らげると、谷岡はクスクスと笑い出した。


 「そんなに怒るなんて、貴方にとって、あの子は余程大切な存在なのね。会社では当たり障りなく、どの女の子にも愛想良く平等な態度を取っていた大河が、あの子だけは名前で呼んでいるし、あの子の前ではいつもと違って、表情豊かだったから、私はすぐに分かったわよ。でもね、大河。あの子がそんなに簡単に手に入るなんて、思わない方が良いわ。」

 ニタリ、と谷岡は邪悪な笑みを浮かべた。


 「どういう事だ!?」

 「教えてあげましょうか? あの子、大河の事が好きなのか、って訊かれた時に、何て答えたと思う?」


 俺は言葉に詰まった。冴香が、俺の事をどう思っているか、だと……?

 谷岡は面白い劇でも見ているかのように、目を細め、悪意ある笑みを隠さない。

 嫌な予感しかしない。耳を貸してはいけないと、俺の第六感がけたたましく警鐘を鳴らす。だけど、気になる。聞かずにはいられない。これは正に、悪魔の囁きだ。

 谷岡は可笑しそうに、ククッと喉元を鳴らして、衝撃の言葉を告げた。


 「あの子、こう言ったのよ。『まさか』って! 『私は大河さんに、恋愛感情は抱きません』ってね!!」

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