エピローグ(エディス視点)
《エディス視点》
友人のサイキの裁判が終わって一ヶ月が経ちました。
今日、サイキはジェラルドと共に船でオーストラリアへと旅立って行きました。別な友人のハウエルもまた一週間前にロンドンを旅立っています。私の婚約者のアーチーはハウエルの事が心配だと言って、ハウエルについて行ってしまいました。
エメライン令嬢もいないし。
寂しくなった。と感じます。
私は今、父が経営するホテルの喫茶室にいます。インド産の紅茶を飲みながら窓の外の景色を眺めています。
その時、ふと。
行き交う人の波の中に知り合いの顔を見つけました。
えっ⁉︎と思って私は立ち上がりました。こんな所にいるはずがないのに。そう思いながら、私は既に走り出していました。
「エメル様!」
私が大声で呼びかけると、エメライン令嬢は立ち止まって振り返られました。
「あら?エディスじゃないの。どうしてここにいるの?」
「この建物、うちのホテルなのよ。」
「ここって外資系のホテルじゃなかったっけ?」
「うちが買収したのよ。そんな事よりこっちのセリフよ。どうしてここにいるの?」
「うちのアパート、そこの角を曲がった所なのよ。言ってなかったっけ?」
「いえ、知ってるけど。そうじゃなくて。シルクロードの遺跡を掘りに戻ったのではなかったの?」
そう言うとエメライン令嬢はこてんと首をかしげられました。
「確かに、戻っていたのだけど荷物を取りに戻っていただけよ。ハウエルと結婚したらもう遺跡に戻る事はないでしょう。だから、遺跡発掘現場に置いていた私物を全部回収して来たの。」
「えーーーっ!」
私は叫び声をあげてしまいました。あまりの大声に通行人が何人か振り返ります。
「何なのよ、大声出して。」
と言ってエメライン令嬢が顔をしかめました。
「そんなの聞いてないし。」
「すぐ戻って来るのだから敢えて言う必要がないと思ったのだけど。」
「・・・。」
『すぐ』と言っても、一ヶ月じゃないですか。それは『すぐ』とは言いませんよ。
私は頭を抱えてしまいました。軽い頭痛がします。
「とにかく、立ち話も何だし座って話しましょう。」
私はそう言ってホテルの中にエメライン令嬢を誘いました。
「ハウエルとアーチーがあなたを追いかけて行ってしまったのよ。」
私達は喫茶室で向かい合って座りました。テーブルの上にはお茶とスコーンがあります。
「え?何で?」
何で、と言われましても。この人はハウエルと結婚する気満々なのに、自分がハウエルに愛されているという自覚はなかったんでしょうか?
「というか、すぐに戻って来るつもりだって事、ハワード氏にも伝えていなかったの?」
ハウエルとアーチーはハワード氏に旅行について相談し、ついでに旅行費用を借金して行ったのです。ハワード氏が何も言わなかったという事はハワード氏も知らなかったという事なのでしょう。
「スーリン夫人には、遺跡に荷物を取りに行って来ます。って挨拶に行ったわよ。ついでにお金も出してもらった。」
「・・・。」
ハワード夫婦の間で意思の疎通が無かったようです。
「あなたのお父様もロンドンにいるの?」
「お父様は、別な支援者に会う為に香港に行ったわ。」
それはもう本当にあの二人は何しに遺跡に行ったんだ?って感じです。
呼び戻そうにも電話というものは外国には通じません。電報を打とうにもどこに打てばいいのでしょう?
「駅に電報を打ったら、連絡つくかなあ?」
「鉄道に乗ってるの?」
「ハウエルは船酔いするタチだから、カレーまでは船で行って後は鉄道に乗ったのよ。オリエント急行に乗ってる。」
「私はオール船旅だから出会わなかったのね。」
別にエメライン令嬢がオリエント急行に乗っていたって上りと下りじゃ出会う事はないと思うけれど、兎にも角にも運命のイタズラとしか言いようがありません。
さすがに厄介な事になった。とエメライン令嬢も気がついて来たのでしょう。難しい顔をして黙り込んでしまいました。
「一週間前か。追いかけて行っても・・・またすれ違うかもしれないわね。」
素敵なカップルだと私は思うけれど、二人が無事結婚できるまでにはまだまだ時間がかかりそうね。
そう思いました。
ここまで読んでくださったお一人お一人に心から感謝します(^∇^)
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最後まで読んでくださり本当にありがとうございました




