7.
闘技会当日、私は朝から会場に行くか決めかねていた。仕事もあるし、ユーリを置いていくのも気が引ける。でもカルロスが怪我をしないか心配だし結果も気になる。そんな私をユーリも心配そうに見ている。
「マリアさん大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。…カルロスってどれくらい腕が立つのかしら?」
「マリアさん、見に行ってもいいですよ?僕はお留守番してます!」
「でも…」
「僕は人がいっぱいいるところは行かないようにしてるし、マリアさんが行って早く結果教えてください」
「…ごめんね、行ってくる」
街に着くとハリーに声を掛けられた。
「マリアさんお出かけですか?」
「そうなの、急いでいるから」
立ち去ろうとした瞬間、ハリーに腕を掴まれた。
「待って。ずっと僕のこと避けてるでしょ」
「…そんなことない」
「好きな人のことは見てたらわかるんですよ」
花祭りに誘われて以降、なんとなく好意を感じて会わないようにしていたのは事実。人の好意を無下にすることが苦手で向き合うことを先延ばしにしていたことが良くなかった。
「あのね、」
「今から一杯だけお茶してくれたら離します」
今は昼過ぎ、闘技会の決勝まで時間はある。カルロスがどこまで勝ち進むかわからないけど、今はっきりさせた方がいいかもしれない。
カフェの席に着くとハリーはニコニコしている。
「ここはケーキが美味しいみたいですよ。何にします?」
「お茶だけでいいわ」
「アリアさんはつれないなぁ。そこも素敵ですけどね」
「あのね、はっきり言うとこうやって誘ってもらっても困るの。いつも気さくに話しかけてくれていたけど、それ以上の関係にはならない」
「恋人がいるからですか」
「恋人はいないけど好きな人がいるの」
「いつもマリアさんの家に来ている貴族風な人でしょ?」
「…なんで知ってるの?」
「ずっと見てましたから」
そうやってハリーは穏やかに微笑んでいるが、むしろその雰囲気が怖く感じた。カルロスはベンの診療所に顔を出すこともなかったから面識を持つことはなかったはずなのに。
「マリアさんと仲良くしたいのになかなか隙を見せてくれないから、傍から見てることしかできなくてもどかしかったんですよ。何故かマリアさんの家の周りを騎士が警備してるから近づくこともできなかったし」
ユーリのためにとお願いしていた警備がまさか私まで守ってもらっていたとは知らなかった。不気味さから何も言えないでいるとハリーは手を握ってきて、咄嗟に振りほどいてしまった。
「はっきりを気持ちを聞いたわけじゃなかったから何も言わないでいたけど、今後は私を誘ったり家まで来たりしないで。仕事で会うことはあっても今までみたいに話すことはできないと思う」
「僕が好きでいることは自由でしょ。マリアさんに悪さをしたわけじゃないのに話すこともしちゃいけないの?」
「申し訳ないけど、あなたの好きの在り方を私は受け入れられないの」
「…やっぱり前のマリアさんの方が良かった。孤独なままでいてくれたらもっと上手くいったのに」
「どういう意味?」
「僕がマリアさんと出会った頃は一人でいたのに急に女の子と暮らし出すし、あの男はマリアさんの家にちょくちょく来るし、邪魔な奴らばかりだ」
私がハリーと初めて会ったのはベンの診療所で、その時すでにユーリと暮らしていた。ハリーの口ぶりからしてもっと前、もしかしから私が転生する前からマリアを知っていたってこと?
「私にとっては大切な人たちよ。とにかくもう関わらないで」
ハリーの反応を確認せずに急いでその場を離れた。人の好意がこんなに怖く感じたことは初めてだった。ハリーがこれ以上何もしてこない保証もない。なんとも言えない不安が襲う。
会場に入ると丁度決勝が始まる頃で、カルロスは決勝まで進んだようだった。さすがに相手もかなりの実力者のようで五分五分といったところだ。
「カルロス…頑張って」
私は祈ることしかできない。その時、カルロスの右足が斬りつけられた。カルロスは体勢を崩したものの相手の横腹を刺して剣を首元にあてた。相手が降伏のサインを出してカルロスが勝った。みんな歓声をあげる。勝ちがわかった途端、カルロスはその場に倒れた。私は思わずその場で叫んだ。
「カルロス!!」
その瞬間、私の体から大量の魔力が湧き出てきて会場全体が淡い光に覆われた。その場にいた全員に治癒魔法がかかり、みんなその不思議な感覚に驚いたようだった。
「何?体が軽くなったわ」
「おい、傷が治ってるぞ!」
「これは一体…」
騒然としている中、私はカルロスに駆け寄った。
「カルロス!しっかりして!」
「マリア…?今のは君がやったのか…?」
「それより傷を診せて!」
カルロスの右足を確認すると目立った傷はなかった。私の魔力で治癒できたのか。こんなに強い魔力を使えるなんて自分でも知らなかった。
「君がこれほどの魔法を使えるなんて知らなかった」
「急に湧き出てきて…私もよくわからない…」
こんなに魔力を使ったことがなかったからか、急に目眩がして今度は私が気を失ってしまった。




