25 お膳立て
メナリスは村の中央部分に位置した、建築物の中で一際目立つ家へと迫る。レイトもその後を追って、中央に向かう。人の生活音が耳に届かない、風が音をかき消すひどく静かな空間に、二人分の足音が響いた。
好奇心でレイトが周囲の家を観察してみると、家の外壁は、漆喰が塗られた壁であることがわかった。
柵のお粗末さと家の立派さの落差に、レイトは瞠目する。
「柵の方にもうちょい工夫というか……頑強さを追求したりしないんすか? 建築物見る限り、別に技術がないわけではないっすよね。資源の独占でも起こってるんすか?」
「技術面や資源面に問題があるわけではない。ただ、人族の考え方と鳥人族の考え方には、決定的な相違点がある故。キミが納得するには少々難しい理由で、鳥人族達が柵に拘泥することはない」
「と、言いますと?」
「鳥人族にとって、飛行能力こそが戦闘、生活、制度、ありとあらゆる面での正義だ。飛行能力に頼りすぎず、体力を使わないセキュリティを作ること自体、まず頭に浮かばない。あくまで、柵は村の中とそれ以外を区切るだけの、お飾りだと考えてもらっていい」
レイトはメナリスの説明に理解を示しつつも、納得の唸り声を上げることはなかった。
メナリスの言う通り、価値観の相違、というものをレイトは頭の中で感じ取る。
「監視制度はどうしても個体差がある分、監視役の探知範囲が曖昧で不安定な運用方法ですし、体力も使うしで。本来、負担を軽減させるために存在する技術を頼らない理由が、確かにわかんないっすね。俺からしてみれば」
「こればかりは価値観の問題だ。あまり考えすぎなくていい」
二人が、一際目立つ家の扉前に立った。
一度、二度、三度。迷惑行為や強硬的な害意と間違われないよう、控えめな音を立ててメナリスがノックする。
──返答はない。
足音や物音が、聴覚へ届けられることはなかった。メナリスのノックに応える何かは、この場に存在していない。
ただ、応える者はいなくとも、人の気配がしないわけではなかった。メナリスとレイトが家の扉前で、足を止める音を鳴らした瞬間に。不自然な静寂が訪れたような気がするのだ。
「ふむ」
「多分、居留守……じゃないっすかね? 勘で申し訳ないんすけど、人の気配はあるような気がします。どうしますか?」
「強硬手段か、他を当たるか。強硬手段は、情報を優先しなければならない現状を鑑みると、控えたい策ではある。──しかし、他を当たったとしても、大して状況に変わりは無さそうだ」
「うーん」
レイトは周囲に助けを求めて、視線を巡らせる。
誰か一人だけでも、外に居てくれれば話は別だと、そう思っての行動だが。ただただ不気味なまでの静けさ、不健康的な不活発さだけが、レイトとメナリスの二人を取り巻いている。
とどのつまり、強硬突破は避けられそうにない。
「こういうの、凄くイヤなんだけどなぁ。仕方ないっすね」
レイトは中位氷魔法『尖氷』で、鋭い刃を持つ細長い氷を、扉に向けて放った。扉に穴が空いて脆くなった部分目掛けて、レイトが蹴りを幾度も繰り出すと。人が通るにはお誂え向きの大きさである、大穴ができあがった。
メナリスはレイトの手によって破壊された扉を凝視した後、レイトを一瞥する。
「……何故、魔法で壊しきらない? キミの技量であれば、魔法のみで十分だったと思われるが」
「扉付近に人が居たら、怪我されちゃいますし、困るんで。物音を立てるのはどうせ避けられないんだから、バンバン物理で壊しちゃった方が良いと思っただけのことっす」
レイトは莞爾として笑いながら、レイト自身が空けた大穴を通ろうと、足を一歩前に踏み出す。が、無言ですぐさま足を後退させ、元の位置に戻った。
レイトが中位水魔法『沈水』を発動。レイトの眼前に薄く張られた水が盾となって、飛んできた弓矢の勢いを相殺。水の即席盾が崩れ落ちると同時に、弓矢も地面へ落下する。
レイトは弓矢を拾い上げると同時に、メナリスの手を取ってひたすらに後退、後退、後退。ため息を吐いた。
レイトはメナリスより一足先に、相手の表情を拝んでいた。だからこそ、即座に会話ではなく防御を選んでいる。
まさしく、『攻撃は最大の防御』という言葉がお似合いの雰囲気だったのだ。会話をしようにも、感情的ですらない、義務の内の一つとして殺意を剥き出しにしていた。感情を干渉させない類の殺意が先走っていた。
端的に言えば、目がヤバい。
「怖いんすけど。鳥人族って皆こんな感じなんですか? 好戦的なのは周知の事実にしても、流石に問答無用すぎません? いや、こっちも大概やってることがやってることだからっすか……?」
レイトがメナリスに拾った弓矢を手渡して、引き下がった理由を暗にほのめかす。メナリスは弓矢を、矯めつ眇めつ観察してから地面に投棄し、独自の分析結果をレイトに言い渡した。
「おかしいな。この村に、ここまでの腕前と躊躇いなき判断力を併せ持った者は、いないはずだが」
「判断力とかいう以前に、殺ることへの抵抗感を一切持ちあわせていないタイプのお方じゃないっすか。──これ、交渉できますかね?」
『独行の羽根』であるメナリスの影響力を信じていないわけではないが、流石にあの殺意マックスな目を見た後だと、確認を取りたくなる。
レイトは思わず眉を八の字にして、メナリスに確認という名目の弱音を吐いた。だが、メナリスはレイトの心配を尻目に、考え込む素振りを解かない。
「敵手の特徴は」
「ん? 濡羽色の立派な羽翼と、青味を帯びた黒目の女の子でしたね」
「…………」
「どうかしました?」
メナリスが文字通り、苦虫を噛み潰したかのような表情に変化したため、レイトは首を傾げる。
メナリスはレイトの肩を掴んで横に退けた後、前へと遠慮なく進み出た。
「え、ちょちょちょ、危ないっすよ?」
「……問題ない。恐らく、否。十中八九、キミが狙われた理由は私にある」
「お相手、対立関係にある鳥人族なんすか!?」
「中立だ。しかし、」
メナリスは関係性を簡潔に報告しようとするが。メナリスが扉前へ進み出た途端に、飛び込んでくる影がいたため、それは叶わなかった。
飛び込んできた影──美しい濡羽色の羽を持った、女は。メナリスに猪突猛進、ハグをしようとして盛大に失敗し、地面にすっ転ぶ。
「どうして避けるんですか? 愛するメナリス姉さん」
「簡単な話、許可してもいないのに姉さん呼びをする赤の他人、それも馬鹿力持ちによる抱擁はご遠慮願いたいからだ」
「むぅ。じゃあじゃあ、手加減しますので、抱きしめても良いですか?」
「はぁ」
殺意を集中させた姿から一転し、愛嬌を振りまき始めた女は、メナリスが返答する前に目一杯抱きしめる。メナリスの肩に顔をうずめて、心底幸せそうな一息を吐いていた。
しかし、メナリスは相手の一息や発言を、額面通りには受け取らず。抱きしめられると同時に、女が動かそうとした右肘辺りを、メナリスは固有魔法『糸』で巻き付けて縛る。
魔力で構成された特別製の『糸』を、勢いよく真横へと引っ張り、曲げていた右肘を強制的に伸ばさせる。レイトは、女の右手に握られていた物を目にして、瞠目した。
肌へ食い込むほどに、固く縛り付けられていた右肘辺りから先、女の右手には──ナイフの柄が握られていた。
「──えへへっ。バレちゃいました」
「やはりな」
「流石、大好きなメナリス姉さんです。尊敬しちゃいます、」
「離れてくださいっす!」
ナイフを地面に捨てて、恍惚の表情を浮かべながらメナリスを再び抱きしめようとする女を、レイトは『重力増加』で無力化を試みる。
女は「わあ?」と暢気な一言を溢した。『重力増加』を全身に引き受けて、膝から崩れ落ちる。座り込んだまま、女は辛うじて顔を上げた。
「あなたの『固有魔法』ですか? 精度も悪くありませんね。勿論、カッコいいメナリス姉さんと、私の『変形』ほどじゃありませんが」
女は魔力を循環させて、レイトに中位影魔法『円影』による、影の爆発を差し向けようとしたが──、
「双方、そこまでだ」
メナリスの鋭い一声により、女の抵抗力が失われた。
『重力増加』が時間経過で解ける。女は両頬を膨らませて、わざとらしく拗ねてみせた。メナリスの元へと迷いなく向かう。
「メナリス姉さん、そういうところ相変わらずですよね。だからこそ、大好きなんですが」
「…………」
「あ、あの。説明が欲しいんすけど」
レイトが女を指差して、メナリスに抗議する。
「──ナイフを平気で向けてくる、この人のどこが『中立』なんすかぁ!?」
「中立ではあるが、無条件に中立を信用していい相手ではない。特に、アレは」
「心外です」
レイトの心からの叫びに、メナリスが複雑な心境で対応していると。女はメナリスの片腕にしがみついて、自慢げな媚笑を浮かべる。
端正な口調でありながら、片腕にしがみつく行動を中断する様子が見受けられず、女が周囲に与えている情報達には均一性がない。レイトは非常にちぐはぐな印象を与えられて、メナリスにどう相手のことを問えばいいのかと困り果てた。
「この世で最も、メナリス姉さんを敬愛していて、この世で最も、メナリス姉さんを目標に努力していて──いつか、メナリス姉さんをこの手で殺害し、メナリス姉さんを超えてみせる。そんな、健気で可憐で美麗で超つよつよな女の子、リーメルちゃんですよ?」
レイトは重ねて、困り果てた。
*****
建築物の集合体を大雑把に確認した場合、一際目立っていることが視覚的にわかりやすい、中央の家の中へと二人は立ち入ることが許された。現在、リーメル、レイト、メナリスの三名は、居間で座布団の上に座っていた。
レイトがリーメルの対面に位置する場所に、メナリスがリーメルの隣に位置する場所に──メナリスが進んで座ったわけではなく、腕力で強制的にリーメルに座らされたのだが──座っている。
メナリスは我が物顔で家中を知り尽くしている、隣のリーメルに、メナリス側としては至極当然の疑問をぶつける。
「それで。『黒鳥の一族』であるキミが、何故村長の家に堂々と居座ってまで、こんな辺境の村に滞在している? 否、具体的に言えば」
「他人行儀なキミ呼び、すごく嫌です。是非、リーメルとお呼びください。可愛いメナリス姉さん」
「キミは、」
「リーメル」
「……リーメルは、『病』のことを何処まで知っている?」
リーメルと呼ぶまで話が進まないと察知したメナリスは、諦めてリーメルと呼ぶことを選んだ。リーメルが名前を呼ばれて、満面の笑みを惜しみなく曝け出した光景に、レイトは居心地の悪さを感じ、意味もなく身を捩らせる。
リーメルはメナリスの表情を改めて見直すと。満面の笑みを崩さずに、しかし、瞳は妖しく光らせて。一度軽く咳払いをした。
リーメルは「それはそれ、これはこれ」とでも口に出しそうな態度で、目配せする。
「情報交換は、そう簡単に致しませんよ。相手が求める側であるのなら、尚更です。むしり取れる時に、存分にむしり取っておかないと。勿体無いでしょう?」
「私が求める側であると? それは違うな。そちらの勘違いだ」
「惚れ惚れしちゃいます、メナリス姉さん。何が違うんです? どうかお聞かせくださいな」
リーメルは小首を傾げて、秘密をお互いに囁き合うかのような声色へ一時的に変化させる。
人心掌握のためのわざとらしさが垣間見えて、レイトの肌が粟立つと同時に。リーメルの得意分野欄に、聞き上手という項目がもしも存在していた場合。容易く事情やら秘密やら、情報をひたすらに話してしまう者がいたとしても、むべなるかなと思った。
そして、レイトの先入観二割込みの、人間観察八割が間違っていなければ。リーメルの得意分野欄には、皆のお望み通りの項目が載っているように感じられる。
「互いに上下関係は存在しない。あくまで、何処まで行っても対等な関係だ。──大方、そちらも未知の病については、理解できているわけではないのだろう。寧ろ、理解したいが故に『妖精族』との合流を図り、こんな辺境の地に滞在していると推測する。でなければ、一族の中でも、勢力図を広げ続けている天下の『黒鳥の一族』が、動くはずがない」
「さて、それはどうでしょう? 天下とは、まだ明言できる範囲にいませんから。案外、軋轢を抱えた一族が、領土交換の交渉で管理が面倒な村の監督責任を、付属で押し付けたのかもしれませんよ」
実際、この村は立地的に『魚人族』が攻め込みやすい。領土の境界付近に位置する。
境界付近を任されるというのは、相手に寝返らずに情報を収集し、伝達できるだけの実力があると認められた証左になる。本来であれば、光栄なことに当たるのかもしれないが。境界近くに位置するにも関わらず、ここは村という閉鎖的な思想・制度で構成されており、生産力も優秀な人材を作れるだけの何かも存在しない。
システムの脆さの割には責任を問われやすく、開発を無闇矢鱈に進めることも村人達の意志の都合上できない。管理者への利益と損失を天秤にかけた場合、損失に傾くことは否定できない場所である。
──『黒鳥の一族』がもし、そんな足枷を交換条件の付属品として受け入れるとすれば。
「『黒鳥の一族』がもし責任を引き取ったとすれば、こんな辺境の村は今頃解体されているだろうな。"偶然"家屋から火が上がった、とでも言って。私個人としては、かなり困る話だが」
「あははっ、言えてますね。でも、私だったら火事とは言いませんよ。漆喰のことがあるので、小火騒ぎから火事に発展したということにするのは、少々不自然さが残ります。村内の権力争いで内側から崩壊、"偶然"水面下での争いに気づけずに、村人達が殺し合いを始める。人口僅か数名にまですり減ってしまい、移転を余儀なく行なうこととなる。『黒鳥の一族』は反省を生かし、再開発に励んでみせる──なんてね、冗談ですよ」
そんなことをすれば、監督責任を問われて印象が悪くなる上に、勢力を縮小させる口実を敵方に与えてしまうのは確かだ。
しかし、『黒鳥の一族』からしてみれば、そんなことは所詮、そんなこと程度の事象に過ぎない。村の管理を任されていた、『黒鳥の一族』一名を尻尾切りして言い逃れれば十分。その後の悪印象を取り返せるだけの手柄を挙げられる、という実力の自信に裏付けされた強硬手段だ。
『独行の羽根』と『黒鳥の一族』は幾度も依頼者、被依頼者の関係値をこなして信頼をお互いに募らせている。本来ならば、そこまで依頼数をこなしていけば、メナリスも多少胸襟を開いて『次』を貰えるように情報を無償でサービスしたりもする。
だが、『黒鳥の一族』相手にサービスという文字は存在してはならない。無条件では信用できない相手であることは、『独行の羽根』達にとって、数をこなしても変わりはなかった。
それだけ実力派の集いであり、手段を問わない集いでもある、ということだ。
「それほどの"偶然"の事態に対応できる一族ともなると。『病』の治療方法を真っ先に手に入れて、一番に鳥人族領土内で手柄をあげてしまえば。『黒鳥の一族』は更に、それこそ誰も逆らえないほどの権力を手に入れる可能性が高い」
「それは理想論でしょう。『黒鳥の一族』が勢力を広げているのは周知の事実である以上、『妖精族』との懇談を、そう簡単に許してくださるでしょうか?」
「許す、許さないの問題ではないだろう。"偶然"『妖精族』がいたその場に居合わせればいい。『妖精族』が通る中継地点の情報さえ手に入れば、そう難しい話でもない」
「私達の手腕であれば、それらは実行可能だと。そう仰るのですね?」
「できないのか。『黒鳥の一族』ともあろう者が」
「ふふふ」というリーメルの控えめな笑い声と、「ははは」というメナリスの乾ききった笑い声が交錯する。
レイトは居心地の悪さが極限にまで達して、頭に思い浮かんだのは「女子会というより女死会」という悲しき文字遊びだった。
「あ、あー。旧交を温めてらっしゃるところに失礼するっすけど。『独行の羽根』は村長の家を訪ねに来たってことは、本来村長にお会いしに来たんですよね? 病が村内で流行している以上。警戒されているから居間にこないだけで、家の中には居ると思いますが。お話しにいかないんですか?」
「本来であれば、そのつもりだった。しかし、事情が変わったために、わざわざ会う必要性を感じられなくなった。『黒鳥の一族』からの恩恵……呪いとも言うが。とにかく、村全体が実質的な、一過性の支配下に置かれてしまった現状。『妖精族』との合流を最優先に動いた方が、話が早く済みそうだ」
「情報を集める話し合いに関しては、その通りなのかもしれないっすけど。病を患った鳥人族達の様子を、直接窺える機会をわざわざ捨てる必要はないのでは?」
村長と会ったか会っていないかでは、鳥人族の様子を窺いに動く際、融通が利くかどうかが大きく変わる。
『妖精族』が来た後に様子を窺うよりも、来る前に様子を窺った方が『妖精族』からの話を呑み込みやすいのではないか。その上、『独行の羽根』が隣にいるとはいえ、レイトは無許可で立ち入った不法侵入者であり、人族なのだ。
何にしても、村長に挨拶をしに行くのは悪い話ではないはず。そう意図しての発言だったが。
「鳥人族達は間違いなく、『黒鳥の一族』の庇護下に与れる事実に心酔しきっている。様子を窺おうにも、許可が出るとは思えないな。『黒鳥の一族』と、外部に何を言い触らすかわからない『独行の羽根』を天秤にかけられてしまえば、差は一目瞭然。病人を見せてやる義理はない。──どうせ、口止め料なりなんなり、既に手を回してもいるだろう」
メナリスはレイトの発言に、幾度か頷いて吟味した後。隣で微笑むリーメルを一瞥し、首を振った。
「あー。いや、でも、それなら『黒鳥の一族』の名を一時的に借りるとか、できなくはないんじゃないっすか?」
「できなくはないが。『黒鳥の一族』に一つ借りを作るにしては、あまりにも軽すぎる見返りだな。『妖精族』に頼った方がリスク管理も可能、更に言えば、聞いても見てもわからぬ不可解な症状の特定にも、早く繋がることだろう」
メナリスなりに病の解決法を探る、最適解らしきものを導き出す。
現状所持している情報を鑑みれば、メナリスの所見は正論だろう。──しかし、その正論は、容易く破られる類のものだった。
「? 言動的に──メナリス姉さん、ご存知ではなかったのですか?」
「────」
「うーん」と悩む仕草をリーメルが見せる。リーメルの発言内容に全く心当たりがないことによって、メナリスの内心に一吹きの冷えた風が通ったが、鉄仮面を保っていた。
弱味は死んでも曝さない。幾度も繰り返して決意を踏み固め、メナリスは瞑目して、周囲に聞こえない程度の小さな深呼吸をした。
そんなメナリスの様子にもお構いなく、リーメルは享楽の一端を覗かせた瞳で、嫣然と微笑んだ。
「口八丁手八丁に交渉を試みたところで、応じてはくれないでしょうし。何より、こちらの思惑も露呈しているようなので。共通事項と協力を、是非とも得ておきたいところですから。開示しましょう」
「キミからのサービスか。舌先が三寸分、混ぜ込まれていないことを願おう」
「酷いです、お美しいメナリス姉さん。ちょっとしたサービスくらいは致しますよ」
リーメルは両頬を膨らませて、ぷいっとメナリスから顔を背ける。
あまりにもわざとらしい仕草に、メナリスとレイトが呆れの視線を送り続けていると、リーメルは悠然と、メナリスに向き直った。
メナリスに向き直ってから放たれた言葉の調子は、艶やかさも十分に帯びていたが、それ以上に真剣さが滲み出ていた。
「時間経過に伴い、突然現れた代物──紅い蔓について。私がお話できる範囲であれば、喜んでお話させていただきますよ。頼もしくも情報不足なお二方」




