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『精霊の舎(いえ)』  作者: 弘せりえ
46/55

精霊の舎-46

 そう叫んだとたん、カイの姿が


消えてしまった。


 マギはいとおしい人の姿を求めて


辺りを見回す。


 と、今までの祭りの喧騒が、


うそのように遠のき、突然、大粒の


雨が降り出した。


 


 マギは、天空を仰ぎ見る。


巨大な龍神が、青光りする稲妻と共に


大空を覆っている。




「ホンナ! ホンナなのね!?」




 誰もいなくなった橋の上で、マギは叫ぶ。


と、激しい稲光が走り、マギは一瞬、


視界を失う。


 


 再び、世界が炸裂した。






 ある少女が、物語を読んでいる。


昔むかし、あるところに、龍神を祀る


火と水の祭りがあった。


 ある祭りの晩、龍神に恋をした若い


村娘が、その後を追って、川へ飛び込んだ。




 遠い遠い夏の夜の出来事。




 それ以来、娘は、人魚へと姿を変え、


龍神が姿を現すたびに、その後に追いすがる。


 しかし、恋は実らぬまま、年月は過ぎ、


千の年を数えるまでになる。


 人魚は、祭りのたびに、一度も


欠かさず、水面から天空を見上げる。


 


 世も人も変わり果てた時代。


ある青年が祭りの日に、彼女の姿を


偶然目にして、たちまち恋に落ちる。


 それから歳月は流れ、すっかり


大人になった青年の、自分を想う誠実な


まなざしに気付き、人魚は、やっと


長い眠りから、目を覚ます。


 祭りの中、二人は川にかかる橋の上で


初めて互いの手を取り合う。


 人の形を取り戻した娘と、今の時間の


中で生きる若者の温かい手が触れ合った時、


辺りの喧騒が遠のいていく。


 永遠という時間を手に入れたのだ、と


娘は知る。


 千年待っても実らぬ恋もあれば、


一瞬のうちに永遠をつかむ恋もあるのだ、と。




 幼い少女が、淡いため息をついて


美しい絵本を閉じた。


 その本の挿絵は「ズイ・フィカ」とあった。






                 続


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