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プロローグ

 ピッ……

 ピッ……

 ピッ……

 規則的に鳴る電子音が、静まり返った空間に響いていた。

 夜。

 光はほとんど存在せず、ただ一つ――

 淡く光るモニターだけが、その場を照らしている。

 その光の中に、一人の人物が横たわっていた。

「…………」

 呼吸は浅く、動きもない。

 ただ“眠っている”だけなのか――

 それとも、それ以外の状態なのかは分からない。

 機械の音だけが、時間の流れを示していた。

 コツッ……コツッ……コツッ……

 やがて、静寂の中に別の音が混じる。

 硬質な床を叩く、規則正しい音。

 それは迷いなく、この空間へと近づいてくる。

「…………」

 しかし、横たわる人物は反応しない。

 眠り続けている。

 コツッ……コツッ……コツッ……

 足音は止まらない。

 一定のリズムで、ただ近づく。

 ――コツッ。

 不意に、その音が止まった。

 一瞬の、完全な静寂。

 電子音すら遠く感じるほどの、張り詰めた空気。

 そして――

 コツッ……コツッ……コツッ……

 今度は、離れていく音。

 何もせず、何も語らず、ただその存在だけを残して。

 音は遠ざかり、やがて完全に消えた。

「…………」

 その瞬間――

 眠っていたはずの人物の瞼が、わずかに動いた。

 ゆっくりと。

 本当にわずかに。

 閉ざされていた目が、開く。

「…………」

 声は出ない。

 息遣いも変わらない。

 だが、その瞳だけが、確かに“意識”を宿していた。

 モニターの光を反射し、淡く揺れる。

 視線が、ゆっくりと動く。

 誰もいないはずの空間。

 何も存在しない闇の一点を、じっと見つめる。

「…………」

 ――何かを、感じているのか。

 ――それとも、知っているのか。

 やがて。

 再び、その瞼は閉じられた。

 ピッ……

 ピッ……

 ピッ……

 電子音は、変わらず規則正しく鳴り続ける。

 何も起きていないかのように。

 何も変わっていないかのように。

 ――だが。

 確かに、“何か”は始まっていた。

 夜は、静かに更けていく。

 すべてを包み隠すように。

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