第1305話 アダム不在❹制圧
兄さまは城に泊まった。
わたしは父さまからサブハウスで過ごすよう言われていたので、もふさまともふもふ軍団とでサブハウスにいた。
午前中、エリンとノエルは母さまの授業だ。だからエリンたちも遊びに来てはいない。
自分の部屋に本を持ち込んでいるけれど、専門書は文字を追っていると眠くなってくるのが困りもんだ。
ベッドに転がって文字を追いつつ、飽きたらちょっと眠ったりして、気ままに過ごしていた。兄さまからフォンがかかってくるまでは。
フォンに着信があり、慌てたのを飲み込んでいるような兄さまの声。
「リディー、今、どこにいる?」
「え? サブハウスの自分の部屋だけど?」
「お遣いさまともふもふ軍団と一緒だね?」
「そうだけど……。何かあったの?」
耳飾りを持つ手に力が入る。
その様子にもふさまやもふもふ軍団がわたしの周りに集まってきた。
「そうか。スピーカーにして、みんなにも聞こえるようにして」
「……わかった」
操作してスピーカーにする。
「リディーはお遣いさま、それからもふもふ軍団とサブハウスにいて動かないこと。いいね?」
「え……うん」
「落ち着いて聞いて。ガゴチが制圧された」
「……制……圧…………?」
「そうだ」
「バッカスに?」
「いや、バッカスではない。……まだ情報は錯綜しているけれど、ガゴチの将軍が投降し、被害も最小限で抑えられたらしい」
「ガインが投降したの?」
「そうみたいだ」
「……最小限といっても被害はあったのよね? ガインは?
! キュアは? ニアは?」
「詳細はわからない」
そ、そうだよね……。
「まさか、セインが?」
「セインでもない」
でもないって、わかってるってこと? だけど言い渋るってことは、聞いたら衝撃を受ける何かってこと?
「ユオブリアを名乗っているそうだ」
「ユオブリアを?」
陛下がそんな命を出したのなら、ロサだって知るはずだし、兄さまも耳にするはず。ということはユオブリアを騙るものが現れたんだ。誰がそんなことを?
「……ユオブリアの正当なる次期王位継承者、アンドレ殿下と殿下を支持する者と名乗っているようだ」
「あ、アンドレ殿下は亡くなったでしょ!」
言ってて目にじわりと熱いものが滲む。
兄さまもフォンの向こうで言葉を飲み込んでいる。
アンドレ殿下を騙る者。
アンドレ殿下になり変われる者。
『小童か……』
ーー私たちはアンドレさまのお導きの元、リディアお嬢さまを救いに来たのです
ウチにやってきた神聖国の末裔のビクコーンは関係があるの?
「神聖国の末裔、ビクコーンは関係者? 領地や王都にしばらくいるって」
「……もう出て行ったようで、捕らえられなかった」
兄さまのため息。
「ガゴチは嫌われていたが、ニアやガインが継いでからは周りの見る目も少しずつ変わってきたいた。そこを大陸違いがいきなり攻め込み、近隣からユオブリアへの問い合わせも舞い込んで入る。ユオブリアが大国であることから、世界議会からも使者が来ている。まもなく陛下は宣言するだろう。
アンドレ殿下は亡くなり、彼らは殿下を騙りユオブリアに害をなそうとする者。
アンドレ殿下を冒涜し、次期王位継承者を名乗る謀反であると」
……アダム。
『リディア!』
もふさまのわたしを呼ぶ声が変に聞こえ、意識が暗転した。
目を開けると真っ暗だった。
『大丈夫か?』
「リディア起きたでちか?」
なんだっけ? と呑気に思い、直前のことを思い出した。
ベッドで寝ていた。夜着を着ている。
アオが灯りをつけてくれた。
「これ」
と胸のところをつまみ夜着を触る。
「母さまとハンナが着替えさせたでち。おいらが兄さまに話して、フォンを切ったり、母さまたちに知らせたりしたでち」
「そっか、ありがとう。みんなもごめんね」
みんな心配の目をしている。
『アダムがアンドレとかってヤツのフリしてるの?』
『アダムがツンツン頭の国を乗っ取ったの?』
時計を見ると2時過ぎてる。兄さまにフォンをかけるのは憚られた。
「そう予想できるけど、確かではないわ」
そう確かではない……でも、心はそうに違いないと答えを決めている。
何やってるのよ、アダム。
アダムが謀反なんてしようと思うはずない。
アダムが国を欲しいわけないし。
頭がいいから、謀反というのはどれだけリスクが膨大であり、それだけのものであると知っている。そう判断する。
それなのに。
『リディア、まだ夜中だ。事は動かない。もうひと眠りしたらどうだ?』
もふさまが滲み出た涙をペロンと舐めてくれる。
全然眠たくないし、眠っても嫌な夢を見るだけと思っていたけれど、みんなに促され、わたしは横になって再び目を閉じた。
朝になってわかったのは、陛下が兄さまの言った通りのことを世界へと発信し、それに応える形で反勢力は正当性を打ち出してきた。
亡くなったのはアンドレ殿下と双子のゴット殿下である。
陛下と廃妃の間に生まれたのは双子であった。第一子の王の第一子の子は狂ったり早死にするなど言われている。廃妃はそれを恐れ、先に生まれた兄である正真正銘第一子・アンドレを隠し、弟をアンドレとして表に出した。そして陛下にさえもそれを秘匿し、ひっそりと本物のアンドレ殿下を育ててきた。
双子の片割れであるアンドレも体が弱く、9年前皆も知っている通りのことをしてこの世を去った。
王妃は廃妃となった。それは受け入れるが、次期王位継承者として本物のアンドレを隠すのはどうかと思うようになった。本物のアンドレ殿下は子供の頃こそ体は弱かったが、現在は健康体である。
王位継承者として力あるものだということをここに証明する。
その証明がガゴチの制圧であり。本物のアンドレ殿下だという事は母親である廃妃と、廃妃の父であるモンティス公、そして双子の王子を取り上げた産婆が承認しているということだ。




