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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
番外編

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【コミカライズ記念】初めてのパーティーです

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!

11月20日より、コロナEX様にて「俺様婚約者には惚れたくありません!」と改題してコミカライズ配信が開始されました!!

何卒宜しくお願い致します!!

「……おい冴香、大丈夫か?」

「大丈夫な訳がないです……!!」


 私は今、赤いドレス姿で、紺色のスーツに赤のネクタイを完璧に着こなしている大河さんに、手を引いてもらいながら歩いている。

 大河さんと結婚してから初めてのパーティー、しかも目的が天宮財閥による私のお披露目会だなんて、本音を言えば絶対にご勘弁願いたい。だけど、天宮財閥後継者の筆頭候補である大河さんと結婚したのだから、これは避けては通れない道だ。結婚式から半月も経たないうちにだなんて、思っていたよりもずっと早かったけれど、いずれはこういう事もあると覚悟していたのだから、大河さんの妻として、恥ずかしくないように振る舞わなければ。


 パーティーの開催が決まってから、恵美さん……じゃなかった、お義母さんや、凛さんや麗奈さんに頼み込んで猛特訓してもらったので、歩き方や行儀作法、ダンスの踊り方も、一応何とか形にはなった。とは言え初めてのパーティー、しかも絶対に自分が注目の的になると分かっていて、極度に緊張しない訳がない。ただでさえ歩きにくい高いヒールを履いているのに、気を抜くと足が震えて、今にも無様に転んでしまいそうだ。


「そんなに緊張しなくていいぞ。取り敢えず笑顔さえ作っておけば何とかなる。俺もそばにいてやるから、もっと肩の力を抜いて気楽にしろ」

「お言葉は大変有り難いのですが、そうは言われましてもですね……!」


 肩の力ってどうやって抜くんだったっけ。今はそんな事すら分からない。頭が真っ白になりそうだ。

 ガチガチで歩き方すら既にぎこちなくなってしまっている私に、大河さんが小さく溜息をついた。呆れられてしまったかな、と少し悲しくなりながらも、何とかパーティー会場への待機場所に辿り着いた途端。


「冴香」

「!?」

 大河さんにいきなりキスされてしまい、私は真っ赤になって慌てふためく。


「た、大河さん!? 何を……!?」

「大丈夫だって言っているだろ。いざとなったら俺が何とかしてやる」


 してやったり、とでも言いたげにニヤリと笑う大河さん。悔しいけど、滅茶苦茶格好良く見えてしまう。これが惚れた弱みというやつだろうか。


「……今が会場の外で、人がいなくて良かったです。間違っても人前でキスなんてしないでくださいね?」

「分かっているよ。また暫くピーマン尽くしは流石に御免だからな」


 結婚式の最中、人前でのキスやらお姫様抱っこやら、色々恥ずかしい事をしてくれた大河さんへの腹いせに、朝昼晩三食一週間、ピーマン尽くしにしてあげた食卓を思い出したようだ。大河さんがげんなりした表情を浮かべ、私は思わずふふっと笑ってしまった。

(……大河さんのお蔭で、少し緊張が解けた、かもしれない)


「……それでは、我が天宮家の新しい家族をご紹介致しましょう」


 パーティー会場から聞こえる天宮会長の声と共に、目の前の扉が開けられていく。私は深呼吸し、大河さんと共に会場に足を踏み入れた。拍手と共に全身に視線を浴び、思わず大河さんの二の腕に添える手に力が入る。


「大丈夫だ」


 素早く耳打ちしてくれた大河さんの言葉に、私は気を取り直し、笑顔と平常心を意識しながら、できる限り背筋を伸ばして胸を張って、教えてもらった通りに歩いた。会長から大河さんにマイクが手渡される。


「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。この度、私、天宮大河は入籍を致しました。こちらの女性が、私の妻の冴香です」

「只今ご紹介にあずかりました、天宮冴香でございます。不束者ではございますが、皆様、どうぞ宜しくお願い致します」

 大河さんからマイクを受け取り、私はできる限りお腹から声を出して、深々とお辞儀をした。


(良かった。何とか声が震えたり、裏返ったりはしなかったわ)


 大勢の人を目の前にして、挨拶するだけで一苦労だ。これから先が思いやられるが、泣き言は言っていられない。ここからが本番なのだから、頑張らないと。


 勇気を出して顔を上げる。何で私みたいなのが、大河さんの妻なのか、と冷たい視線が身体中に突き刺さってくる……と思っていたのだけれど、そんな事は全くなかった。

 寧ろ、何故か皆様温かい視線で、微笑みを浮かべながら見守ってくださっていて、私は拍子抜けしてしまった。


(え? 何で?)

 有り難いのだけれども、狐につままれたような気分だ。


「大河さんもついにご結婚ですか。誠におめでとうございます!」

「とても可愛らしい女性ですね! お二人共お似合いですよ!」

「流石は大河さんですね。こんなに素敵な女性と結婚されるだなんて、羨ましい限りです!」


 招待客に挨拶回りをしていても、皆様何故かとても好意的で、私は首を捻るばかりだった。


(はあ……疲れた……)


 挨拶回りも何とか無事に終わり、緊張でカラカラになっていた喉を潤す。


「お疲れ。言っただろ。大丈夫だって」

「はあ……。何とかなったようで、本当に良かったです……」


 ぐったりしていると、見知った顔が近付いて来て、私はパッと目を輝かせた。


「冴香さんお疲れ様! 初めてで大変だったでしょう?」

「麗奈さん! 流石に疲れました……!」


 来てくれたのは麗奈さんと、パートナーとして出席していた新庄さんだ。その後ろには、大樹さんとパートナーとして招待された谷岡さん、そして広大さんと雄大さんもいる。


「でも全部ちゃんと完璧にこなせていたわよ。流石だわ、冴香さん」

「麗奈さんが綺麗に見えるお辞儀の仕方や、上品に見える仕草を色々分かりやすく教えてくださったからです。本当にありがとうございました」

 麗奈さんに心からのお礼を伝える。


「そんな事ないわよ。冴香さんが頑張ったからよ」

「冴香ちゃん凄いわね。初めてなのに堂々としていて立派だったわよ。私なんてただのゲストなのに、会場に着いた時から、来る場所間違えたんじゃないかって思うくらい、ただただ雰囲気に圧倒されて始終気後れしているのに……」

 強張った笑みを浮かべている谷岡さんは、涙目で若干青褪めている。


「俺もです。どう考えても、自分が場違いな人間なんじゃないかって……」

 新庄さんも顔を引き攣らせている。


 うん。お二人共、気持ち、凄く良く分かります。

 私だって、パーティーの打ち合わせでここに連れて来てもらった時は、会場の広さやら豪華なシャンデリアやら高そうな絨毯やらに、目玉が飛び出そうになったのだから。


「大丈夫だよ。梨沙さんの美しさは、会場にいる誰にも引けを取らないから」

「な……っ!?」

 大樹さんの言葉に、谷岡さんは真っ赤になって狼狽えた。


「直也も自信持ってよ。そのスーツ姿、凄く格好良いよ!」

「そ……そうかな……? 俺なんかより、麗奈のドレス姿の方がとっても綺麗だよ」

「うふふ、ありがとう!」

 こちらは相変わらず仲が良さそうで、何よりだ。


「冴香さん、挨拶回りお疲れ様」

「お義父さん、お義母さん」

 今度は将大さん恵美さんご夫婦……お義父さんとお義母さんが来てくれた。


「とても良かったわよ、冴香さん」

「お義母さんのご指導の賜物です。本当にありがとうございました」

 招待客の方々の知識を色々教えてくださったお義母さんに、改めてお礼を述べる。


「そんな事はないわ。冴香さん自身が頑張ったからよ」

「ありがとうございます。皆様も凄く好意的に受け入れてくださって、逆に驚いてしまいました」

「あら、どうして?」

 お義母さんが首を傾げる。


「ええと……私みたいな小娘が、本当に大河さんの妻として、皆様に認めてもらえるのかな、と少々不安だったので……」

 苦笑しながら言うと、お義父さんがハハッと笑った。


「そんな事はまずないよ。冴香さんが父の大のお気に入りだという事は、周知の事実だからね」

「え、そうなのですか?」

 どうやら私が皆様に温かく受け入れてもらえたのは、天宮会長……義祖父のお蔭のようだ。


「そうそう。万が一にも冴香ちゃんを貶す奴がいようものなら、天宮財閥の会長が黙っていないからな」

「逆に異様にご機嫌取りしてくる連中がいたら、気を付けた方が良いよ。冴香ちゃんを懐柔して、天宮会長に取り入ろうっていう魂胆を持つ人間は、少なくないだろうからね」

 広大さんと雄大さんに言われて、私は目をぱちくりさせる。


 そうなのか。それで皆様、好意的な態度で迎えてくれたのだろうか? さっきの謎が解けた気がする。

 だけど、私のご機嫌なんて取った所で、会長に繋がるだなんて、とても思えないのだけれど。


「心配ねえよ。妙な奴が近付いて来ないように、俺がそばで目を光らせているからな」

「そうか。それは心強いな」

 大河さんの言葉に反応したのは、何時の間にか近付いて来ていた会長だった。


「大河。その意気で、しっかりと冴香さんを守るんだぞ」

「祖父さんに言われるまでもねえよ」


 何故だろう。大河さんと会長の間に、火花が見える気がする。

(何だか良く分からないけれど……大河さんに守ってもらえるのは、ちょっと嬉しい、かな?)


「あら、曲が変わったわね。冴香さん、折角だから、大河と踊って来たら?」

 お義母さんに言われて、私は硬直する。


 ダンスは運動神経抜群の凛さんに、手取り足取り教えてもらったけれども、練習で何度も大河さんの足を踏みまくっていた私だ。何とか形にはなったとは言え、上手に踊れる自信はない。


「……そうだな。冴香、行くか?」

「……はい」

 大河さんが差し出してくれた手に、私は自分の手を重ねる。


 不安だし、緊張するけれども、折角凛さんが一生懸命教えてくれたのだ。

 ……それに、私も逃げずに頑張りたい。周囲の皆さんが、とても温かく支えてくださっているのだから。


 ダンスの成果は……うん。何とか大河さんの足を踏まずに済んだので、及第点だと思っておこう。

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