24 悪人ふたり
王太子様がいきなり現れたことに驚いた、その直後だった。
抱きしめられ、頭の中が一気に真っ白になる。
「すまない。心配のあまり……つい」
そうよね。
王太子様に、特別な意味なんてあるはずがない。
ちょっぴり、ときめいてしまった自分が、なんだか恥ずかしい。
「いいえ。王太子様に、またお会いできて……本当に嬉しいですわ」
久しぶりに、王太子様の顔を間近で見た。相変わらず、息をのむほど麗しい。
金髪は部屋の中にいても柔らかな光をまとっているし、青い瞳は澄んだ青空を閉じ込めたようだ。
けれど――ただ喜んでばかりはいられない。
「宮廷医長が、黙っていませんわ。王太子様を追い詰めるような噂を、きっと流しはじめます。私の噂も、あの人が広めたようですし……」
「そのことなら任せて。もう、あいつの好き勝手にはさせない」
王太子様は自信に満ちた笑みを浮かべた。
その表情を見ただけで、張りつめていた胸の奥が、少しだけ緩む。
その時だった。
今度は、聞き慣れた声が一斉に響き出す。
「ひゃほーい! やっと王太子様が来てくれたぜ。遅かったじゃねーか。雪鈴さま、もうちょっと文句言ってやれよぉ」
「わぁーい! やっぱり王太子様は素敵ねぇー。ちゃんと助けに来てくれると思っていたわよー。うふふっ、お似合いのふたりだわ」
「やったぁー! 嬉しい! あの宮廷医をとっちめてほしいな。僕、あいつ、大嫌いさ」
賑やかで、騒がしくて、遠慮がない。
けれど、その声の端々から、みんなが私を心配してくれていたのだと、ちゃんと伝わってくる。
私は王宮内の自分の部屋へ戻ることになった。
でも、閉じ込められていた間、ずっと励ましてくれた薬たちを、このまま置いていく気にはなれなかった。
「王太子様。ここにある薬たちを、お部屋に持って行ってもよろしいですか?」
「あぁ、いいとも。美容液を作るのが楽しかったのかい? だったら、そのまま作ればいい。貴族のご夫人たちにも好評だった。今度は適正な価格でセシリアが売ればいいさ。すぐに大商人の仲間入りだな」
王太子様は終始穏やかな表情のまま、楽しげに頷いた。
「うわぁー! すごい! 雪鈴さま、すぐに大金持ちになれちゃうわねっ!」
「すっげー! 雪鈴さま、儲かったら俺を翡翠で作った瓶に入れてくれ!」
相変わらず、薬たちは賑やかだった。
◆◇◆
翌日、私は王太子様の執務室に呼ばれた。
その一角に、向かい合うようにソファーが置かれている。その一方には、すでに宮廷医長と司祭長様が腰掛けていた。宮廷医長は不満を隠そうともしない目つきで、正面に座る王太子様を睨みつけている。
私は王太子様の隣に座るよう促された。いつも穏やかな司祭長様の視線が、ゾクリとするほど冷たい。この場にいるだけで、空気が張りつめているのがわかり、どうにも居心地が悪い。
「このようなことをしたら、王太子様の評判が地に落ちますよ。無理やり宮廷医たちの研究棟に押し入り、お気に入りの薬師を連れ出したなどと。しかも、魔女だと噂されている女を、ですよ。民たちの反感を買います……王族だからといって、なんでもして良いわけではありませんっ!」
司祭長様はそう言って、私を指さしながら顔を歪めた。それは到底、聖職者がするような言動ではない。
向けられた悪意に、胸の奥が一瞬ざわつく。けれど、私は視線を逸らさなかった。
(私は、なにもやましいことはないもの!)
「噂については、司祭長が広めたのだろう? 宮廷医長の態度がでかかったのも、聖職者を味方につけていれば納得だ。だが、おまえたちの悪事はすでにばれている」
「罪? 私は民を導く者ですよ。あなたは、神に背くおつもりですか?」
「悪事? 私は日々、医学の進歩を目指して研究漬けの毎日です。そんなことをする暇もないですよ」
ふたりは王太子様を小馬鹿にしたように、薄く笑みを浮かべたのだった。
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※王太子がまずは医長を追い詰めていきます。次回は医長の断罪です!
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