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『精霊の舎(いえ)』  作者: 弘せりえ
30/55

精霊の舎-30

マギは、寝室の鏡の前で、

髪をとかしていた。

 洗い立ての黒髪は、以前のマギのものと

同質だった。

庭の薬草から作った化粧水に手を

伸ばしかけて、マギは、ハッとした。

突然、鏡の中に、ある光景が映し出された

のである。


 サチカ、と呼ばれる、7歳の少女が

ある男によって誘拐されている。

 もう5日も経っているが、誰も

助けに来てくれない。


 マギは、その少女の豊かな黒髪と

輝く大きな黒い瞳に、激しい衝撃を受けた。

 マギが生まれ変わったと直感した、

あの、シンガーの魂を、この少女が

持っている。

その力強い光を宿した少女の目が、

はっきりとそれを物語っていた。

 

 これがいつの光景か、わからない。

未来なのか、過去なのか、あるいは、

現在のことなのか。

 そしてこの少女の魂は、確実に

マギの心を奪ったシンガーの魂に違いない

のだけれど、少女が彼の直接の

生まれ変わりなのかどうかは

わからない。

もしかしたら、二度目、あるいは三度目の

転生なのかもしれない。


 とにかくマギは、この、サチカという

少女に、かつての激しい情熱を

揺り動かされた。

せっかく再び生を得たのに、まだ7歳の

幼さで、彼の才能をこんな所で

終わらせてしまってはいけない。


 マギは、鏡の正面に向かい合うと、

サチカに言った。


「大丈夫よ、あたなはこんな所で

 終わってしまう人間ではない。

 勇気を持って、運命を信じて」


 マギは、鏡に映る光景に向かって

強く祈り続けた。

 もし、これが過去の幻影ならば、

その過去さえも変えてやろうという執念で。

 そして、いつの間にか、そばの

ベッドに倒れ込むように眠っていた。

マギは、夢の中で、すべてを知らされる

のである。


 その数時間後、サチカは無事救出され、

その黒い瞳に再び魂の輝きが戻ることも、

彼女が何年か後にどういう仕事を成し

遂げるかも、マギはすべて夢を通して知り、

その想像の翼を広げるのだった。


              続


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