6.
ニーナの薬も作り終えて、またいつも通りの生活を送っていた。時々カルロスがお茶しに来るのも当たり前のようになってきた。
今日は診療所に薬を持って行く日。帰り道にハリーに声を掛けられた。
「マリアさん!あの、来週隣町の花祭りに行きませんか?」
「え?」
「できれば2人で行きたいなと思って…だめですか?」
この世界に来てこんな風に誘われたことなかったからびっくりした。ユーリに留守番させて私だけ行くっていうのもしっくりこなかったし、もし行くとしたら私は誰と行きたいか考えると…。
「やっぱり難しいですか?」
「あ…ごめんなさい、予定があるから難しいかも…」
「仕方ないですね…じゃあ花祭りじゃなくていいから今度どこかに出掛けましょう。マリアさんのこともっと知りたくて」
「うーん…」
「どこに行くか考えときますね!」
なんて断ったらいいか分からず曖昧な返事をしてしまったら、決定事項のように言ってハリーは診療所に戻って行った。相手に非がないのに断る時ってなんて答えていいか分からなくなってしまう。
家に帰ると丁度カルロスが来た。
「ちょっとした相談なんだが、不眠に効く薬は作れるだろうか?」
「それなら用意できると思うわ。あなたが眠れないの?」
「いや、第二王子が最近寝つきが悪くて辛そうなんだ」
この国には王子が2人いるが第一王子は放蕩な方で、立太子は第二王子に内定したらしい。その影響で第二王子の執務が増えたことが原因ではないかということだった。
「なんだかあなたっていつも周りのことばかり気にかけてるわね」
「そうか?そんなに意識したことないけど」
「そこがあなたのいいところよね。でも自分を大事にすることも必要よ」
「それもそうだが、俺のことは君が気にかけてくれているだろう?」
普段少しぶっきらぼうな人がこんなことをサラッというなんて。意外な返しでドキッとした。
「そう…かな?こうやってお茶くらいしかもてなしてないと思うけど…」
「君が入れてくれるハーブティー、味も良いしとても疲れが取れるんだ。君が調合したものだろう?」
「そうだけど、驚くほどの効果はないと思う」
照れ臭くて冷たい言い方しかできない。
「きっと君とアリスといるこの空間にも癒されていたんだろうな」
「ちょっと待って。どうしたの?いつもと違いすぎじゃない?」
「いや…今度お見合いをすることになったんだ。俺としては乗り気ではないんだが、立場的に少し断りにくい相手で憂鬱だったんだ。でもここに来ると少し気持ちが和らいだから感想を言ってみた」
「お見合い…そっか…」
きっと貴族ともなれば避けては通れない話で、ましてやカルロスは公爵家の長男。今まで婚約者がいない方がおかしかったのかもしれない。私だって3人で過ごす時間が好きだし、ずっと続いてほしいし、続くと思っていた。でもカルロスが結婚したらこの時間はなくなってしまう。嫌だけど私はそんなこと言う立場にない。
「まぁ仕方ないことよね…。…素敵な方だと良いわね」
「君はそれで良いのか?」
「良いも何も、どうしようもないじゃない」
「俺がここに来なくなったら、今度は違う奴が君と一緒に過ごすのか?俺はそんなの嫌だ」
「ねえ、本当に大丈夫?あなたらしくないわ」
いくらなんでも、いつものカルロスと全然違う雰囲気で、ここまでくると心配になる。
「…今度、闘技会があるんだ。そこで勝てば褒美がもらえる。それを利用する」
「そんな…勝てる見込みあるの…?」
「それなりに腕の立つ者ばかり出るから絶対とは言い切れないが勝ってみせる。勝てたら…君に伝えたいことがある」
真っ直ぐに見つめられて目が反らせない。カルロスの真剣な思いが伝わってくる。
「…無理しないで」
「無理してでも自分の気持ちを通したいんだ」
カルロスが少し笑って言う。
カルロスは話しただけでお茶もせずに帰ってしまった。2階からユーリが顔を出す。
「マリアさん、大丈夫ですか?」
「聞いてた…よね?」
「喧嘩してたんですか?」
「喧嘩じゃないのよ。でもちょっと大事な話してたんだ」
ユーリには話の内容は少し難しかったようで、雰囲気だけで察して出てこなかったようだ。複雑な気持ちでいる私にユーリが抱きついてきた。
「マリアさん、元気になって」
「…ありがとう」
ユーリの温かい体温が心地良くて、私も抱きしめ返した。私、カルロスが好きだ。ユーリともずっと一緒にいたい。身分だとか何もかも取っ払って3人でいたい。私の居場所は2人のいる場所だと思った。現実に引き戻されて、なくなってしまうかもと思ったら怖くなった。




