表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミーティア戦記ー厄災の覚醒ー  作者: どりるD


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

第3話 山に刻む拳

コズヴィラン襲来から一週間。


街は、まだ傷だらけだった。


崩れた建物には足場が組まれ、重機の音が朝から鳴り続けている。

温泉街の通りには焦げ跡が残り、焼けた匂いが、まだ消えない。


それでも――


人は動いていた。


瓦礫を運ぶ者。

店を立て直す者。

笑顔を作ろうとする者。


日常を、取り戻そうとしている。


その中に、カリンもいた。


黙々と資材を運び、手を動かす。


だが――


ふとした瞬間、脳裏に焼き付く。


炎。

崩れる建物。

自分の拳。


無意識に、手が止まる。


「……っ」


握りしめる。


まだ消えていない。


あの感触が。



夜明け前の山は静まり返っていた。

アカネザカ温泉の奥――立入禁止区域。


肌にまとわりつく空気が、やけに重い。

だが、胸の奥は騒いでいる。


前を歩く背中を見る。


祖父のジンライ。


いつもとは違う。


無駄のない歩き。

隙のない気配。


戦う者の背中。


(同じ人間……なんだよな)


違和感は、まだ消えない。


優しい祖父の顔。

圧倒的な武人の顔。


その落差に、思考が追いつかない。


だが――


(少しだけ……分かってきた気がする)


あの背中は、どちらも本物だ。


守るために、戦っている。


それだけは、もう疑わない。


拳を握る。


自分の中にある“あの力”。


逃げるのか。

向き合うのか。


答えは、もう決まっている。



「今日から始める」


ジンライの声は低い。


「何をやる?」


「まずは――暴れろ」


「え?」


一歩。


ジンライが踏み込む。


その瞬間。


空気が、叩きつけられた。


ドンッ!!


見えない圧が、全身を押し潰す。


「……っ!?」


呼吸が止まる。


視界が揺れる。


本能が叫ぶ。


――危険だ。


次の瞬間。


ドクン…。


鼓動とは別の脈が暴れ出す。


血が逆流するように熱を帯びる。


(勝手に……!?)


止める前に、


身体が“応じる”。


血管を熱が走り、視界の端が赤く滲む。


止めろ――!


拳の隙間から熱が溢れ、足元の砂利が震えた。


次の瞬間――


ドンッ!!


地面が砕ける。


「……っ!?」


踏み込んでいた。


意識より先に、身体が動く。


ドクン。


鼓動とは別の脈が、暴れる。


視界が歪む。


熱が、頭まで駆け上がる。


髪が、揺れる。


――色が抜ける。


銀。


瞳が、焼けるように染まる。


赤。


(……やめろ)


思考が、削れる。


遠のく。


薄れる。


目の前にいるのが誰かも分からない。


ただ――


“壊す”。


踏み込む。


速度が跳ね上がる。


地面が砕ける。


拳を振り抜く。


空気が裂ける。


(止まれ――!!)


止まらない。


衝動が、上書きする。


もっと。


壊せ。


潰せ。


その瞬間――


ドンッ!!


衝撃。


鳩尾に拳が突き刺さる。


呼吸が潰れる。


視界が弾ける。


身体が地面に叩きつけられる。


「がっ……!」


肺が空になる。


痙攣する。


意識が、引き戻される。


霞む視界の中。


ジンライが、そこに立っている。


一歩も、動いていない。


「今のが暴走だ」


声は変わらない。


祖父ではない。


戦士の声。


「力を拒むな」


見下ろす視線が鋭い。


「恐れて押さえ込むから暴れる」


一歩近づく。


「お前は力を敵にしている」


言葉が、刺さる。


「力は道具だ」


一拍。


「振り回されるのは未熟だ」


厳しい。


だが――正しい。


「受け入れろ」

「自分のものにできない限り、お前は立てん」


言い返せない。


オレはずっと――


怖がっていた。力そのものを。



修行は地獄だった。


丸太を担ぎ、山道を駆ける。

転ぶ。


「立て」


立てなければ――蹴られる。


腕立て。懸垂。岩打ち。


拳の皮が裂ける。


その直後。


殺気。


内側が暴れる。


崩れる。


何度も――


何度も。


強くなっている実感はない。


削られていくのは――体力と精神だ。



三週間後。


空は朝から曇っていた。


足が止まる。

膝が笑う。


ぽつり。


頬に落ちる冷たい滴。


やがて、雨になる。


泥に膝をつく。


思い出す。


崩れた屋台。

燃えた柱。

泣いていた子ども達――リィナ。


オレの拳から漏れた炎。


敵じゃない。


オレが壊した。


守るって言ったのに。


壊した。


「……また、ああなるのか」


雨が顔を打つ。


力があるから壊した。

力があるから――怖い。


「……向いてないんじゃないか」


声が震える。


ジンライは何も言わず、そこに立っている。

雨の中で。


「逃げるなら今だ」


その一言が、胸を刺す。


引き止めないし慰めない。


選ばせる。


拳を握る。


泥が落ちる。


逃げたら――


あの日から、何も変わらない。


「……逃げたら、ずっと逃げる」


立ち上がる。


「オレは逃げない!」


一瞬だけ。


ジンライの目が和らぐ。


祖父の顔。


だが、すぐに消える。


「なら――目を逸らすな」



殺気が落ちる。


来る。


恐怖も。怒りも。悔しさも。

消さない。


吸う。


吐く。


鼓動と――もう一つの脈を重ねる。


ズレていたリズムが、噛み合う。


熱が集まる。


一点へ。


拳。


握る。


ギリ、と骨が鳴る。


だが――


力は、暴れない。


逃げない。


拳の内側に、収まっている。


足元の砂利が震える。


――だが、爆ぜない。


止まっている。


意志で。


ゆっくりと、腕を振る。


ブンッ――


空気が唸る。


重い。


だが、逸れない。


「……いける」


初めて。


自分の声が、自分のものに聞こえた。


「続けろ」


ジンライの声が、わずかに低くなる。



修行開始から半年が経った。


O.E.D.O研究所の地下円形ホール。


青白い粒子が渦を巻く。


静寂。


カリンは、中央に立っていた。


拳を握る。


ゆっくりと――構える。


相手を想定する。


距離。


間合い。


呼吸。


ドクン。


鼓動が鳴る。


体の奥で、熱がうねる。


(……いるな)


逃げない。


押さえ込まない。


受け入れて、一歩踏み込む。


ダンッ!!


床が、低く鳴る。


踏み込む。


拳を打つ。


ブンッ――


空気が裂ける。


速い。重い。


――重すぎる。


わずかに、拳がわずかに下がる。

力みすぎだ。


息を吐く。


余分な力を抜く。


もう一度。


踏み込み拳を打つ。


ブンッ――


さっきより、軽い。


軌道が伸びる。

ピタリと止まる。


「……いける」


小さく、吐く。


ジンライが、わずかに目を細める。

「……いいだろう」


一拍。


「――これで終わりだ」

「積み上げたものを見せろ」


その意味は、重い。


次の瞬間――


バチッ。


バチバチッ!!


空間が裂ける。


――顕現。


リザドゥ星人。


あの日と同じ姿。

同じ圧。

同じ、恐怖。


だが――


血の匂いが、ない。


床に影が落ちない。


わずかに、輪郭が揺らぐ。


「実体投影だ」


ジンライの声。


「O.E.D.Oの戦闘訓練用――仮想コズヴィラン」


一拍。


「その中でも、リザドゥ星人の再現個体だ」


「甘く見るな」


リザドゥが咆哮する。


「痛みも、死も、現実と変わらん」


ドクン。


内側が震える。


(怖い…)認める。


だけど逃げない!


ギィン!!


爪が振り下ろされる。


ドォン!!


床が爆ぜる。

破片が舞い、衝撃が頬を裂く。


踏み込む。


ダンッ!!


カリンが拳を打ち出す。


バチィィン!!


爪と拳が激突。


火花が散る。


重い。


腕が痺れる。


――だが崩れない。


あの日は――


熱に呑まれた。爆ぜた。壊した。


今は違う。


爪が横薙ぎに走る。


ヒュンッ!


しゃがむ。


回転。


ドンッ!!


腹部へ叩き込む。


だが――硬い。


弾かれる。


ズザァッ!


後退。


ドクン。


内側が跳ねる。


熱が膨張する。


広がろうとする。


(暴れたいのか?)


違う!

これは――力だ。


吸う。


止める。


吐く。


ドクン。


熱が流れる。


暴れない。


逃げない。


リザドゥが咆哮し踏み込む。

「ギャァァァッ!!」


床が鳴る。


一直線。


速い。


デカい。


逃げない。


カリンは踏み込む。


正面。


拳を打つ。


ドンッ!!


爪と拳がぶつかる。


火花が散る。


腕が止まる。


重い。


押し込まれる。


靴底が床を滑る。


それでも――離さない。


歯を食いしばる。


押し返す。


一歩踏み込む。


体をねじる。


拳を弾く。


リザドゥの腕が外へ流れる。


懐が空く。


入れる!


深く低く!


腹。


ドンッ!!


拳がめり込む。


硬い。


浅い。


弾かれる。


カリンの体が跳ね返る。


ズザァッ!!


床を滑る。


止まる。


「フゥゥゥ……」


カリンが息を整える。


リザドゥが吠える。


「ギャァァァッ!!」


床を蹴る。


重い足音が響く。


突っ込む。


真正面。


来る。


カリンは構える。


腕を上げる。


肘を締める。


ドォォン!!


衝撃。


爪が叩きつけられる。


腕で受ける。


衝撃が肩へ抜ける。


膝が沈む。


床が鳴る。


歯が鳴る。


それでも――


倒れない。


顔を上げる。


「……来いよ」


踏み込む。


一気に距離を詰める。


胸元へ。


拳を叩き込む。


ドンッ!!


止まる。


そのまま――押す。


ミシッ。


外殻が軋む。


さらに踏み込む。


足が床を捉える。


逃がさない。


「オォォォラァァァッ!!」


全身で押し込む。


ミシミシッ!!


外殻が悲鳴を上げる。


「これは――」


拳に力を集める。


「守るための力ァァァッ!!」


腰を回す。


一点。


撃ち抜く。


「オレの――拳だ!!」


ドォンッ!!!


拳が胸部に突き刺さる。


めり込む。


止まる。


一瞬の静止。


次の瞬間――


ピシッ。


ヒビ。


ピシピシッ!!


胸から全身へ亀裂が走る。


内側から弾ける。


バキィィィン!!


リザドゥが崩れる。


粒子となって霧散する。


静寂。


「ハァ…ハァ…ハァ…」

残るのは――荒い呼吸。


そして。


制御された力。


拳が震えている。


だが、暴れない。


止まっている。


――オレの中で。



観測室。


ジンライは静かに見ている。


司令官としての戦いを測る目。


だが――


ほんの僅か。


奥に、光が宿る。



「合格だ」


短い一言。


それだけで十分だった。


膝が折れる。


床に手をつく。


遅れてくる震え。


怖かった。


それでも――


逃げなかった。


抑え込まなかった。


「……できた」


小さく、息を吐く。



地下通路。


ジンライが歩く。


その背中を、見ている。


「基礎は終わった」


足が止まる。


振り返る。


その視線を、真正面から受ける。


少し前までなら、逸らしていた。


だが今は――違う。


カリンは、拳を握る。


あの日。


壊した記憶。


逃げたくなった夜。


雨の中で立ち上がった瞬間。


そして――


今。


制御した力。


もう、答えは出ている。


「……オレ、行くよ」


ジンライは何も言わない。


ただ、聞いている。


一歩、踏み出す。


「半年って……これのためか」


小さく、呟く。


「アカデミーの入学試験……」


視線を上げる。


ジンライを見る。


「最初から、そこまで連れてく気だったんだろ」


ジンライは、わずかに目を細める。


「……選ぶのはお前だ」


一拍。


「だが――力の使い方。道を間違えた時は、私がお前を終わらせる」


静寂。


その言葉は、脅しじゃない。


事実だった。


カリンは、目を逸らさない。


「O.E.D.Oに入る」


一歩、踏み出す。


「守る側に立つ」


一拍。


ジンライを見る。


「じいちゃん……オレはあなたみたいに、なりたい」

「それに……追いたい背中がある」


小さく、だがはっきりと。


「いつか――追いつく」


数秒。


ジンライは――小さく頷く。


否定もしない。


肯定もしない。


ただ、認める。


それだけでいい。


「準備をしておけ」


短い言葉。


それだけ。


だが意味は重い。


次に進むための言葉だ。



扉が開く。

光が差し込む。


その先は――戦う者の道。

逃げ場はない。


だが。

カリンは、迷わない。


一歩、踏み出す。


――ここからだ。


だが、その先で待つ場所は。


この時のカリンの力では、まだ通用しない。


それでも――


ようやく、スタートラインに立った。


守るための力を、自分のものとして。


その事実を――


まだ、知らないまま。



第3話 終

第3話は修行編でした。

カリンの挫折と成長、そしてバトルを書いています。

バトルはかなり力を入れたので、楽しんでもらえたら嬉しいです。

次回からアカデミー編が始まります。

新キャラも出てきます。

引き続き読んでもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ