第8話 大手クランの派手な失敗
封印柱が折れる音は、嫌になるほど軽かった。
あとは一気だった。床がずれ、照明ドローンが落ち、黒曜牙の前衛が二人まとめて横転する。スポンサーのコメント欄は悲鳴だらけになったらしいが、そんなもの見ている暇はない。
「澪さん、救助配信に切り替えて!」
「もう切り替えてます!」
俺は保守通路から飛び降り、非常レールの制御盤へ滑り込んだ。黒曜牙が使っていた退避ルートは塞がれたが、保守用の搬送レールならまだ生きている。
壊れた制御盤へ修繕を流す。
熱が腕を抜け、レール灯が一本ずつ点灯した。
「そっちだ! 光の線を辿れ!」
黒瀬の副官らしい三十代の女が、咄嗟に仲間をまとめる。さすがに場数はあるらしい。
だが最後尾で、黒瀬本人が落ちた柱へ足を取られていた。
「須藤! 助けろ!」
普段なら名前すら呼ばないくせに、こんな時だけだ。
俺は文句を飲み込み、崩れた足場を直す。橋板三枚、手すり二本、十分だ。黒瀬が這い上がり、全員がレール側へ流れ込む。
その直後、ボス階段前が完全に落ちた。
地上へ戻ると、今度こそ現場は配信で埋まっていた。だが画面の中心にいたのは黒瀬じゃない。救助ルートを走り回る外注腕章の男だ。
澪が小さく言う。
「また伸びますね、これ」
「嬉しくないな」
玲奈は端末をしまい、俺へ向き直った。
「須藤さん。個人的なお願いじゃなく、公的な依頼です。明日、安全室へ来てください」
「事故調査?」
「内部監査です。灰塔設備の報告書ごと洗います」
その横で、泥まみれの黒瀬が俺を睨んでいた。
「目立ちやがって」
違う。目立ちたいんじゃない。
見えないふりをされてきた仕事が、やっと見えてしまっただけだ。




