「27分後の滅亡」
森を駆け抜ける。
枝が顔に当たる。
息が切れる。
だが、
神代レン
は止まれなかった。
頭の中で、
赤い文字が点滅し続けている。
【村“レクト”】
【魔獣襲撃まで:24分】
「なんなんだよこれ……!」
走りながら叫ぶ。
だが返事はない。
聞こえるのは、
自分の荒い呼吸だけ。
それなのに、
文字だけは消えなかった。
まるで、
世界そのものが警告しているみたいに。
森を抜けた瞬間、
レンは足を止めた。
「……っ」
村が見えた。
木造の家々。
畑。
石の井戸。
まるでゲームみたいな、
典型的な異世界の村。
だが――
様子がおかしい。
誰も危機感を持っていない。
子供たちは遊び、
大人たちは普通に仕事をしている。
当然だ。
まだ、
何も起きていないのだから。
「……本当に来るのか?」
レンが呟いた瞬間。
視界に、
また文字が浮かぶ。
【未来観測】
【北西方向より接近中】
【群体反応:34】
【脅威判定:C】
同時に。
頭へ、
映像が流れ込んだ。
黒い獣。
赤い目。
燃える家。
血。
叫び声。
そして、
誰かの腕が飛ぶ。
「っ!?」
レンは思わず膝をつく。
頭痛。
吐き気。
視界が揺れる。
「……未来、なのか……?」
本能が理解していた。
これは想像じゃない。
“見る力”だ。
「おい兄ちゃん、大丈夫か?」
声がした。
顔を上げると、
十歳くらいの少年が立っていた。
茶色い髪。
そばかす。
心配そうな顔をしている。
「顔真っ青だぞ?」
「あ……いや……」
レンは周囲を見る。
どうする?
「もうすぐ魔物が来る」
なんて言っても、
信じてもらえるわけがない。
その時。
またノイズが走る。
バチッ。
少年の頭上に、
赤い文字が浮かんだ。
【個体名:ルカ】
【死亡予測:23分後】
【死因:腹部裂傷】
レンの呼吸が止まる。
「……は?」
少年――ルカは、
不思議そうに首を傾げた。
「どうした?」
死ぬ。
こいつ、
あと23分後に死ぬ。
いや、
そんなのありえない。
でも。
頭の奥では、
確信していた。
これは本物だと。
「村長はどこだ!?」
レンは突然叫んだ。
ルカが驚く。
「え? あっちだけど……」
レンは走った。
村の中心へ。
周囲の人々が怪訝な顔で見る。
そんなの気にしていられない。
死ぬ。
このままだと、
みんな死ぬ。
村長の家へ飛び込む。
中には、
白髭の老人がいた。
「なんじゃお前は!?」
「すぐ避難してください!」
「……は?」
「魔物の群れが来ます! あと20分くらいで!」
空気が凍る。
当然だ。
突然現れた知らない少年が、
意味不明なことを叫んでいる。
信じるわけがない。
老人は眉をひそめた。
「馬鹿を言うな。周辺に魔獣の気配など――」
その瞬間だった。
ゴォォォォン!!
巨大な鐘の音が響いた。
外が騒がしくなる。
「なっ……!?」
村長が窓を見る。
見張り台の男が、
顔を真っ青にして叫んでいた。
「魔獣だァァァ!!」
村中が凍りつく。
レンの視界に、
赤い警告が現れる。
【未来誤差修正】
【襲撃時間が前倒しされました】
【残り時間:3分】
「は……?」
早すぎる。
未来が変わった?
いや違う。
まるで――
“世界が修正した”
みたいに。
次の瞬間。
村の外壁が、
爆音と共に吹き飛んだ。
黒い狼のような怪物が、
煙の中から現れる。
赤い眼。
異常なほど長い牙。
一匹じゃない。
次々に現れる。
「いやああああ!!」
悲鳴。
逃げ惑う村人。
子供が転ぶ。
魔獣が飛びかかる。
レンは反射的に動いた。
「危ない!!」
子供を突き飛ばす。
その瞬間。
鋭い爪が、
レンの肩を裂いた。
「ぐあっ!?」
熱い。
血が噴き出す。
地面へ倒れる。
魔獣が牙を向けた。
死ぬ。
そう思った瞬間。
視界に、
見慣れない文字が浮かぶ。
【条件達成】
【観測者権限:第一段階解放】
【スキル《ログ干渉》を取得しました】
世界が、
一瞬止まった。
そしてレンは、
理解してしまう。
この力の使い方を。
彼は震える手を伸ばし、
空中に浮かぶ“赤い文字”へ触れた。
【対象:魔獣】
【行動ログ閲覧】
次の瞬間。
魔獣の未来が見えた。
飛びかかる。
右へ噛みつく。
爪を振る。
全部見える。
「――ッ!!」
レンは身体をひねる。
ギリギリで回避。
魔獣が驚いたように目を見開く。
そして。
レンの脳裏に、
もう一つの“文字”が現れた。
【ログ改変は行いますか?】
レンの指先が、
震えながら止まる。
もし、
これを書き換えられるなら。
未来そのものを、
変えられるなら――。
その時。
空の遥か上。
誰にも見えない場所で。
巨大な“目”が、
静かに開いた。
【観測者権限反応確認】
【異物個体の成長を検知】
【排除プロセスを開始します】




