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ミーティア戦記ー厄災の覚醒ー  作者: どりるD


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8/8

第8話 侵食

⸻アギ脱走事件の翌朝。


グラウンドには、朝の走り込み前の生徒たちが集まっていた。

ざわめきの中、ひときわ目立つ姿があった。


「うん?……誰だあれ」

一人の生徒が呟く。


その視線の先に、アギが立っていた。

——丸坊主で。


一瞬の沈黙。


そして——


「ぶっ……はははははっ!!おまっ……なんだその頭!!」

ハルカが腹を抱えて笑いながら、遠慮なく指をさす。まるで我慢する気がない。


一度息を整えたあと——


ハルカは笑いながら目を細める。

ニヤッと口角を上げる。

「丸坊主でそれは反則だろ。目つき悪すぎ」


「関係ねぇだろ!!」

アギが即座にキレる。


指をさして笑う。止まらない。


その笑いにつられて——

ナナハが口元を押さえる。

「……っ、ふ……ご、ごめん……」

全然ごめんと思っていない。


マーシュも肩を震わせている。

「……これは、さすがに……」

笑いを堪えきれていない。


周囲にも笑いが広がる。


カリンも吹き出す。

「ははっ……!」

ひとしきり笑ってから、アギの頭を見てニヤッと笑う。

「……スッキリしたな」


「うるせぇよ!!」

アギがすぐに噛みつく。


ナナハが小さく言う。

「……でも、似合ってる……かも」


「似合ってねぇ!!」

アギが即ツッコむ。


マーシュが冷静に補足する。

「規律違反だからね。妥当なラインだよ」


「お前は黙ってろ!!」

アギのツッコミが止まらない。


笑いはしばらく続いた。


だが、その空気は決して棘のあるものではない。

誰かを責めるでも、からかうためだけのものでもなかった。


気まずさも、遠慮もない。

昨日までの空気を引きずる者もいない。


自然と、同じ場所で笑っている。


それだけで十分だった。


アギの顔は赤い。

視線を逸らし、文句の一つも言いたげに口を尖らせている。


アギは一度だけ、ため息をついた。

「……くそ」

ぼそりと呟く。

だが、その口元は、わずかに緩んでいた。


そんな朝はそのまま流れた。

走り込み、授業。

丸坊主をいじられる暇もなく、時間だけが過ぎていく。



――昼休みの食堂。


四人はいつもの席に集まっていた。

トレーを置き、ようやく一息つく。


「ナナハ〜、またね〜」

近くを通りかかった女子が、ナナハに気づく。


ナナハが顔を上げる。

「あ、レイちゃん。またね」

軽く手を振る。


派手な見た目の女子が、そのまま去っていく。


アギが目で追いながら言う。

「……誰だ今の」


ナナハが少しだけ笑う。

「自習の時に仲良くなった子。キリン組のレイ・カナモリちゃん」


カリンが「へぇ」とだけ返す。


「……めっちゃギャルじゃねぇか」

アギが呟く。


「レイちゃん、いい子だよ」

ナナハが困ったように笑う。



「……で、どうしたんだよそれ」

カリンがアギの頭を見ながら言った。


「……罰だよ」

アギは面倒くさそうに視線を逸らす。


「罰?」

ナナハが小さく首を傾げる。


マーシュも興味深そうに目を細める。


アギは、ため息をついた。

「……昨日、帰ったあとだ」


その時だった。


「いや、罰にしてもやりすぎだろそれ……!」

横から声が割り込む。


振り向くと、ハルカがトレーを持ったまま立っていた。

まだ笑いを引きずっている。


「それ、誰がやったんだよ!」

ハルカが笑いを堪えきれないまま聞く。


「……ハニー先生だよ!!」

アギが不機嫌そうに答える。


「だろうな!!」

ハルカは間髪入れずに返し、そのまま吹き出した。


その笑いにつられて、周囲にも笑いが広がる。



——昨夜。寄宿舎の廊下。


ハニーの後ろを、アギが歩いていた。

一歩遅れてついていく。

そのまま立ち止まる。


「あなたのやった事は……無断外出」

ハニーの声は、いつも通り軽い。


「……はい」

アギは小さく視線を逸らした。


短く答える。言い訳はしない。


「それなりの罰は受けてもらうわ♡」

ハニーが微笑む。


だが、その目は笑っていなかった。

「丸坊主に、食堂の掃除一ヶ月」

指を一本立てる。

「それと——補習。二日分、きっちりね」


アギの顔がわずかに歪む。

「……いや、それはちょっと多くないっすか」

抑え気味の声。

だが、不満は隠せていない。


「当然でしょ」

間髪入れず、ハニーが返す。

一歩、距離を詰める。


選択肢は、ない。


アギは一瞬だけ黙る。

そして——小さく息を吐いた。

「……分かりました。やります」

ぶっきらぼうな敬語。


だが、その声に迷いはなかった。



——現在。


昼休みの食堂。


「……ってわけだ」

アギがぶっきらぼうに言う。


「ははっ、似合ってんじゃねぇか」

カリンが言う。


「ふざけんな」

アギが返す。


ナナハが少しだけ口元を押さえる。

「……ちょっとだけ、かわいい」


「どこがだよ!」

アギが即ツッコむ。


マーシュが肩をすくめる。

「まあ、規律違反だからね。妥当じゃない?」


「お前も敵かよ」

アギがぼそりと返す。


周囲の笑いは、まだ収まらない。


アギは空を見上げた。

「……最悪だろ、マジで」


深く息を吐く。


「掃除に補習に……」

頭をかく。当然、何もない。

「……くそ」

アギはぼそりと呟く。


その様子を見て、カリンが笑う。

「まあ、やるしかねぇな」

軽く言う。


アギは視線を落としたまま答える。

「……分かってるよ」

その声には、少しだけ力が戻っていた。


「いや、普通に面白ぇだろそれ」

横から声が割り込む。


いつの間にか、ハルカが同じテーブルに腰を下ろしていた。

トレーを置きながら、まだ笑いを引きずっている。

「丸坊主でその目つきは反則だわ」


「……なんでお前、普通に馴染んでんだよ」

アギが顔をしかめる。


ハルカは一瞬だけ肩をすくめる。

「別にいいだろ。席空いてたし」


「そういう問題じゃねぇよ!」

「距離詰めんの早ぇんだよ!」

アギが思わず声を荒げる。


その声には、少しだけ力が戻っていた。


ひとしきりの笑いが落ち着いたあと——


ハルカがふと思い出したように口を開いた。

「そういや、前から気になってたんだが」


視線がカリンに向く。


「ジンライ総司令の本名、“ジンライ・キッショウ”だろ」


カリンは特に驚きもなく、頷く。


「で、お前はカリン・ナナツキ」

ハルカが少しだけ眉を寄せる。

「お前、ジンライ総司令の孫なのに……名字、違うよな?」



一瞬、周囲の空気が静かになる。

ナナハも、マーシュも、言葉にはしないが視線を向けていた。


——確かに、気にはなっていた。


カリンは食事を続けながら、何でもないように言った。

「血、繋がってねぇよ」


一瞬、沈黙。


アギが顔を上げる。

「……は?」


カリンはそのまま続ける。

「じいちゃんとも、母親ともな」

「オレ、ガキの頃に両親いなくなってさ」

「旅館やってるキッショウ家に世話になった」


淡々とした口調だった。


「ナナツキは、母親の名字」

カリンはそれだけ言ってまた普通に食事に戻る。


アギが少しだけ顔をしかめる。

「……なんで言わなかったんだよ」


カリンは一瞬だけ手を止める。

「別に、聞かれなかったし」


すぐに答える。


ハルカが息を抜く。

「……なんだそれ」


マーシュも肩をすくめた。


「じゃあ、ジンライ司令の孫ってわけでもないんだね」

「立場的な恩恵はなし、と」


カリンは少しだけ考えてから言う。

「まぁ、そんな感じだな」

特に気にした様子もない。


ナナハが小さく呟く。

「……でも、育ててくれたんだよね」


カリンは軽く頷く。

「まぁな」


一瞬だけ間を置いて——


「一年も経ってねぇけどさ」

カリンは視線を少しだけ落とす。

「オレが育った町、アカネザカがコズヴィランに襲われたんだ」


空気が、わずかに変わる。


カリンは構わず続ける。

「その時、じいちゃんが助けてくれた」

あっさりと言う。


だが、その一言の重さは軽くない。

「で、そのあと知った」


「じいちゃん、O.E.D.Oの総司令官だったって事が」

カリンはわずかに口元を緩める。

「強ぇのなんの、そりゃビビった」


「で、そのあとオレが頼んだ」

「弟子にしてくれって」

カリンは顔を上げて少しだけ笑う。


「は?」

アギが素っ頓狂な声を出す。


カリンは軽く息を吐く。

「アカデミーに入るまでの半年間、鍛えてもらった」

「……フィジカルとメンタル強化とか」


「オレ、そういうの全然やってなかったしな」

「……地獄だったぞ」

カリンは笑いながら言う。


「……それ、地獄で済む話か?」

アギがゆっくり口を開く。


「半年でそれは……普通じゃないね」

マーシュもわずかに目を細める。


「……無理……」

ナナハが小さく引く。


ハルカだけ、笑っていない。

視線がカリンに向いたまま、低く呟く。

「……あの人に、直接か……よく生きてたな」


「まぁな」

カリンは軽く肩を鳴らす。


一瞬だけ間。


「それと、オレ人間と宇宙人のハーフだしな」

カリンは何でもないように続けた。


アギがゆっくり顔を上げる。

「……は?」


ナナハが固まる。

「……え、そうなの?」


「……この共生の時代なら、おかしくない話だな」

マーシュが一拍だけ置いて、静かに言う。


「いや、“おかしくはない”けどよ……」

ハルカが眉をひそめる。


「いやいやいや待て待て待て!!」

アギが遅れて声を上げる。


「だからまぁ、普通よりは丈夫なんだろ」

「知らんけどな」

カリンは軽い口調で続ける。

まるで大した話じゃないみたいに。



午後の授業。


ナナハは迷いなく答えを書き込む。

アギも答えを書き込む。

以前なら、ここで投げていた。

だが——ペンは止まらない。


「……ほう」 

教官がわずかに目を細めた。


一方で——


「この場合、最適解は?」

戦略の問題。


「敵の補給線を断つ。正面からやる意味ないと思うッス」

ハルカが迷いなく口を開く。


教室がわずかにざわつく。


「……いい判断だ」

教官が頷く。

「その状況でそこに気づけるのは、なかなかいない」


一瞬、静かになる。


「まぁ、見りゃ分かるッスよ」

ハルカは軽く肩をすくめた。


教官はわずかに目を細める。

「……それを“分かる”と言い切るのが厄介だな」


周囲の視線が、ハルカに集まる。

当の本人は、もう次の問題に視線を落としていた。


マーシュが小さく呟く。

「……直感であそこを切れるのは、意外だね」


カリンは問題を前に、ふっと視線を逸らし、窓の外を見た。



入学から、三ヶ月が過ぎた。


放課後。自習室の一角。

人の少ないスペースで、一人だけ動いている影があった。


小柄な男子。

無言で、同じ動きを繰り返している。


腰を落とす。踏み込む。


同時に、拳を真っ直ぐ突き出す。


正拳突き。だが——浅い。


体重が乗らず、拳だけが前に出る。


引く。構え直す。

もう一度、踏み込む。突く。

今度は軸がぶれる。足が流れる。

それでも——止まらない。


何度も、同じ動きを繰り返していた。


アギが呟く。

「……なんだあいつ」


マーシュが静かに答える。

「基礎の反復だね」


カリンは足を止めた。


少しだけ見て——そのまま歩み寄る。

「……それ、ずっとやってんのか」


動きが止まり、男子が振り向いた。


「……はい」

息が上がっている。

それでも、姿勢は崩さない。


カリンは無言で、男子の横に立つ。


構える。

そして——一発、打つ。

乾いた音。


男子が目を見開く。


カリンはもう一度打つ。

「……踏み込みが浅い。腰入れて、こうだ」

短く言う。


男子は慌てて構え直す。


踏み込む。突く。乾いた音が鳴る。

さっきより、深い。


「……あ」

思わず声が漏れる。


カリンは軽く頷く。

「おぉ!やるじゃん」


男子は目を見開いたまま、息を整える。


さっきの感覚を確かめるように、拳を見つめている。


「……そこまでやる理由、なんだよ」

カリンがぼそりと聞く。


男子の動きが一瞬止まる。視線を落とす。


少し迷って——

「……落ちたら、困るんで」

小さく答える。


カリンは少しだけ間を置く。

「そっか」

短く返す。


カリンはさらに聞く。

「家族か?」


男子は拳を握る。

「……家族です。僕のために……」


それ以上は言わない。


カリンは軽く頷く。


「そりゃ、落とせねぇな」

カリンは少しだけ目を細める。


「……自分、名前は?」


男子が顔を上げる。

「……ユウリ・イコハです」


カリンは軽く頷く。

「オレはカリン・ナナツキだ」


後ろの三人も軽く反応する。

「……アギと、ナナハと、マーシュだ」


ユウリは小さく頭を下げる。

「よろしく、お願いします」


少しぎこちない。


カリンは視線を外す。

「ユウリ……無理すんなよ」

「続けりゃ、ちゃんと伸びる」


ユウリは驚いたように目を見開き、すぐに笑って頷いた。


再び、構える。

さっきよりも、少しだけ強く。


カリンはそれを一瞬だけ見て、視線を外した。

「……オレらもやるか」


「……めんどい……」

アギは露骨に顔をしかめながらも、後ろについていく。


マーシュも軽く頷く。

「ボクらも負けてらんないね」


ナナハも小さく頷いた。


四人はそのまま、空いたスペースへ向かう。

それぞれ、構える。乾いた音が、まばらに響く。


少し離れた場所で。

ユウリもまた、拳を突き出していた。



数日後。

食堂への廊下。

ナナハが歩いていると、前を横切る影があった。

小柄な男子が、必死な様子で走っている。

腕には飲み物を数本抱えている。


「……あれ……ユウリ君?」

ナナハは一瞬だけ首を傾げた。



その日の放課後。

自習のため、ナナハは教室へ向かっていた。


人気のない校舎裏を通りかかった、その時——


「おい、何してんだよ。早く来いって」

苛立った声が響く。


ナナハは思わず足を止めた。

「……何だろ」小さく呟く。


気になって、そっと物陰から覗く。


五人の男子達。


その前に、ユウリがいた。

「ご、ごめん……」


俯いたまま、震えている。


「謝って済むと思ってんのかよ」

一人が肩に拳を入れる。


ゴン、と鈍い音。


ユウリの身体が、よろけて顔が歪む。


笑い声が上がる。


ナナハの指先が、わずかに震えた。

「……ユウリ君、もしかして……いじめ?」


小さく呟く。まだ、断言できない。

ただふざけているだけかもしれない。


そう思おうとする。

だが——視線を逸らせない。

動けないまま、ただ見ていた。

誰も来ない。助ける声も、出ない。


ナナハは、そのままその場を離れた。



翌日の放課後。


ナナハは自習ルームへ向かう廊下を歩きながら、あの少年の姿を探すように周囲へ視線を向けていた。


そして——見つける。


ユウリが、走っている。

昨日と同じように。だが、今度はもっと焦っている。


ナナハの足が止まる。

「……やっぱり」



グラウンドの倉庫裏。

人目の少ない場所。


五人が、ユウリを囲んでいた。


「おい、お前に頼んだノートのコピー、バレたんだよ」


「書き方で一発だ。クセそのまんまじゃねぇか」


ユウリは俯いたまま答える。

「……ゴメン……グウド君……」


グウドは舌打ちする。

「もっと頭使えよ」


次の瞬間、一人が腰に蹴りを入れる。


その光景を見て、ナナハの身体が強ばる。

廊下で見かけて気になり、思わず追ってきた。

目の前で起きているのはもう見過ごせるものではなかった。


足が止まりそうになる。

それでも一歩、踏み出す。


「……やめて」

怖さを押し込めるように、ナナハは声を絞り出した。


確かに届き、グウド達が振り向く。


「は?」

視線が集まる。


ナナハは震えていた。それでも、目は逸らさない。

「……やめて」


もう一度。


距離を詰められる。


「なんだお前、関係ねぇだろ」

ナナハは腕を掴まれる。逃げられない。


呼吸が浅くなる。


その時——


「ちょっと、何してんの?」

軽い声が割り込んだ。


振り向く。派手な見た目の女子。


レイだった。

「何してんの?それ、普通にナシなんだけど」

一歩、前に出る。


「……レイちゃん」

ナナハの声が、わずかに緩む。


「……ナナハ、下がってな」

レイが前に出る。


その瞬間——


「レイちゃん、後ろ!」

ナナハの声。


レイが即座に振り向く。


振りかぶっていた男の拳を、紙一重で避ける。そのまま——蹴り。


男が吹き飛ぶ。


「……あぶな」

レイは男を睨みつける。

「いじめとかマジでダサいし、女の子にそれはナシでしょ」


だが——

「おい調子乗ってんじゃねぇぞ」

残り四人が動く。数で押される。


「……ナナハ、逃げな」

ナナハを庇いながら、後ろに下がる。


その時だった。


ナナハ達に向けて、拳が振り下ろされる。


——間に入った影。


「やめろ!!」

飛び込んだのはユウリだった。


そのまま殴られ倒れる。

だが、すぐに立ち上がる。


ユウリは、震えながらも前に立つ。

「……もう、やめてくれ……!」


声は震えている。

それでも、退かない。


グウドがユウリを見下ろす。

「弱ぇお前のために、こっちが今まで助けてやってんだろうが」


ユウリの肩が震える。


「それをよ……勘違いすんな!」

グウドが、一歩詰める。


再び、グウドが殴ろうとした瞬間——


「——見苦しいな」


空気が変わった。


そこには、ダリアンが立っていた。


静かな目。そのまま、五人を見下ろす。


「弱い相手にしか振るえない力に、価値があると思っているのか?」


グウドが舌打ちする。

「……ナイトレイ家のお坊ちゃんか」

ニヤつく。

「この前、下位のやつに日和った奴だろ」


ダリアンは冷えた視線を向けたまま、淡々と言う。

「……それで?」


空気が張り詰める。


グウドが舌打ちし、懐に手を入れる。

取り出したのは、ナイフ。


「クソッ!舐めんな!!」


グウドがナイフを振り下ろす。


だが、当たらない。

ダリアンは一歩も動かない。


振り下ろされた刃を、わずかに首を傾けて避けた瞬間——その腕を打ち落とす。


ゴンッ、と鈍い音。


刃物が床に転がる。

そのまま踏み込み、間を与えず拳を叩き込む。


ドッ、という衝撃。


グウドの顔が跳ね上がり、次の一撃が腹に沈む。


空気が抜ける音。


さらに——もう一人。


横から来た男の顔面に、叩きつけるように拳がめり込む。


バキッ。


身体が吹き飛ぶ。止まらない。


距離を詰め、次の一人を殴り倒す。


最後の一人が後ずさる。


だが——遅い。


一歩で詰める。拳が振り抜かれる。


ドンッ。


全員が、地面に転がっていた。


「ぐっ……」

「がはっ……」


鈍い呻き声が漏れる。


その中で——グウドだけが、まだ動いている。

「……クソッ!」


息も整わないまま、身体を起こそうとする。

だが——力が入らない。

再び、崩れ落ちる。


ダリアンが一歩、近づく。


躊躇なく蹴る。


鈍い音。


もう一発。さらに何度も、容赦なく。


グウドの身体が揺れる。

息が詰まる。それでも止めない。


ダリアンは見下ろしたまま、ゆっくりと口元を歪める。


「おいおい、こんなもんか?」

もう一発、蹴りを入れる。


「ほら、立てよ。強いんだろ?」

わずかに笑う。


だが——グウドは動かない。

意識はすでに途切れていた……。


「……もうやめて。死んじゃう」

ナナハが言う。


ダリアンの動きが止まる。

ゆっくりと視線を落とす。


「勘違いするなよ」

「……群れて弱いの叩いて、何が強さだ」


ゆっくりと、ユウリを見る。

そして——


「その程度で守れるつもりか」

ダリアンは静かに言った。


その言葉は、ユウリの胸に深く突き刺さる。



後日。この一件は問題となった。


いじめ行為に加え、ナイフの所持、生徒同士の乱闘——。


グウド達五人は、謹慎処分。


一方で、ダリアンは——

多数を相手に、刃物を持った相手と単独で交戦した点が考慮され、反省文のみで済んだ。



人気のない廊下。


ユウリが一人で座り込んでいた。


「……怖い……」

手が震えている。


「……でも、強くならないと……」

拳を握りながら、小さく呟く。


その時——


「——理解しているよ」


包み込むような声。


ユウリが顔を上げる。


そこに、ノート・アラントが立っていた。


静かな目で、ユウリを見ている。


「ボクはちゃんと分かってる」

「君は意思が強い」


ノートが一歩近づく。

「守りたいって思ってるんだろ?」


ユウリの目が揺れる。


「その気持ちは、本物だ」

「だからこそ、力が必要なんだ」


ノートはわずかに声を落とす。

「なら——どうする?」


ユウリの呼吸が、止まる。

そして——

目の奥が、わずかに変わった。



個室。薄暗い室内。


ノート・アラントは、椅子に腰掛けていた。

指先で小型端末を操作する。


「……経過報告」

淡々とした声。


「ダリアン・ナイトレイは段階的に誘導中」

「抵抗はあるが、問題ない。順調だ」


「ユウリ・イコハに関しては——」


わずかに間を置く。


「実験的に、強めに干渉した」

静かな室内に、声だけが落ちる。


「反応は良好」

ノートはゆっくりと目を細める。


「この後、どう変化するか……興味深い」


通信を切る。しばらくの沈黙。


「……さて、どこまで壊れるかな」

ノートの口元が、わずかに歪む。



第8話 終

第8話読んでくれてありがとうございます!


今回はユウリ、レイ、グウドと新キャラも登場して、日常寄りから一気に不穏な流れに。

それぞれのキャラの立ち位置も少し見えてきた回でした。


そして次はランキング戦。ここで色々動きます。


よかったら引き続き読んでもらえると嬉しいです!

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