36/55
精霊の舎-36
小さな小さな泉は、岩場にできた
水たまりのようだったが、その色は
エメラルドグリーンに近く、底から
湧き上がっているのが、水の動きでわかる。
かすかに硫黄のにおいがするが、
辺りの南国の花々の香に混じって、
決して不快なものではなかった。
ホンナはゆっくりと白い衣を脱ぐと、
泉に足をつける。
両性を持つホンナの姿は今、まさに
その両性を如実に表していた。
長い髪が湯の中で広がるのに任せながら、
ホンナは、その温かい泉に肩までつかった。
その泉は、驚くほどに、マギそのものだった。
温かくなめらかな湯ざわりも、
心の奥までしみ込んでくる幸福感も、
マギを感じさせた。
ホンナは遠い昔、マギと恋人だった頃、
温かい泉の湧く村で暮らしていたことを
思い出した。
大きな黒い瞳に、真っ白な肌を持ったマギ。
褐色の肌のホンナ。
その頃の甘い時間を思い出して、
この温泉がマギに感じられるのだろうとも
思ったが、それならば、青い空を見ても、
どこまでも続く森を見ても、その他、
どんな些細なものを見ても、マギを
感じないものはないはずだった。
全てもものが、マギと重なっても
おかしくないくらい、二人は永劫とも
いえる長い時を共に過ごしてきたのである。
この泉は、しかし、その中でも特別
マギと重なるのだった。
続




